なんていい夜だろう。
空には星が瞬き、月は綺麗な三日月が光っている。
こんな夜には、空を見ながら杯を傾けたい。
「そう思わない?」
いきなり来たかと思ったら、いきなり言い出した。
小十郎は職務をやりながら、後ろに座っているだろう佐助の話を聞く。といっても、話半分だが。
「なら一人で飲んでろ」
いちいち奥州まで来るな。
そう言うと、佐助は「ひどくない?俺様がわざわざ会いに来たのに〜!」と声を上げた。
「右目の旦那に会いたくなったのに!旦那冷たい〜!」
「うるせぇ、変な声出すんじゃねぇ。真田と飲めばいいだろ、俺は今忙しいんだ」
「だって真田の旦那となんて飲めないもん」
一応主だし。
「あ〜、そうか」
小十郎は書類に目を通しながら相槌を打つ。そんな小十郎の素っ気ない態度に佐助がむくれた。せっかく長い道のりを来たのに酷くない?もう少し労ってくれたっていいに!
「右目の旦那聞いてるぅ!?」
職務をしていた小十郎に佐助が叫ぶ。小十郎はそれさえも聞いてると軽く流した。
せっかく俺様が来たのに、もっと構ってくれないとつまらない。
「知らねぇよ。お前が勝手に来たんだろ」
「まぁそうなんだけど〜」
「なら黙ってろ、それかさっさと帰れ。なんでお前は俺の所に来てんだ」
「言ったでしょ?右目の旦那に会いたかったんだって」
そう言って笑う佐助に、小十郎はため息をつく。
なるべく考えない様にと新しい書類に目を通そうとしたら、佐助にいきなり背中を引かれ押し倒された。机上の書類が全て宙に舞ったのを見た。
「・・・何しやがる」
「俺様に構ってもらおうと思って」
睨み付ける小十郎に、佐助はにっこりと笑った。押し倒された小十郎に跨がる様に佐助は覆いかぶさっているから、目の前に佐助の顔がある。
にこにこ笑う佐助に小十郎は退けと低い声で言ったが、佐助は嫌だと笑いながら言っただけだった。
「・・・なんで俺なんだ」
睨み付けながら、小十郎が問う。
佐助は、笑う。
「俺様、右目の旦那に惚れちゃったんだよ」
笑いながら言う佐助に、小十郎は「はっ!」と笑った。
「忍風情が、何を言ってやがる」
「忍でもね、手に入れたいと思う物もあるって事」
「調子に乗るなよ」
今にも殺しそうな目で睨み付けている小十郎に、佐助は恍惚とした表情で見ていた。
「あんたのその目が好きなんだ」
さっきとは違く、妖艶な笑みを浮かべる佐助に小十郎は嫌悪を抱いた。
「悪趣味だな」
「そうだね」
くつくつ笑う佐助は心底楽しそうだった。
「ねぇ、右目の旦那。俺様を抱いてみない?いい思いさせられる自信はあるけど」
「冗談じゃねぇ。てめぇを抱くなんて気分悪くてやってられるか」
「あら、残念。振られちまった」
そう言いながらも佐助は楽しそうに笑っている。
「まぁいつかは振り向かせて見せるよ」
「ありえねぇな」
殺気を出して笑う小十郎に、分からないよと佐助は笑う。
そのまま小十郎の目に口づけて、首筋に顔を埋めた。
「好きだよ、小十郎さん」
そう言って、佐助は首筋に噛み付いた。
壊頽ビスィーヂ
絶対手に入れてみせるから。
絶対逃げ切ってみせてやる。
―――――――
嫌いだった佐助を大嫌いになった小十郎さん。
佐助は殺気立った小十郎さんが好き。