それは雨の降る日。
出会ったのは竜だった。






街で見掛けた金持ちそうな男に話し掛け、所謂ラブホに連れ込むのがいつも。
たまに約束した金以上にくれたりして、お金が一気に入るから有り難い。

だが、やはり良くないみたいで。
この間相手をした奴は性病を持ったまま自分を抱いたらしく、お金と一緒にそれが付いてきた。
それは元親いわく、ちゃんと病院に行けば治り、また人に移せば治るらしいけど。

「なんだよそれ!佐助お前何でそんなこと!」

朝から顔色が悪いと仕切に佐助を心配してきた慶次にそう言ったら、慶次は怒り佐助を心配した。そんな慶次に有り難さを感じるがそれはまた別。

「しょうがないでしょ?旦那を養わなきゃいけないし」

自分だけ汚れるなら構わない。 佐助は笑いながら言った。その笑顔に慶次は辛そうに顔を歪める。

佐助と幸村は2人で住んでいて、自分達の生活費や学費などを自分達で賄っていた。
だが幸村は部活動推薦で学校に入った為部活に出なくてはいけなく、佐助が大体稼いでいるのが現実だ。
ある時佐助は身体を売れば楽して稼げると分かり、幸村に内緒で身体を売った。相手が男なのは与えられる快楽だけを感じて、自分は動かなくても良いから。

「でも・・・」

「大丈夫だって!心配しないで、慶ちゃん」

なおも心配そうに言う慶次を佐助は軽く流した。だってこれは自分の問題だし、自分の我が儘だ。だから慶次にそんな顔をしないで欲しかった。

「じゃあ・・・、じゃあ誰かに移しちゃえば・・・!そうしたら佐助は助かるんだろ!」

「まあね、でもそんな事出来ないよ。大丈夫、病院に通ってれば治るって〜」

少し恥ずかしいけど。
病院代も払わなくてはいけないのはきつい。

「でもお金ないんだろ!病院なんて行けるのかよ!?」

あらら、見抜かれてる。
佐助は内心で苦笑いをした。ホント、変な所で勘が良い。

「大丈夫、そのくらい捻り出すよ」

「本当?ちゃんと病院に行くよな?」

飄々と言う佐助に、慶次は念を押す様に言う。きっと佐助は病院に行かないだろう。お金がないから、時間がないから。何より真田に心配かけさせない為に。

「行くってば〜。あ、もうこんな時間、帰んなきゃ」

旦那が帰って来る前に夕飯を作んなきゃだし。あー、雨降ってるよ嫌だなぁ。
そんなことを言いながら帰る支度をしている佐助に、慶次は何かを言いたそうに、けど言えないまま見つめていた。

「じゃあ、慶ちゃんまたね」

笑顔で言う佐助に、慶次はただ見送るだけしか出来なかった。










その日、帰りに不思議な男に遭った。
その男は黒い傘を持ち、黒いスーツを着ていた。右目を眼帯で隠し、切れ長の眼が綺麗な男だ。
見た目は23ぐらいだろうか。黒い髪、細くしかししっかり鍛えられているだろう身体、きっとモテるんだろう。

「Hey、お前この辺でよく"狩り"してるだろ?」

男はいきなりそう言ってきた。

「そうだけど、」

「そこでだ。金は幾らでも出してやる」

「は?」

「抱かせろ。I want to sex with you」

「・・・え?いや、でも、」

いきなり何を言い出すのだろう、この男は。あまりのことで一瞬呆けてしまった。
なんとか取り戻した頭で自分は病気を持ってるから無理だと言おうとしたのに、男は遮るように佐助の腕を捕って引っ張ってきた。引っ張られる右手が雨に濡れる。

「ウダウダしてんじゃねぇよ、行くぜ?あそこのホテルでいいだろ?」

そう言って指差したのはいつも行っているホテルで。
こいつはいつ頃から自分を知っているんだろうと男に手を引かれながら考えた。
考えている間に男はどんどん進んでいき、ホテルの受付で手続きをしている。

「おい、部屋行くぜ?」

「え、ちょ、」

何時の間にか手続きが終わっていて、鍵を見せ付けながら笑ってくる。
颯爽と歩く男に手を引かれながら考える。
知らない男にいきなり抱かせろと言われ、ホテルに連れて来られ、部屋に連れ込まれそうになっている。しかも自分は病気持ち。そろそろ旦那が帰って来る時間だ。
結果、いろいろとやばい。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

「Ah〜?何だ、俺とヤんのだ嫌だってか?お前もしかしてマジにオヤジ専門か?」

「違うから!そうじゃなくて!」

オヤジ専門とか有り得ない!

「ならいいじゃねえか。お前もオヤジよりも俺の方がいいだろ?」

佐助の話を全く聞く気のない男は、エレベーターに乗り込んでドアが閉められると同時に佐助に噛み付くようにキスをした。
それはまるで煩いて言うように。けれど全てを知ってなお包んでくれるような。
余裕が無くなる、キスだった。

「俺が何もかも忘れちまうくらい乱れさせてやるよ、覚悟しな?」

部屋に入って、ベッドに押し倒されて、男は佐助の上に跨がり耳元で囁いた。
熱く、優しい声。
その声に、戦慄する。

自分は病気があるとか、旦那が待っているとか、知らない男だとか、全て忘れて。
ただ佐助の胸に突き上げてくる衝動に任せて。

佐助は名前も知らない男に縋った。








「佐助!お前治ったのか!?」

「あぁ、うん。治ったよ」

あれから数日後、慶次に会った時に治ったと告げたら、慶次は驚いた後に嬉しそうに笑った。

「そっか。良かったな」

「うん、まぁね」

「本当に良かった」

本当に嬉しそうに笑う慶次に、佐助もつられて笑う。

「ねぇ慶次。俺、身体売るの止めるよ」

「本当か!?」

そう言うと、慶次は身を乗り出して佐助の顔を見てきた。
その顔には今まで言っても止めなかったのに信じられない、何があった、けど嬉しいということが書いてあった。

「うん、約束しちゃったからね」

「約束?」

思い出すのはあの夜。
男に抱かれている時、耳元で囁かれた言葉。

『いいか、俺はお前を何時か俺のモンにしてやる。だからそれまで他の奴に抱かれんな』

幼稚な口約束。それでも佐助は頷いた。
きっと自分はあの男に恋をしてしまったのだろう。

「そう、約束」

「・・・誰と?」

旦那に言う訳がない、知っているのは慶次と元親だけ。
だから慶次は佐助が約束した相手が分からないという顔をしていた。

「竜と」

「竜?」

「そう、竜。この間遭ったんだ。蒼い綺麗な竜」

あの男は誇り高い獅子でも、頭の切れる鷹でもなく、きっと神秘的で神として崇められる竜だと思った。
慶次はよく分からなそうだったけど、すぐに満面の笑顔で笑った。

「じゃあその竜が佐助を助けてくれたんだな!感謝しないと!」

そう言って笑う慶次に、佐助も笑った。






運命インカウンター



外では竜が空を昇っていた。



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