昨日、慶次が大量の酒と共に家に来た。
真田の旦那も合宿でいなかったから、俺も快く歓迎した。
慶次に軽く料理をふるまって、慶次が買ってきた酒を飲んだ。
肴は俺の料理と、愚痴と、慶次の恋バナ。
相当飲んだ気がする。
ただ楽しくて、ふわふわといい気持ちだったのは覚えている。

「・・・だからって、なんでこうなるの?」

横に、慶次が真っ裸で寝ていた。
ちなみに俺も真っ裸だった。
まあ、それだけだったら馬鹿をやったんだなと笑い飛ばせる。
笑い飛ばしたかった。
腰が痛い、なんて事がなかったら。
つまり、これはそういう事で。
思わず頭を抱えた。

「・・・・・・マジかよ」

しかも俺が突っ込まれる方かよ。
確かに昨日は久しぶりに飲みまくったよ。
でも、何がどうなってこうなんの?
訳が分からないと唸っていた俺の横で、慶次が身じろいだ。
幸せそうに寝ている慶次に腹が立ったから、思い切り蹴り飛ばしてやったら、ぐえ、と呻いた後、慶次はのっそりと起きた。

「・・・痛いよ、佐助。おはよう」

寝ぼけ眼のまま慶次が朝の挨拶をした。
それに、俺は笑顔で応える。

「おはよう、慶ちゃん。昨日の事覚えてる?」

いきなりで言われた事が分からなかったのだろう、慶次は昨日?と首を傾げた。
やっぱり覚えてないか。
それだけ酒を飲んだのか、それとも忘れたいのか。
とりあえず、男二人が全裸で布団の上にいるというシュールな画をどうにかすべく、俺は落ちていたトランクスを履き、慶次にもそうする様に言った。
その時にやっと自分が全裸だと分かったらしく、慶次は激しく動揺しながらトランクスを履いていた。

「・・・で、昨日の事なんだけど、」

「・・・・・・ごめん、俺何も覚えてない・・・」

「・・・だよね」

俺もだよ。
そう言って、黙った。
気まずい沈黙が流れる。
トランクスを履いたとはいえ、ほぼ全裸の男が布団の上で正座で向かい合っているのもどうかと思う。
けど、そうするしかないんだ。
思いの外、この問題は重いんだ。

「昨日はすごく飲んだよね・・・」

「うん、久しぶりに思いっきり」

「俺さ、途中から意識がないんだ・・・」

「奇遇だね、俺もないよ」

「でもさ、ちょっと覚えてるのがさ・・・」

「・・・うん?」

「なんか最近溜まってる、とか、そういう下世話な話題だったような気がするんだ・・・」

「・・・・・・うん」

そういや、そうだったような。
つまりそこか!?そんな思春期の餓鬼の様な馬鹿げた理由なのか!?
溜まってるならヤってみない?とかそんなノリなのか!?
馬鹿じゃないのか!?

「・・・いや、馬鹿なのか」

そう呟いて、ため息を吐いた。
慶次を見てみると心なしか青ざめている。
流石に慶次でもやばいと思っているのだろう。
もうこれはもしかしなくても、

「・・・・・・俺達、ヤっちゃった・・・?」

「・・・・・・みたい」

認めたくないけど。
周りに落ちてる服とかティッシュとか見れば瞭然だろう。
・・・まさか酒の勢いで友達と寝るとは。
俺様びっくりだよ・・・。

「ねえ、佐助・・・」

慶次は青ざめたまま、俺に聞いてきた。

「もしかして、佐助が抱かれた側・・・?」

「・・・・・・うん」

認めたくないものだな。
そんな台詞が浮かんだ。
異様に突っ込まれた所が痛いから、ヤられたのは俺で確実だろう。
慶次はやっぱり、と呟いて、罰が悪そうに視線をそらした。
少しの沈黙の後、慶次は心配そうに聞いてきた。

「・・・その、大丈夫?」

「・・・・・・何が?」

「・・・・・・腰?っていうか、」

「それ以上言わないで」

心配してくれている慶次の言葉を遮った。
いや、流石に聞きたくないよ俺だって。
ついでに大丈夫じゃないよ。めちゃくちゃ痛いよ。
でも、そんな事はもうどうでもよくて。
気まずさが、すごくつらい。
そりゃあ、友達と寝たってのは有り得ないし信じたくない。
でも過ぎた事だ。
もうどうしようもない事だ。
あれこれ言ってもしょうがない。
ならば、なるべく今まで通りにしよう。
忘れてしまった事にしよう。
流してしまう事にしよう。
そう考えて慶次に言おうとした。
一夜の過ちだったんだ。酒に呑まれたんだ。何もなかった事にしよう、と。
口を開いて言おうとしたら、慶次に遮られた。
しかも、突拍子のない言葉で。

「・・・・・・は?」

だから、思わず聞き返してしまった。
慶次は恥ずかし気に、しかしはっきりと俺の眼を見て言った。

「だから、責任とるよ」

責任って何の?
・・・・・・アレの?

「いやいやいや!おかしいでしょ!なんでそうなんの!?」

俺は否定した。てか、ツッコんだ。
それはもう全力で。
持てる力の限りでツッコんだ。
だっておかしいでしょ!?何責任って!そんな女の子とヤった訳じゃないし!大体俺がさっきまで考えてた事吹っ飛んだじゃん!俺の考えの真逆に行っちゃったじゃん!
そんな俺をほったらかしにして、慶次は真剣な表情で話を続けた。

「男で抱かれる側ってのは、相当ショックだろ?佐助を抱いたのは俺だし、しっかり責任とるよ!俺、絶対佐助を幸せにしてみせるから!」

そう言って俺の眼をまっすぐ見つめてくる慶次に、あぁ、本気なんだな、と思った。
確かにショックは大きかった。
責任をとる、という慶次の思考回路はどうなっているんだろうとも思った。
でも、案外それも悪くないと考えた自分が今日一番の驚きだった。

「・・・とりあえずシャワー浴びよう」

俺はそう言って立ち上がった。
タオルと着替えを取っていると、慶次が「佐助待ってよ!」と引き止めてきた。
人が真剣に告白?してくれているのに、何も答えず逃げるというのは俺でも引き止めるだろう。
でも、ちょっと今はいろいろと危ない。
俺は前のめりになっている慶次に振り向いて、言った。

「・・・ちょっと、頭冷やしてくるから」

待っててね、と言って浴室に向かった。
きっと俺は慶次の告白を承諾してしまうだろう。
悪くないと、楽しそうだと思ってしまったから。
でも自分の気持ちに整理が着かない。
頭がついていかない。
だからとりあえず落ち着きたかった。
今まで心臓に悪い事しか起きてない気がする。
朝目覚めてから、今までの事を思い出しながら思った。
・・・笑えもしない事ばっかりだったな。
だけど、まあ。
こんなのも、俺達らしいかもしれない。
慶次に何て言おうと考えながら、俺は頭から水を浴びた。






醸造ドランカード



今日の教訓が一つ。
酒は飲んでも呑まれるな。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -