「貴方・・・、市と同じね・・・」

暗闇の中、市はぽつりと言った。

「同じ?俺様とアンタが?やめてよ〜、そんな冗談」

対する佐助は笑いながら否定した。
二人は小谷城の部屋で対面している。佐助が情報収集の為忍び込んでいた所、市に見つかってしまったのだ。
明かりもない暗闇の中、二人は向かい合う。

「足元が暖かな死体で出来ているの・・・」

佐助はただ笑っている。

「振り返ると、死体の道が伸びてて・・・」

市は佐助に構わず話す。

「市と同じ・・・、一人の為に身体が真っ赤・・・」

「一人の為?」

「そう・・・、市は長政様の為・・・。市は長政様を護れるなら、人を殺すわ・・・」

何も感じずに、人を殺せるの。
市は微笑みながら言う。

「貴方もそう・・・、あの人の為なら相手が誰であろうと殺せるでしょう・・・?」

例えば、同志。
もし幸村を裏切れば佐助は間違いなく殺すだろう。
例えば、甲斐の虎。
もし幸村を死なせる様な事があれば、自分は甲斐の虎を許せるだろうか。

「市と同じ、闇に染まっているから・・・」

市は楽しそうに笑っている。
佐助はそんな市を心底嫌悪する様に顔を歪ませた。

「闇に染まっているから、光を求めたの・・・。でも、光を見つけたら・・・自分が真っ赤なのが分かってしまった・・・」

光さえなければ、何も見えなかったのに。

「それでも市は長政様を護るの・・・。長政様は、市の光だから・・・。もし光が消えてしまうなら、市が消すわ・・・」

護ると決めた長政を誰かに殺されてしまうなら、市が自ら殺す事で護る。
長政の命を、他の誰かに渡したくないという執着。
それは、矛盾を孕んだ本心。

「貴方もそうでしょ・・・?」

伊達に、豊臣に殺されるなんて、許せないでしょう?

「それ以上言うと、殺すよ」

微笑む市に、佐助は殺気を隠そうともせず睨んだ。
佐助は低い声で言う。

「俺様はアンタとは違う。アンタみたいに狂ってない」

吐き捨てる様に言った佐助の言葉に、市は少し驚いたらしく目を見開いた。
しかし、すぐに妖艶に微笑んだ。

「・・・狂ってる?・・・ふふ、市は狂っているのね・・・」

それは佐助に対してではなく、ただ確認するかの様に言った言葉。
その言葉に、寒気を感じた。
何故、自分が狂っていると確かめる事が出来る。
何故、自分が狂っていると認める事が出来る。

「・・・狂ってるよ、アンタ」

どうしようもないくらい。
この存在は危険すぎる。
幸村に遭わせてはいけない。遭わせたら、あの光が曇ってしまうかもしれない。
ならば。
ならば、今この場で殺してしまえば。

「市を殺すの・・・?」

びくり、と佐助の肩が震え、我にかえった。
佐助はいつの間にか背後に持っていたクナイを握り締めながら市を見る。

「それも正しい事かもしれない・・・」

市は虚ろな両目で佐助を見る。
佐助はその視線を受けながら、笑った。

「それじゃあ、今殺させてくれる?」

空気が張り詰め、闇が濃くなった。
沈黙が二人を包む。
市はただ静かに首を振った。

「・・・でも、市は死ねないの・・・」

そう言って佐助を見た市の目はさっきの虚ろな目ではなくなっていた。
その目はまるで戦場にいる時の様に真っ直ぐな目。
真っ直ぐな、確固たる意思のある目。
その目で、佐助の冷たい目を見つめた。
冷たい目と真っ直ぐな目が向かい合う。
それは永遠の様な刹那の間だけだったが。

「冗談に決まってるでしょ〜?殺す訳ないって!」

それを壊したのは佐助だった。
冷たい目から一転いつもの飄々とした態度を取り、目も笑っていた。
殺伐としていた雰囲気も消え、元の雰囲気が戻ってくる。・・・とはいっても、やはり周りは暗闇なのだが。

「・・・・・・」

市はそんな一転した佐助を何処か訝しげに眺めたが、最終的にふふっ、と笑った。

「貴方はそれでいいの・・・?」

「いいも何もアンタは一国の姫様だよ?殺す訳ないっしょ」

そう言ってケラケラ笑う。
こう見ると、先程までの冷たい目をした佐助が嘘の様だ。
それにね、と佐助は続けた。

「俺様が此処に来たのは、同盟国になってくれないかってのを調べる為。そんな大将や旦那に刃向かう様な事しないって〜」

「・・・同盟国・・・・・・?」

市がその言葉に眉を寄せた。
佐助はそんな市を見て、「ありゃ、これは言っちゃ駄目なんだっけ」などと全く忍らしくない事を言った。

「まあいいや、アンタが一番関係ありそうだし」

「・・・・・・?」

市が分からないと眉を寄せている間に佐助は勝手に決めたらしく、座っている市の目の前に来て目を合わせた。

「甲斐は今、同盟国を探してる。織田を討つために。今日はその下調べ」

「・・・長政様に兄様を裏切れというの・・・?」

「あぁ」

浅井は織田を裏切れるか?

「・・・・・・無理よ・・・」

市はふるふると頭を振った。
長政は信長を恐れ、悪であると思っている。それでも市がいるから裏切れないだろう。

「・・・まぁ、検討しといてくれ。あ!長政サマにはくれぐれも内密に」

最後に片目をつぶり佐助はニッ、と笑った。
立ち上がり窓に身を乗り出しながら佐助は長居しすぎちゃったよ〜と笑っていた。

「あ、そうそう」

振り向いた佐助の表情は逆光で見えない。
だが、雰囲気が冷たくなった。

「もしアンタが敵対したら俺様がアンタを殺すよ」

旦那に遭わせる前に。
俺様が見る影もなく殺してあげる。

「俺は、アンタとは違う」

そう言って、佐助は姿を消した。
残された市は宙を舞う黒い羽を見ながら呟く。

「じゃあ・・・、市は貴方を殺すのね・・・」

悲しそうな、罪深い声。
暗闇の中、市は微かに笑った。








同族嫌悪



ただ、大切な人の為に。
















―――――――

佐助くんを使うとお市ちゃんの台詞が素敵に佐助くんを暗く表現してるなぁ、と思って。
グダグダになった気がするのは気のせいだと思いたい。



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