いつもの、だけど今日は広く感じる部屋で一人座っている。
窓から見えるのは空に数個輝く星。
手には携帯。
身体には毛布。
息を吐きながら、佐助はただ空を見つめていた。
時刻はもう夜中の二時を回っただろう。
それでも、佐助はただ空を見つめている。

考える事は待ち人の事。
携帯に入った、一通のメール。
別に別れ話だった訳ではない。
今日は遅くなるから行けない、というメール。
力を入れて作った料理が駄目になろうが、高いワインが駄目になろうが構わないが、それでもやはり寂しくはなるものだ。
それも、最近会ってないなら尚更に。

「・・・忙しいって分かってるよ、休みが合わないのも分かってる・・・」

でもね、でも。

「・・・やっぱり寂しいんだよ・・・」

ぎゅ、と自分の身体を抱く。
佐助は寂しいとか会いたいとか自分から絶対に言わない。
それは、相手が忙しいのを知っているから。
それに、相手に嫌われたくないから。
言ったら自分で相手を縛り付けてしまう。相手に煩わしく思われてしまう。そう考えると、言えなくなってしまうのだ。
そして、全部を一人で抱え込む。



今日は記念日だった。
一緒に食事して、ケーキでも食べて、ソファーでくつろいで、一緒に寝れたらって思ってた。
朝から準備したし、料理もケーキも頑張ったし、恥ずかしいけどベッドも綺麗にした。
相手も今日はすぐ行くと言ってくれたし、佐助もいつ来ても大丈夫な様に準備した。

携帯が鳴った時、嬉しかった。
来たのかな、とつい笑顔を浮かべた。
だけど、それは来れなくなったというメールだった。

「・・・忙しいって分かってたつもりなんだけどねぇ・・・」

何かと忙しくって、デート中でもしょっちゅう電話がかかってきてたから大変なのは知ってる。代わりが立たないのも分かってる。
愚痴とか弱音とか吐かない人なのに、あの時は笑っていい加減にデートさせてほしいなんて言うぐらいだから。
その時は、自分の恋人がそんなに便りにされているのは嬉しいよ、なんて佐助も笑って言った。

「・・・だけど、さすがに今日は堪えるね」

嬉しかった分、寂しさも大きかった。
大丈夫だよ、今日は外に食べに行くつもりだったし、また今度盛大にやろうよ、と全く気にしていない風に返信した後、料理も机に並べたまま、佐助は空を見上げた。
思考がマイナスな考えにばかり行く。
もしかしたら、本当は仕事じゃなくて来たくなかっただけかもしれない。
もしかしたら、もう自分に会いたくないのかもしれない。
そう考えて頭を振る。そんな事ばかり考えていると泣きそうになってしまう。
それに、考えすぎかもしれないじゃないか。
本当に仕事で、外れられなかったのかもしれない。

「・・・仕事じゃどうしようもないし・・・」

はぁ、とため息を吐く。

「何やってんだろうねぇ、俺様・・・。こんな時間まで待っててさ・・・」

ちらり、と携帯を覗き込む。
何も表示していない携帯。
それにまたため息が出る。
そうこうしている間にもう三時を回った。
来ないのは重々承知だ。
それでも、もしかしたら連絡が来るかもしれない。玄関が開いて現れるかもしれない、と期待している。
有りもしないのに。
あんな返信じゃ、佐助の今の状態に気づく訳がない。むしろこんな夜中に連絡するなんて迷惑なんじゃないかと思うだろう。

「自業自得ってヤツだよ・・・」

ホント嫌になる。自分の可愛くない性格も、すぐ見栄を張るのも。
だけど素直に言って相手を困らせたくない。
どうすればいいのだろう。
はぁ、とまたため息が出た。
佐助は考えて、考えて。
結局答えなんか出ないまま、空を見上げた。

「あ・・・・・・」

窓から、弱いが光が差し込まれている。
夜空は端が少し明るくなっていた。
その西空に、白々と月が浮かんでいる。
有明の月。
朝日に負けて、少し朧げな月を見て佐助は歌を思い出した。
秋の長い夜中、恋人を待っている歌。
その歌と自分が重なりすぎて、佐助は自嘲気味に笑った。
握り締めた携帯には、やはり何も表示されていなかった。






21番目のラブソング



すぐ行くと貴方が言ってくれたから待っていたのに。

夜明けの月なんて待ってない。



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