慶次が新しいゲームを買ったと言い、元親が宿題を教えてくれと泣きついてきたのが今日の放課後。それならば広い幸村と佐助の家(つまり信玄の家)に行こうとなった。
今日は金曜日なのでいざとなったら泊まれるという事もあり、六人はうきうきしていた。
しかし、うきうきとゲームをしたいと言う慶次に最初に嫌な物から片付けようと佐助が諭し、元親が泣きついてきた宿題を元就と政宗が見ながら各自宿題を進める事となったのだ。
「貴様何故そうなるのだ!」
「No!違ぇ!だからこの数式を使えって言ってんだろ!!なんで違う数式使ってんだよ!問題ちゃんと読んでんのか!?」
「あー・・・、えっと・・・これを使って・・・。だから、えー・・・数字を入れて。・・・あ?あー、・・・こっからどうだっけ?」
「貴様の脳みそは飾りか!?さっき説明したではないか!」
「・・・俺ァ諦める、毛利任せた」
「我を見捨てるのか伊達!」
「だから旦那違うから!目安箱は綱吉じゃないから!」
「む・・・、では家慶か?」
「違うから!なんでさっきから吉宗をきれいに避けてるの!?」
「ホント幸村は大坂の陣以降は駄目だねぇ」
「・・・慶ちゃん宿題は?」
「俺、昨日の夜まつ姉ちゃんにしごかれたから・・・」
「・・・・・・あぁ」
それはまた大変だっただろうな・・・。佐助は遠い目をした。
きっと昨夜は慶次の泣きそうな声と、まつの怒鳴り声と、利家のどこか抜けた声が近所に響き渡っていた事だろう。
それはこっちも変わらずで、元就の怒鳴り声、政宗の諦め、佐助の叫び、慶次の笑い声が響いていた。
その中で主に元就と佐助が頑張り宿題を終わらせた。最後らへんはもはや鬼と化した二人が無理矢理終わらせていたが。
終わった時、元親と幸村はピクリとも動かなかった。
「終わったねぇ。じゃあゲームしてもいい?」
「どうぞ〜。俺様何かつまめる物持ってくるよ〜」
「Thanks!ゲームやろうぜ慶次!」
ナリちゃんはどうする?と聞かれて、我も手伝おうと席を立った。
慶次と政宗はそれはもううきうきとしながらコンセントを繋いでいる。
佐助と元就は台所に向かいながら何がいいか話していた。どうせこれから騒ぐから簡単で量のある物でいいだろうと元就が言い、じゃあ唐揚げとかでいいかと佐助が返した。
「今日武田先生はいないのか?」
「大将は今日出張中〜」
だからちょうど良かったよ、と笑いながら佐助は鶏肉を取出していた。その横で元就が炒飯でも作ろうかと炊飯ジャーの中を覗いている。
「伊達ちゃん達盛り上がってるね」
遠くからYahー!だのいってぇ!だの叫び声が聞こえる。
その声を聞きながら、元就は何か魚介類はあるか確かめていた。
「ほら旦那起きて。唐揚げ作ったから」
佐助が幸村をゆさゆさと揺らす。幸村はあー、うー、と生返事をしながら顔をゆるゆると上げ、唐揚げをゆっくり口に入れた。その様子に佐助は苦笑する。
元就は炒飯を持ったまま倒れている元親を蹴り飛ばし、炒飯を机の上に置いた。
「お!元就はシーフード炒飯作ったんだ!」
ゲームを一時停止にして慶次が近寄ってきた。愛だね恋だねと言っていたのに元就は無視をした。
「今どんな感じ?」
佐助はついでに作ったサラダを置きながら唐揚げを頬張っている政宗に聞いた。
「あ?コイツ弱ぇの何の。俺の全勝だ」
「政宗が強すぎるだけだって!コンボ数半端ないし、必殺技しまくるんだよ?」
「それはご愁傷様」
佐助も唐揚げを食べながら慶次に手を合わせた。そんな酷い!と慶次が叫ぶ。
「格ゲー強いチカちゃんはダウンだし、じゃあ俺様やろうかな」
「佐助か、まあ相手になるか」
「うっわ何その上から発言。フルボッコにしてやんよ!」
「Ha!出来るならやってみな!」
唐揚げを箸に刺せるだけ刺して口にくわえ、政宗はコントローラーを握った。
佐助も唐揚げを一つ食べながらコントローラーを握る。
「Let's fight!」
政宗が叫んだ瞬間佐助が使っているキャラクターが動いた。それを間一髪でかわした政宗がヒュー、と口笛を吹く。
「いきなりきやがったな」
「こういうのは先手必勝でしょ?」
ニヤリと笑う佐助の目は本気だった。
政宗もそれに気づき意地の悪い笑みを浮かべる。
「Ah〜、そうだな。じゃあこっちからも行くぜ?」
「いつでも来なよ、独眼竜」
そして二人がカッ、と目を開いた。
「いつもいつも真田との決闘を邪魔しやがって!日頃のstressを今ここで晴らしてやらァ!」
「アンタこそ毎回旦那に突っ掛かんないでくんない!?マジ迷惑なんですけど!」
「あぁ?んだと?」
「何ですかぁ?」
言い合いをしながらコントローラーをガシガシ動かしている二人を慶次は炒飯を頬張りながら眺めた。
出来る事ならコントローラーが壊れない事を祈るしかない。ガシガシからガガガガになっているのは気のせいだと思う事にした。
「死にさらせェェエ!!」
「返り討ちにしてくれるわァァア!!」
もはやゲームではなく本当に殺し合いを始めそうな雰囲気である。
しかし慶次に止められるはずはなく、元就はもそもそとサラダを食べているし、幸村は心ここに在らずだ。慶次は放って置こうと思い、倒れていた元親を見ると元親がのっそりと起き上がっていた所だった。
「元親大丈夫?」
「・・・あ〜、何とか。うるせぇんだけど何やってんだ?」
「伊達と猿飛が日頃の鬱憤を晴らしておるわ」
はぁ?と顔をしかめた元親だが、元就の指を差す方を見ると二人が殺気立ちながら格ゲーをしていてああ、と頷いた。ちなみに罵詈雑言まで聞こえた。
「仲が良いのか悪いのか良く分かんねぇな、アイツら」
そう言いながら慶次の食べていた炒飯を奪う。慶次は今日俺扱われ方が酷いと嘆いていた。
「そんなのいつもではないか、・・・おぉ・・・」
「あ〜・・・・・・」
「ナニナニ?・・・ありゃあ」
ゲーム画面を見ると必殺技が決まりちょうど勝負がついた所だった。
勝った方はいよっしゃあ!とガッツポーズをし、負けた方はコントローラーを投げ捨てチクショォォオ!!と頭を抱えた。
「雑魚とは違うんだよ!雑魚とはァ!」
と追い打ちをかけ、佐助は意気揚々と慶次達の所に来た。その笑顔はすっきりとしていた。
つまり勝ったのは佐助で負けたのは政宗。負けた政宗は鬱憤を晴らすどころかストレスを増やす結果となった。
「あ〜、すっきりしたらお腹減っちゃった」
チカちゃん俺様にも少し頂戴と言って元親の炒飯を食べる。
そんな佐助に政宗が食ってかかった。
「テメェもう一度勝負しやがれ!」
「嫌ですぅ〜」
「勝ち逃げすんのか!?」
「そうです〜 」
「Bullshit!!」
「ふざけてません〜」
食ってかかる政宗を佐助は軽く流して炒飯を食べている。
政宗はこれ以上言っても無駄だと思い、Shit!と言った後、宙を見つめながら唐揚げを食べている幸村に詰め寄った。
「真田幸村ァ!勝負しろ!」
「ちょっと!俺様に負けたからって旦那に突っ掛かんないでよ!」
「うるせぇ!俺は真田と決闘してぇんだ!」
幸村を挟んで佐助と政宗が言い合う。
幸村は唐揚げをもぐもぐ食べながら決闘・・・?と小さく呟いた。
「政宗殿が某と勝負したいと申すなら承る所存でござる・・・」
「本当か!?」
驚いた佐助とは打って変わり、嬉しそうに笑う政宗に幸村は引っ張られてテレビの前に連れて行かれた。
引きずられる幸村を見て佐助は畜生と心の中で舌打ちした。
幸村は自ら身体を動かすタイプだ。ゲームはするがはっきり言って強くない。たかがゲームとはいえ幸村が政宗に負けるのを見たくはない。
こうなったら・・・、と考えて佐助は奥の手を使った。
「旦那!勝ったら団子好きなだけ作ってあげる!」
「まことか佐助!!」
佐助の奥の手を聞いた瞬間、ボンヤリしていた幸村の目が変わった。それはまるで真っ赤な服をなびかせ戦場を駆る虎の様に。
横にいた政宗は雰囲気が変わった幸村に「団子でそんなに気合いが変わんのかよ!」とツッコんでいた。
「馬鹿にしてもらっては困りまする!佐助の団子は日本一、いや世界一!」
「やだ旦那〜、俺様照れちゃうでしょ〜」
「うぜぇぇぇえ!!」
幸村と佐助のやり取りを聞いてますますストレスが増えた政宗は乱暴にコントローラーを握った。
俄然やる気が出た幸村もコントローラーを握り、ではと言った。
「佐助の団子の為!決着を着けましょうぞ、政宗殿ぉお!!」
「上等だ真田幸村ァ!!」
佐助の団子の為に決着をつけるのか、といまだサラダを独り占めしてもそもそ食べている元就は心の中でツッコんだ。
佐助はやだ旦那ぁと照れているし、元親と慶次は対戦している二人を見て笑っている。
「ぬぉぉおおお!!さすが政宗殿ぉ!心が熱く燃えるでごさるぅぅう!!」
「楽しいぜぇ真田幸村!!それでこそ俺のrivalだ!!」
いくらやる気を出したからといっても幸村がゲームが苦手なのは変わらない。すぐに決着がつくだろうと思っていた佐助を除く三人は、対等に渡り合ってる二人を見て驚いた。
「幸村、政宗と張り合ってるじゃん」
「すげぇな・・・奥の手・・・」
感心している元親に、佐助はフフンと胸を張った。
「旦那はコレで中間テストの赤点回避したんだから!」
「・・・アレは奇跡じゃなかったのか」
てか団子に釣られて出来るなら普通に勉強頑張れよ。三人はつい思ってしまった。
画面を見ればまだ戦っていて。
少し飽きたな、と元就が考えていると「そういえば」と慶次が話し出した。
「なんかさ、石田三成って奴が来るらしいんだけど、元就何か知ってる?」
「・・・いや、知らぬな」
「何?転校生?」
「うん、らしいよ」
「誰情報だ?」
「秀吉」
じゃあ嘘ではないのだろう。
しかしこの中間テストが終わった中途半端な時期に転校とは珍しい。何か問題のある生徒なのだろうか。
佐助は学校にいる個性的と評して大丈夫なのか良く分からない生徒と教師を思い浮かべながら考えた。
「転校については知らぬが、その石田三成についてなら少し聞いたことがあるな」
元就がサラダを食べるのを止め、顔を上げた。
「どんなこと?」
慶次が机に身を乗り出して興味津々に聞く。
それに元就は神妙な顔つきで言った。
「なんでも豊臣秀吉を崇拝している、と」
「秀吉を・・・?」
「ああ、まるで神の如くな。そして徳川家康を憎んでいると」
噂ではそう聞いたと元就は締めた。
それを聞いた三人は顔を見合わせる。
「秀吉はそんな事言ってなかったけどなぁ・・・」
そう言って慶次が首を傾げた。
「あくまで噂だ。真実かどうか当てにならん」
元就がそう言うと慶次はそうだよな〜と笑った。
だけどさ、と佐助が笑いながら言う。
「もし噂が本当だったら面倒臭くなるよね〜」
おちゃらけた態度で言う佐助に、元親が横でうんうんと頷いた。
「だけどよ、あの絆を大切にしてる家康が憎まれるって考えられねぇな」
「だよなぁ、う〜ん・・・秀吉と関係あるのかねぇ、やっぱ」
「そうだろうな。まぁこれ以上面倒を増やして欲しくないものだな」
「同感〜」
佐助は楽しそうに笑いながら言う。自分と幸村に被害が来なければ佐助は笑って傍観しているだろう。
慶次はそんな佐助を横目に見ながら、唐揚げを一つ口に放り込んだ。
「そういえばよ、家康っていえばでかくなりやがったよなぁ」
元親が炒飯を頬張りながら言った。それに先程まで真剣な顔で願っていた慶次が「確かに!」と同意した。
「なんか背もでかくなって爽やか青年になっちまったよな〜」
「前まで忠勝忠勝って言ってたのにねぇ」
「今でも忠勝と言っているがな」
「それはそうなんだけど、前より頼んない様になったよね〜・・・。旦那そこだ!ぶちかませぇぇ!!!」
「ぬぅぁぁあ!!」
幸村が吠える。
佐助は一心不乱に幸村を応援している。
画面を見ないで談話していた三人は、その佐助の声で画面に目を戻した。
幸村の使っているキャラクターが政宗のキャラクターを猛攻撃している。政宗は反撃しようと頑張っているが、幸村のコンボ数が増えていくだけだった。
「くそ、うわ、マジかよオイ!」
画面を食い入る様に見ながら政宗が言う。その横の幸村は目をきらめかせ画面を見ている。きっとその目には団子が映っているのだろう。
「ぬぁぁああああ!!燃えよ我が魂ぃぃぃいい!!」
「NOOOOOOOO!!」
幸村が叫んだ瞬間、ゲームが終わった。
勿論勝ったのは幸村で、負けたのは政宗。
勝った幸村は佐助の所に直ぐさま行き、団子団子と目を輝かせていた。負けた政宗はガックリ肩を落としたまま、ふらふらとみんなが座っている机まで来た。
「まさか真田にまで負けるたぁ、俺ァもう駄目だ・・・」
本気で落ち込んでいるだろう、その姿に生気はなかった。
佐助は幸村の頭を撫でながらそんな政宗を冷めた目で見、元就は無視している。哀れに思った慶次と元親は何とか政宗を慰め様とした。
「でもさ、俺には勝ってる訳だし」
「そうそう。それに幸村は団子があったから勝てたんだぜ」
そんな二人の言葉に、政宗はフッと笑った。
「慶次に勝ててもな・・・」
「ちょ、酷くないソレ!?」
「あ〜、確かに慶ちゃんに勝ててもねぇ」
「佐助?!」
「・・・・・・分かる気がしないでも・・・」
「元親まで?!酷いよ・・・!」
また一人、落ち込んだ人が出来た。
慶次はずーん、と頭の上に雲を作り机に突っ伏した。
政宗は宙を見ながら「団子に負けたのか、俺は・・・」と呟いている。
団子の事で頭がいっぱいになっている幸村の横で、佐助はそんな二人を見た。
ホント馬鹿だねぇ、と心の中で呟く。
しかし、そんな佐助の表情は優しげで。
「うわ、ちょ、タンマタンマ!」
押されている一番強いはずの元親の声と、無言でコントローラーを弄るゲーム素人の元就のボタン音を聞きながら、佐助は笑った。
親墾フレンズ
これがいつもの日常です。