好きだと言ったのは、半年も前のことだ。
元々同じ家に住んでいて兄弟の様に接していたが、恋人となって一緒に暮らせるのは幸せだった。
いつも一緒にいれて、話せたり笑え合えたり出来ることが嬉しかった。
だが、その分我慢するのが大変だった。
突っ走りそうな自分を頑張って抑制した。制御して、ゆっくりとやって来た。

好きだと言ったのが、半年前。
付き合い始めたのも、同じ頃。
抱きしめたのは、4ヶ月前。
キスしたのは、2ヶ月前。


そして、身体を重ねるのが今日だ。


はっきり言って、幸村はそういう事に疎い。
だが佐助が好きだったし、佐助としてみたいと思っていた。
破廉恥だとは分かっている。それでも、佐助のことを考えいつかはしてみたいと漠然と思っていた。
本当は、今日も普通に終わるはずだった。
一緒に夕飯を食べてテレビを見て寛いで、別々にお風呂に入り別々に寝るはずだった。別々に風呂に入るまでは、何時もと同じだった。
だが、風呂から上がった佐助の言葉によって何時も日常とは別れを告げた。

「旦那はさ、俺に手を出さないんだね」

その言葉に、怒りも悲しみもなかった。ただ、気が付いた様に殺伐としていた。
しかし、その言葉に幸村は異様に慌てふためいた。

「さ、佐助!?いや違うのだ!別に恥ずかしいとか佐助の嫌がる顔は見たくないとか否定されたら嫌だとかではないのだ!ただ、その・・・っ!」

慌てて言った言葉は、違うことなんか何もないくらい本心だった。
本心をぶちまけたと気付いていない幸村は、まだあわあわと言い訳を考えている。
そんな幸村を見て、佐助は思わず笑った。

「旦那、可笑しいね」

そう言って笑う佐助を、幸村はただ真っ赤な顔で見つめることしか出来なかった。
幸村は、ただ呆然と笑い転げる佐助を眺める。
一通り収まったのか、佐助は少し涙目になっている目を幸村に向けて言った。

「今日、部屋に行くから」

そう言って、佐助は自室へと消えて行った。
一人残された幸村は、言われた言葉が頭に鳴り響き、意味が分かってますます慌てた。
あの佐助に部屋に行くと言われたのだ。
時刻はあと一時間もすれば日を跨ぐ。こんな時間からゲームをしようとは言わないだろう。
加えて今日は家の主である信玄は出張の為、家には佐助と幸村しかいない。
これはつまり、そういうことなんだろうか。

「・・・・・・誘われた、のか・・・?」

そう言った幸村は、頭からぼんっ、と煙を出した。








「・・・・・・・・・っ」

あれから幸村は、呆然としたまま風呂に入った。
頭には佐助のあの言葉がぐるぐる回っている。どうやって自分が着替えたのかもはっきり覚えていなく、いつの間にか部屋にいた。
自室の布団の上で正座で座っている幸村は、異様に緊張していた。
ちらりと時計を見れば、もう日を跨ぐ直前で。
正座してから十分。佐助はもう寝てしまったのかもしれない。だが、起きていてもうすぐ来るかもしれない。
幸村が不安と期待に苛まれている時、扉をノックされた。
幸村の身体が跳ねる。静かに開いていく扉を、目が離せずただ見ていた。

「なんで布団の上で正座なんかしてんのさ」

扉の奥から現れた佐助は、幸村を見た瞬間突っ込み吹き出した。
幸村は今だ真っ赤な顔で固まっている。
佐助はそんな幸村の前に幸村を見習う様に正座で座った。

「旦那、大丈夫?」

佐助が笑いながら聞く。幸村はそれにやっと気が付いたのか、いきなり慌て出した。

「さ、佐助!?いや、大丈夫でごさる!大丈夫、・・・大丈夫じゃないかもしれぬ!佐助が、こんな夜更けに某の部屋にいるのだ!何たる、は、破廉恥・・・っ!!」

動揺しまくっている幸村は訳の分からない事をまくし立て、佐助を見ては顔を赤くし、手だけをばたばた動かしている。
夜中にも関わらず昼間並の声量を出している幸村に、佐助も慌て出した。

「ちょっと旦那!夜中なんだから静かに!ご近所様に迷惑かかるから!」

「静かになど出来ぬ!佐助が、佐助が・・・っ!」

「ああもう落ち着け!!」

なるべく小声で叫んでいた佐助がいきなり怒鳴った。
騒いでいた幸村がぴたり、と止まる。
大きなため息を吐いて、佐助は幸村を見た。

「旦那、俺がなんで来たか分かる?」

佐助が静かに問い掛けた言葉に、幸村は真っ赤になる事で答えた。

「俺、旦那が疎いのは知ってるよ。だけどさ、まあ健全な男である訳で。ぶっちゃけちゃうと我慢出来なかった訳ですよ」

その言葉に、幸村は益々顔を赤くした。
そういう事に淡白だと思っていた佐助が、今目の前で我慢出来なかったと言っているのだ。
これは夢ではないかと思わず考えてしまうが、心臓の音はバクバクと激しく動いているし、握り締めた手は汗をかいているのが分かり、これが現実なのだと思い直した。
佐助は固まっている幸村に苦笑いを浮かべ、言葉を続けた。

「確かにがっつかれたら困るけど、何もないのも困るんだよね」

佐助の顔は苦笑いだったが、声が少し掠れていた。

「抱きしめてくれたりキスしてくれたりするのも嬉しいよ。あんなに恋愛事に疎い旦那がしてくれたんだから」

幸村は佐助の顔を見ることが出来ず、ただ自分の握りしめた手を見詰めている。

「旦那はさ、俺をどう思ってる?」

掠れたその言葉に、幸村は勢いよく顔を上げた。
佐助はやはり苦笑いの様な表情をしている。だけど、何時もと違う表情だった。
佐助は自分の思いをあまり表に出さない。表情も何時も笑ってごまかす。ぱっと見ただけじゃ分からないだろう。
だが、幸村は長く一緒に住んでいるからか、何とは無しに分かるのだ。
今の佐助は、不安そうな表情だった。
自分が、佐助をそんな顔にさせているのだ。
自分が、佐助を不安にさせている。
そう考えると、胸が軋んだ。

「佐助・・・、」

幸村は佐助へと手を伸ばした。
ただ、佐助に触れて抱きしめたかった。
腰を浮かし、佐助の肩に触れる。更に足に力を込め、佐助に近付こうとした所で、幸村は奇声を発した。

「ぬぁっ!」

長時間正座をしていた足は痺れていた。
体重は前に掛けている。手は佐助の肩。必然的に幸村は佐助の方に倒れた。

「ちょっ、旦那!?」

幸村が倒れてくる。いきなりの事で、流石に佐助でもどうする事も出来ず、そのまま幸村に巻き込まれた。

「〜〜〜〜〜っ!」

幸村は足に走った衝撃に堪える。
何とか衝撃をやり過ごし目を開けると、呆けた佐助と目が合った。
頭がまた固まり、状況を確かめようと今度は凄まじく稼働した。
手は肩から外れ、佐助の顔の横。身体は佐助を跨ぐ様に被さっている。顔は佐助と向かい合っている。
凄まじく稼働した頭から弾き出された答えは、佐助を押し倒しているという事だった。

「さ、佐助!すまぬ、これはその、わざとではなく!」

また真っ赤になり、幸村は狼狽しだす。それに佐助はまた笑った。

「あははっ!今日の旦那真っ赤〜!可笑しい!」

俺様笑いっぱなしだよ〜。そう言って、佐助はケタケタ笑った。
幸村はそんな佐助に慌てた様に顔を逸らせ、佐助の上から退けようと動いた。
動いたが、動かなかった。
幸村の首に、佐助の腕が絡み付いていた。

「・・・佐助?」

真っ赤な顔で、幸村が佐助を呼びかけた。
訳が分からず、幸村はただ佐助を見ている。
そんな幸村に、佐助は問い掛けた。

「旦那はさ、俺としたい?」

佐助の表情は真剣だった。
幸村はその眼差しを真っ直ぐに受ける。
佐助は幸村を見上げながら、言った。

「俺が好き?」

それは、きっとさっきの苦笑いの本音。
佐助が不安がった理由。
感情を表に出さない佐助が、あんな顔をした理由。
そう気付いた瞬間、幸村は佐助を抱きしめていた。

「ちょっと、旦那?!」

苦しい程、痛い程、幸村に抱きしめられた佐助は驚いて声を上げる。
幸村はそんな佐助を気にせず、力強く抱きしめた。

どうしようもなく、自分が不甲斐なかった。
佐助を不安にさせた事も、あんな顔をさせてしまった事も。自分が不甲斐ないせいだ。
思い返せば、告白した時以来自分の思いを伝えていない。抱きしめたのもキスしたのも、佐助から雰囲気を出してくれたから出来た気がする。
自分は佐助の事を考えていると思い上がり佐助に甘え、佐助なら分かっていると思い込んでいたのだ。
そんなはず、ないのに。

「佐助・・・」

佐助は真っ直ぐ幸村を見ていたが、やはり不安そうで。
佐助も幸村と同じだったのだ。
我慢して、自分を抑制して。相手が分からず手探りで、でも自分なんかよりずっと勇気があって、けどずっと不安で。
それでも幸村に問い掛ける佐助が愛おしく感じ、幸村は抱きしめていた力を弱め、佐助の顔を見た。

「好きだ」

声が、少し震えていたかもしれない。顔も、赤いままだったかもしれない。
だけど、これが幸村の本心だった。
格好つけてない、紛れも無い本心。
佐助はそんな幸村の気持ちに答える様に、幸村の顔を見て笑った。

「俺も」

その笑顔は、とても綺麗で。
幸村は、今度は優しく抱きしめた。






懐裡ブザムカレッサー




そして、想いが重なるのが今。



























―――――――

E☆RO なんて書けない!
まさかの幸佐で初夜ネタ。
佐助がっつきすぎて、幸村ヘタレすぎた・・・
もう自分でも訳が分からない・・・



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