「なんかさ〜、最近伊達ちゃんが挙動不審っていうかさ、怪しいんだよね」

始まりは佐助の一言だった。
学校の放課後。ガランとした教室の中、元親達は他愛もない話をしていた。
そんな中、佐助が言ったのだ。
普段佐助LOVEと公言して憚らない政宗が、佐助に怪しい行動を見せている。
それは全員の関心を引いた。

「伊達殿が?」

「遂に犯罪に手を出したか・・・」

「ちょ、元就それはねぇだろ・・・」

信じられないと驚きを隠せない幸村の横で元就が冷静に酷い事を言い、それに元親が突っ込んだ。
それを横目に、慶次が佐助を真剣な眼差しで見ながら言った。

「で、怪しいって?」

真剣な眼差しで見られた佐助は、少し恐縮しながら答える。

「うん。なんか携帯隠れてするし、すぐメール消してるみたいなんだよね・・・」

軽い口調で答えているが、やはり気にしているのだろう。少し言いにくそうだった。
そんな佐助の言葉に、周りにいた元親達が驚愕の表情で一斉に佐助に向いた。

「おい、それって・・・」

元親が言いかけて、途中で止めた。言っていいのかどうか悩んでいるのだろう。
言いかけた元親の言葉に続けたのは、慶次だった。

「浮気・・・?」

「やっぱり?」

聞いた慶次は信じられないのと驚愕と悲しそうな怒っている表情が混ざった、複雑な顔をしていた。恋や愛を大切にしているからこそ、慶次は浮気かもしれないという事実が寂しかったのだろう。
佐助も苦笑ぎみに、寂しそうに笑う。
それに怒ったのが、幸村だった。

「伊達殿が浮気!?許せぬ!佐助という者がいながら浮気とは!某、伊達殿に問いただすでごさる!!」

「ちょっと待て真田。まだ浮気と決まった訳ではなかろう」

ぬぉぉおおお!!と憤慨する幸村を、元就が冷静に止める。
ぷすぷすと頭から煙りを出しそうな幸村はまだ覇気を纏っていたが、渋々大人しくなった。
元親はそんな幸村に苦笑しながら、でもなぁ、と呟いた。

「それだけ聞くとなぁ」

浮気に聞こえちまうよな、と頭をかきながら言う。
元親自身、政宗が浮気なんて地球が滅んでも有り得ないと思っているが、話だけ聞くと浮気としか思えない。
うーん、と皆して頭を捻る。
あの政宗が浮気?と、やっぱり信じられないのだろう。佐助でさえ信じられないのだ。

「じゃあさ、確かめてみようよ!」

分かんないなら確かめたらいいじゃん、と慶次は言った。

「でも、どうやって?」

確かめたら分かるのは、確かだ。しかし、どうやって?
本人に聞くのは躊躇うし、周りにいる自分達でさえ分からないのだ。良い方法なんてあるのだろうか。

「携帯見てみればいいんじゃない?」

「え・・・」

確かにメールを消したりするのだから、携帯が証拠と成り得るだろう。
しかし、携帯といえばプライバシーの塊。流石に恋人だろうと、おいそれと見る物ではない。そう思い、佐助は思わず困惑した。
常識人である元親も、それは流石に・・・、という表情で口を挟む。

「そりゃそうだが・・・」

人としていいのか?、と言外で訴えるが、それに異を唱えたのは元就だった。

「つべこべ言っている場合ではなかろう。たかが携帯を見るだけだ。もし浮気なら伊達の方が人間として最低だぞ」

「その通りでござる!たかが携帯を見るぐらい、佐助の不安に比べたら月と鼈、雲泥の差でごさる!!」

元就の言った事に、幸村も同意した。
言われてみれば、確かに浮気だった場合の方が酷い。浮気ではない場合でも、佐助の不安が取り除けるのなら、安いのではないか。つい、そう思ってしまう自分がいて、元親は内心政宗に謝った。
佐助は幸村にそんなに大切に思われていたと実感し、「旦那ぁ!」と感激の声を上げていた。

「そうと決まれば思い立ったが吉日!今日佐助ん家に行こうぜ!」

そう言いながら、慶次が立ち上がった。









「Ah?なんでお前ら佐助ん家にいんだよ」

政宗が佐助のアパートに元親達がいるのを見た瞬間、露骨に嫌な顔をした。スポーツバックを隅に置きながら、眉間を寄せている。
ちなみに今日は部活は休みの日だが、政宗は大会が近い為自主練をしていた。だから帰る時間が佐助と違い、元親達に佐助が相談出来たのだ。

「いいじゃん!俺らだって佐助と遊びたいんだし」

そう言って、慶次はあっけらかんと笑う。それは何時もと同じ感じだったが、幸村は政宗が来た時からそわそわし、落ち着きがなかった。

「伊達どっ!」

「政宗も座れよ!」

いてもたってもいられなく、幸村が政宗に問い質そうと口を開いたら、元親がその口を手で覆った。元親の背中に、一筋の汗が垂れる。
此処で政宗に浮気かどうか確かめてしまうと、気まずいのだ。

「真田何か言った気がすんだけど・・・。まぁいいか、おい慶次どけ」

「いて、政宗痛いよ!」

どうか政宗よ、気にするな、と必死に念じたのが通じたのか、政宗はあまり突っ込んで来なかった。
佐助の横に座っていた慶次を足で退かし、自分がそこに座る。
そこで、政宗が来てから何処かに消えていた元就が戻って来た。
手には湯呑みを持っている。茶なんか自ら煎れに行く訳がない、あの元就がだ。「伊達、茶だ」等と普通に渡す姿は、元親にとって政宗が気の毒でならなかった。

「Thank you、毛利」

と、礼を言って政宗は腕を伸ばす。きっと政宗には、部活帰りの級友に差し入れをとでも解釈しているのだろう。
腕を伸ばし湯呑みを取ろうとした政宗に、元就の目が笑うのが見えた。
そして次の瞬間、元就は政宗に湯呑みを零したのだ。

「あっちぃぃぃいい!!」

いきなりの事で、政宗は驚き立ち上がった。
どれだけ熱湯にしたんだ、ぶっかけるつもりなら温くしとけよ、と元親は心の内でツッコむ。元就は心底楽しそうに笑っている。

「ちょっと伊達ちゃん大丈夫!?お風呂沸いてるから入って来なよ」

心配そうな顔で、佐助は政宗の制服をタオルで拭きながら言った。

「うへぇ、下着までビチョビチョになってやがる。・・・言葉に甘えて入らせてもらうわ」

濡れた場所が気持ち悪いのだろう。ズボンを指で摘みながら、政宗は佐助に断りを入れて浴室に消えていった。
佐助は政宗にタオルや替えの服等の場所を伝え、「ごゆっくり〜」と、手を振って見送った。
パタンと浴室の扉が閉まった瞬間、リビングの雰囲気はガラッと変わった。
先程までのほのぼのとした空気は消え、まるで獲物を狙う猛禽類の目だ。・・・主に、元就と慶次が。

「佐助!政宗のカバンは?」

素早く慶次が佐助に聞く。聞かれた佐助は、既に政宗のカバンを漁っていた。

「コレ!・・・・・・あれ?携帯がない・・・」

「なっ!」

漁っていた佐助の手が止まる。携帯がないという事実に、慶次が目を見開き、元就が舌打ちした。

「ズボンの方か・・・」

腕を組み、立ち尽くす元就。
どうしたものか、と三人が頭を抱えた。幸村はただ不安そうに見詰めている。
浴室の扉に耳をあてていた元親が、三人に向かって小さく叫んだ。

「おい、シャワー浴びはじめたぞ!」

「バカ!暗号で!」

慶次に叱咤され、元親がそうだった、と気付いた。

「あ、・・・シャワー浴びはじめたいむぼかーん」

これ暗号の意味があるのか?と疑問を抱きながら、元親は言い直す。しかも若干恥ずかしい。
三人はそんな元親を一瞥し、再び『どうやってズボンに入った携帯を取りに行くか』という議題に頭を捻った。

「どうしよう・・・、ズボンだったなんて・・・」

佐助が弱々しく呟く。携帯をどう入手するかに加え、普段カバンの中にしまってある携帯がズボンにある事に、不安が燻っている様だ。
元就と慶次は『どうするどうしよう』と、必死に考えを浮かべ、駄目だと消去した。
タオルと着替えの替えは、先程佐助が教えてしまった。石鹸類も補充済みだ。
そう慶次が考えていると、隣の元就が小さく呟いた。

「・・・・・・『政宗、お背中流しましょうか?』」

「えーー!?」

あまりの台詞に、佐助が声を上げた。

「これしかない!」

「いや無理だって!」

慶次も肯定しだし、佐助は困った。背中なんか流した事がない。しかも友達と幸村がいるのだ。恥ずかしくて出来る訳ない。

「それだ」

「え?」

「聞け猿飛。学校の友人が来ているのだ、普通は断るはずだ」

特に、伊達の様な男は。

「あ、そっか」

「分かったなら行け。携帯を取って来い」

「俺様頑張るよ!」

元就に言いくるまれ、佐助は笑顔で拳を握り締めた。
そのまま浴室へと向かう佐助に、元就と慶次が目線で頑張れと激励した。
浴室の扉に張り付いて政宗を張っていた元親に、佐助は力強く頷いて扉を開けた。

「政宗〜、背中流そうか〜?」

「おう、頼むわ」

「えぇぇぇえええ!?」

まさかの展開に、一同が騒然とした。あれでも硬派を気取っている政宗が、友達がいる中で許可するなんて。

「伊達は普通ではなかったか・・・」

「背中を流すなど破廉恥極まりないぃぃ!!」

「幸村うるせぇぇ!どうすんだ、佐助普通に背中流してんぞ!?」

佐助に対しては普通ではなかった政宗のせいで、今度はどうやって佐助を引き戻すのか頭を抱えた。
別に背中を洗うぐらい数分で終わるだろうから待てばいいのに、若干パニックになっている元親達はそれに気付かなく、どうするどうすると慌てている。
どうする。
その一言で埋まった空間に終止符を打ったのは、またしても元就だった。

「猿飛、宅配便が来たぞ!」

「マジ〜?今行く〜!」

その手があったか!と元親と慶次が手を叩いた。幸村は今だに破廉恥だと顔を手で隠している。
浴室から出て来た佐助はタオルで顔を拭き、足をもつらせ、はふはふ言いながらソファーに倒れた。

「つ、付き合って初めてだよ、背中流すのなんか・・・」

「で、携帯は?」

「はい」

息を整えつつ、慶次に携帯を渡す。
それを受け取り、慶次はごくり、と固唾を飲んだ。

「開くよ?」

一同が真剣な表情になる。
携帯に手をかけ、慶次はゆっくりと開いた。

「・・・ロックが掛かってる」

そこには、ロック画面が広がっていた。

「ますます怪しいな・・・」

「なんか怖いんだけど」

ロックが掛かっているという事は、何か隠したい事があるという事だ。
元就は意地悪い顔でニヤリと笑い、佐助はソファーに座り直しながら自分の肩を抱いた。
慶次も佐助の横に座り、携帯を手に佐助に聞いた。元就は慶次の横に座る。

「政宗の誕生日っていつだっけ?」

「8月3日」

「違うなぁ・・・。政宗野球好きだよね、好きな選手は?」

「地元の投手の・・・」

「あー、これも違うなぁ」

「いや、名前言ってないのによく分かったね。どうやって入れたの?」

「2121」

「なるほど」

佐助が納得した。

「ついでに佐助の誕生日も入れてみよう」

そう言って、躊躇いなくボタンを押していく。政宗の誕生日は分からないのに、佐助の誕生日は覚えている慶次に、元親は何とも言えない気持ちになった。

「・・・あ、開いた」

「え?パスワード俺様の誕生日なの?やだなんか嬉しい〜」

開いた携帯に、慶次と元就、幸村が覗き込む。
佐助は自分の誕生日で開いたという事に、くねくねと身体を揺らし、頬に手を当て慶次をバシバシと叩いた。痛い痛いと慶次が喚く。

「嬉しがってる場合か」

「あ、そうだったね」

元就が佐助を嗜め、佐助が姿勢を直した。

「じゃあメールの消し忘れから見るよ?」

そう言って、受信フォルダを開く。人の携帯、しかもメールを見るのは後ろめたい。しかし佐助の為、と思い、決心を決める。佐助のメールだけフォルダ分けされているなんて知りたくなかった。

「知ってる人しかないなぁ」

現れる名前は知っているものが多く、佐助はうーん、と呻く。
しかし、下へ下へとスクロールしていくと、ある一点で佐助の目が止まった。

「あ・・・」

そこには、『いつき』と表示されている。

「いつき?」

「女だな」

名前だけ聞くと男か女か分からないが、佐助が知らないとなると怪しい。元親は聞き慣れない名前に首を捻り、元就は女だときっぱり断言する。
慶次の携帯を持つ手に力が入った。

「開くよ」

強張った声で、意を決してボタンを押した。
メールが開かれる。
息を飲む音が聞こえる。
そこには、


『いつも恋人と遊んでないで、たまにはこっちに来て米作り手伝ってけろ』


「あ、思い出したでござる。いつきと申す者は、政宗殿の知り合いの小さな女子でござる」

メールを読み固まっていた慶次達に、幸村がそういえば、と口を開いた。
いわく、いつきとは政宗の地元に住んでいる小さな女の子で、一緒に遊んだり田植えを手伝ったりしたと話していたらしい。悪友で妹みたいな奴だと、その時政宗は言っていた。

「じゃあ政宗は浮気じゃなくて・・・」

「惚気メールを削除してただけか・・・」

「やだぁ、嬉しい〜」

あからさまに肩を落とした二人とは対照的に、佐助は再び照れた様に身体を揺らした。
元就が額に青筋を浮かべながら「くねくねと動くな、腹が立つ!」と佐助に怒鳴る。

「風呂から出るねっさんす!」

「もういいよ!」

「馬鹿らしいわ」

仕事をこなしている元親に、慶次が怒り元就が吐き捨てた。
どうやら浮気していたら政宗達も落ち着き、被害(主に政宗の佐助LOVE)がなくなると考えていたらしいが、結果は何時もの惚気だと分かり、自分達の頑張りと一抹の希望が砕かれたのが腹立たしさを感じているみたいだ。

「佐助良かったな!」

「ありがと、旦那」

やる瀬なさを二人が感じているとは気付かず、佐助は幸村とキャッキャッとはしゃいでいる。
そんな負と喜の雰囲気が入り混じっている部屋を、元親はぼんやりと眺めた。複雑な気持ちが心を占める。
いや、しかし政宗は浮気じゃなかったし佐助は嬉しそうだし、これでよかったんだ。そう思った次の瞬間、元親の頭に衝撃が走った。

「うがっ!!」

「うわっ!元親何やってんだ」

「何でもない・・・」

浴室から出て来た政宗が思い切り扉を開け、元親の背中に良い音でぶち当たった。
政宗は扉前に座り込んでいる元親に驚き、元親は背中を摩りながら涙声で小さく答えた。

「政宗〜、はい携帯〜」

ソファーの上から浴室とリビングを繋ぐ廊下に立ち尽くしている政宗に、佐助は満面の笑みで携帯を差し出す。
政宗は携帯を受け取ると、佐助の横に自然な動作で立った。その顔は、佐助と同じく満面の笑みだ。

「ああ。佐助お前コイツらがいんのに背中流すって。理性フル起動しちまったじゃねぇか」

「やだぁ、照れるじゃん」

恥ずかしげもなく言う政宗に、頬を染め、ぱしぱしと政宗を軽く叩く佐助。もはや二人の世界に入ってしまった彼等の横で、元就と慶次がいたたまれない気持ちや腹底から込み上げてくる気持ちを抱えていた。

「やってられぬわ・・・」

「なんだろ・・・。嬉しいはずなのにこの気持ち・・・」

遠い目をする元就に、渇いた笑みを零す慶次。
「佐助が幸せなら何でも良いでござる!」と、嬉しそうに笑う幸村を見ながら、元親は自分が一番やる瀬ないのではないかと背中を摩った。

「背中と心が痛ぇ・・・」






草臥フラート



とりあえず、俺達は白でした。




















―――――――

水曜日にやっていたコ●リコミラ●ルタイプのパロディです、すみません。
大好きなんです、あの番組。
このコントが大好きで・・・っ!・・・・・・やっちまったぜ・・・。
いろいろ不安ですが、楽しかったです。反省はしている。後悔はしていない!



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