佐助が笑う。
楽しそうに表情を変え、親しそうに話し掛ける。俺はそれを後ろから眺めていた。
佐助も相手も俺に気付かず、軽やかに話をしている。
また、佐助が笑う。
俺はまた、冷めていく。
腹の中にどす黒い感情が蔓延していく。
許せない。単純にそう思った。

「佐助」

佐助に近付きながら、その背中に呼び掛ける。その声は冷めた心とは裏腹に、所謂『何時も』通りのものだったが、佐助の肩がビクリと跳ねた。
俺がこんなに近付いていても気付かなかったのは、お館様と手合わせすると言ったためだろう。お館様と手合わせすれば、半日は当たり前だ。しかし、今日は一刻も経っていない。
いるはずがないと思っていた俺に声を掛けられて、佐助は驚いた筈だ。

「どうしたの?旦那」

それでも取り繕うかのように笑顔で佐助は振り返る。
その様子がとても面白くて歪に上がりそうになる口角を、俺は無邪気な笑顔で塗り潰した。

「今日は早く終わってな、着替えを手伝ってくれぬか」

佐助と話していた男には俺が頼んでいるようにしか聞こえないが、佐助にとっては違う。現に男は穏やかに笑っているが、佐助の顔は歪んでいた。
頼んでいるようで、拒否を許さないお願い。
それが分かっているからか、佐助は視線をさ迷わせていた。
佐助は今、俺の事で頭がいっぱいになっているのだろう。それに、先程感じた黒い感情が薄れていくのが分かる。

「よいか?佐助」

形ばかりの質問。それに佐助はため息で応えた。

「分かりましたよ・・・」

そう言いつつ、男にゴメンね、と声を掛け俺へ歩いてくる。俺はそんな佐助を確認して、背中を向けて部屋へと歩き出した。
後ろで歩いている佐助は何も喋らない。聞こえるのは、床を踏み締める音と遠くから聞こえる声。
結局、どちらも何も言わないうちに部屋の前に着いた。

「入れ」

短く言う。佐助は何も言わずにそれに従った。
続けて後を追うように、俺も部屋へと入る。後ろ手に障子を閉めたと同時に、俺は佐助の頬を殴り付けた。

「・・・・・・っ!」

受け身も取れず畳へと倒れる佐助を見下ろす。思い切り殴ったためか、切れた唇から流れる血が綺麗だった。

「・・・何すんの、旦那」

畳に倒れたまま下から睨みつけてくる佐助に、今度は隠しもせず俺は口角を上げた。

「何って殴ったのだ。理由は分かっているだろう?」

佐助を跨ぎ、忍らしくない明るい髪を掴みながら顔を寄せる。唇から流れた血を舐め取り、切れた場所に歯を立てた。
佐助の表情が歪む。それが楽しくて、俺は舌先で傷口を刔った。

「言った筈だ。お前は俺の物だと」

佐助の眼を捉えながら、俺は淡々と口にした。掴んでいる髪に力が篭る。僅かに歪んだ表情は一瞬で、佐助はすぐに笑みを浮かべた。

「旦那の物だぜ。俺は道具だから」

忍らしい表情のない顔で佐助が笑う。それに、先程薄れた感情が振り返した。
その感情のまま、俺は拳を振り上げる。鈍い音と共に、また佐助が倒れた。

「俺の物なのだろう?何だその言い方は」

髪を掴み、無理矢理顔を上げさせる。殴られても衰えない視線に、俺は再び拳を上げた。

「他の者には随分親しそうに話すのだな。俺の物だと言うなら他の者に笑うな。俺だけを見ろ。何度言ったら分かるのだ!」

怒りに任せて、何度も何度も殴り付ける。嫌な音が部屋に響く。音が止んだのは、俺の手が痛くなった頃だった。
顔を伏し咳込む佐助を、俺は肩で息をしながら見下ろす。
顔の至る所から血が流れている佐助は、それでも俺を見ていた。
ああ、腹が立つ。何で思うようにいかない。何で佐助は自分の物にならない。

「何故お前はそうやって笑う・・・!」

一方的に殴り付けて不満を撒き散らしているのに、何故佐助は何の反応もせず冷ややかに笑うのだ。まるで俺のやる事に興味などないように。俺になど興味がないように。
佐助を跨いだまま、俺はどうしようもなく腹が立った。
俺はこんなにも辛いなのに。佐助にはそれが伝わらない。

「・・・俺はアンタの物だよ。全部、アンタのだ」

佐助が呂律の回っていない口調で言う。俺はその言葉に掌を握り締め、首を振った。

「・・・違う」

佐助は忍として道具として、俺の物だと言っている。
だが、違うのだ。
俺は、道具ではなく佐助が欲しいのに。

「何故分からない・・・」

奥歯を噛み締め、佐助の首へと手を回す。このまま殺したら、佐助は俺の物になるのだろうか。少しずつ篭められていく力を他人事のように感じながら、俺はそんな事を考えた。
閉め切った部屋の外から人の笑い声が聞こえる。ふと佐助を見れば、佐助は笑っていた。

「分かってないのはアンタだよ」

その笑顔は、表現しにくい顔だった。怒っていて嘲笑うような、でも辛そうな、そんな割り切れない表情。
その表情を見たくなくて、佐助の言葉を聞きたくなくて。
俺は噛み付くように口づけた。






箝制バイオレンス




離しはしない。























―――――――

うん。幸村はこんな子じゃないよ!
幸村が真っ黒でドメスティックバイオレンスしてたら嫌だなー、でも佐助くんなら黙ってやられないんだろうなー、と思って書いたもの。申し訳ありませんね・・・

幸村は時々暴走して、佐助くんはそれをすぐに分かっちゃえばいい。
佐助くんは幸村が好きだけど、暴力で手に入れられるのが嫌だから反抗してる、の・・・かな?イマイチ分かんないや!
分かってないって言われた幸村は、佐助が自分を嫌ってると思って暴走しそうで嫌だね!

いや、本当に申し訳ありません。


ちなみに一刻=二時間でやってます。



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