「何か最近さぁ、慶ちゃんが以前にも増して恋とか愛とか言ってんだよね〜」

佐助が屋上で空を見上げながら呟いた。

「恋でもしているのではないか?」

ああ、今日の空は澄んでるなぁとぼんやりと思っていたら、隣にいたかすががそれに応える。広げていたお弁当はさっきよりも減っていた。

「やっぱそう思う?きっと雑賀の姉さんだよねぇ、話してる時妙に嬉しそうだしさ。いやー、いいねぇ」

空から隣へと視線を替えた佐助が、青春だねぇと緩みきった笑顔で笑う。かすがはそんな佐助に一瞥しただけで、どうでもよさそうにお弁当からウインナーを取り口へ運んだ。

「お前もすればいいだろう」

「んー?してるけど相手が素直になってくれないのよ。もう少し素直になってもいいと思うんだけど、どう?かすが」

そう佐助が提案するように言えば、かすがは口にあったウインナーが変な所に入ったのか息を詰めた。うっ、と苦しそうに呻いている。
それに、かすがの隣に座っていた小太郎が慌ててお茶を差し出した。かすがは差し出されたお茶を飲み干して、息を落ち着かせている。その様子を楽しそうに笑って見ていれば、かすがは鋭い視線と共に佐助へと詰め寄った。

「私は関係ないだろう!」

「もー、そういう事言っちゃう?俺様ホーント報われない。小太郎もそう思うっしょー?」

わざとらしく悲しんでる佐助にいきなり話を振られた小太郎はあまりのいきなりさで驚いた。
しかしやはり仲良くしてほしいとは思う為小さく頷けば、佐助は嬉しそうに声を上げた。

「ほらぁ!コタは優しいねぇ」

味方を得たことで強気になった佐助はかすがに「ほら」と主張する。
かすがは少し怯んだが、今度は味方した小太郎の方をジロリと見た。

「・・・そういう小太郎も鶴姫から逃げているではないか」

「・・・・・・っ」

今度は小太郎が息を詰める。
小太郎が鶴姫を助けたのがきっかけらしく、何時の間にか鶴姫が小太郎を「宵闇の羽の方〜!」と追っ掛け回している光景が日常茶飯事になっている。
別に鶴姫の事が嫌で逃げている訳ではないが、逃げているのは事実だ。
弁解も出来ず落ち込んでしまった小太郎に、佐助は鶴姫の様子を思い出しながら苦笑した。

「まぁ、あれだけ熱烈に純情オーラ出して突撃されたら、ちょっと逃げたくなっちゃうかもねー。コタは照れ屋だし」

あの突撃は流石の自分も逃げたくなると思う。何せ周りの空気をキラキラのピンクに染めて、両腕を広げて抱き着こうとしてくるのだ。あれで抱き着かれる直前まで消えない小太郎は偉いとさえ思った程だ。
佐助だって鶴姫が嫌いという訳ではないが、あんな乙女オーラ全開で来られたら怖い。

「だが嫌いな訳ではないのだろう?話ぐらいしてみればいいではないか」

「・・・・・・、・・・」

かすがはその辺の事が分からないらしく、真面目な顔をして小太郎に言っている。
小太郎が困っているようだった為、佐助はそれとなくフォローした。

「ううーん、コタは話す方じゃないしな。ま、ゆっくり馴れてけばいいんじゃない?」

馴れていけば、きっとあの乙女オーラも軽くなるか大丈夫になるだろう。小太郎だってあのオーラさえなくなれば逃げないはずだ。
かすがはやっぱりそこの所は分かっていなかったが、それでも鶴姫の乙女という名の電波は分かっていたらしく頷いていた。

「そうだな。鶴姫だって話している時は落ち着くだろうし、小太郎の言いたい事を解るだろう」

「恋する乙女だもんねー」

鶴姫なら喋らない小太郎の言いたい事が解るだろう。何たって恋する乙女だ。
小太郎は少し恥ずかしそうに身を縮めていた。照れ屋な性格に加え普段しない恋ばなをしているからだろう。
何だか微笑ましいな、と保護者感覚で和んでいたら、かすがが口を開いた。

「それにしても前田が孫市か。意外だと言えば意外だな、もっと守ってやりたくなるようなタイプが好みだと思っていたのだが」

「姐御肌バリバリ!」

守ってあげたくなるお市や鶴姫とは真逆だと言っても過言ではない。その辺の男では相手にならない程、孫市は格好良かった。
慶次と一緒にいる時もそれは変わらず、ヘタレな慶次を孫市がからかっていた気もする。

「しかし、妙に合っている二人だな」

しかし、かすがの言う通り合っているのだ。
慶次は孫市を気遣い、孫市を笑わそうと馬鹿な事もやるが、たまに頼りがいのある男になるし、孫市は慶次を馬鹿だと言いながら優しく笑い、認めている節がある。
そんな様子を思い浮かべながら、佐助はかすがに向かってニッと笑った。

「俺とかすがみたいな?」

ちゃらけたように言えば、かすがはお弁当にガンッ!とお箸を突き刺した。

「誰がだ!貴様しつこいぞ!」

「だって何回も言わないとかすが俺様の気持ち分かってくれないし」

「分からなくて結構だ!」

「あーらら、フラれちゃったよコタ〜」

「・・・っ、・・・・・・!」

苛々とかすがが叫ぶのに対して、佐助はそれを飄々と流し、よよよとうなだれながら小太郎に手を伸ばした。
小太郎は伸ばされた手を握りながらオロオロとかすがと佐助を見比べた。佐助はまだうなだれている。
困ったように見ていると、かすががお弁当の蓋で思い切り佐助の頭を殴った。

「いってーーっ!」

「貴様が変な事を言うから小太郎が困っているではないか!」

頭を摩りながら小太郎を見れば、他の人からしたら分からないだろうが、確かに困った顔をしていた。
佐助はちょっとやり過ぎたかな、と反省して、安心させるようにふにゃ、と笑った。

「嘘嘘冗談、大丈夫だよ。かすがは素直じゃないだけだから」

「黙れ!」

本当は仲良いんだよーと軽口を叩いたら、かすがに冷たい視線を送られた。小太郎も仲が良いとは分かっているが、普段からこんな感じの為心配してしまうんだろう。
あれ、俺様かすがに優しくされた事あったけ?と佐助はふと考えた。小太郎には優しいのに、ううん、冷たいなぁ。
しかしかすがも小太郎に劣らず照れ屋だし、これがかすがだからしょうがない。

「にしても、いい天気だねぇ」

怒っている姿も好きだが、流石にプリプリしているかすがをこれ以上怒らせるのは怖い為話題を変えた。
小太郎は微かに微笑み、かすがはお弁当を食べている。空を見上げれば透き通った青が広がっている。

「あーあ、俺様もラブラブしたいなー」

そう上を向いたままぼやいたら、真っ赤な顔をしたかすがに中身の入ったお弁当を顔面に振り下ろされた。






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