「家康、貴様・・・っ」

三成が苦しそうに言葉を吐いた。
信じられない物を見るように家康を見詰めているその顔は蒼白で、立っているのもやっとな程だ。

「三成・・・・・・」

対して、見詰められている家康は、悲しそうな哀れむような表情で三成と対峙していた。

「貴様、私を裏切るのか・・・っ!」

三成が家康の胸元を掴む。服が引っ張られて息が苦しくなったが、家康は何も言わず辛そうに顔を背けた。
その家康の反応に、三成はより強く服を引っ張った。

「答えろ家康!!」

声が震えているのにも気付かず、三成は声を張り上げる。
家康は三成にされるがまま、ただ辛そうな顔をして目を逸らしたままだった。
三成は家康を睨んだまま答えを待ち、家康は押し黙っている。
そんな時がどれくらい続いただろうか、家康がぽつり、と言った。

「・・・すまない、三成。どうしようもないんだ・・・」

それは、紛れもなく裏切りの言葉だった。
三成の目が見開く。そして先程とは比べ物にならない程の怒りと哀しみを目に、家康を睨み付けた。

「赦さない!私を裏切るなんて赦さない!」

「三成・・・」

「裏切らないと言ったくせに!それなのに裏切るのか、家康!」

服を掴んだまま身体を前後に揺らされる。しかし家康には、自分に対して向けられた絶望の声を受け止めるしか出来なかった。
裏切らないと思ってた。裏切る筈がない、何時までも一緒だと。
だが現実を知った。その現実を、自分が変えなくてはと思ったのだ。
例え、この愛しい存在に憎まれても。

「・・・すまん、三成。ワシには泰平の世を創るという使命があるんだ・・・」

それが、自分の使命だと思ったから。
言い聞かせるように三成に言う。しかし三成は家康の服を掴みうなだれながら、聞きたくないと首を振った。
その弱々しい姿を見て家康も胸が痛む。だがもう決めてしまったのだ、今更三成を抱きしめる事さえ出来ない。

「・・・私よりも天下を選ぶのね」

三成の口調が崩れる。顔を上げたその顔は哀しそうに歪み、目には涙が溜まっていた。その哀しい、だけど美しい瞳を向けられた家康は、違う!と首を振った。

「違うんだ、三成!」

「違くないじゃない!泰平の世とか言って天下が欲しいだけでしょ!そんなに天下が欲しいの!?私を捨ててまで!答えなさいよ家康!」

ぐいぐいと服を引っ張る。声を荒らげて叫ぶ三成は、浮気した男に問い質すように問い詰めた。
家康はそんな三成を見て、何を言ってももう駄目なのだと悟った。きっと自分の思いはもう、この愛しい人には伝わらないのだと。
そう思うと余計に辛くなった。今自分を問い詰めている三成を見ているのさえ。

「離してくれ!」

「ああん!」

だから掴まれていた手を無理矢理離した。それが思いの外力が入ってしまったのだろう、三成は弾かれるように手を離し、そのまま地面へと倒れ込んでしまったのだ。
思いがけない事だった為家康も目を丸くしたが、手を差し延べる事などやはり出来なかった。
きっと此処で手を差し延べたら、使命など忘れて三成だけを愛してしまうから。だから家康は延ばした手を握りしめ、倒れて啜り泣く三成を辛そうに見下ろすしかなかった。

「・・・嘘つき・・・、裏切らないと言ったのに・・・」

「すまん、三成・・・赦してくれ・・・」

ただ謝る事しか出来ない。
だが三成にとって、その謝罪はより深く傷付ける刃物と同じだった。
謝られれば謝られる程、裏切られたという思いが強くなっていく。何故私を裏切ったのに謝るのだ。何故赦しを請う。そう言えば赦すと思うのか。そんな思いが頭を駆け巡る。
そして三成は憎悪と絶望に濡れた目から大粒の涙を流し、誓った。

「・・・私は貴様を赦さない!絶対に赦すものですか!地の果てまで追い詰めて斬滅してやる!」






「と、まぁ要約するとこんな感じかな」

今まで辛そうな顔で見下ろしていた慶次は、地面に倒れ込み、涙を流しながらも自分を睨んでいた佐助に手を差し延べて笑った。佐助も差し延べられた手を掴み、立ち上がる。
「前田の風来坊ちょっと強く突き放し過ぎだよ」と汚れた服を叩きつつ言えば、慶次は「ごめんよ」とすまなそうに謝った。

「成る程、三成殿は家康殿を好いていたのでござるな!」

「で、捨てられた腹いせに日本を分けた戦始めた訳だ。すげぇな石田」

幸村と政宗が感嘆の声を上げる。
ちなみに涙は目薬や水ではなく、正真正銘の佐助の涙だ。忍たるもの、飾りの涙と演技力を持っていなくてはやっていけないらしい。
その涙を拭いながら、佐助は幸村たちの近くに座った。慶次も佐助の横に座る。

「そんな感じ?でも天下の為にみっちゃん捨てた権現さんもどうかと思うよ」

ずずっ、と鼻を啜りながら、佐助は軽く言う。その意見に、慶次も「俺もそう思うぜ!」と同意した。

「天下取るなら惚れた奴ぐらい幸せにしてやんなきゃ」

「そうそう。しかも何、使命って。恨まれるって分かってるのに、使命って言えば何でも許されると思ったら大間違いだね」

「Ahー、まぁそうかもしれねぇが、石田を捨ててでも成し遂げたかったんだろ」

「そうでござる!愛する人に恨まれて尚成し遂げようとするその強き心、見習いたくはありませぬが尊敬いたしまする」

見習いたくないのに尊敬するって、どういう意味の尊敬なんだろう。慶次は疑問に思った。
主である幸村が結構辛辣な言葉を言っているのに対して、普段から聞いているのか、それとも聞かなかった事にしたのか、佐助は綺麗に流していた。

「だからその心がエゴなんだって」

「えご?」

「利己的って事。だよね独眼竜」

佐助の言葉に、政宗はああ、と頷く。
だが政宗は何か考えていたらしく、「しかしなぁ」と異を唱えた。

「確かにエゴかもしれねぇが、石田もヒステリック過ぎねぇか?もっと家康を受け入れてやりゃあ、二人力を合わせられたかもしれねぇだろ」

「確かに!じゃあ家康が言う絆が深ければ関ヶ原はなかったのかな」

「かもね〜」

「俺らあいつらの痴話喧嘩に巻き込まれただけかよ、やってらんねぇな」

「某は政宗殿とまた手合わせする事が出来、嬉しかったでござりまする!」

三成にこれ以上ない程叩きのめされ、地に堕ちたとさえ言われた理由が、結局は意思の疎通が上手く謀れていなかったのが原因のどろどろした痴話喧嘩だと結論づけられ、政宗はやる瀬なさそうに小さく舌打ちした。
幸村はそんな政宗の心情を知ってか知らずか、嬉しそうに隣で笑っていた。佐助が「良かったね、旦那」と言えば、犬の尻尾があったらはち切れんばかりに振っているであろう笑顔で「ああ!」と頷いており、政宗は少し救われた気分になった。

「けど、またこんな痴話喧嘩起こさない為にも三成と仲良くしてくれよ?家康」

そう笑い掛け、慶次は一部始終笑いながら見ていた家康の肩を叩いた。そのドンと胸を張る姿は以前よりも頼りがいがあり、器の広さが伺える。
家康は四人の視線を受け止め、力強く頷いた。

「任せてくれ!これからは互いを理解し合い絆を深めよう、三成!」

「な!」と笑顔で家康が三成を見ると、三成は目を赤くしながら刀の柄に手を掛けていた。

「きぃさぁまぁらぁあああ!!直ぐさま斬滅してやるからその場に並べぇええ!!」






要約レクチャー



恋と昼ドラと嘘と戦場。

























――――――――

家康役、前田慶次。
三成役、猿飛佐助。

関ヶ原が欝ヶ原過ぎたので脳内変換。関ヶ原(戦場)で外野がこんな事をしてればいいのに。

佐助と慶次は二人揃うとノリノリで遊び始めます。あと元親が加わると最強。

この話を書いた理由:「ああん!」が書きたかった。
書いてみての一言:史実と秀吉に土下座したいです。



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