「凶王が命ずる」

三成が言った。

「頭を垂れろ、毛利元就」







事の発端は、昼休み。
屋上で昼ご飯を食べ終え雑談に華を咲かせていた時、購買で貰い過ぎた割り箸に気付いた政宗が、片手間にそれをパキリパキリと割っていた。
ちょっともったいないでしょ〜と言いながらも、佐助は政宗がそれをゴミにしないと分かっているから強くは言わない。その時、慶次が割られた箸を手に、王様ゲームしない?と提案したのだ。
その提案に元就は顔をしかめたが、残りの全員、つまり政宗、佐助、幸村、元親が賛成を唱えた。
箸は八本。此処にいるのは六人。気にする事はないが、どうせやるなら多い方がいいと元親が携帯で誰かと連絡をしている間に、幸村が持っていた赤いペンで箸の太い方を塗り潰していた。

「呼んだか、元親!」

連絡してから数分後、屋上の扉を開いたのは家康だった。後ろには嫌な顔をしている三成がいる。

「ちょうど孫市と鶴姫に捕まっておってな、助かった。な、三成」

「元はと言えば貴様が余計な事を言った所為だろう!」

そんな事を言い合いながら、元親達の所へ向かってくる。
孫市達に何を言われたか分からないが、三成の機嫌は悪いらしい。そんな三成に家康は悪かったと豪快に笑いながら謝っている様子を見て、佐助はあれじゃあ逆に苛立たせるだけじゃないかと思ったが口には出さなかった。怒りがこちらに向くのは避けたい。

「で、どうしたのだ?」

家康がドカリと元親に話し掛けながら座る。元親が呼んだ理由を言おうとすると、慶次が割り込み良い笑顔で言った。

「王様ゲームしようよ!」



そして王様ゲームが始まった。
三成は一瞬嫌な顔をしたが、何か思ったのか何も言わず頷いた。
そして見事王様を掴んだのだ。



「我に頭を垂れろと?」

元就が威圧的に言う三成に睨み付ける。二人の周りに何か渦巻いているのを元親は見た気がした。

「何故我が頭を垂れなくてはいけないのだ」

尤もな事を言う元就は、声に怒りが篭っていた。
初っ端からこんな殺伐とした命令が出るとは思っていなかった元親達は、何とも言えないしょっぱい気持ちになった。
何でもっと軽い命令にしないんだよ。むしろ何で元就に命令してんだよ、番号で言えよ。そんな突っ込みが頭に過ぎるが突っ込めない。王様が暴君過ぎる。
幸村なんかオロオロしているし、慶次はどうしたもんかと苦笑している。政宗でさえ口が引き攣っているのに、何故か佐助はどうでもよさそうに眺めていて、家康に至っては朗らかに笑っている。お前の図太さが羨ましいと、二人に挟まれている元親は強く思った。

「何故だと?貴様関ヶ原で動かなかったではないか」

知らないとは言わせない。そう言い放った三成に、佐助が呑気な声で聞いた。

「何で関ヶ原〜?」

確かに何で関ヶ原だ。そんな歴史上の出来事を此処で出して来る意図が解らなかった。
それに三成はフン、と鼻を鳴らした。

「こいつの所為で西軍が負けたのだ」

「先程鶴姫に関ヶ原に関して聞かれていたからな」

三成の説明は相変わらずよく解らなかったが、フォローした家康の言葉で合点がいった。
きっと鶴姫が何かしらで関ヶ原について知り、何処で勝敗が決まったのかを純粋な眼差しで聞いてきて、それを孫市がからかい半分恨み半分で弄り回したのだろう。
その理由に、元就が鼻で笑った。

「そんな事か」

「貴様そんな事だとぉ!?」

一蹴した元就に三成が食ってかかる。元就はそんな三成に冷ややかな目を向けて応えた。

「たかが名が同じというだけではないか。そんな理由で頭を垂れると思うてか」

いや、王様ゲームのルール知ってんのかよ。
今二人を除いた全員が胸の中でそう突っ込んだ。

「煩い!私と同じ名前が貴様の所為でこんな狸に負けたのが許せないのだ!」

どんな屁理屈だ!
今度は二人と家康を除いた全員が胸の中で突っ込んだ。
政宗は命令を聞く気がねぇならもういいからと流したくなったが、口が挟めそうにない。きっと周りもそうだろう、二人の睨み合いは続いていた。

「大体毛利元就は既に死んでいたであろう。関ヶ原の総大将は孫である毛利輝元だ、我は関係ない」

「貴様の孫だろう!」

「同姓同名の毛利元就の孫だ。それに毛利軍は吉川広家の策略に嵌まっていたのだ、仕方なかろう」

「吉川広家は毛利の家臣のはずだ!」

「そうだな」

「何故徳川と通じていると判らなかった!」

「人間全て分かる訳がない。それを言うなら、関ヶ原の敗戦は小早川秋秀と脇坂安治の裏切りの所為だ」

「金吾ぉぉおおお!!」

どうやら決着が着いたらしい。小早川の名を叫びながら、三成は持っていた王の証を地面にたたき付けた。

「まぁ、落ち着けって」

佐助がそれを拾い、慶次が三成を宥める。元就は勝った所為か短く笑っていた。
ルール無視とかどうでもいい、やっと終わったと、元親が心から安堵した瞬間だった。

「その恨みをこれですっきり!ハイ」

そう笑いながら、佐助が箸を皆に突き出したのだ。
また繰り返させたいのかお前はぁあ!と元親が内心叫んだが、佐助の横から幸村が素直にそうでござるな!と箸に手を伸ばしていた。

「如何なされた、元親殿」

「ほら引くなら早くしてー」

佐助からの視線が少し冷たかった為、いろいろ言いたい事を飲み込んで、元親は箸に手を伸ばした。

「王様だーれだ!」

二回戦。
その掛け声と共に、佐助の手から一斉に箸が抜かれる。

「お!俺王様!」

そして王様が名乗りを上げた。

「やっぱこういうのは楽しまないと!」

ポニーテールを揺らし、赤く塗られた箸を握りながら、王である慶次はニッと笑った。うきうきと周りを見渡す。

「ここは王様ゲームらしく。3番の人が5番の人に熱烈に告白しちゃって!」

「うっわ、頭の悪い命令〜」

「破廉恥でござるぅぅうう!!」

命令を発した途端、佐助がケタケタ笑い、幸村が真っ赤になって叫んだ。
男だけの空間に破廉恥も何もなく、むしろ寒いだけだが、幸村には告白という言葉だけで破廉恥らしい。純情過ぎる、もはや潔癖と言ってもいい幸村の叫びは、元親の間延びした声で消された。

「俺3番なんだけどよぉ、誰に告白すりゃあいいんだ?」

まぁ頭を垂れろとか威圧的な物ではなく、まさに王様ゲームといったバツゲームらしい命令だし、と元親は特に気にもせず3と書かれた箸を見せた。
佐助が「ほんとー?残念、俺様違うよ」と笑いながら言い、その横で幸村も「某も違いまする」と答えた。横に座っている元就と三成は興味なさそうにしているし、家康は苦笑しながら首を振っている。
王である慶次が5番な訳がない。
と、いう事は。元親が5番であろう人物に視線を向ければ、箸を握り絞めながら俯いていた。肩が微かに震えているようにさえ見える。

「まさむ」

「ふざけんな!何でこんなゴツイ奴に告白されなきゃなんねぇんだよ!」

声を掛けた瞬間、俯いていた政宗が顔を上げ、握っていた箸を元親へと突き付けた。片方に覗く隻眼が殺気立っている。
そんな視線を受けながら、元親は少し困ったように笑った。

「まぁしょうがねぇだろ、王様の命令は絶対だしな」

さっきのはスルーという事で全員の心は繋がっていたらしく、誰も突っ込まなかった。
「Goddamn!」と吐いている政宗に、元親は目を合わせた。視線が一つだけの目を射抜く。

「まぁ怒った顔もいいが、」

「ああ?」

苦笑した顔から一変、元親は男臭い笑みを浮かべた。

「ぶつくさ文句言ってねぇで、俺のもんになっちまえよ」

好きだぜ、政宗。
そう、男の顔をして言った。

ピクリと元就の片眉が上がる。
佐助と慶次は口笛を吹き「アニキー!」と囃し立て、元親はそれに手を挙げて応える。告白された政宗は自分の両腕を摩っていた。

「うへぇーっ!鳥肌立っちまった!」

「酷ぇなぁ、おい」

流石に、その言われようには元親も苦笑した。
政宗はそんな元親を睨む。

「てめぇなんかに告白されても嬉しくねぇんだよ!くっそ絶対kingになってやらぁ!俺ァ佐助に告白されてぇんだよぉ!」

「あっは、俺様が王様になったら慶ちゃんに告白させてあげるよ」

「佐助、俺に対して失礼だと思わないかい?」

願望というか欲望をオブラートに包みもせず喚く政宗に、佐助が笑顔で辛辣な言葉を吐いている。その笑顔は怖かった。
佐助の横で、慶次は何とも言えない表情で言う。あれ、俺ってそんなキャラなの?と思ったが、きっと元親と同じように身体がデカイからだよねと無理矢理自分を納得させて箸を集めた。そうしなくては目から汗が流れそうだった。


三回戦。
掛け声と共に箸が抜かれる。瞬間、政宗が「Yes!!」と叫んだ。

「来たぁ!俺の時代!」

「げっ、マジかよ!」

「こんな時ばかり運がある奴よ」

嬉しそうに叫ぶ政宗とは対照的に、佐助が心底嫌そうに顔を歪めた。
ナリさんの言う通り、何故あの竜はこういう時ばっかり運が良いのか。くそ、マジ俺の前からいなくならないかな、等と心の中で悪態をつく。
そんな佐助の心中を察する事なく、いや例え察しても変わらないだろうが、政宗は浮足立つように佐助へ腕を広げた。

「Come here,my dear!」

「番号で言って下さいー」

そこに飛び込めと。だが断る。
佐助は絶対零度の声と眼差しで政宗を貫いた。だが、そんな事が政宗に効くはずもなく、むしろ絶対零度とさえ気付かない。佐助の攻撃は、ただの佐助からの告白の障害の提示になっただけだった。

「何だと!kingの命令は絶対だろ!」

「番号に当たった人にはねー」

「ルールを守って下され、政宗殿」

佐助と共に、幸村の絶対零度も加わる。佐助の事になると目を光らす幸村の声は、底冷えする程の冷たさだった。
政宗は二人の指摘に頭を抱えた。

「Shit!こんな壁が待ち受けているとはっ!」

「いいから早くせんか」

横で騒いでいる政宗に元就も冷たく言い放つ。
くそ、何故俺と佐助には毎回障害があるんだ。あれか、運命の悪戯か。しかし俺は負けねぇ、運命さえ従わせてやる。

「っ4番!俺に告白しろ!」

佐助を見詰めながら叫ぶ。
見詰められた佐助は自分の箸を見、政宗へゆっくりと目を細めた。それはまるで聖母のように慈愛に満ちている笑みだった。
ああ、あれは違うな。
政宗には女神の笑みに見えたそれは、元親達には悪女の笑みに見えた。

「お、ワシだな!」

案の定、佐助とは違う方向から声が聞こえる。声のした方向には、今まで笑って傍観していた家康が手を挙げていた。
それを見た政宗が佐助をバッと見直せば、佐助はやはり政宗にとって女神の笑みでヒラヒラと箸を振りながらにっこりと笑っていた。

「残念」

そう言った佐助の笑顔にやられながら、政宗はガクッと肩を落とし床に手を付けた。

「この世界に神はいねぇええ!!」

「神がいないのなら日輪を奉ればいいではないか」

「ちょっと元就静かにして」

渾身の力で叫び王の証を握り締めている政宗に、元就が何処かズレた発言をする。それに慶次は容赦なく突っ込んだ。

「神は死んだ・・・、Jesus christ・・・」

まだ言っている政宗に、幸村が無表情のような冷めた視線を送っている。その顔を見ていた三成は、猿飛関係になるとあいつは性格が変わり過ぎるな、と思ったが口には出さなかった。
それよりも今左右で交わされている家康と元親の会話に聞き耳を立てる。
告白のタイミングが掴めないのか、「何時すればいいのだろうか」と聞いている家康に、元親は「もういいんじゃね?」と軽く返す。
家康は分かったのか、「そうか!」と頷き、うなだれている政宗に近付き、その肩に手を置いて顔を上げさせた。

「政宗」

「あ?」

「神が死んだのは仕方がないんだ。これからはワシがお前を幸せにする」

目をまっすぐ見ながら言っていた家康は、真剣な表情からニッと満面の笑みを浮かべた。

「好きだ」

瞬間、政宗がピシッと固まったと同時に、三成の眉間にシワが刻まれた。
固まった政宗の顔は引き攣っている。親友とも呼べる家康に愛の告白をされたショックは大きかったらしい。
そんな政宗に、想いを寄せている相手である佐助が追い打ちを掛けた。

「やったね!伊達ちゃんモッテモテ!」

にっこりと笑う佐助に、政宗の胸にグサリと矢が刺さる。
そんな光景を見て、元親は「あ、止め刺した」と呟いた。



四回戦。
打ちひしがれた政宗を慶次と元就が何とか宥め再起させ(その方が面白いから)、ゲームが再開された。
元親の手から掛け声と共に箸が抜かれる。

王様は、王の証を驚愕の表情で見詰めていた。

「なっ・・・!さ、佐助ぇ!これは・・・っ!」

「お、旦那王様じゃん。命令しなきゃ」

慌てふためく幸村に、佐助は告白しよーか?と軽く応えている。
その言葉に政宗がまたグサッと心に傷を負い、そんな政宗を元就が鼻で笑い、家康がカラカラと笑った。

「そ、某が王・・・っ!で、ではっ」

しかし自分の事で一杯一杯な幸村は政宗に気付く事なく、意気込みながら命令を言おうと口を開いた。
うんうんと親目線で頷く佐助、ほんわかと見ている慶次と元親が王様の命令を待つ。
だがそこから出て来た命令は、命令とは言い難い物だった。

「手合わせ願いたい!」

・・・・・・え?
・・・此処でバトロワ?

そんな事が三人の頭に浮かび、一瞬その場が静かになった。
幸村だから安心だと思っていたのに、まさかのバトロワ?サバイバル?三人は予想を遥か斜めにかっ飛び過ぎて行った命令に上手く反応出来なく、笑顔のままになっていた。
王様のよく分からない命令に元就と三成は特に反応をせず、家康に至っては「お前らしい命令だな!」と横にいる幸村に言っている。
何時もならこういう場面では必ず突っ込む政宗は佐助の攻撃によって戦意喪失中だ。圧倒的に突っ込みがいない。
遠足の前日のようにうきうきとして見詰めてくる幸村に、慶次は声を絞り出して問い掛けた。

「全員で・・・?」

食後の昼休みに屋上でバトロワとか端から見たら一昔前の青春過ぎて避けたかった慶次の問いに、幸村は目を瞬かせた。

「む、流石にいきなり全員は難しいでござるな・・・、では2番と6番の方、お願いしたいのですが」

多人数とも渡り合えなくてはいけないとお館様に言われたのだ、と自慢げに話す幸村に、元就はそんな下手すればリンチに成り兼ねない事を勧める指導者はどうなんだと思ったが、やはり口に出さなかった。言った所でこの師匠馬鹿はいかにお館様は素晴らしいかを熱く語り出すだけだ。そんな辛い事はないに越した事はない。
冷めた目で番号の書かれた自分の箸を見下していると、佐助が「俺様違うや」と報告した。

「俺もー!」

よかったーと慶次が安堵の息を吐いていると、三成が静かに立ち上がった。

「6番は私だ」

「俺ぁ2番だな」

運悪いなぁと思いながらも元親も名乗り出る。苦笑いする元親と不遜に立つ三成に幸村は感嘆の声を上げた。

「おお!三成殿に元親殿!胸をお借り致しまする!」

では早速、と佐助達が座っている場所から少し離れた幸村が嬉々として構えた時、ゆらりと政宗が立ち上がった。

「Hey、真田幸村。俺も混ぜてくれや」

「政宗殿!真でございまするか!」

満面の笑みで笑っている幸村とは対照的に、政宗は鬼気迫る顔で笑った。

「ああ、今の俺なら種が割れそうだぜ・・・」

「よく分かりませぬが、政宗殿の御意向、この幸村しかと受け止めました!いざ尋常に!」

それを皮切りに、幸村が叫び声を上げながら政宗へと突っ込んだ。
政宗もそれを受け止めようと構え、三成と元親もそれとなく構える。
竹刀も槍もない為素手での打ち合いになるが、テクニックのある政宗、スピードのある三成、力強い元親と種類の違う相手に幸村は嬉しそうな顔で動いていた。
今日の夕飯は傷に滲みない食事にしなくてはいけないなと眺めていると、元就の声が聞こえてきた。

「伊達の場合、月が出ていた方が良いのではないか」

「あれ、元就もやるのかい?」

見れば元就が腰を上げている。慶次が珍しい事もあるもんだと声を掛ければ、元就はハッと小さく笑った。

「我の狙いはあの馬鹿一人よ」

中身がまだ多く残っているペットボトルを片手に、元就は騒がしい方へと歩いて行く。その目は妙にぎらついていた。

「あはは!青春だねぇ!」

「ナリさん苛ついてたからなー」

元就の背中を見送りながら、慶次が楽しそうに言う。佐助も頷きつつ、元就の眉が上がった場面を思い出した。
あまり顔に出さないナリさんがあそこまで露骨に感情を表すなんて、よっぽどだったんだろうなぁと考える。最も気付いたのは佐助と慶次、家康、それと多分だが三成だけだ。
しかし人の感情には敏感な三成でも、自分の感情には疎いらしい。

「家康もさ、気付いてたんだろ?」

佐助が考えていた事を慶次も考えていたらしい。聞くというより確認の為聞けば、家康は「ん?」と人の良い、だが何処か含みのある笑顔を浮かべた。

「三成は素直じゃないからな」

「アンタ本当に狸だねぇ」

佐助が呆れたように言えば、家康はにっこりと笑って応えた。
これはみっちゃん大変だ、と思いながら騒がしい方向に目を向ける。
そこでは丁度元就がペットボトルで殴り付けており、パカンと小気味好い音が鳴り響いた。






王様ゲーム



勝者、猿飛佐助・徳川家康。





















―――――――

家康は若干腹黒ければいい。
そしてこの佐助くんは冷めてるなぁ。


是非誰が誰の横か、席順を考えてみて下さい!円陣のように座ってます。

この話は転生パロディではなく、ただの同姓同名の学生パロディです。



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