「嫌いだって言ってるだろ」

佐助は冷たい声音で言った。

「俺は好きだって言ってんだ」

政宗は淡々と言う。
向かい合ったまま、二人はただ互いに視線を合わせていた。

辺りは暗闇に包まれ、虫の音も聞こえないほど静かな夜。
奥州の動きを調べてこいと命じられて来てみれば、奥州の主が分かっていたかのように待ち受けていた。

「しつこいんだよ、アンタ」

睨み付けるように鋭い視線を送れば、政宗はそんな佐助の視線をものともせず、普段通りの飄々としたまま見詰め返す。

「お前が素直にならないからだろ」

その態度に、言葉に、佐助は拳を握った。

「俺は嫌いだと言ったはずだ」

顔を歪めきつく言う佐助に、政宗は問い掛けた。

「俺が嫌いか?」

「ああ、大嫌いだね」

「俺が敵国の主だからか?」

「関係ないね、アンタ自身に虫酸が走るから」

「お前が忍だからか?」

「関係ないって言ってるだろ、全部が気に喰わない」

「そうか」

「分かったならもう言わないで、気分が害する」

「佐助」

「なに」

「俺はお前が好きだ」

まっすぐ射抜くように佐助を見て言えば、佐助が息を飲むのが分かった。
しかしそれは一瞬で、また顔が歪む。

「いい加減にしろ!」

歪んだ顔のまま、佐助は苛立たしげに声を荒らげた。

「欝陶しい、気持ち悪い、迷惑なんだよ!俺はアンタを殺したいぐらい嫌ってんだよ!その首かっ斬ってやろうか!?」

気持ちを吐露するように叫ぶ佐助に、政宗は再度問い掛ける。

「俺が嫌いか?」

それに、佐助は吐き捨てるように答えた。

「ああ、大嫌いだね」

その答えに、政宗はそうかと頷き、なら、と口を開いた。

「なら、そんな顔すんな」

嫌いなら堂々と突き放せ。
忍らしく感情を見せるな。
口で言う前に殺しに来い。
俺の言葉なんか聞くんじゃねぇ。

「じゃないと、俺は言い続けるぜ?」

そう言えば、佐助はヒュッ、と喉を鳴らした。

「お前が気にしてる身分も国も性別も真田も仲間も関係ねぇ。忍である事が、真田に仕える事がお前の存在意義だろうと、俺はそれからお前を奪ってでもお前が欲しい。例えお前が俺の全部が嫌いだろうとな」

政宗が佐助と向かい合ってから初めて表情を崩した。

「俺は、お前が好きだ」

佐助が政宗と向かい合ってから初めて表情を無くした。

「俺は、アンタを殺したい」

表情の無い佐助の目から一粒落ち、闇へと消えていった。






目一杯ドロップス



交わらない色。



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