12月下旬。
それは十中八九、クリスマスを思い浮かべるはずだ。
神様の誕生日である前夜にピークを向かえ、本来の意味を忘れかけられているイベント。
恋人がいれば甘い夜になるし、片想いなら何とか一緒に過ごせないかと奮闘する。そんな特別な日である。


という訳で、絶賛片想い中な俺は、何とか一緒に過ごせないかとアプローチをしまくった。
それはもう、慶ちゃんが引くくらいに。
それが効を奏したのか、言われたのだ。

「お前、クリスマス暇なら俺と過ごさねぇ?」

と。

もう俺様嬉しすぎて、何時ものクールで格好良い俺様じゃなくなってたもん。すんごい勢いで「過ごす!」って返したからね。
そのくらい嬉しくて、しかもその後伊達ちゃんが笑いながら「じゃあ酒用意しとくわ」なんて言ってくれたから有頂天になっちゃって。
前夜は無理だけど、神様の誕生日は盛大に祝おうと思ったくらい。



で、有頂天になって約束を取り付けたのは良いんだけど、その時有頂天になりすぎてた所為か、伊達ちゃんの家に行って俺が料理作るよとか約束しちゃって。

「伊達ちゃんって何料理が好きなの」

目下の悩みになりました。

「うーん、政宗は何でもイケるって言ってたけど、やっぱクリスマスなんだからイタリアンとかじゃない?」

よくよく考えると、俺あんまり伊達ちゃんの事を知らなくてショックを受けた。けどそれはこれから知っていけばいいんだと思い直す。
とりあえずはクリスマスの料理だ。和食はないだろう、絶対に。
そう思って一人で悩んでみたけど答えなんかこれっぽっちも見つかんなくて、結局慶ちゃんに泣きついた。

「イタリアンかぁ。滅多に作らないから自信ないなぁ」

慶ちゃんからの答えに、今日から毎日イタリアンにしようと心に決める。例え旦那が文句を言っても、俺の恋の為だ。我慢してもらおう。

「大丈夫だって!佐助料理上手いし、何回か作ればすぐマスターするよ!」

「ありがとー」

笑って励ましてくれる慶ちゃんに、俺もへにゃりと笑う。
そうだよね、俺自分でも器用だと思うし料理は毎日やってるし、何回か作れば大丈夫のはずだ。
そう自分を励ましていると、慶ちゃんがにこにこ笑いながら言った。

「でも良かったな、政宗から誘われて」

にこにこにこにこ笑って、まるで自分の事のように喜んでいる。

「俺、佐助があんまりのアプローチしまくってるからクリスマスは無理だと思ってたけど、やっぱ通じるもんなんだな!」

「やだぁ!恥ずかしいじゃん、通じるとか!俺達まだ付き合ってないんだよ〜」

バシバシと慶ちゃんの背中を叩き、熱くなった顔を空いている手で覆う。
だって、通じるとかまるで通じ合うみたいな、そう、恋人みたいな?付き合ってないのに通じ合っちゃうとか、もう恥ずかしい!
横から何か聞こえる気もするが、そんなのはどうでもよくて。俺様顔から火が出そうだよ。

「いてっ、痛いよ佐助!」

「え?なにー?あはっ」

「いや、痛っ!『あはっ』じゃなくて!プレゼントとか決めたの?」

「あ・・・・・・」

慶ちゃんの言葉に、妄想から現実へと一気に戻される。
料理で頭がいっぱいで、すっかり存在を忘れていた。プレゼント。そう、クリスマスなんだからプレゼントは必須だ。
あああ、何で忘れていたんだ俺!馬鹿か俺!

「どどどどうしよう慶ちゃあんっ!」

「うん、とりあえず落ち着け?」

「落ち着いてなんかいられないよ!俺金ないし、バイト代はクリスマス当日に入るし、伊達ちゃん金持ちリッチブルジョアジーだから俺伊達ちゃんに相応しい物なんか買えないし!」

「お金がないのは分かったよ」

何か疲れ気味に慶ちゃんが言う。
あれ、もしかして慶ちゃん、

「俺様の事好きなの!?でもごめん、俺伊達ちゃんしか眼中にないんだ!」

「何が!?」

「うん、大丈夫分かってるから!ごめんね、俺、慶ちゃんの気持ちも知らずにずっと相談に乗って貰ってて。そうだよね、好きな相手が他の奴が好きでそんな話聞かされるなんて辛いし疲れるよね。でも頼りにされてるこの関係も壊したくないっていうコンプレックスにも似た葛藤を抱えて断れる事も言い出す事も出来なかったんだよね慶ちゃん優しいからきっと自分の想いを殺してまで俺の幸せを願っててくれたんでしょ?本当にいい男だよ慶ちゃんはでも俺伊達ちゃん以外は何も感じないっていうか魅力も何もフナムシに見えるっていうかしかも慶ちゃんでしょ?有り得ないよねっていう事で俺はその想いに応えられないから諦めて」

「違ぇし長ぇし告白もしてないのに一方的に、しかも結構辛辣な言葉でもってフラれた!?」

「あ、告白されても俺」

「しないわ!てか違うって言ってんじゃん!恋愛感情持ってないからね、俺は佐助に!」

「なんだ〜、違うの」

「何かあからさまに安心されるのも腹が立つなぁ」

余計疲れたように慶ちゃんは肩を落とす。その様子を眺めながら、俺は心底安心した。
よかった、違って。慶ちゃんが俺を好きなら三角関係になっちゃうもん。あ、でも取り合われるとかいいかも。だって伊達ちゃんに『俺のに手を出すな』とか『佐助は渡さねぇ』とか言われちゃうかもでしょ?うっわ、想像しただけで伊達ちゃん格好良い。

「・・・・・・佐助」

「慶ちゃん、三角関係なら」

「しないよ!違うって言ったばっかなのにまだそこ!?」

「だって伊達ちゃんこれ犯罪の域に達してる格好良い・・・」

嫉妬に駆られる伊達ちゃんとか犯罪だろ!も、俺お仕置きに何されても受け入れられる。てかいっそしてほしい。
俺どっちかっていったら、そらもーバリバリのドSだけど、伊達ちゃんにならドMに調教されてもいい!

「佐助全部口から出てる」

「やっべ恥ずっ!」

またもや妄想の世界に飛んでいたら、慶ちゃんの呆れた声で連れ戻された。いや、呆れたってよりも冷たいって方が合ってるかな。
誰も居ない教室でよかったと胸を下ろす。聞かれてたら俺のクールで格好良いイメージが崩れちゃうからね。
いくら人気がないとはいってもしっかりしなくてはと気を引き締める。
しかし、その気はすぐに散漫した。

「いっそ、政宗へのプレゼントは『俺の気持ち』とか言って告白しちゃえばいいんじゃない?」

ため息交じりに言われたその言葉に、俺はピシリと固まった。
そんな俺の反応を見たのか、慶ちゃんが慌てたように声を上げた。

「ご、ごめんっ!佐助は真剣に悩んでるのに、俺適当な事言っちまって!そうだな、政宗のプレゼントか、佐助は料理も作るんだからそんな値の張る物じゃなくていいんじゃないかな。あ、最近忙しいとか言ってたから、何か癒せる物とか、」

「慶ちゃん!」

「はいいっ!」

慶ちゃんの言葉を遮るように言えば、慶ちゃんは姿勢を正して返事をした。きっと今、以前旦那に対してやった説教を思い出しているのだろう、返事が若干変だった。
そんな固くなった慶ちゃんの肩に両手を置く。

「それに俺自身も付けて大丈夫かな」

俺は今、人生で一番真面目な顔をしている自信がある。
真正面から慶ちゃんを見詰めて聞けば、慶ちゃんは目も口も開けて一言零した。

「・・・・・・・・・は?」

「やっぱり聖夜に告白ってロマンチックっていうかチャンスだと思うんだ。伊達ちゃんは一人暮らしだし、酒用意しとくとか言ってたからお泊りだと思うんだよね。これってもう告白するしかないと思うんだけど、どうかな?」

伊達ちゃんの家で俺の作った料理食べて夜景見て、そんな二人きりの時に告白とかするしかないよね?チャンスとしか思えないよね?
そりゃあ、出来る事なら伊達ちゃんから告白されたいけど、俺伊達ちゃんがどう思ってるか知らないし、男は当たって砕けろぐらいがいいと思うんだ。いや、本当に砕けたら俺の心も砕けるんだけど。グッバイマイラブになっちゃうけど。

でもお泊りかもだし、こんな機会もうないかもだし。行くしかないよね!もしかしたら最後まで行き着くかもしれないし。
てか最後まで?え、ちょ、マジで?うわ、そこまで考えてなかった。
最後って最後だよね。俺様美味しく頂かれちゃう可能性も無きにしもあらずだよね。
え、本当に?本当に無きにしもあらず?

「慶ちゃん・・・」

「・・・何だい?」

うん。とりあえず落ち着いて。落ち着け俺。

「勝負下着って何色かな?」

「落ち着いてねぇし全部口から出てるっつってんだろうがぁ!!」

落ち着けなかった。
しかもまた妄想が口から全部零れてたらしい。
だがそんなの関係ない。一番の壁に直面しているのだ、今俺は。

やはり赤か?クリスマスカラーでもあるし。
いや、だが赤だとやる気満々な気がするし旦那カラーだ。少し萎えそう。
だとすると黒。いやらしさと色気たっぷりの黒か。しかし、そう考えるとグレーも捨て難い。
普通な感じだが、グレーは黒以上にいやらしい。その普通さによって倒錯的に行為のエロさを見せ付けるはずだ。しかもグレーは濡れれば色が変わる。それはもう判りやすく。視覚的にもエロい。俺の汗や我慢出来ず滲み出

「うわああああもういい加減口を閉じてくれぇ!!頼むから、本当に頼むから!!」

「あらら、また出てた?」

「『あらら』じゃねぇ!!佐助の下着に対する評価なんて聞きたくないよ!」

「ごめんね?俺様伊達ちゃんが絡むと止まらなくなるみたい」

「うん、それは分かってた。分かってたから普段は政宗の事、深く考えるのは止めた方がいいと思うよ」

何か終電を待っているサラリーマンさん達と同じ背中をしながら、慶ちゃんは俺に注意する。
俺はそんな慶ちゃんに苦笑いをした。

「俺様もそれは気を付けてるよ?だけど慶ちゃんの前だと楽なのかな、つい言っちゃうんだ」

「佐助・・・・・・」

俺の言葉に、慶ちゃんは下げていた眉を寄せて目を瞬かせた。少し目が潤んでいるようにも見える。

「まあそれでも、伊達ちゃん>>>>>>>(越えられない壁)>>>>>フナムシ>>>>>慶ちゃんなんだけどね」

「ちくしょおおおおお!!!!」

にっこり笑って言えば、慶ちゃんが頭を抱えて叫んだ。
何かキャラとか口調変わってない?と思ったが、指摘するのは止めといた。さっきから口を閉じろと言われ続けてたし。

料理も決まったし、一応プレゼントも決まった。癒される物って何かな、アロマキャンドルとか入浴剤とか。あ、植物とか毬藻も癒されるんだよねぇ。
本当、相談に乗ってくれて、いろいろ教えてくれた慶ちゃんに感謝するよ。今は何だか忙しそうだから言わないけど。

とりあえず、今日の帰りにグレーの下着を買いに行こう。






聖夜エレクトリック



プレゼントは、受け取ってくれるかな。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -