※星屑サンセットの続き






伝えられなかった言葉を思い返しながら、僕は空を見る。
クルルくんは伝えたのだろうか。好きな人はどんな返事をしたのだろうか。

「はぁ・・・」

クルルくんは今日告白をすると言っていた。好きな人の事であんなに悩んで、あんなに幸せそうに笑っていたのだ、上手くいってほしい。
そう思うのに、上手くいってほしくないと思う自分もいる。もしかしたらクルルくんを支えられるかもしれないと思っている自分に自己嫌悪をする。告白する勇気もなかったくせに、弱みに漬け込もうとしているのだ。

「僕って小さいなぁ」

告白しようと決めたクルルくんの方が、とても強いのに。それなのに上手くいかない事を望むなんて。
もう一度ため息を吐いて、空を見上げる。オレンジ色に染まった空はとても綺麗だった。
もう夕方だ。クルルくんは告白をしただろう。結果が気になる。でも自分には関係のない事だ。でも、もしかしたら。先程からそればかりが頭を回る。
本日何回目なのため息を吐く。風が吹いて、木々が揺れる。こういう時、自然というのは慰めになると思った。

「何黄昏てんすか、先輩〜」

思いっきり気を抜いていた時、背後から声がした。それは、今日一日中ずっと考えていた人の声だった。

「・・・あれ、どうしたの?告白は?」

ニヤニヤ笑うクルルくんを見て、僕は目を丸くする。何でこんなところにいるの?告白は?もししてても、してなくても、こんなところにいるはずないのに。
驚いている僕に対して、クルルくんはずっと笑いっぱなしだ。
もしかしたら、上手くいってその報告にでも来てくれたのかもしれない。そう考えて落ち込んだ僕に、クルルくんは思いもしなかった言葉を口にした。

「うん、だからしにきた」

「・・・・・・え」

クルルくんが言った意味が分からなかった。耳に入ってきた言葉を理解しようとする頭は混乱しまくっている。今、クルルくんは何て言った?
ただ凝視するしか出来ない僕に対して、クルルくんは楽しそうに、それはもう心底楽しそうにiPodの形をしたスイッチを僕に見せつけるように翳した。

「ポチっとな」

瞬間、クルルくんが消えた。
いや、そうじゃない。目の前には土の色が広がっている。僕が落ちたんだ。
元々混乱していた所にいきなり落とされて、僕はただ土の壁に寄り掛かって出口を見上げるしかなかった。

「クックッ」

丸い夕やけの中にクルルくんが加わる。逆光で良くは見えないが、声からして楽しそうに笑っているのだろう。

「ドロロせんぱぁい、俺あんたのそういう抜けてる所は好きだぜぇ」

落とし穴にクルルくんの声が響く。

「影が薄いのも甘ったるい性格も損な役割ばっかりで変に心が弱くて、人の事ばっかり気にして自分を蔑ろにしてしてしまう所も、不器用で馬鹿で気にしすぎで気を配りすぎる所も、暗殺者としてのあんたも好き。俺はドロロ先輩が好きです」

僕はただ顔の見えないクルルくんを見ることしか出来ない。
いつの間にか、打ち付けた背中の痛みは感じなくなっていた。

「流石に毎日味噌汁を作ってくれとは言えねぇが、毎日傍にいて欲しいとは思ってる」

こんなにも夕やけを憎んだ事があるだろうか。彼の、クルルくんの顔が見たいと、今切実に思った。
暗殺者なんだから、こんな穴から出ればいいのに。そう思うのに体が動かない。体に力が入らない。
そんな僕に関係なく、クルルくんは変わらずマイペースだ。

「と、いう内容を此処に書いといた」

カラリとした声が頭上から落ちてくる。落とし穴に差し込まれるクルルくんの手には、真っ白な封筒があった。
僕はそれを取ろうと手を伸ばす。体に力が入らないくせに、封筒を取ろうと貪欲に腕は動いた。あれは、取らなくてはいけない。
クルルくんは地面にしゃがんでいるのか、先程よりも下りてきた封筒が指先に触れる。もう少しで封筒が手に届くという所で。

「ぐぇっ!」

クルルくんが落ちてきた。
その後に封筒がひらひらと舞い落ちる。音も立てずに落ちたそれは僕の手には入らず、代わりに僕の胸にクルルくんがいた。

「ク、クルルくん・・・?」

まさか落ちてくるとは思わなかったから、受け止める事も出来ずクルルくんは僕のお腹に直撃した。痛みのせいで涙目だ。
そんな僕をクルルくんはくつくつと笑う。僕の首に腕を巻き付けて、僕に乗っかって。

「だから、俺と付き合ってください」

やっと見れた顔は、本当に楽しそうに嬉しそうに笑っていて。
ああ、クルルくんは僕が好きなんだ。そう思った。

「はい」

思った瞬間、何でか知らないけど涙が流れた。
クルルくんは僕が大好きな綺麗な笑顔で笑って、僕の肩に顔を埋めた。






星屑サンライズ



夕やけに流れ星。
僕の胸に落ちてきた。



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