※ちょっとエロいよ!







分かっていた。もう、駄目なんだと。
分かっていたのに。

「佐助」

ほら、俺はその声に抗えない。






俺と政宗の関係は、たぶん恋人だった。
初めて会って気に入らなくて喧嘩して、何時の間にかつるむようになって何時の間にか付き合っていた。
朧気な始まり方だったが、覚えている事はたくさんある。一緒に目的もなく歩いた事。お祭りで射的の競争をした事。好きな歌手について話した事。手を繋いだ事。キスをした事。一緒に朝を迎えた事。
どれもありきたりで普通の事だけど、政宗としたと思うと大切な思い出になった。ぼんやりと、幸せなんだと思えた。好きなんだなぁと思った。

政宗が覆い被さってくる。冷たい床に当たって背中が痛い。顔を歪めるが、俺の首筋に唇を当てている政宗には見えていない。
政宗の手が俺の服のボタンを外していく。荒々しいようで丁寧なその動作に、俺はただ天井を見詰める。

何時からだろう、キスをされなくなったのは。

政宗の唇が下へと降りていく。何度も繰り返された行為に、身体が無意識に反応する。

「・・・んっ」

自分の口から湿った息が出る。政宗の顔は見えない。触れているはずなのに、何処か遠く感じた。
何時の間にか下も脱がされている。そんな事に気が付かないほど考えていたんだと甘ったるい声を上げる自分とは違う、もう一人の冷静な自分が考えた。
身体全体が冷たい。熱いはずなのに、と小さく笑った。床から伝わるそれだけではない冷たさ。それはきっと冷めた自分の心の所為だ。

何時からだろう、好きと言われなくなったのは。

「あ、」

何回も言ってくれた、好きという言葉。何回も伝えた、好きという言葉。二人で笑って、からかって、向かい合って、ふとした時に。この部屋で、俺の部屋で、外で、夜歩きながら、昼に人目を盗んで、ちょっとした時に。何でもない時に言った言葉。
こうなってしまうと、意味のない言葉だ。
まるで、そんな時間がなかったかのように、政宗からその言葉は言われなくなった。

何時からだろう、気持ちが擦れ始めるようになったのは。

それでも俺は言った。返されるのは意味のない相づちだけだった。
カチャカチャと音がする。それが政宗のベルトを外す音だと分かり、少し嬉しかった。まだ俺で反応するんだ。

「ちょ、まって・・・」

嬉しくても、身体はまだ無理だ。そう伝えたが、政宗はそれを無視した。

「――――――っ!」

両足を持たれ、何も言わないまま政宗が入ってくる。俺は涙を流しながら必死に息をする。
かは、と息が詰まる。それでも政宗は動きを止めない。

何時からだろう、俺の声が届かなくなったのは。

本当は分かっている。政宗はもう俺を好きじゃない。
俺との関係はただの惰性で、性欲処理に丁度良いから。文句も言わないし好きな時に出来るし、孕まない。だからまだ続いているだけなのだろう。
俺の何が悪かったのかは分からない。俺との時間に楽しみがなくなったのか、俺の事がただ単に好きじゃなくなったのか、俺の性格が嫌になったのか。
それでも俺は政宗が好きだった。傍に居られるだけで良いと思ってしまった。
だから俺は抱かれるだけだと知っていても、政宗に会いに行く。
自分でも馬鹿だと思う。もしかしたら、こんな俺だから重く感じたのかもしれない。でも俺は政宗から離れられない。
俺からは絶対に別れを切り出せない。でも政宗から別れを切り出されたら、俺はそれを受け入れるだろう。これ以上嫌われたくないと、物分かりの良い振りをして頷くんだろう。
そうすると分かっていても、俺はその時が怖くて堪らない。だからその時が来ないようにと、先伸ばしにしようとしているのだ。

政宗の息遣いが荒くなる。もう俺の名前さえ呼ばない。
耐える為に床に立てた爪が痛いし、床と擦られる背中も痛む。そんな俺に気にもせず、好き勝手されているのに反応する身体が恨めしい。身体が熱い。心が冷える。息が詰まるのは行為の所為か胸が痛む所為か分からなかった。
あ、あ、と断続的な声が俺の口から漏れる。この声は政宗に聞こえているのだろうか。
政宗が分からない。俺をどう思っているのか、政宗の気持ちが、考えが全く見えなくなった。
俺である意味はあるのかと考えて、笑った。生理的じゃない涙が流れそうだった。

何時かは必ず来る、その時。
もう俺を好きじゃない政宗。
身体だけでも良いと思う俺。
擦れ違って、戻らない思い。
どうしようもないほど離れてしまったんだ。
間違っていると分かっていても。ただ先伸ばしにしているだけでも。

「ま、さむね、ぇ」

それでも俺は喘ぐ事しか出来ない。







弊履シフォン



こんな頭、撃ち抜いてしまえ。



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