俺の恋人は面倒臭い。
嫉妬深いしすぐ疑うし、何かと心配してくるくせに素直じゃないから遠回しで言ってくる。
嫉妬して欲しくてすぐ女の子に話し掛けるし、変に英語を使うし自意識過剰でナルシルトだ。
顔は良いが、性格が全く駄目過ぎる。
ほら、今だって七面倒臭い。



「Hey、佐助。お前、俺の事どう思ってんだ」

久しぶりの休日。
社会人である俺は、自宅でゆっくりと本を読んでいた。買ってから随分放置してしまった本だったため、やっと読んであげられると本に対して申し訳なく思って読み初めて一時間程経った後、俺の面倒臭い恋人が押し掛けて来やがった。
お前はまだ大学生だから休めるかもしれないが、俺は社会人なんだ。滅多に休めないんだ、だから今日くらいは休ませてくれよ。なんてつらつら考えたが、何でか家に上げてしまった。何だかんだで甘いんだなぁ、と嫌な実感をした。
年下の恋人は特に用はないらしく、俺の横に座って勝手にテレビを付けてザッピングしている。
それを横目で見ながら、俺は読書へと戻った。
そんな時間がまた一時間程経った後、俺の年下の恋人である政宗が言ったのだ。

「・・・・・・」

取り敢えず、読書に夢中で聞こえなかった振りをしといた。だって面倒臭い。
それが気に食わなかったのか、政宗は俺の本を奪った。ああ、せっかく面白くなってきたところなのに。せめて栞を挟んで欲しかった。

「佐助、俺の事どう思ってんだ?」

俺の思いは全く通じておらず、政宗はまた同じ質問を繰り返す。
どう思ってるって、どう答えて欲しいのよ。

「どうって?」

質問を質問で返すなって誰かに言われた気がしたが、今はどうでもいいか。
俺がそう聞いたら、政宗はあからさまに不機嫌になった。

「お前そこはすぐに『好きだ』って答えるとこだろ」

舌打ちでもしそうな勢いで言う政宗に、そう言って欲しかったのかと感慨深く思った。
後、分かった事は今の政宗は本当に面倒臭いという事だ。

「ああ、ごめんね〜?で、何いきなり」

政宗の言葉を軽く流してまた聞く。確かに今までこういった事を聞かれた事はあったが、予定もなくいきなりやって来て聞かれたのは初めてだ。

「いきなりじゃねぇだろ」

だから聞いてみたのだが、流された事に対してか、はたまた他の事に対してか政宗は余計に気分を害したらしい。今度ははっきりと舌打ちが聞こえた。
これはよっぽどだな、と考えて様子を伺う。何か地雷を踏んだら、もっと面倒臭くなるのは経験済みだ。

「俺ぁ、お前から『好き』とか聞いた事がねぇって思ってよ」

居ても立っても居られなくなって、聞きに来た。そう言った政宗は眉間が寄って、喧嘩腰だった。
政宗の言葉を聞いて、俺はふと思う。

「何、まーくん寂しかったの?」

「バッ!違ぇよ!」

「はぁ。面倒臭いねぇ、まーくんは」

「面倒臭いとか言うんじゃねぇ!後まーくんは止めろ!」

「えー?だってそれ女の子の台詞だぜ?」

「俺だってお前から聞いてみてぇんだよ!」

それが面倒臭いんだよ、とは流石に言わないでおいた。
横でギャーギャー騒ぐ政宗を見ながら、そう言えば言った事なかったなぁと思い返す。
理由は単純。政宗が調子に乗るからだ。

「だから何時も言ってるじゃん。こんな面倒臭い奴と付き合えるの俺様だけだって」

「それも色々言いたい事があるが、取り敢えず置いといて。そういう事じゃなくて、お前の俺に対する気持ちが聞きてぇんだよ」

「えー・・・」

「『えーっ』て何だよ!」

言ったら言ったで面倒臭いし、言わなかったら言わなかったで面倒臭い。どっちもどっちだから何時もはぐらかしてきたんだけど、何だか今回は無理っぽい。

「お前、俺の事本当に好きなのか?」

だって、こんな事言うんだもん。
真っ直ぐな表情で、真っ直ぐに。そりゃはぐらかしちゃ駄目でしょ。
つくづく甘いなぁ、俺様。

「んー、じゃあ今回だけね」

これ以上このやり取りを続けるのが怠いってのもあるけど、この面倒臭いナルシルトも不安になったりしてたのかなって思うとしょうがないって思えた。
でも素直に言ってやるのも癪だ。

「Ik hou van jou」

「・・・・・・は?」

さっきまでの不機嫌な顔から一転、政宗はポカンと口を空けていた。
その顔にすっきりとした気持ちと同時に、愉快な気持ちになった。

「あれ、通じなかった?じゃあ、aš myliu tave」

言い換えれば、政宗は余計に困惑した。普段が普段だから滅多に見られない表情に、堪らず吹き出してしまった。

「あははっ!政宗が言えって言ったくせに!」

「おまっ!分かる言葉で言えよ!」

「あー、ごめんねー?Jeg elsker dig.これで良い?」

「分かるかぁ!」

遂にクッションを床に叩きつけて政宗は声を荒らげる。せっかくのデレが伝わんねぇと喚いていて、とても楽しかった。
政宗の姿を眺めながら、本を読んでいるよりも面白いなと笑って、無理矢理押し掛けて来た政宗に絶対に言ってやらないが少し感謝した。

「Japanese please!」

「Я люблю тебя」

「日本語でって言ってんだろぉ!」

「日本語で〜?」

「何で嫌そうなんだよ!じゃあせめて英語で!」

「英語は負けた気がするから嫌」

「何に!?」

「伊達に」

「畜生!」

吼える政宗の横で、俺はケラケラと笑う。こんなに笑ったのは久しぶりだ。
面倒臭い恋人だが、同じだけ一緒にいて面白い。大体、男同士でしかも年下と付き合うなんて、本当に好きじゃなかったらやってらんないでしょ。これも絶対に言ってやらないけど。

「伊達ちゃん煩いよ」

そう言って俺は政宗にクッションを投げつけ、テレビのリモコンを取る。
こんな休日も悪くないなと思った。






誤魔化しキャンディー



分かってるくせに聞く君が悪い。























―――――――

キャンディーの語源を調べてたら、砕くとか粉砕とか砂糖でつけた砂糖とか面白いのがあったので、意味はないけどつけたかったんです。

佐助くんが言っているのは、オランダ語とリトアニア語とデンマーク語とロシア語です。
きっと仕事は国際的!



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