此処は何処だ。
何で俺は此処にいる。
頭が痛い。ああ、そうだ。俺は戦っていたはずだ。戦争を止めさせる為に。最後の、あの人を弄んでいた、戦争を広げさせるだけの人と。
ああ、頭が痛い。ズキズキする。耐えられない。
何だか暑い。閉じ込められているように息苦しい。此処はこんなにも広がっているのに。
空が眩しい。色んな光が光って、流れていく。
ああ、空が青く染まっていく。
息苦しい。
此処から出たい。
どうして俺は此処から出られないのだろう。
呼んでも誰も応えてくれない。ああ、ああ、頭が壊れそうだ。

頭もか?

どういう事だ。俺は壊れている所なんかないのに。

そうか、そういう答えを出したんだな

何処かで聞いたことのある声だ。何処だったか、ああ、思い出せない。

その方が楽かもしれないな

楽?こんなにも苦しいのに?
青い光で全てが覆われて空さえ見えないのに。
此処は息苦しいんだ。暑くて狭くてしょうがない。此処から出たいのに。

出たいのか?本当に。出て、また傷付くのか

傷付く?どういう事だ。

それも忘れたのか

忘れた?
意味が分からない。だって戦争はもう終わったんだ。あの人はいなくなって、俺の周りには皆がいる。傷付く事なんてないもないじゃないか。
フォウも、ロザミィも、カツもサラもエマさんもレコアさんもいる。皆いるんだ。
此処から出たら、ファもクワトロ大尉もブライト艦長もヘンケン艦長もアムロさんもアポリー中尉も皆いるんだろ?
戦争は終わったんだ、俺は皆に会いたい。だから、此処から出たいんだ。

壊れてしまったんだな、本当に

俺がか?俺は壊れてなんかいない。
さっきから意味が分からない、此処から出せよ。

出たいのか?本当に。

そう言っているだろ。

人間にはな、その人間に出来る限界ってのがあるんだ

いきなり何の話だよ。

身に覚えがあるだろ?一介の学生がモビルスーツになんか乗って戦争に介入して、自分が戦争を終わらせられると、世界を変えられると思う。ニュータイプだからと力があると信じ、思い上がったまま走り抜けた

俺が思い上がっていたと言うのか?

違うのか?たかが子どもが大人の事情に首を突っ込み、考えもせず、ただ戦争を止めるだけに戦争をしていただろう?

戦争を止める事が悪いのか!俺はティターンズもアクシズも戦争をただ悪戯に拡大させているのを見てきた。だからなくさなくてはと思った!

それは本当に?驕りも優越感も何もなく、自分の思いでただ純粋に戦争を止める為に?

ああ、そうだ!

嘘だろう。人よりも上手にモビルスーツを操れて優越感を抱いただろう?自分の考えを考えもせず、ただ人に流されていただけだろう?もし、あの時クワトロ大尉が現れなかったら?もし、クワトロ大尉とジェリドが逆の立場だったら?シロッコと逆の立場だったら?シロッコの考えをきちんと理解していたか?シロッコへの嫌悪感だけで動いてなかったか?周りの大人の意見に流されていなかったか?そうあるべきと勝手に思い込んでいなかったか?本当に、自分の思いで行動していたのか?

何が言いたい。

いや、別に何も。それでいいなら構わない。ただ、自分の意思と思っていても違う事はよくあるんじゃないか?例えばフォウやロザミィ

フォウ?ロザミィ?二人がどうかしたのか?

ああ、そうか。二人はそこにいるんだったな

何を当たり前の事を言っているんだ。訳の分からない話ばっかりして。いいから此処から出せよ。

世界は思っているより優しくないぞ

はあ?何だいきなり。

皆がいる此処の方がいいかも知れない。外は嘘と思惑と利己的な考えばかりが蔓延っている世界だ。人は争い、殺し合う。信じたら裏切られる。人は弄ばれ、権力を持っている奴ばかりに優しくて、下の奴は理不尽に踏み潰され死んでいく世界だ。それでも出たいのか?

何言ってんだよ、戦争は終わったんだ。ティターンズはなくなった。もう平和なんだよ。

そうか、そうなっていたな

何なんだよ、本当に。

いや、いい。ああ、そうだな。ほら、俺の手を握ってみろ

は?

世界を見せてやるよ

何を言っているんだ?

此処から出たいんだろう?ほら、手を伸ばせ

あ、頭が痛い。痛い、死にそうだ!

何を今更。もう殺したじゃないか?

な、何を?

自分の事なのにそれさえも忘れたのか。ほら、早く

あ、ああ。宇宙に光が瞬いてる。よく見た地獄のような光景だ。
頭が痛い。
嫌だ、見たくない、嫌だ嫌だ!

世界が見えただろう

嫌だ嫌だ嫌だ!
見たくない、信じたくない!だって、俺が終わらせたはずなんだ!
あの人はいなくなった、ティターンズもなくなったはずだ。
なのに、何でっ!

戦争はまだ続いてんだよ

あああああ、頭がっ!

無理だったんだ。例えニュータイプでも、人をそんなに受け入れられるはずがない。誰とでも理解し合う事なんて出来ないし、戦争が人一人で終わらせられるはずもない。無理だったんだよ、ただの子どもだったんだ

嫌だ、そんなのは嫌だ!

頑張り過ぎたんだ、限界を越えてしまったんだよ。そしてその上で今までやってきた事の意味を考えてしまった。確かにティターンズは壊滅したし、グリプス戦役と呼ばれたあの戦争も終わった。だが戦争は続いたんだ。人殺しじゃないと、戦争を止める為に仕方がないんだと言ったのも、現実から逃げる為だろう?人殺しなんだ、戦争を止める為というのは殺していいという事の免罪符にはならないんだ。シロッコを殺した後、その責任が重かったんだろう?走り抜けた後振り返ってみたら、とてつもなく重くて耐えられなかったんだろう?

ああ、ああっ!

そうやって頭が痛いのも、自分を閉じ込めたのも全部自分の為なんだ。これ以上傷付くのを怖れたんだ。聞こえない振りをしたかったんだ、だから都合の良い事を全て忘れて閉じ籠った

助けてっ!

そうやって助けを求めればよかったんだ。そうすれば一人で走り抜ける事もなかったのに。認められなかったんだ、俺は。自分はもう大人だと思ってた。子どもじゃないから大丈夫だと思い上がってたんだ。もっと早く気付くべきだったんだ、戦争にのめり込む前に。気付いた時はもう壊れてしまった

ああ、痛い、暑いよ!

理想なんて追いかけないで、現実を見るべきだった。何の力も持っていない、賢しいだけの子どもだったんだよ、俺は

あ、ああ。

後悔しても遅い。時は流れていくんだ。フォウもロザミィも助けられなかった、カツもサラもエマさんもレコアさんも死んでしまった。それが現実なんだ。精神ばかりで繋がって、身体的に繋がれなかった俺は、もう精神で繋がれた人しか感じられないんだ

嫌だっ、痛い、痛いよ。

ああ、痛いさ。でもどうしようもないんだ。これは俺がやった結果なんだ。それでも逃げてる俺は狡いんだろうな。でも怖いんだ。殺してしまった人が、救えなかった人が、思い上がっていた俺の所為で死んでしまった人たちが。ニュータイプなんて出来るのは人殺しだけなんだよ。人の死を感じて、死んだ人と繋がる事しか出来ないんだ。生きている人と分かり合うのは他の人たちと同じように難しいんだ。だから逃げた。心を殺し、精神まで壊して。偽りの幸せに縋った。代償なんだ、こうなってしまったのは

ああ、光が、消えていく。頭に響く。

俺はどれだけあの光を消したんだろうな。それでも仕方がないんだと思っていた。戦争を終わらせられるなら、必要な犠牲なんだと。そんなの、思い上がった奴の考えだ。自分が死ぬ覚悟なんてないのに、人を殺して生きているのに意識さえせず、中途半端な覚悟しかしていなかった。そんな俺が使命感だけでシロッコを殺したんだ

でもっ!あの人は人を弄んでいた!

俺は違うのか?戦っている最中、俺は相手を見くびって笑っていなかったのか?俺だけが正しくて、シロッコは正しくないのか?違うだろう。俺もシロッコもエゴで動いてただけだ

嫌だっ、嫌だ!違う違う違う!

何が違うんだ?

俺はあの人のやろうとしていた事が間違っていると思った!傍観者を装いながら、女性を立てると言いながら、女性を盾に権力を握って世界を思いのままにしようとしていた!だから俺はあの人を討ったんだ!

そうだ。シロッコは裏で権力を握ろうとチャンスを狙って、利用できるのは全て利用し、邪魔な奴は全て消していった。そうまでしてシロッコは自分の野望を押しきった。その野望は人を不幸にするものだったかもしれない。実際、シロッコは情けなく人を利用し裏切り殺していたからな。それは戦争だからで済ませられる事でもないし、人を弄んでいたのも事実だ。もしシロッコが権力を握った世界が今より良くなっているかもなんて結果論も言わないさ。でも俺がやってきた事も自己満足だ。そうだろう?

違う違うっ!嫌だ聞きたくない、助けてクワトロ大尉!

あの人も同じさ。復讐を果たし大切な人を失って、空っぽになって周りに流されていた。最後には人を信じられなくなってアクシズを落としてしまうんだ。最後まで一人に固執し、自分を受け入れてほしいという思いしかなく、人と理解し合おうとしなかった。同じなんだよ、シロッコもあの人も俺も

アクシズ?ハマーンか?

そうか、まだ分からないか。分からない方がいいかもしれないな

何を言ってるんだ!

世界は優しくないんだ。戦争は終わらない、10年後も70年後も戦争は終わらない。人は戦い続ける。それが人の性なのかな、なあカミーユ

そんな事っ!

ないと言えるのか?壊れた俺に。壊れる事を選んだ俺に。壊れてまで俺は何を望んで戦ったのだろうな

俺は!俺は戦争を終わらせる為に!

もっと考えるべきだったんだよ、カミーユ。自分が与える影響や意志、その場しのぎではなく先の事に目を向けて。ニュータイプならもっと人を信じて分かり合おうとする努力をすべきだったんだ。子どもだったんだよ

ああっ。

ほら、カミーユ。世界を見てみろ。自分のやった事がどんな事か見て、考えるんだ。俺が戦ったのは何の為なんだ?戦争を終わらせる為?ティターンズが許せないから?シロッコが許せないから?それとも彼みたいに妹を、大切な人を守りたいからか?

彼?

まだ知らなかったな。大丈夫、もうすぐ会えるよ。ああ、ちょうどいい。青い世界に緑が少し混じっているだろう?

え?

手を伸ばせ、掴むんだ、緑を。ほら、早く。彼も待っている

待っている?何で?

触れば分かるさ



『カミーユ』



ほら、呼んでいる

あ。

そう、そのまま掴め

ああ、頭が痛い。
あれは何だ。何かが覆い被さっている。
ゆっくりと、けれど避けられないように近付いてくる。

世界は優しくないんだよ、残酷な程

ああ、ああ、頭が壊れそうだ
いっそ本当に壊れてしまった方が楽なのだろうな。でも俺は俺を辞められないんだ
俺は俺を護らなくてはいけないんだ。自覚しなくてはいけないんだ、夢は何時か醒めてしまうから
それが、とてつもなく怖いんだ
怖い、怖い、怖い
でも、伝えなきゃ
ああ、怖い。避けられない
痛いよ、怖いっ、怖いよ



「空が、落ちる・・・・・・っ!」



『大丈夫だよ、カミーユ』

緑に触れた瞬間、そんな声が聞こえた


どうか、届くように。





み空



俺はまだ此処で戦ってるよ。



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