私が通っている大学には、所謂イケメンがいる。
それも多く。私はイケメンという定義は分からないが、猿飛がそう言っていたのだからそうなのだろう。
例え私の通う大学にイケメンと呼ばれる人種が多くても、私には関係がないからどうでもよかった。精々女が喚くのが煩わしい程度の被害だろう。
私はそんな人種の奴等と関わり合うつもりもないし、興味もない。ただ講義を受け、課題をこなし、よい就職先が見つかればいい。大学では静かに過ごせると思っていた。
そんな私のささやかな願いは、憎たらしい笑顔の男の所為で全て消え去った。






「三成!おはよう!」

思わずチッと舌打ちをする。朝っぱらから面倒な奴に捕まった。今日も面倒臭くなりそうだとげんなりしながら、私は声なんか聞こえなかったかのように無視をした。そんな事より読んでいた本の方が大事だ。

「三成ー?どうした、具合悪いのか?」

いつの間にか煩わしい男は私の横に座って、私の顔を覗き込んでいる。ああ、朝からこの顔を見るのか、今日は相当悪い方だ。
それでも私が無視をして本を読み続けていると、周りから険悪な雰囲気を感じた。小さな声で何か言っているのも聞こえる。内容は流石に分からないが、きっと女たちが私に対して文句や非難をしているのだろう。
原因は横に座っているイケメンと呼ばれる男の所為だ。誰彼構わず仲がいいから酷く人気があり、狙っている女も多いらしい。男からでさえ、一緒にいて楽しい、親身になってくれるなどの理由から人気があるらしい。これも猿飛から聞いたのだが。
そんな男を無視しているのだから、男に好意を抱いている奴らから妬まれているのだろう。
出来るなら変わってくれ、と私を睨んでいるであろう姿の見えない奴らに言ってやりたい。
私だって、好き好んでこいつに付きまとわれているのではないのだ。

「三成〜?無視は寂しいぞ〜?」

「・・・・・・貴様はこの講義をとってはいないだろう」

気持ちの悪い声を上げた男に、私は視線を本に向けたまま言った。
何でいるんだ、何処かへ行けと言外に込めたが、男は気付いているのかいないのか、「知っていてくれたのか三成!」と嬉しそうに言っていた。

「三成がいると聞いて、1限が空いてたから三成に会いに来たんだ」

何故か照れたように言う男に吐き気がした。ついでに後ろから刺される視線が強くなり、私は心底げんなりする。

「ならばもう会えただろう、消えろ迷惑だ」

今度ははっきりと言ったが、男はへらりと笑った。

「会ったら一緒にいたくなった。ワシこのまま講義受けようかなー」

背中に穴が空きそうだ。何処がいいのか全く分からないが、女はこういう台詞を言われたいのだろう。
しかし実際に言われているのは私だ。夢のような台詞を言われている私に対して、何でこいつがと思っているのだろう。
私もそう思う。何故私だ。
入学してから静かに過ごしてきた私に対して、男はいきなり話し掛けて馴れ馴れしく接してきた。はっきり迷惑だと言った事も数えきれず、邪険に扱っていたのに何故か男は私に近付いてくる。
おめでたい男だ、私が周りに馴染めず一人でいると思い何とかしようとしているのだろう。全くもって有り難迷惑だ。

「出ていけ、邪魔だ」

背中への視線がより強くなったが知るか。勝手に妬まれていい迷惑だ。
男は「えー」などと情けない声を上げている。こいつは自分がいる事で、私への風当たりが強くなっているのを分かっていないのだろうか。

「三成、今日一緒に飯を食べないか?」

「断る」

「じゃあ授業受けよう」

ああ、鬱陶しい。そんな笑顔で言えば許されるとでも思っているのか。
苛々しすぎて本に意識がいかない。これ以上何を言っても無駄だと判断した所で、始業のチャイムが鳴った。全く進まなかった本を仕舞い、ため息を吐く。無駄な時間を使ってしまった。
私に無視された男はそれでも楽しそうにニヤニヤと笑い、本当に講義を受けた。やって来た教師は一応男に視線を向けたが黙認していた。
背中への視線の痛さに素知らぬ顔をしながら、私の最悪の時間は過ぎていった。







「お前またそんな少ねぇのかよ」

私の持参した弁当を見て長曽我部は眉をしかめながら言った。私は何時もだろうと応えてアスパラに箸をつける。
人気のない日陰のベンチに座り、私は昼食を摂っていた。そんな私の所に長曽我部が買ってきた弁当を持ってやって来た。何故か長曽我部は私のいる場所を分かるらしく、たまに私の所に来る。
しかし特に用はないらしく、仲間の男たちの話を「野郎共がさ」と楽しそうに話したり、ぼんやりと空を見ているだけだから被害はない。
長曽我部は知り合いだ。入学当初、健康診断の時に記帳係をしていた長曽我部が私の身体をみて細過ぎると心配し、それから何かと世話を焼こうとする。鬱陶しいが煩わしくはないので、私は長曽我部の好きにさせていた。
今日も私に野菜ジュースとコロッケを2つ買ってきたが、食が細いのを知っているので、無理に食べさせようとはしなかった。

「そーいやーさ、お前また家康に絡まれてただろ」

自分用の野菜ジュースを飲んでいた長曽我部が思い出したように言った。食べていた卵焼きが一気に不味くなっているのを感じた。
結局講義を受けていった男は何故か次の講義にも付いてこようとしていた。男の友人が本来の講義へ誘わなかったら本当に付いて来ていたと考えられ寒気がする。
じゃあお昼を一緒にと誘ってきた男を無視し、その場から去った。周りの反応が煩かったがどうでもいい。男がいない講義はとても静かで心地よかった。
私が憎々しげに顔を歪めたのが分かったのだろう、長曽我部は手を自分の首に持っていった。

「あいつも分かってんだか分かってないんだか」

そういって肩を竦めた長曽我部に私が分かってないんだろうと言えば、「お前もなぁ」とため息を吐かれた。
何がだと聞こうと長曽我部の方を向いたら、その奥に見たくなかった奴がいた。

「ふん、暇そうだな」

嫌味たらしく笑った毛利に長曽我部も気付く。私からは長曽我部の表情は見えないが、きっと顔をしかめているだろう。
今日は毛利が「駒」と呼ぶ取り巻きがいないのだな、と考える。何か大学の重要な役職に就いているらしく、毛利にはその役員の取り巻きがいる事が多い。

「何の用だ」

「用などない、偶々通りかかっただけよ」

私に対して鼻で笑った毛利は、チラリと長曽我部を見て見下すように口端を上げた。

「貴様も不憫だな、徳川に伊達、それにこやつに好かれるとは」

「てめぇに関係ないだろ」

長曽我部の言葉を毛利は気にもせず、私に私にでも分かる整っている、しかし冷たく感じる顔を向けて笑った。

「私は問題さえ起こさなければ良い。キレるなよ、石田」

相変わらず人を見下した笑顔で言う毛利に、私は鼻を鳴らす事で返事をした。何故だか知らないが私の高校時代を知っている毛利は、私がキレたら手のつけようがないのを知っているのだろう。
それでも楽しそうに笑う毛利は悪趣味だと思う。知っているであろう私の高校時代の渾名を言わないだけいいのかもしれないが。
言いたい事だけを言って去っていった毛利に、権力のあるという事も大変だなと思う。こうやって、問題が起こらないよう、目を見張っていなければいけないのだ。

「・・・はー、あいつもなぁ」

そんな事を考えていた私の横で長曽我部が疲れたように脱力していた。毛利とは腐れ縁だと言っていたが、仲は悪いらしい。何時も冷戦のように険悪な雰囲気が醸し出されるが、言い合ったり私に被害が来る訳ではないので、これも私は放っておいた。
長曽我部は音を立てながら野菜ジュースを飲み干し、パックを畳む。そのゴミを片手に、もう片手を私の頭に置いてへらりと弱く笑った。

「まあ何かあったら言えよ、力になるぜ」

私の頭を軽く撫で、ベンチから腰を上げる。その際にコロッケの入った袋を夕飯にでもと押し付けられた。
ゴミを持った長曽我部は、「じゃあな」と手を上げて背を向けた。
その背を見ながら、私は食べかけだった卵焼きに箸を伸ばした。






運が悪い日はとことん悪いらしい。
私の目の前には会いたくないもう一人の男が立ち塞がってきた。
猿飛曰くたらしで気障で自意識過剰な伊達男は、何が楽しいのかニヤニヤ笑っている。
ああ、朝もこの笑顔を見たなと苛つきが増す。今日の講義も全て終わり、帰ろうと歩いているところに伊達が立ち塞がってきたのだ。朝と帰りに違う男、しかも嫌いな男から同じ笑みを向けられ、心底げんなりする。何なんだ、本当に。

「Hey,今日も愛想がねぇな、石田」

何故お前に愛想を振る舞わなくてはいけないのだという言葉をすんでの所で飲み込む。絡まれたら面倒臭いのだ。
だから無視をして足を進めた。今日の夕飯はコロッケがあるから副菜と汁物だけでいいなどと考えていると、後ろから腕を掴まれた。
振り返ると伊達が性根の悪そうな笑みを浮かべている。ああ、本当に面倒臭い。

「離せ」

「嫌だね」

怒りを圧し殺して言った言葉は、伊達に一言で終わらせられた。あの男をもそうだが、何でこういう奴は人の言葉を聞かず自分勝手なのだろうか。
伊達は相も変わらず笑っている。その顔を歪めさせて此処からさっさと離れたいと思ったが、問題を起こす訳にはいかない。問題を起こしたら、きっと秀吉様と半兵衛様が悲しまれる。ついでに形部にたしなめられ、黒田に笑われるだろう。
黒田はともかく、秀吉様たちが心配してしまうのは避けなければ。

「・・・何の用だ」

伊達の取り巻きだろうか、私の方を見て何かを言っている奴がちらほらと見えた。今は伊達がいるから直接言っては来ないが、明日辺りにまた恐喝のような文句を言われるのだろう。

「お前に会いたかった。それだけだ」

人を喰いそうな笑みを浮かべて言う伊達に吐き気がする。

「今日、家康と仲良さそうだったじゃねぇか。俺とは仲良くしてくれねぇのか?」

ああ、本当に面倒臭い。
あの男とは全くもって仲良くなんかしていないし、伊達ともするつもりもない。私は一人静かに過ごしたいのだ。
なのに何故か周りは私を放っておいてくれない。いい迷惑だ。

「貴様たちと関わるつもりはない」

力付くに腕を離そうとしたが腕は離れない。
周りにいる奴らの視線が朝の時のように鋭くなる。自分に言われないからといって私に当たるのは理不尽としか言いようがないが、それが人間だ。嫌というほど知っている。

「何故貴様たちは私に関わってくる」

私を心配する長曽我部も、嫌味を言ってくる毛利も、尊敬の眼差しを向けてくる真田も鬱陶しくまとわり付いてくるあの男も目の前の伊達も。
何故、私なのだ。
私のずっと思っていた疑問に、伊達は片眉を上げた。

「そりゃあお前だからだろ」

言われた答えは意味が解らなかった。
それが分かったのだろう、伊達は短く息を吐いた。

「俺がお前に興味を持ったのは元はと言えば家康の所為だ。あいつが面白い奴がいるって言った。あの誰とでも仲がいいくせに他人に興味を持てないあいつが、だ。そりゃあどんな奴か見たくなんだろ」

説明されてもよく解らなかったが、あの男が全ての元凶だと分かった。そして伊達の性格が歪んでいる事も。
そんなよく解らない理由で私の理想の大学生活を壊されていると思うと腹が立つ。伊達を睨んだが、伊達は挑発的に笑うだけだった。

「断言するよ、あんたは面白い」

喉を鳴らして言う伊達に、殺意さえ芽生える。
面白いと断言されてどう返せばいいのだ。ありがとうとでも感謝すればいいのか?首を落としてやりたくなる。
きっとこの会話も周りの奴らに聞こえている。私に対する風当たりが強くなる。また一歩理想の大学生活が遠ざかる。
そんな事を考えていると、伊達はニヤリと一層意地の悪い笑みを濃くした。

「家康の考えは本人に聞いてみろよ」

「三成!」

遠くに飛ばしていた意識が、呼ばれた名前で連れ戻された。ああ、今日は本当に最悪だ。この男と二度も会うのだから。

「何してるんだ?政宗」

「いんや、別に?」

男は伊達に話し掛けている。ならばと立ち去ろうとしても伊達の手が私の腕を掴んでいるから動けない。
私の掴まれた腕を見付け、男は眉を寄せた。

「政宗、離せ」

「Sorry」

私があれだけ言っても離さなかったのに、男が一言言っただけで伊達は腕を離した。
腕が離された瞬間、私は踵を返す。これ以上付き合う義理もないし利益もない。あるのは不利益だけだ。

「三成!待ってくれ!」

しかし今度は肩を掴まれ私はまた動けなくなった。掴まれた肩が軋む。それだけの力を込めて私を引き止めている男に、私は満身の力を込めて腕を払った。

「何度言わせれば分かる。迷惑だ」

感情も何もない声が自分の喉なら発せられる。男は一瞬傷付いたように顔を歪め、また何時ものように笑った。

「ワシは三成と絆を結びたいのだ」

「それが迷惑だと言っている!」

お前の価値観を押し付けるな。
私を勝手に可哀想だと決め付けるな。

「貴様が誰にでも好かれると思うな!」

一気に周囲の雰囲気が張りつめた。視線は全て私を貫いている。
伊達は楽しそうに口笛を吹いた。その軽快な音が妙に響き渡った。
明日からの生活にうんざりする。しかしこの男よりは数倍ましだ。
間抜け面で呆けている男をちらりと見て、私は家路へと急ぐ。早くしないとスーパーのタイムセールが終わってしまう。






タイムセール品をカゴに突っ込んだ後、金平ゴボウが食べたくなった為ゴボウを選んでいると何時の間にか横に猿飛がいた。相変わらず忍のような奴だと思う。
何を考えているか分からない笑みを何時も通り顔に刻んでいる猿飛は、私を見て楽しそうだった。

「久しぶりー。今日も大変だったねぇ」

猿飛は滅多に私の前に姿を現さないが、何故か何でも知っていた。以前会った時に俺様って情報通なのよ、と笑っていたが、一体何処で仕入れてくるのだろうか。
大学が同じである真田が情報源かと考えたが、真田は有り得ないだろう。むしろ一番疎いと言える奴だ。
情報源は分からないが実際情報通のこの社会人は、真田にとっては同居人兼保護者だ。猿飛にとっては真田は全てだと言い切れるらしい。
その猿飛は真田に迷惑が来ないように、私にアドバイスや情報提供をしてくれる。無駄な干渉は全くしないため、猿飛は楽な存在だ。互いの利益の為に関わっていると言っても過言ではない関係。それが私と猿飛だ。

「今日は主要メンバーほとんど制覇じゃん。後はうちの旦那だけでしょ?」

すごいねぇ、と思ってもいない事を言って笑っている。それに私は鼻を鳴らした。

「ひとつ教えて上げる。今日は悪口を言った取り巻きたちに対して怒った奴が一人と面白いと笑った奴が二人と、仲間と一緒に心配してた奴が一人いるよ」

苛立ちで舌打ちを打つ。長曽我部はいいとして、残り三人が問題だ。
明日は人生で一番面倒臭くなる事が確定した。あの三人の取り巻きに代わる代わる文句を言われるのか。

「モテる人は大変だねぇ」

猿飛は他人事として笑っている。事実、真田が巻き込まれるまで他人事として扱うだろう。
伊達と毛利は私を面白いと言った。何処がだと言い返したくなるが、他の奴らにも言われる。私はそんなに面白いのか。
長曽我部は私が心配だと言った。食べても太らない体質だと言っても、食べ物を渡してきて仲間と一緒に世話を焼いてきた。本当は食べ物になんかどうでもいい。
真田は私を尊敬すると言った。その強さに惚れたと目を輝かせていたが、私は好きでこの強さを手に入れた訳ではない。
そして男は私と絆を結びたいと言った。他の絆を切っているのは自分だと、男は分かっていない。
どいつもこいつも自分勝手だ。
勝手に私の像を作り、関わってくる。
ああ、面倒臭い。再三言うが、私は一人がいいのだ。
もう面倒臭い事に関わりたくないし、裏切られるのは真っ平ごめんだ。

「ほんと、大変だね」

猿飛に頭を撫でられる。先程とは違う、同情の声だった。猿飛は私の頭を撫でて気が済んだのか、自分の買い物へと戻っていく。
私はスーパーのカゴを持ったまま、明日の事を考えて、今の状況を思い出して、本当に吐き気がした。







拘泥インバース



ただ一人でいたいだけなのに。
































最初は目付きの悪い暗い奴だと思った。
周りを威嚇するように睨み付け、誰も近付けさせない。孤高のように見えて孤独のように感じた。
そんな印象が変わったのは、入学式から一週間ほど経った時に行われたクラスの飲み会だった。
来ないだろうと思っていた奴がいて、驚いたのを覚えている。隅で一人で飲んでいる彼に話し掛ける人は数人いたが、すぐに離れていっていた。
自分のグラスを持って彼に近付く。彼はこちらに目も向けずただ酒を飲んでいた。横に座っても気にもしない。そんな彼に話し掛けた。

「そんなに飲んで大丈夫か?」

彼は面倒臭そうにこちらを睨んで、また酒に口を付けた。

「会費を払ったからには元は取るべきだろう」

聞きようによっては不快感を抱くかもしれない。しかし彼にとってここにいる理由はそれが全てだと分かった。
貧乏なのかただの節約家なのか分からないが、比較的安い会費を払えば確かに飲み放題の食べ放題だ。
他の人は話していて飲食には向かっていない。彼一人が飲みまくっても支障はない。

「酒強いんだな」

そう言って、自分の持っていたグラスを揺らす。

「ワシなんか烏龍茶だ」

肩を竦めて笑えば、彼はふん、と鼻を鳴らした。

「酒なんか飲めなくても関係ないだろう」

それは自分の性格を言われたのか男としての沽券を言われたのか、はたまた別の事なのか分からないが、そう彼に言ってもらえたのは何だか認められた気がして嬉しかった。

「しかし、そう目の前でたくさん飲まれると飲んでみたいと思うんだ」

でも、彼がずっと飲んでいる酒は気になる。だから普段なら絶対思わない事を何時も通りおどけたように言った。飲めない酒が、彼の所為でとても美味しそうに見えたから。

「飲むか?」

ずいと目の前に出されるグラス。その行動は彼のイメージとはかけ離れていたが、自分にしてくれたと思うと嬉しかった。
グラスを受け取り、水みたいなそれに口を付ける。喉を通ったのはとても熱いもので、とてもじゃないが美味しいとは言えなかった。

「・・・・・・・・・っ!」

堪らず烏龍茶を煽る。喉が焼けそうだ。
そんな必死の様子を見て、彼は吹き出した。

「そうなるだろう、普通!」

酒を飲めないのにいきなり日本酒とか無謀だな。
そう楽しそうに笑う彼は、初めて見る彼だった。
その笑顔で今までのイメージが崩れる。はっきり言うと、彼は笑わないのだと思っていた。
そして思った。彼をもっと知りたい。仲良くなりたいと。

「酷いなぁ・・・」

まだ笑っている彼にジトリと恨みがましく見る。彼は無邪気に笑っていた。

「ワシは徳川家康というんだが、お前は?」

今更ながらの自己紹介。
彼は虚を突かれたように目を丸くし、また笑ってグラスに口を付けた。

「石田三成だ」

石田三成、石田三成と頭で反芻する。
彼と仲良くなりたい。彼をもっと知りたい。
人と仲良くなる事は得意だし大好きだが、全員同じ立ち位置だった中に、石田三成だけが突出した位置になった。
同じクラスだ。被っている授業も多い。

「よろしくな、三成!」

三成とこれからも話せる事が楽しみで仕方がなかった。





結果から言うと、三成はその飲み会を覚えていなかった。
つまり、ワシとの会話はすっぱり忘れていた。
飲み会の次の日、挨拶したら誰だ貴様と言われた。ショックだった。こういうと自意識過剰のようだが、自分は人に好かれる人間だと思っていた。
一度気になったら止まらなくなった。政宗にどうしたらいいか相談してみたら、政宗は意地の悪い笑みを浮かべて笑った。そして何故か政宗も三成に構い始めた。
三成の周りには、そういった変に三成を構う人がいる。それも学校内で有名な人ばかりだ。三成は一人で過ごしたいと毎回言っているが、その人たちが三成を一人にしない。
ワシもそうだ。我が儘で三成に話し掛けたり付きまとっている。
それが三成にとって迷惑なのも分かっているし、三成がワシの友人に悪口を言われているのも知っている。
それでもワシは三成と仲良くなりたい。あの笑顔がもう一度見たい。
三成の周りにいる人よりも特別な位置になりたい。

「三成!おはよう!」

だから今日も三成に話しかけにいく。


















――――――――

一人でいたい三成と、そんな三成を構う周りの人たち。

三成は料理>>>>人。料理をするのは食べないと秀吉たちが心配するから。
問題に巻き込まれて裏切られて傷付くくらいなら一人の方が良いと選んだのに、周りは放って置いてくれない。

友人や同級生、興味のある人に対する接し方で、特に恋愛感情はない。



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