お昼ご飯にちょうどいい時間。ケロロは日向家の地下にある秘密基地の中を歩いていた。
部屋を覗いては首を傾げ、また次の部屋を覗く。一応目星のつけた部屋だけを見ているが、多くの部屋を見るのはやはり疲れる。
しかし、それでもケロロは次の部屋を覗く。
「あれー?此処にもいない」
目星のつけた最後の部屋を覗いたケロロはまた首を傾げた。
接近メロディー
「ラボにもいないし、もー何処行ったんでありますかぁ」
我輩お腹すいたのにぃとケロロは嘆く。
家事も午前中の分は終わったし、時間もちょうどお昼時。一緒にご飯を食べようとクルルを誘いに行ったら、何時もいるラボにもいなかった。
クルルがいそうな場所を探してみたが見付からない。もう地下にはいないのかなとケロロは諦めて、日向家へと戻った。
「出掛けてるのかなー、我輩寂しいなー」
などとブツブツ呟きながら、ケロロはリビングへと向かう。若干沈んだ気持ちと共にケロロはソファーに座り、ケロロは息を吐いた。
何か寂しい。そう思って唇を尖らせた時、庭からパチパチと火が爆ぜる音が聞こえた。
まぁた赤達磨が焼き芋でも焼いてるんでありますか、とケロロは呆れるようにもう一度息を吐く。いっつも焼き芋で飽きないのかねぇ。
そんな事を思いながら、ケロロはリビングの窓を開けた。
ガラガラと音がなる。庭を覗き込んだケロロが見たのはは、想像通りギロロが焼き芋を焼いている光景だった。そして目を見開く。だって、そこにいるなんて。
「・・・・・・・・・何で?」
コンクリートのブロックに座って焚き火を見ているクルルに、漸く絞り出せた声はそんな短い言葉だった。
だって、ずっと探してたのに。こんな所にいるなんて、思いもしなかったし想像すら出来なかった。
そんなケロロの声に二人が反応して振り返った。一人は顔をしかめ、もう一人は何時も通りの笑顔で笑って。
「隊長じゃねぇか。どうしたんすか〜?」
笑うクルルは、今までのケロロの苦労なんて全く知らずに何時もの嫌みたらしい笑みを浮かべている。その表情さえ可愛いと思える自分は末期かなと思いつつ、ケロロは庭へと降りていった。
「どうしたって・・・クルルを探してたんでありますよぉ」
情けない声を上げるケロロに、ギロロはふんと鼻を鳴らした。
むぅ、とケロロはギロロを睨み付けるが、ギロロは知らんぷりして焼き芋の様子を見ている。それがまた腹が立った。
何でこの赤達磨がクルルと一緒に焼き芋やってんでありますか!と文句を言いたくなるが、クルルの手前言い出せない。
代わりにケロロはクルルに満面の笑みで言った。
「クルル〜!我輩と一緒にお昼食べようよ〜、もちろんカレーでありますよ!」
「あー、今日はいいや」
焼き芋食うし。そうクルルの言葉は続き、ケロロのとっておきの誘い文句は一蹴されて終わった。
てか、え?クルルがカレーを断った!?とケロロは内心驚愕しまくった。普段ならカレーと聞けば何でも投げ出して食い付いていたのに、何故今回は駄目なんだ!
ケロロがギロロの方を見ると、ギロロは勝ち誇ったように笑っていた。
くそぉ!こんの赤達磨がぁ!今度すんげぇ辛い作戦たてて一人でやらせてやる!
隊長の権限を悪用しまくった事を考え、ケロロは唇をかむ。
そんな、もはや怒りの炎が焚き火にも負けないくらいになったケロロに、クルルがあっさりと消火剤を撒いた。
「隊長もどうだい?」
そう言って、クルルがケロロを誘ったのだ。
「え、いいの?」
いきなりの事で目を瞬かせたケロロに、クルルは軽く頷いた。
「ああ。先輩も構わねぇよな、そんだけ焼いてんだから」
クルルがギロロに確認するように聞くと、ギロロは「ああ・・・」と短く答えた。
それは普段通りのように見えるが、長く付き合ってきたケロロには苦々しさが見て取れる。きっと数を少なくしとけばよかったとか、クルルとの二人きりの時間がとか考えているのだろう。
「ヤフー!クルルに誘われちったー!」
そんなギロロの心境を察しつつ、ケロロはギロロに対してドヤ顔を思いっきりしてクルルの隣に座った。
ギロロの持っていた木がパキリと折れる。その様子を見て、ケロロはざまぁと笑った。誰がクルルと二人きりにさせるもんか。
ギロロはケロロの笑みの意味を受け取り、こめかみに青筋を浮かべている。それでも怒り出さないのは、クルルに焼き芋を食べてほしいからだろう。
新しい木に替えたギロロは、焼き芋の様子を見つつ火の中を掻き混ぜる。その様子をクルルが面白そうに見ているのがちょっと気に食わないが、クルルが可愛いので良しとしよう。
しばらく見ていたら、ちょうどよく焼けたのがあったのか、木に焼き芋を突き刺し、ギロロはクルルに差し出した。
「出来たぞ、熱いから気を付けろ」
「ん」
そう言ってクルルはそれを受け取った。やはり熱いのか、ふうふうと焼き芋に息を吹き掛けていて可愛ぃい!とケロロは心の中で絶叫する。もちろんそんな心の声は顔面に全く出さなかったが。
ケロロに渡された焼き芋が少し焦げていたが、そんな事はもはやどうでもいい。横で皮を剥きながら焼き芋を食べているクルルが全てだ。
「焼き芋食べてるクルルってなんか新鮮で可愛いであります」
「目は大丈夫かぁ?馬鹿言ってねぇでさっさと食えよ」
今度は少し抑えめに本心を言ってみたら、クルルがとても残念そうな目でケロロを見てきた。
そんな辛辣な視線に、ケロロは唇を尖らせる。
「目はばっちり大丈夫なんでありますがねぇ。あ、クルルが『あーん』してくれたら食べるであります!」
「クッークッククー、じゃあ一生食うな」
「ヒドッ!」
満面の笑みで甘えたケロロに、クルルも笑いながらバッサリと切り捨てた。
本日二回目の木の折れる音も聞こえたが、ケロロは聞かなかった事にしてぶーぶーとクルルの横で文句を言っていたが、クルルは全てを無視している。もう、クルルの意地悪ぅとケロロが嘆いていると、クルルはあんたが馬鹿だからだろと鋭い突っ込みが入った。
『あーん』こそは出来なかったが、クルルと楽しく喋れて幸せだった時は、わざとらしい咳払いで終わらせられた。
ケロロは思いきり顔をしかめて咳をしたギロロを睨んだが、ギロロは素知らぬ顔でクルルに聞いていた。
「クルル、まだ食べるか?」
「いんや、もう充分っすよ。久しぶりに食ったが、旨いもんだな」
ギロロの質問に、まだ自分の手にある焼き芋を見せながらクルルは答えた。
手の中の焼き芋は、まだ三分の一は残っている。少食なクルルにはそれで十分なのだろう。ちなみにギロロはケロロには聞きもしなかった。
しかしそんなのはどうでもいい。大事なのは、今クルルが旨いと言った事だ。
滅多に素直にならないクルルが、今日は素直に旨いと言っている。普通ならあり得ない事だし、すごく羨ましい。
それにあんの赤達磨が調子に乗るじゃん!
「クルルが食べたいのなら、何時でも焼いてやるぞ」
「ククッ、サンキュー先輩」
ほらぁ!とケロロは内心地団駄を踏み、これはヤバイと焦った。
ギロロは旨い焼き芋をあげ、尚且つ何時でも焼いてやると約束している。
ケロロはクルルに誘われたが、馬鹿と云われてばっかりだ。
このままギロロばっかりに良い格好させてたまるか!というか、我輩もクルルと遊びたい!
そう考えて、ケロロはクルルへと余計に身体を近付け、無邪気を装って言った。
「ねークルルー、この後一緒に遊ぼーよー」
「あー?この後?」
クルルは残りの焼き芋を少しずつ食べながら首を傾げた。
その表情を見ながら、ケロロはよっしゃあ!これはいける!とクルルから見えない所でガッツポーズをする。伊達にクルルばかり見てきたんじゃないんだ!ちょっとした表情や声の変化でそれくらいは分かるぜ!
「クルル!俺の銃の整備を頼みたいのだが!」
しかし、クルルからは見えなかったが、ギロロからは見えたらしい。ギロロが慌てて被せるように声を上げた。それに思わずケロロは舌打ちをした。
クルルも思いもしなかったのだろう、怪訝そうに顔を歪めていた。
「はあ?珍しいな、先輩が俺に頼むの」
「たまには専門の者に見せなくてはと思ってな・・・」
そんな後からつけたような言い訳!とケロロはギリギリ歯軋りするが、クルルは素直に受け取ったらしい。
「クッークック、りょーかい」
そう、あっさりと了解したのだ。
「え!じゃあ我輩との約束は!?」
まさかの了解に今度はケロロが声を上げる。自分の誘いが見事にスルーされた上に、ギロロのお願いが受諾された事にショックを隠しきれず、声が微妙に震えていた。
ギロロは思いがけない返答に、嬉しさを噛み締めている。
当のクルルは、ギロロの様子にもケロロの狼狽えに気付かず、呆れたように笑った。
「銃の整備が優先事項じゃねぇっすか?隊長」
「えー!!やだ、我輩クルルと遊びたいでありますよぉ!」
嫌々と手をバタバタ動かせば、クルルは目を細めた。
「隊長としてどうかと思うぜぇ?」
「隊長としてじゃなくて、俺としてクルルと遊びたいの!」
「訳分かんねぇよ」
顔をしかめ、クルルは生暖かい視線をケロロに送った。
そんな視線なんて何のその。ケロロはクルルと向かい合い、クルルの手を取った。
「分からせてあげる!俺はクルルが好きだから、クルルと一緒にいたいの!」
「ケロロ貴様ぁ!」
「そこにいる赤達磨なんかより、ずーっとクルルが好きなんだから!」
「なっ!俺の方が・・・っ!」
「俺の方が?」
ケロロはそこで漸くギロロに視線を向けた。その顔はニヤニヤと笑っている。
ギロロは勢いが止まり、言葉に詰まる。ケロロにつられてクルルもギロロを見ており、その事に余計恥ずかしさと照れが募る。
「言えないヘタレはただのヘタレでありますよ〜」
あの赤達磨が言える訳がないと確信し、追い討ちをかけるようにケロロがゲロゲロと笑った。
ギロロは怒りが湧くが、確かに言えない自分が悪いのだ。ここで言えなかったら男が廃る。
何故か冷や汗をかいているギロロは、意を決した。
「・・・お、俺の方が・・・・・・俺の方が、クルルの事が、すっ、すすす、好きだ!」
どもったが言い切ったギロロに、ケロロは目を見開いた。こいつ、マジか!?
くそ、この赤達磨が言うとは思わなかった。このままギロロの心を折って、クルルと遊ぶはずだったのに!
いや、しかしギロロは今ので一杯一杯だ。ならば俺のクルルへの思いをもっと見せ付けて、言えない自分への自己嫌悪に陥らせてやる。
「むぅ!我輩の方がもーっと好きだもんね!」
そう考えて、ケロロはクルルに抱きついた。ちなみにその考えは建前で、ただ抱きつきたかったのが本音だ。
驚いて無反応になっているクルルの体温をこれでもかと感じ、ケロロは幸せに浸る。
一応ギロロには効果があったらしく、酷く狼狽してギロロは遂には銃を取り出した。
「なあっ!?ケロロ貴様すぐに離れんかぁ!!」
「嫌だよーん」
ゲーロゲロゲロと勝ち誇ったように笑うケロロに銃を向けるギロロ。一発触発の雰囲気が辺りに漂う。
その空気を散らしたのは、今まで無反応になっていたクルルの溜め息だった。
「・・・・・・はあ。隊長、ふざけるのも其処ら辺にしとけよ〜?只でさえ先輩はヘタレなんだからなぁ」
そうケロロの腕を叩きながら言うクルルに、ケロロとギロロは同じ言葉を溢した。
「クルル?」
「クルル!」
しかし、ケロロは腕の力を抜きながら笑顔が引きつり、ギロロは妙に嬉しそうに目を輝かせているという違いはあったが。
二人に見詰められたクルルは、普段通り嫌味たらしく笑いながら、まずギロロを見た。
「先輩さぁ、俺にそんな事言ってねぇでさっさと夏美に言ったらどうっすかぁ?今の練習通りやりゃあ大丈夫っすよ」
「なっ!違っ!」
「隊長もさぁ、ふざけてないで仕事しろよ」
「ゲロォ!?ふざけてないでありますよ!?」
自分を抱き締めているケロロにも同じように言う。言われた二人は違うと否定したが、クルルはそれをさも面倒臭そうに流した。
「あーはいはい。分かったから離れてくれるかい?俺は暇じゃないんでね、銃の整備もしなくちゃなんねぇし?」
「あ、うん・・・」
目の前でニヤリと笑われたケロロは、その笑顔にすんなりと腕を離す。
ケロロの腕からするりと出たクルルは、残っていた焼き芋を食べ、ギロロの銃を奪った。
「旨い焼き芋ご馳走さん。この銃でいいんだろ?持ってくぜ」
「ああ・・・」
ギロロも何とかそれだけを返す。
クルルは満足そうに笑って、何処からか白いスイッチを取り出した。
「じゃあなー」
ポチっとな。と決まり文句を言い、クルルはあっさりと消えていった。きっとラボへ戻ったのだろう。
残された二人はクルルが消えた事で我を取り戻し、同じタイミングで互いを睨み罵った。
「ギロロの馬鹿!ギロロの所為だからね!」
「何でだ!どちらかと言えば貴様が!」
キィイイ!とハンカチを噛むケロロに、今まで我慢していた怒りを爆発させるギロロ。
自分の目の前で笑ったクルルの表情を思い出し、可愛いと思うと同時にもどかしい気持ちになる。
もう少しで二人きりになれたかも知れないのに!
せっかく二人きりになっていたのに!
そんな思いが二人の胸に浮かび、余計に今目の前にいる相手が憎らしく思えた。
しかしそれ以前にクルルが問題だ。何故こうも分かりやすくアタックしているのに気付かないのだろうか。
もしかして気付いてやってるの?とケロロは聞きたくなる時が多々あるぐらいだ。
「今日なんて好きとまで言ったのに!ギロロも言うからからかってるって思われたじゃん!」
「なっ!俺なんか夏美への練習だと思われたんだぞ!」
「そんなの身から出た錆びじゃん!あー、もうギロロほんと迷惑!」
「何だと貴様ぁ!」
やり場のない怒りを全てギロロにぶつけて、ケロロは思いきり叫んだ。
それはケロロとギロロが常日頃思っている事。専らの悩みの種。
「なんで伝わらないの!」
それに応えるように、焚き火の爆ぜる音が寂しく響いた。
END
接近メロディーさえまだ鳴らない。
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38883打を踏んで下さった琥珀様に捧げます、緑+赤→黄です。
い、如何でしょうか?必死でアプローチするケロロとギロロをクルルはスルーしてます・・・か?すごい不安です(汗)
クルルは気付いてないのかわざとなのかが気になるところですが、私はとても楽しく書かせて頂きました。
特に焼き芋食べてるクルルとか抱き締められてるクルルとか無反応で周りを窺っているクルルとか。←
好き勝手書いてしまった感が否めませんが、琥珀様が楽しんで頂けれぱ幸いです。
38883打、また素敵なリスエストを本当にありがとうございました!