好きだと思った。
だから好きですと伝えた。
返ってきた答えは、『じゃあ付き合うか』だった。



掛違パイン



そんなケロロにとっては一大事だった出来事から一ヶ月。ケロロとクルルは付き合っていた。
手も繋いだし、デートもした。手は握り返されなかったしお部屋デートだったけど、したにはした。
したにはした。ケロロは本当に嬉しかったし、幸せだった。幸せだったけど、不安だった。
ケロロが何をしてもクルルは以前と変わらなかったから。
手を握っても好きだと言っても、クルルは何も返してくれなかったから。
そう考えると、不安で仕方なくなった。告白した時の返事も『付き合うか』だったし、もしかしたら自分は好かれていないのではないのだろうか。
もしかしたら、隊長だから仕方なく付き合っているのではないのだろうか。

ならば、好きになってもらおう。
ケロロはそう考えた。
クルルに好きになってもらおう。クルルに喜んでもらおう。そう考えて、ケロロはいろいろな行動をした。
まずカレーを大量にプレゼントしてみた。ボルシチもした。秋葉原で掘り出し物の部品なんかも探したし、実験にも進んで付き合った。
クルルにプレゼントするのは自分も嬉しかったし、クルルが喜んでくれると思ったら胸が弾んだ。
しかし、クルルの反応は喜んでいたが、以前と変わらない喜びだった。その度、これじゃ足りないと思った。
もっと。もっと。
だから今日もクルルが喜んでくれそうな物を持ってきた。商店街に売っていた、貴重な鉱物だ。
今度こそと意気込んで、ウキウキとクルルのラボを訪れる。
そしてプレゼントを渡そうとしたら、クルルはそれを見ながらぽつりと呟いた。

「・・・・・・いらねぇ」

「え?」

言われた意味が分からなかった。
だって、これは絶対喜んでくれると思ったから。
固まってるケロロに対して、クルルはケロロの手の中の鉱物を見ながら言った。

「隊長、あんたプレゼントさえあげてりゃあ俺が喜ぶと思ってんの?」

クルルの声は無機質だった。
言われたケロロは訳が分からなかった。
クルルに喜んで欲しかっただけなのに。クルルに好かれたかっただけなのに。
クルルに言われた言葉が頭の中をグルグル回る。そして、怒りが沸いた。
手を握っても好きだと言っても、何も返してくれなかったのはクルルじゃないか。どうしたら喜んでくれるか、ない頭で必死に考えたのに!

「じゃあどうしたらいいの!?」

ケロロは拳を握った。

「俺にはクルルが分かんない!」

声を張り上げたケロロに、クルルの眉根が寄る。

「・・・分かろうとしてねぇからだろ」

「してるよ!してるけど分からないんだよ!俺はただクルルに喜んで欲しかっただけなのに!」

「なら機嫌取るみたいに毎回プレゼントなんか持ってくんじゃねぇよ。俺をただプレゼントあげりゃあ喜ぶ軽い奴だと思ってんのか?」

クルルの声は静かだが冷たかった。その表情はきっと自分と同じだろう。その事が余計に胸を掻き乱した。

「最近プレゼント渡して俺の反応見て、勝手にがっかりしてすぐ部屋に戻って。プレゼント以外にはねぇのかよ」

そう言われて、ケロロは自分の何かが凍った気がした。

「クルルは俺の事好きなの!?」

不安が爆発した。
ずっと聞きたかった事。プレゼントはいらなかったの?俺にどうしてほしいの?本当に俺の事が好きなの?仕方なく付き合ってるの?面倒臭いって思ってるんじゃないの?

「好きじゃないならそう言ってよっ!」

クルルの笑顔を作るはずだったプレゼントは、硬い音を上げて床に転がっていった。





その日から、ケロロがクルルを避けるようになった。
会議でもバッタリ会った時でも、ケロロはクルルの方を見なかった。
クルルは自分が嫌いなのだと思った。だから、きっとクルルも清々してるだろう。
顔も見なくなってから、声を聞かなくなってから、クルルと離れてから自分も清々すると思ったが違った。むしろ以前よりも胸に引っ掛かり、苛々する。
周りを気にするドロロやモアはおろか、鈍感なギロロやあまり人の事に首を突っ込まないタママまでどうかしたのかと心配そうに聞いてきて、余計にモヤモヤした。
別に?と軽く答えておきながら、俺は悪くないと内心付け足した。
そう、自分は悪くない。悪いのは全部クルルだ。
そう言い聞かせて、ケロロは重くなっていく胸を無視した。



ついに夏美殿にまで言われたある日、ケロロは苛々する胸を抱えてガンプラを作っていた。タイヤ型のそれは何時もよりも部品は綺麗に取られておらず、出っ張ったり凹んだりしている。その出来栄えに余計に苛々する。

「ああ、もうっ!」

そう吐き捨てて、ケロロはタイヤ型のそれを作ることを諦めた。
頭に浮かぶのはクルルの事ばかりだ。もう関係ないじゃないかといくら思っても消えない。
そんな自分に腹が立って、ケロロは作りかけのそれを思いきり床に置いた。バキリと嫌な音がしてそれは歪に壊れた。
壊れた事に何も思わなかった。ただ少しすっきりしたくらいだ。

「珍しいな、あんたがガンプラ壊すなんて」

壊れたガンプラを見ていると、後ろから声が聞こえた。何日かぶりの声だ。
ケロロはその声の主を見ようともせずに、ただガンプラを見る。

「何だぁ?無視かい?」

何時も通りクツクツ笑うクルルに、ケロロは不愉快さを募らせた。

「・・・出てってくんない?」

ケロロの口から出たのは、本当に冷たい声だった。以前クルルに対して出していた声とは全くの真逆だ。
クルルはそんなケロロの態度にまたクツクツと笑った。

「嫌だね」

ガンプラがもう一度痛々しい音を立てる。

「そう・・・」

ケロロはそう呟いて立ち上がった。振り返ればドアの前にクルルがいる事が分かったが、目が合う事はなかった。
クルルに近付いてきたケロロは、目の前で止まった。

「どいて」

「何でだ?」

「出てかないなら俺が出てく」

ケロロの声は相変わらず冷たい。
クルルはケロロの言葉にああ、と頷き笑った。

「嫌だね」

その言葉に、ケロロは奥歯を噛み締める。

「何で?我輩の事嫌いなんでしょ?」

なら放っといてくれよ。そう内心で毒を吐く。
そんなケロロの心情を察しているのかいないのか、クルルは目を細めた。

「俺が何時そう言った?」

「・・・だって。怒ってたじゃん、プレゼントが嫌だって」

ケロロの脳裏にあの時の事が思い出される。
忘れるはずがない。今でもその時の事を引きずっている。
そんな重大な事さえ忘れてしまったかのようなクルルの言い草に、ケロロは諦めにも似た怒りを覚えた。
きっと、クルルは本当に自分の事なんかどうでもいいんだ。
そう思った時、クルルは口を開いた。それは先程までのふざけた調子のものではなく、真摯なものだった。

「俺はプレゼントが嫌だったんじゃない。プレゼントすりゃあ俺が喜ぶと思ってたあんたの考えが嫌だったんだ」

「ほら・・・!」

しかしケロロはそれに気付かない。
クルルの言葉を聞いて、噛み付くように、吐き捨てるように言う。
そんなケロロを真っ直ぐ見て、クルルは首を振った。

「だが、俺はあんたが嫌いだとは言った覚えはねぇよ」

「え?」

ケロロは意味が分からず、思わず顔を上げた。
クルルと目が合う。
久しぶりに見たクルルの顔は、とても真剣な表情に見えた。

「俺はプレゼントなんかより、もっと他のが嬉しかった。あんたは?どういうつもりで俺にプレゼントしてたんだ」

他のとは何なのだろう。ケロロがあげていた物には意味がなかったのだろうか。
確かにいらない物を貰っても困るよな、と一人自嘲し、本当に自分は馬鹿だなと思いながらケロロは思いの丈を吐き出した。

「・・・我輩馬鹿だから、クルルが我輩の事どう思ってるのか分からなくて、なら好きになってもらおうと思って。でもやっぱり我輩どうしようもない馬鹿だから、こんな事しか出来なくて。迷惑だったって分かったから。もうクルルに迷惑かけないから」

だから、もういいでしょ。
もう自分に構わないで。これ以上胸を重くしないで。
そう言外に込めて、ケロロはポツリポツリと吐き出す。クルルの視線から目を逸らし、キュウとなる胸は気付かないふりをした。しかし、視線は逸らせても、意識は全てクルルの方へ行ってしまう。
しばらく黙っていたクルルは、ケロロの言葉に対して一言で一蹴した。

「馬鹿だなぁ、隊長」

聞こえてきたのは、呆れた声だった。

「この俺が何とも思ってない奴に付き合うかなんて言うわけねぇだろぉ?何時も鋭いくせに、何で自分の事になると分かんねぇんだよ。俺は前みたいに二人でふざけたりボンヤリしてた方がよっぽど嬉しかったのに、あんたはプレゼントばかりして、そういう時間がなくなってった。それが嫌だったんだよ」

大体、俺がひねくれてて天邪鬼で素直じゃないって知ってんだろ。付き合ったから態度を変えるとか、プレゼント貰って嬉しくても顔に出したり出来ねぇんだよ、とクルルは続けていたが、もはやケロロは聞いていなかった。
言われた意味が分からなかったのだ。
だって、え?プレゼントされる物が気に食わなかったんじゃないの?プレゼントが煩わしかったんじゃないの?
ケロロの頭はこんがらがって、え?え?と疑問符ばかりを浮かべる。クルルはそんなケロロをクツクツと笑って見守っている。
え?今の意味って、プレゼントよりも二人でいたかったって事?プレゼントよりも前みたいな付き合い方が一番嬉しかったって事?
そう考えて、ケロロは一番聞きたかった事に思い当たった。

「・・・・・・じゃあクルルは、我輩の事好きなの?」

心臓が五月蝿い。喉もカラカラだ。しかし、これは聞かなくてはいけない事だ。
勇気を出してそう上目使いに聞いてみると、クルルは優しく笑っていた。

「ああ、好きだよ」

それは、とてもとても聞きたかった言葉。
その言葉を聞いて、ケロロは目を見開いた。

「・・・本当に?嘘じゃない?」

確かめるように、ケロロはまたクルルに尋ねる。クルルは肩を竦めながら、苦笑した。

「流石にこんな事で嘘はつかねぇよ」

その言葉を、笑顔を受けて、ケロロはくしゃりと顔を歪ませた。

「・・・本当に?我輩、嬉しすぎるんですけど」

「何泣きそうになってんだい、隊長」

「だって、嬉しくてっ」

クルルの揶揄うような声に、息を詰まらせながらケロロは応えた。
だって、本当に嬉しいんだ。
クルルが自分の事を好きだなんて言ってくれたから。
そして同時に反省した。つまりは自分の早とちり、思い過ごしだったのだ。ああ、自分は本当に馬鹿だと後悔した。
さまざまな思いに泣きそうになっていると、クルルはまあ、と切り出して頭を掻いた。

「俺もはっきり言わなかったしな。悪かった」

「そうだよ!我輩馬鹿なんだから、クルルがはっきり言ってくれなきゃ分かんないじゃん!」

溢れる気持ちに整理がつかなくて、ケロロはクルルに文句を言う。
クルルはそんな理不尽な文句に怒る訳でもなく、反対に楽しそうに笑った。

「クッークック!開き直るなよ。・・・あー、でも、まあ」

笑っていたクルルが、何かを考えるように言葉を巡らす。途中で切られた言葉にケロロは首を傾げる。
そしてクルルは目を瞬かせているケロロを見詰めた。

「愛してます、ケロロ」

ドクンと胸が鳴った。
今まで重く沈んでいた黒いものはその一瞬で全て消え、胸は熱くなっていく。
顔にも熱が集まり、何を言われたのかすぐには理解が出来なかった。
そして理解出来た時、声が飛び出していた。

「わっ、我輩も!俺もクルルが一番だよ!」

「知ってる」

「ゲロォ!」

ケロロの想いはクルルにあっさりと受け止められた。
あんなに頑張ったのに、それは全部逆効果だったなんて。でも頑張ったから、クルルと本心がぶつけられたし分かり合えた。
すごく大きな喧嘩をしてしまったけど。自信もなくなったし、クルルに酷い事もいっぱい言ってしまった。
それでも、ケロロは今回の事があってよかったと思う。だってクルルと相思相愛だって分かったから。クルルの気持ちが分かったから。
だから今、とても幸せだ。

「クルル、大好きだよ」

後でいっぱい謝ろう。ごめんねとたくさん言おう。でも今は自分の本心を伝えたかった。
ありったけの想いを込めてケロロは言う。
腕を伸ばし目の前の愛しい存在を抱き締める。抱き締めた体温はとても暖かかった。
背中に回った手がこんなに嬉しいと初めて知った。触れ合える事がこんなに幸せなのだと初めて分かった。
ギュッと抱き締めながら、ケロロはもう一度好きだと伝える。それは囁くように、優しく柔らかかった。
クルルは耳元で言われたその言葉にくすぐったそうに身を揺らす。

「抱き締めんのが遅いんだよ、馬鹿」

そう言って、クルルはケロロの肩に頭を置いた。






END



伝え合おう。

君が大好きです。

























―――――――――

37999打を踏んで下さった神様に捧げます、緑黄です。

お名前が分からなかったので、神様にしてしまいました。すみません。

『馬鹿だなぁ』とクルルが言うとのリクエストを頂いたのですが、まさかの大喧嘩をさせてしまいました。
普段書いていないような緑黄を書こうと思ったらこうなりました。ちょっとケロロが怖いかなってビクビクしています(汗)
でも大喧嘩して、クルルから歩み寄ってくれたら良いと思います!
最終的にはやはりバカップルになってしまうんですが(笑)

こういう緑黄は初めてだったので、とても楽しかったです!

37999打と素敵なリクエスト、本当にありがとうございました!



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