自分の為に生きてきた。
周りは敵だ、信じられないし信じられるはずもない。信じたら裏切られる。
小さい頃から軍という閉鎖的な場所にいた所為か、周りは信じられなかった。
利用されて捨てられる。搾り取るだけ搾り取り、最後には踏み台にされて終わるのだ。
そんなのは真っ平ごめんだ。
だから、俺は自分だけを信じて生きてきた。周りを利用し、踏み台にし、生きるために嘘をつく。
俺は一人で大丈夫だった。
一人が楽だった。



だが、いつの間にか俺の中に入り込んでいた。
阿呆みたいに笑顔を振り撒き、俺の名前を呼ぶあいつ。
初めて会った時、こいつは大丈夫かと心底疑った。
人をすぐ信じ、すぐバレる嘘しかつけなく、何も考えていなさそうな言動を繰り返す。いくら隊長としての才能があるからって、こいつで大丈夫なのかと心配になった。
しかし、一緒の部隊になってこいつを近くで見ていたら、こいつだから大丈夫なのだと分かった。
いくら阿呆な作戦を考えようと、裏切られ騙されても、こいつは自分勝手な理論を振り回し、相手に食って掛かり、何とかしてきた。その相手が例え本部でもだ。
人をすぐ信じるし、我が儘だし、自己中心的だか、何も考えていない訳でもなく、馬鹿じゃない事を知った。

今まで自分の周りにいないタイプだった。
一緒に居て楽だったし、馬鹿げた作戦を真剣に考えている時は楽しかった。
信じても大丈夫なのだと思えた。
だから、気を抜いてしまった。
甘えてしまった。

あいつは、俺の物を取っていった。



「返してくれよ」

取られてはいけない物だった。
そして、俺自身、取られるはずがないと思っていた。
返してもらわなくては、俺はもっと弱くなる。そう思ったら居てもたってもいられなくなった。
目の前にいる隊長は静かに俺を見据えている。

「もう、嫌なんだ」

あんたに頼るのも、自分自身が弱くなっていく事も。
隊長がいなかった時は大丈夫だった。
一人で何でも出来たし、一人が楽だった。
誰かに嫌われる事なんて当たり前で気にもせず、誰にも頼らないで強かったのだ。
だが、今は違う。
変わってしまったのだ。
一人が寂しいなんて、感じるはずがなかったのに。
人のいる体温が心地好いなんて、思うはずがなかったのに。
こんな自分は耐えられなかった。
だから返してくれと頼んだ。
一杯一杯の状態で言った願いを、隊長は一言で済ませた。

「ダメ」

真っ直ぐ俺を見ながら隊長は言った。

「・・・何でだよ」

俺は顔を歪ませ、低い声を出す。怒りからか、声は少し震えていた。
そう言えば、隊長は微笑んだ。

「だってこれは我輩が頑張って頑張って手に入れた物だから」

俺とは反対に、優しく柔らかい声で隊長は言う。しかし、表情は悲しいとか不甲斐ないとかに当てはまる物のように思えた。

「欲しくて欲しくて堪らなくて、必死になって手に入れた物だから。だから返せない。返してあげない」

例え柔らかい声だとしても、そこには確固たる意志が含まれていた。
隊長は、俺が何と言おうと返してくれないだろう。
俺はその事に溢れそうになる気持ちを抑えて、顔を歪めたまま隊長にまた頼む。
そうしなくては、俺はもっと弱くなってしまう。迷惑を掛けてしまう。
嫌われたくない。
だから。

「・・・返してくれよ、頼むから」

隊長は、ただ悲しそうに首を振るだけだった。







沖虚ディナイアル



辛いんだ、俺の心臓が。



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