「まさかさぁ、こんな事になるなんてさ。人生分からないもんだよねー」
外を眺めながら、佐助がぼんやりと呟いた。
それに俺も笑いながら頷く。
「まぁな。前世の記憶があって、尚且つ出会うんだから人生分かんねぇもんだな」
「その上こんな関係になっちゃってさ、もう以前なら考えられない!」
キャア!と自分を抱き締めて奇声を上げる佐助は、とても楽しそうだった。
佐助の横で俺も笑う。
確かに以前では考えられない事だ。敵同士がこんな気楽に会う事も、友人になっている事も、同じ時間にまた生きていることも。前世の記憶があったり、相手の事を出会う前から知っていたり。
なにより。
「なーんで、敵武将と付き合ってるんだろ」
かつて対峙した、敵武将と恋人関係であったり。
あんなに血深泥に殺し合ってた相手が、今世では恋人だと考えられない事だ。
「好きだからだろ」
でもまあ、好きなものは好きなんだから仕方がない。前世は前世だ。
今の元就と俺は付き合ってて、政宗と佐助が付き合ってる。前世の記憶を持ったままで。
「もう、好きとか有り得ねぇー」
カラカラ笑う佐助は、あーやだやだと首を振る。俺も気持ちは分かるから、苦笑いした。
「お前らすごかったもんなぁ」
前世で政宗はライバルの真田しか見てなかったし、佐助も真田が全てだった。
互いが互いを邪魔に思い、殺そうとまでしていた仲だ。それが今は恋人同士。全く世の中面白いもんだ。
まあ、考えようによっては互いを意識してたと捉える事も出来るが、嫌な意識の仕方だ。
「チカちゃんちだってそうじゃない?いっつもナリさんの尻追っかけてさー」
「おい!尻追っかけるって何だ!」
「だってそうじゃん。ナリさんは俺が殺るんだって何時でも何処でも現れて。まさか関ヶ原くんだりまで追ってくるとは思わなかったよ」
「ありゃああいつがこれ以上暴走しないようにだな・・・」
「あー、はいはい。とにかくアンタ達も人の事言えないって事だよ」
俺が弁明しようと声を上げれば、佐助は面倒臭そうに軽く流した。それが俺は気に食わなかったが、図星な部分があるためそれ以上言わない事にした。
俺も独眼竜も、嫌な意識をしたもんだ。
昔を思い出せば、言い知れない気持ちになる。
だが、まあ昔は昔だ。
「俺達バイオレンスだったなぁ」
「今の言葉で言うと、ヤンデレ?」
「・・・それは違わねぇか?」
「あれ?そう?」
うーん、難しいねぇ、と佐助が首を捻る。
あんなに生きるか死ぬかの瀬戸際を毎日味わい、殺したり殺されたりした戦を駆け抜け、戦が全てで油断や誤判なんか出来ない時代を生きてきて。敵は殺すか利用するか引き込むかしか考えなかった前世だ。
こんな敵とのんびり話して、腹の内なんか全くなく戦いもしない今世が待ってるとは思わなかった。
だが、こんな長閑な生活も良いもんだと今では思っている。
「人生分かんねぇもんだなぁ」
「ほーんと、分からないねぇ」
沁々と呟かれた言葉は、広い空に消えていった。
比興アズイフ
伊達男曰く、『Variety is the spice of life』ってさ。