戦が始まる。
この国を二分する戦が。

敵大将である石田三成は、この国などどうでもいいと思っているだろう。
崇拝する主君を殺した徳川家康を殺せれば、三成は他はどうなっても関係ないのだ。

「なぁ、独眼竜。戦は何時になりそうかな」

「さぁな。向こうだって総力を集めつつあるんだ、そろそろだろ」

泰平の世の為に豊臣秀吉を殺したという大義名分が家康にはあるが、それだって三成への歪んだ気持ちからの殺意も含まれていると知っている。
崇拝する主君を殺され、その上絆を主張する。それは、三成にとって耐えられないはずである。
その怒りを憎しみを糧にして、三成は家康を殺しに来る。
全てを賭けて、家康を殺すという復讐をする為に。

「そうか」

西の方角を見ながら、家康は目を細める。
三成は今、自分しか見ていない。
それは、何という満足感か。
自然に出てきた笑いを噛み殺す。しかしくつくつと漏れた声に、政宗は顔をしかめた。

「あいつもcrazyだが、あんたも大層crazyだぜ」

そう言って政宗は嘆息一つ溢す。
政宗は、家康のこの歪んだ感情を理解しているのだろう。それでも強くは言って来ない。
それは政宗も同じだからだ。家康のような歪んだ感情ではないが、執着する男がいる。あの赤い若獅子と戦えるなら、家康の元に付くのも厭わない。
家康の泰平の世に賛同したのも確かだ。だから、政宗は家康の元に付く。家康のこの感情が、三成にしか向かないのを知っているから。
きっと家康は、良い世の中を創るだろう。その時、あの石田三成はどうなっているのだろうか。そう政宗は考えてすぐに止めた。

「失礼な奴だなぁ」

家康は政宗の言葉に苦笑した。しかし視線は相変わらず西を見ていた。
西の空は光を失い、闇色が広がっている。彼処に三成がいると思うと、家康の中に愉快さが滲んだ。

三成が追ってくる。
家康を殺す為に。
全てを家康の為に犠牲にして、復讐するためだけに生きている。
三成は家康を殺す為に生きている。
言うなれば、三成は家康が生きる意味なのだ。
それは何と甘美な事だ。

家康の周りの闇が濃くなった気がした。
政宗から家康の表情は見れないが、とても愉しそうだった。
家康の喉がくつくつと鳴る。
さあ、早く儂を殺しに来いと西を見る。

「儂は此処だぞ、三成」

ニイ、と口端を持ち上げて、家康は嗤った。
そして儂が全てを奪ってやろう。
完全に自分しか見れなくなるように。
西を見ながら言う家康を眺め、政宗は吐き捨てるように言った。

「狂ってるよ、あんた」

政宗の言葉は、誰に届くでもなくかき消えた。






倒錯ラジカル



歪んだ愛の物語。



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