「なあ本郷、お前また考え過ぎてるだろ」

街灯くらいしか明かりがない真夜中の街中。
歩きながら一文字は先を進む本郷に声を掛けた。

「む・・・考え過ぎては・・・」

本郷は一文字の言葉に首を傾げながら答える。立ち止まった本郷に並んだ一文字が見た表情は、本当に怪訝そうな顔をしていた。

「いーや、考え過ぎてたね。相棒を舐めるなよ?」

挑むように笑ってそう言えば、本郷は参ったなとでもいうように手を上げ苦笑した。

「お前がそういうならそうなんだろうな、すまない」

自分ではあまり気が付かないものだと困ったように言う本郷に、一文字は全くと息を吐いた。

本郷が優しいのは知ってる。
他のライダー達も皆優しいが、本郷は頭一つ飛び抜けたお人好しだ。
だから何か問題があったら何とかしようと思う。出来れば、自分以外を傷付けないように、一人で。時には相棒である一文字にさえ黙って。
そして、こんな状況だ。
バダンは日に日に存在が近くなり、それに伴い危険が増えていく。
いったいこの日本で犠牲者はどのくらいの数に昇ってしまったのだろうか。
各地に散らばったとはいえ、ライダーは新人を含めて十人。十人で日本全体をカバーは出来ない。スピリッツがいるとしても、ふとした所でバダンは人々を襲っているだろう。

人間を守ると決めた。
それが人間ではなくなった自分達が、唯一人間として生きられる理由だと思った。
それでも、人間ならざる力や身体を手にしても、守れる命は一握りだ。
なんて、無力。
その想いが一文字の胸に重りのように沈んでいる。
本郷にもだ。
そして、優しい本郷の事だ。全て自分の所為だと思っているのではないだろうか。

「お前の所為じゃない」

バダンの企みに気付けなかったのも、他の人達を巻き込んでしまったのも、あの子を助けられなかったのも。

「お前の所為じゃないんだよ、本郷」

トン、と腕を叩く。
本郷は泣きそうな顔で力なく笑った。

「ああ、そうだな。だが、俺が俺自身を許せないんだ」

もう少し早く気付いていたら。
もう少し周りに気を付けていたら。
もう少し早く着いていたら。
そう考えてしまう。
自分が不甲斐なかったばかりに、救えたものが溢れてしまった。

「俺に、もう少し力があったら」

そう思うんだ。
本郷は自分の手を見詰めながら、ポツリと溢した。
手袋に包まれたその手は、先程まで赤く濡れていたものだ。バダンの改造人間と、救えられなかったものの赤に染まっていた。
ぼんやりと本郷が見詰めている。脳裏には、先程まで行っていた戦闘が浮かんだ。そんな手を、一文字はガシリと掴んだ。

「本郷、考え過ぎるのはお前の悪い癖だ」

力強く手を掴まれて、本郷は目を瞬かせた。
一文字は驚いている本郷を怒るように眉根を寄せていた。

「お前は超人でも神様でもない、人間なんだ。何でも出来る訳がないんだよ」

一文字の真っ直ぐな言葉に、本郷は息を飲んだ。

「人間なんだから全て把握出来る訳ないし、全て救うなんて事も無理だ。俺達は人間なんだ。勘違いするなよ、お前は人間なんだ、神様じゃあない」

例え人間ならざる力や身体を手にいれても、例え老化もせず五感が研ぎすまされていても、人間なんだ。
無力に打ちひしがれる、ただの人間なんだよ。

「お前はよくやった」

人間としての本郷猛は、よくやったよ。
掴んでいた手を優しく握り、一文字は本郷に笑い掛けた。
本郷は耐えるように顔を強張らせる。

「俺は、何も出来ていない・・・」

「ああ」

「何も、救えていないんじゃないか・・・?」

「それは違う」

「・・・一文字」

「何だ?」

本郷は見てる方が辛くなるような表情をしていた。

「辛いものだな・・・」

反射的に一文字は本郷を抱き締めていた。
本郷の方が背が高い為本郷の肩に一文字の顔が埋まってしまうが、それでも安心させるように本郷を包むように抱き締めた。

「そうだな・・・」

背中をトントンとあやすように叩く。
本郷は力なく一文字に凭れ掛かっている。
弱音を吐いた事がない本郷が弱さを見せてくれるのならば、それを掬うのは自分の役割だと思った。
俺達は完璧じゃない。心もあるし、傷も付く。
それでも。決めたのだから。

「だが、やらなくてはいけないのだな」

「ああ」

やらなくてはいけない。そう決めたから。
人の為に。何より、自分の為に。

「無力でも足掻いてもがいて奴らに噛み付いてやらなきゃな、これ以上の犠牲を出さないように。それが救えなかった人達へのせめてもの償いだ」

一文字は、優しく、だが力強く言った。
救えなかった人達なんて数知れずいるのだろう。目の前にいて救えなかった事もある。
それを悔やんでもいい。自分を責めるのも当たり前だ。
でも、そうやって下ばかり向いていて救えるものが救えなかったなんて馬鹿らしい。
無力だと思っても、諦めたらいけない。何がなんでも人を守り、救わなければ。
俺達は、仮面ライダーなんだ。

「ああ、そうだな」

ポンと一文字の背中に軽い衝撃が走る。
それに一文字は笑みを浮かべて、本郷を解放した。
真正面から本郷を見て、ん、と笑みを深める。

「よっしゃ、本郷の悪い癖も抜けたようだし帰りますか!今日の夕飯は何かな〜ってもう夕飯の時間じゃないけど」

くるりと踵を返して、悠々と足を進めた。真夜中の街中に一文字の声が響く。
最初と反対の位置関係になった本郷の苦笑ぎみの声が、後ろから聞こえた。

「お前はすごいな」

「そりゃあお前の相棒だからな、こんくらいじゃないとやってけねぇよ」

ニヤリと笑って言えば、本郷はむ、と顔を歪めた。

「どういう意味だ」

「あははっ、まあ気にすんなって。明日も頼むぜ、相棒」

その顔が妙に幼く見えて、人間らしい顔だと思った。
きっと明日も戦うのだろう。そして後悔して、無力さを感じるのだろう。
それでも、俺達は仮面ライダーだ。
救える命を救おう。

「ああ、よろしく頼む」

本郷の声が、心強かった。






誰かの



為に戦う貴方を守りたい。



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