「I'm back.帰ったぜー」

そう言って、政宗は靴を脱いだ。ドスドスと短い廊下を歩く。このマンションに住んでもう一年は経つだろう、初めの頃よりも汚れてきたのを感じる。
短い廊下の突き当たりにあるリビングの扉を開いて、政宗は怪訝そうに顔を歪ませた。

「・・・あ?」

同居人がいない。
そう言えば、何時もの「おかえり」と言う声も聞こえなかった。
今日は出かける用事もないと言っていたのを思い出しながら、首を傾げる。
買い物でも行ったかな、と思いつつも、リビング以外の場所も探してしまい、自分の事ながら苦笑した。

「いねぇなぁ」

さして広くもない部屋だ。探すのもすぐに終わってしまい、またリビングに戻ってきた。
こりゃ買い物だな、と思ってソファーに座ろうとした時、視界に何かが引っ掛かった。
ちらりとそちらを見ると、足が横たわっている。
覗いて見ると、ベランダに繋がる窓の前に同居人が寝ていた。
リビングの入り口からはちょうど死角になる場所だ。丸まって寝ている同居人の姿に肩を竦めながら、政宗はその隣へと腰を下ろした。
普段よりも幼い顔をして寝ている同居人に、思わず笑みが零れる。顔に掛かった髪を分けてやると、小さく身動ぎをして目を開いた。

「Good morning,佐助」

まだ眠いのだろう、薄く開いた目は重そうだ。しかし自分の髪をすいているのが政宗だと判ると、今度は嬉しそうに目を細めた。

「ん、おはよ、意外に早かったね」

「そりゃあお前が待ってるからな」

寝起きだからか舌ったらずに言う佐助に政宗がそう返すと、ふふっ、と佐助は楽しそうに笑った。

「ねぇ、政宗」

楽しそうに笑いながら、政宗の方向に両腕を伸ばす。

「抱き締めて、キスして」

柔らかく笑う佐助に、政宗も釣られて笑う。そして自分に対して伸ばされた腕を取り、半ばのし掛かるように抱き締めて、軽いキスした。
佐助はまたふふっ、と笑う。

「一緒に寝ようよ、昼寝」

「今はもう夕方だぜ?」

「じゃあ夕寝」

政宗の肩に顔を埋めた佐助が楽しそうな響きで言う。政宗も何時もより高い体温の佐助が心地良いと思いつつ、からかいの色を含んだ声で言う。

「夕飯は?」

「後で外に食べに行こう」

佐助がそう言えば、政宗は小さくため息を吐いて笑った。

「しょうがねぇなぁ」

のし掛かるように抱き締めていた体勢から、横から抱き締める体勢へと変える。

「枕貸せ。腕枕してやる」

そう言うと政宗は佐助に頭を上げさせ、下にあったクッションを奪い、代わりに自分の腕を伸ばした。
奪った枕を自分の頭の下に入れ、横を向く。近くなった互いの距離に、佐助はするりと近付いてきた。その暖かさに眠気が起こる。

「ねぇ、政宗」

「あ?」

政宗の腕の中で寝やすい位置を探し当てた佐助は、真横にある政宗の顔を見つめながら声を掛ける。

「夢でも会おうね」

「当たり前だろ」

それだけ言って、窓から入るオレンジ色の暖かさと、抱き締めたオレンジ色の暖かさを感じながら、政宗は目を閉じた。






海原オレンジ



ほら、会えただろ?



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