こんな夢を見た。
そこは見知らぬ場所だった。
大きなコンピューターが鎮座し、様々な大きさのディスプレイが光っている。
ふと、自分の格好が何時もの軍服ではなく軽い格好であることに気付いた。という事は、ここは軍関連の場所ではないのだな、とぼんやりと思う。
辺りを見回していると、人が一人いた。
真っ白い白衣を着ている、黄色い髪。この暗闇の中で白い白衣を着ている人にすぐ気付かなかった事に驚き、また納得した。
存在感が薄いのだ。あんなに白い白衣を着て綺麗な黄色い髪をしているのに、内側から発せられるものが何処か儚かった。

白い白衣を着たあの子に近付いてみる。俯いていて見えない表情がとても気になった。
近付いていくと共に、この場所を知っているような気がした。この場所を知るためにも、早くあの子に話し掛けたかった。
あと三歩という所で足が止まる。これ以上進めない。まるで見えないガラスの壁でもあるかのようだった。
手を伸ばしても触れられず、呼ぼうにも名前が分からない。
どうしようかとしゃがみこんであの子を覗きこんでみたら、分厚い眼鏡の奥の目は泣きそうな形をしていた。
知らない子だ。名前さえも分からない。だけどあの子の泣き顔は見たくないと思った。
しかしどうする事も出来ない。ガラスの向こう側は、まるで違う場所にいるかのようだった。

気が付くと景色は変わっていた。鎮座していた大きなコンピューターの代わりに大きなケーキが鎮座し、無機質な機械だらけの場所はお菓子がたくさんある場所に変わっていた。
あの子は相変わらず椅子に座って俯いている。変わっていたのは泣きそうな顔だったのが、泣きそうな笑い顔になった事だ。
静かに笑うあの子をガラスのこちらから眺めると、頭にコツンと何かがぶつかった。拾ってみると飴だった。上を向くとバラバラと飴が降っている。
いつの間にか自分の手には傘が握られていた。飴が傘に当たってボスボスと重い音が辺りに響く。周りに飴が散らばった。
あの子が笑うと飴が降る。
あの子は寂しそうに微笑む。
飴は降り止まずに、バラバラと降り注ぐ。
飴が積もり、膝をお腹を肩を埋めていく。頭まで飲み込まれて思わず目を瞑った。
息苦しいかと思ったら、全く苦しくない。目を開けてみると宙を浮いていた。

空のような宇宙のような空間の中、ふわふわと浮かんでいる。握られていた傘は消えていた。
あの子はこの空間の中でぽっかりと浮き上がり、何もない場所に座って膝を抱えていた。顔を膝に埋めているので表情は見えない。
三歩という近い場所にいても何も出来ない。それがとても嫌だった。
早く何とかしなくては。そう思うが、やはり向こう側には伝わらない。
知らない子にこんな胸を締め付けられる気持ちにさせられるのは不思議だったが、この気持ちになるのは当たり前だという気持ちもある。
ふわふわと浮かんだ空間の中で、上下も分からない中、あの子を見つめる。
相変わらず表情は見えない。だけど、きっと泣きそうな顔をしているはずだ。あの子は意地っ張りで天邪鬼で素直じゃないから。泣かずに笑うあの子のあんな顔は、もう見たくなかった。
だから、早く。あの子が泣く前に。
本当の涙を流さないように。

「クルル」

俺が、笑わせてあげるから。
あの子が顔を上げた。驚いた表情をしてこちらを見ている。泣きそうな顔よりその顔の方が嬉しかった。
ガラスはまだ存在している。あの子は怪訝そうに目を細めている。
そんなあの子に俺は笑った。
大好きなあの子を安心させるように。
まだ会えてないけど。まだ一人かもしれないけど。
何時か会いに行くから。
クルルの為なら全てを捨てる馬鹿になれるほど、俺はクルルが好きだから。

「待っててね」

俺が笑わせてあげる。






無重力ナイト



何時か、拐いに行くよ。



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