ふと思った。
俺は、貰いすぎていないだろうか。



奮闘レガーロ



クルルー、新作カレーだって!思わず買っちったー!
見てー、これ欲しがってた部品じゃね?

思い返せば、様々な物を貰っている気がするし、物片手に笑いながら駆けてくる姿もよく見られる。
それはカレーに始まり、部品、アイディア、その他諸々。間違いなく貰いすぎだ。
大体、俺はそんなキャラじゃない。俺が貸して理不尽な請求をする、ニヒルでクールな悪役でいいのだ。その俺が借りばかりあるなんて有り得ない。
だから、何とかして返さなければ。そう思った。何とかして返さなければ、俺のキャラとプライドが許さない。

でも、どうやって?
それが俺を悩ませた。どうやって?簡単じゃないか。好きな物でも渡せばいいのだ。
あいつの好きな物といえばガンダムだ。ならばガンプラでも渡せばいい。
その案に、俺ははたと気付く。ガンプラか?ガンプラなのか?ガンプラしか思いつかねぇ。
頭を抱えた。

ガンプラって、ありきたり過ぎるだろ。



だから、意を決して聞いてみた。
アンタは何か今欲しいとか思うもんないのかい?
んー?クルルからの愛?
返って来たのは却下に決まってる答えだったから、余計に頭を抱えた。
やはりガンプラか。しかし、あいつ既存の物は大体持ってるぞ。新作も予約したと嬉しそうに言っていた。
それに。ガンプラなんて誰でも買えるだろ。
どうせならありきたりな物ではなく、驚かせるもんをやりたいと思った。思ってしまった。
だから今頭を抱えまくっているのだ、心の中で。



俺のラボで俺に話し掛けるでもなく、むしろ俺なんか関係なく何時ものようにガンプラ制作に励んでいる隊長を、俺は冷めた目で観察した。
ここ数日観察して分かった事は、この人のサボり癖と怠惰心と適当さだけだった。いや、他にも怒られ具合とか余計な言動とかもあったが、全てマイナス面ばかりで乾いた笑いしか出て来なかった。現に今も日向夏美に怒られて、仕事をボイコットしてガンプラ制作だ。自分の部屋でやれ。
鼻唄混じりにガチャガチャ弄っている隊長を眺めながら、重い頭で何で俺こんな頑張ってるんだろうかと考えてげんなりした。
借りっ放しはキャラじゃないが、こんな悩んでるのもキャラじゃない。
やってらんねぇとも思うが、意地が出て来たのか引くに引けない。

実は数日前に隊長に盗聴器を付けてみた。
勿論欲しい物を見付ける為だが、付けた時に自分で何やってんだと思った。嫌がらせのネタじゃなくて、こんな事で付けるなんてホント有り得ねぇ。
しかし背に腹は変えられないと付けて盗聴してみた。ぶっちゃけ隊長の私生活なんて知りたくもないし、聞きたくもないが仕方がない。
盗聴開始から数時間後。付けてみたその日の夜。
気持ち悪い声を聞いた。

『クルルと遊びたいなぁ。最近遊んでないしー。デートにでも誘おっかなー、でもクルル照れ屋だから素直に承諾してくれないんだろーなー。あ、でもそこが可愛いんだけど!』

すぐに止めた。
鳥肌が立ちまくった。思わずラボで一人「きっも!!」と叫んでしまった程だ。
こいつ何一人で気持ち悪い事言ってやがるんだ、痛すぎるだろ。
盗聴作戦は失敗だった。



そんなこんなで俺の頑張りは意味を成さず、結局分かったのは隊長のマイナス面と気持ち悪い独り言のみだった。
俺らしくもない行動をした結果がこんな物なんて、そりゃあ冷たい視線も送りたくなるだろう。あそこで楽しそうにガンプラ作っているあいつが憎い。
俺の三割増しになった視線に気付いたのか、隊長と目が合った。
いきなりの事で思考していた頭が止まり目を見開く。そんな俺に対して、隊長は目が合った後ニヒッと笑った。

「どしたのクルル〜、そんな考え事しちゃって」

そんなに見詰められると我輩恥ずかしー、とゲロゲロ笑うクルルに、悩んでいた俺が馬鹿みたいだった。いや、馬鹿なんじゃねぇの?
何か悩むのが馬鹿らしく感じて、俺は何もかも放り出した。もう面倒臭ぇ。

「あんた欲しいもんとかねぇのかい?俺からの愛以外で」

直球で聞けば分かるだろ、と投げやりに聞く。
以前聞いた答えは却下だから、初めから否定しといた。こいつの事だから、また恥ずかしげもなく『俺からの愛』を要求しそうだ。
『俺からの愛』を却下された隊長は、「えー」と唇を尖らせていたが、ガチャガチャ弄っていたガンプラを置いた。

「まあ欲しい物はたくさんあるんだけどさー」

と、ぼやきながら、隊長は俺に正面から身体を向ける。

「何でか知らないけど、それ、クルルがくれるんでしょ?」

「まあなぁ」

「だとさー、ありきたりな物だと勿体ない気がしちゃうんだよね」

「はあ?」

思わず俺は素っ頓狂な声を上げた。貰う側が勿体ない?
俺が思い切り顔をしかめた所為か、隊長は諭すように、でも何処か小さな子供のように俺に言った。

「ガンプラもゲロロ艦長グッズも食べ物も本も欲しいけどさ、クルルがくれるって言ってるんだから特別な物がいいなって思って」

あ、クルルがくれるなら全部特別なんだけど!
そう言ってゲーロゲロゲロと笑う隊長に、俺は脱力した。
自惚れではなく、俺が何かやれば隊長は阿呆みたいに喜ぶとは思っていたが、実際に本人から言われると何とも言えない。
それに。そう思っていたからこそ、俺はあんなに悩んだのに。
特別な物って何だと思ったと同時に、特別な物を見付けて渡す事が出来なかった自分に妙に腹が立った。
しかし、そんな俺に隊長は笑った。

「それにさ、俺はもうクルルから貰ったよ?」

笑って言われた言葉は意味が解らなかった。
だって、俺は何もやれてない。貰ってばっかりで、何一つ返せていない。

「・・・何を」

返せたと言うんだ。何を言っているんだ。
自分でも分からない物を怪訝な表情で隊長に聞くと、隊長は目を細めた。

「クルルの気持ち」

心臓が跳ねた気がした。
隊長は心底嬉しそうに笑っている。
俺は固まりそうになった顔を隊長が気持ち悪い所為だとごまかし、片端だけ口角を上げた。

「・・・・・・そんなベタでお約束な事よく恥ずかしげもなく言えるなぁ」

「だって本当のことじゃん」

皮肉めいた表情で紛れも無い皮肉を言えば、隊長は唇を尖らせながら楽しそうに笑った。
そんな隊長にため息が出る。

「はー、馬鹿だねぇ」

心の底から思った事を、俺は心の底から隊長に同情して言った。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、此処まで馬鹿だとは。
俺の同情という滅多にない物を受け取った隊長は、相変わらずゲロゲロ笑っていた。

「馬鹿だもーん。すっごく嬉しかったよ?あのクルルが我が輩にプレゼントしようと思ってくれたとか、いっぱい悩んでくれたとか。愛を貰いました!」

「・・・やった気はないんだがなぁ・・・」

満面の笑みで笑う隊長に対して、俺は力無く呟く。口元は緩んでいた。
全く、この馬鹿は何がどうなったらそんな思考回路になるのか分からない。
てゆーか愛ってなんだよ。そんな不透明で不可解な、自分ではやった気はない物でそんな喜ぶのかよ。
結局一番最初に聞いた隊長の欲しい物になってんじゃねぇか。俺のあの頑張りは何だったんだ、と怒りを覚える前に呆れ果てた。
そんな俺の心情を察したのかはよく分からないが、隊長は「んんー?」と唸った後言った。

「それが嫌ならさ、今度デートしようよ。そこで欲しいの買って?デートも出来てクルルからプレゼントも貰えてクルルは楽しむ。まさに一石三鳥!」

一石三鳥なのはあんただけだと突っ込みたかったが、それよりも早くデートという言葉が気になった。
真っ先に思い出すのは、盗聴した時の気持ち悪い独り言。
・・・こいつ、まさか盗聴に気付いていたんじゃないだろうか。だから、あんなこれみよがしに言っていたのではないだろうか。
そう考えて、俺は面倒臭くなった。そんな事はもうどうでもいい。せっかく欲しい物が提示されたのだ。
言おうとしていた物を全て飲み込んで、俺は違う言葉を口にした。きっと今、俺の顔は今日で一番嫌味な顔をしている気がする。

「・・・しょうがねぇなあ。奢んのは一回だけだぜぇ」

他はあんたが全部奢れよ。そう続ける。
ちょっとした仕返しだった。冗談混じりでも隊長が文句を言うかと思ったが、実際は反対だった。

「マジで!?ヤッフー!クルル大好き!!」

隊長は俺の理不尽な要求を意にも介さず、そう言って喜んだ。
その真っ直ぐな言葉と喜んだ隊長の顔が妙に眩しくて。
俺は嫌味も言えず、首を掻きながらラボの冷房を下げた。






END



デート当日、買わされたのはありきたりな二つで一つのキーホルダーでした。





























――――――――

27100打を踏んで下さった若菜様に捧げます、緑黄です。

ちょっと頑張るクルルとのリクエストでしたが、頑張ってます・・・かね?
クルルって頑張るイメージがないので、こういう頑張りをしてたらいいなと私の趣味がガッツリ入りました。楽しかったです。
あと捻くれ具合を頑張りました!

ケロロはクルル大好きなので、きっと何を貰っても喜ぶはずです。この二人はバカップルですよね!



27100打と素敵なリクエスト、ありがとうございました!



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