何時も見えるイヤフォンは半分隠れ、頭と肩はすっぽり覆われている。
夜も更けた時刻にそんな状態でテントの中に入って来たクルルに、ギロロは何と言えばいいのか悩んだ。

「・・・・・・何だ、その格好は」

とりあえず、真っ先に浮かんだ疑問を聞く。
クルルはにんまりと笑って、着ていたポンチョを広げた。

「似合うだろ?」

はたはたとポンチョをはためかせて笑うクルルの言葉に、ギロロは照れるでも怒るでもなく首を傾げた。

「・・・何故赤なのだ」

クルルと言えば黄色か橙色を思い描くし、本人もその色を愛用している。だから、ポンチョを着るにしても黄色か橙色であるはずだ。
しかし、実際着ているのは赤いポンチョ。フードから前で縛る紐まで全て赤で統一されている。
何故赤なのか。クルルがポンチョを着ている事より、赤を着ている事が疑問だった。
首を傾げるギロロに、クルルは楽しそうに笑う。

「見て分からないっすかぁ?」

はたはたとポンチョをはためかせたまま、クルルはギロロを見据える。
しかし、いくらポンチョをはためかせてもらっても見据えられても分からず、腕を組んでますます首を傾げる。

「すまないが、分からんな・・・」

思い悩みながら素直に言うと、クルルは独特の笑い声を上げた。

「なあに悩んでんだか、見たまんまだろーがよ〜。赤頭巾だよ、赤頭巾」

「・・・ああ」

だから赤なのか。
そういえば、最近ケロロの奴がやれ三匹のこぶた作戦だのマッチ売りの少女作戦だの言っていた。その中に赤頭巾作戦というのもあったような気がするな。だからこいつは赤頭巾なんか被っているのか。そう納得すれば、クルルはまたくつくつ笑った。

「まあ頭巾なんかねぇからポンチョなんすけどね。似合うだろぉ?」

「まあ。そう、だな」

普段自分が愛用している色を褒めるのは何だか気恥ずかしかったが、確かに似合っているから頷いた。赤い物を持っている事さえ見た事がないクルルだが、赤も合っていると言えるだろう。
ギロロが頷くと、クルルは笑ったまま座っていたギロロに顔を体ごとずい、と近付けてきた。

「先輩、知ってるか?」

近距離で細められている瞳に見詰められる。ギロロはいきなりの行動と距離に目を見開いてクルルを見る事しか出来なかった。
ギロロを見詰めながら、クルルが赤いポンチョを摘む。

「赤ってのは興奮する色らしいぜ?血の色に似ているとか視覚神経が刺激されるとか言われてるが、原因や根拠なんかはどうでもいい。大切なのは興奮剤になるって事だ」

楽しそうに言うクルルの言葉に、思わず赤いポンチョへと視線が落ちる。丈が長いそれは、クルルが座っている為に地面に広がって自己主張しているかのようだった。
地面の赤がゆらゆらと波立つ。ポンチョを摘んだまま揺らすクルルは、ギロロの視線を追うようにポンチョを見下ろした。

「ちなみになぁ、女の赤は特別なんだ。初潮、つまり生理になった事を示すんだよ、もう大人に成ったってな。それに赤は誘惑の色でもある。つまり性的な意味合いが含まれてくるんだよ」

「貴様何を・・・っ」

まあ、俺は女じゃねぇが、先輩相手なら当て嵌まるだろと自ら赤を身につけて言う予期せぬ話題に、ポンチョから視線を外しクルルを見れば、クルルはゆっくりと顔を上げて微笑んだ。それは、今までの笑い顔とは全く違う物だった。
言うなれば、妖艶。色香。誘惑。
そんな微笑みだった。
その微笑みに、ぞくりと粟立つ。しかしその笑みは一瞬で消え、一転してまた愉しそうな何時もの表情を浮かべた。

「で、今俺は赤を着ている。ここまでくりゃあ分かるよな。まあ、それだけの意味じゃないんだがな」

「それだけじゃない?」

どういう事だ、と視線だけで聞く。口の中はカラカラに乾いていて話しにくかった。妙に熱いし動悸もする。いや、しかしあのクルルが有り得ないと内心首を振って考えを蹴散らした。
赤の意味合いだけではなく、クルルがこんな時間に来た事、ポンチョを来ている事、そして訳の分からない話題の意味全てをその視線に込めて聞いた。そうしないと、平然とした態度がとれそうになかった。
クルルはそんな視線を飄々と受け止めて、ポンチョの下から腕を出した。
すい、と至近距離にあるギロロの身体をその指が突く。

「赤はさ、あんたの色だろ?」

「な・・・っ!」

そう挑発的に笑うクルルの言葉を理解する前に、一気に顔が熱くなった。

「言うなれば、俺は今あんたに染められてんだ」

全部、あんたのにされてんだよ。
ギロロの赤い部分を指で触れながら、クルルは口元を緩めて言った。
口元は笑っているが、眼鏡の底に見える瞳は真っすぐギロロに向けられている。
ギロロは息を飲んで、自身の拳を握る。クルルが触れている場所が主張するように意識が集まる。それが分かったのか、クルルは挑発するように、拗ねたように言った。

「でもこんな色だけじゃ嫌なんだ」

だから。
ちらり、とポンチョを見下ろした後、クルルはギロロの首に腕を巻き付けた。
そして、今日一番の近さと妖艶さで微笑む。

「あんたのにしてくれるかい?」

あの俺が言ってるんだぜ、と嗤うクルルに、ギロロは我慢していた感情が一気に溢れ出すのを感じながらクルルを抱きしめた。
抱きしめられた赤頭巾は満足そうに笑っていた。






冠物セデュース



狼にしてあげる。



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