ああ、これは夢だなと分かる時がある。

それは時折見る夢。
同じ場所で、同じ展開。
同じ、あの時の場面。


―――やるんだ!デビルガンダムの呪いから私たちを解き放つ為にも!

―――いやだよ、兄さん!僕には出来ない!


響く夢の中の自分の声。
対峙するのは、デビルガンダムに捕らわれている兄。
それを少し離れた所から眺めている、今の自分。

兄が死んだ場面。
自分が殺した場面。

仕方のない事だったと分かっている。兄が望んでいた事も知っている。
それでもやはり自分を許せないんだ。
兄を殺した事が。師匠を殺した事が。


―――ありがとう、ドモン。


自分が放った光に飲み込まれながら、兄が、キョウジとシュバルツが微笑む。
その微笑みが、今度は師匠のものと変わった。


―――今こそお前は、本物のキングオブハート・・・


光に包まれながら、師匠はそう柔らかく笑った。
身体を病に侵されてもなお、地球を思い、自然を蘇らせる為にデビルガンダムを使い人類を抹殺しようとした師匠は、最期にはただの人として、俺の師匠として死んでいった。


―――見よ、東方は赤く燃えている。


死なせたのは俺だ。
俺がこの手で師匠を殺したんだ。
自分の腕の中で動かなくなった師匠を抱きしめながら、俺は慟哭する。
それを遠くから眺めて、俺は拳を握った。

何度も見てきた夢。
毎回見る事しか出来ない夢。
どうせ夢なら書き換えさせてくれればいいのに、現実と全く同じで何一つ変わっていなかった。
それを見せられるのは辛かったが、同時に安心した。
俺はまだ、あの人たちの事を覚えているんだと。
過ぎていく日々に流されそうになりながらも、忘れてはいないのだと。
不謹慎にも、そう思ってしまうのだ。

「流派東方不敗は王者の風よ」

師匠の最期の言葉を紡ぐ。

「全新系列」

兄の最期の顔を思い浮かべる。

「天破侠乱」

目の前で泣いている過去の自分を見る。

「見よ、東方は赤く燃えている」

自分は彼らを殺してまで、生きる価値があったのだろうか。
ふと、そんな事を考えたら世界が反転した。






「ドモンっ!大丈夫?」

反転した世界にはレインがいた。
ああ、夢から覚めかのか。そんな事を思いながら、やけに鳴り響いている心臓に手を当てた。

「随分魘れていたけど、大丈夫?」

その顔は心配そうに歪められ、俺を覗き込んでいる。
俺は息を整えるように深呼吸しながら身体を起こした。

「ああ、大丈夫だ。ちょっと夢を見ただけだ」

心配ないと言えば、レインはそれ以上聞かずにそう、と笑った。

「せっかくいい天気だったのに、ドモンたら寝てるんだもの。起きたなら買い物に付き合ってくれない?」

ドモンが寝てるからつまらなかったのよ?
そう言って悪戯っぽく笑うレインに、心臓の動悸が治まっていくのを感じた。

「悪かった、支度をしてくる」

苦笑しながら腰を上げ、自室へと向かう。
そういえば、あの夢を見た後は必ずと言ってもいい程レインと過ごしている。
修行もせず、今日のように買い物だったりただ取り留めのない事を話したりする。
それを自分が望んでいるのか、レインが察してくれているのかは分からない。
だが、レインと居ると落ち着くのだけは分かった。

「遅いわよ、ドモン」

支度をし終わってリビングに行けば、レインはとっくに終わっていたのだろう、ソファーに座って腕を組んでいた。

「すまない、手間取ってしまって」

謝りながら近付けば、レインは何も言わずに玄関へと向かった。そのまま靴を履き外へ出る。
怒らせてしまったかと思い慌てて追い掛けたら、道路に立ってレインは「はい」と手を伸ばしてきた。それに俺は首を傾げる。

「お詫びに今日一日手を繋いでね」

言いながら、レインは俺の手を取り指を絡ませてきた。固まっていた俺は、その指の感触に今度はうろたえてしまった。

「レ、レインっ!」

「あら、駄目かしら」

「駄目じゃないが・・・っ!」

「じゃあいいのね」

そうにっこり笑われれば、もう何も言えなくて。
茹蛸のように真っ赤になっているだろう顔を見られないように、繋がっているレインを引っ張るように足を進めた。

「ねぇドモン」

「・・・何だ?」

恥ずかしさや何やらで一杯一杯になっていると、後ろからレインの声が聞こえてきて速度を落とす。横に来たレインに聞けば、レインは柔らかく微笑んだ。

「私ね、ドモンとなら大丈夫よ」

そう柔らかく笑うレインの顔が、兄と師匠の顔と被った。
その時、唐突に理解した。
俺は生きていたいんだ。レインと共に。

自分勝手過ぎる考えだと分かっている。
兄と師匠をこの手で殺して、償い方も分からず日々に流されていく。
夢の中でだけ、あの時の痛みを思い出せる。

それでも。
すみません。
それでも。
俺は、今、幸せなんです。

「・・・俺もだ」

繋がっている手に力を込める。
傾いた太陽が、赤く燃えていた。






メメント・モリ



だから、痛みと幸せをこの胸に。



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