「お前あっちでどうしてたんだ?」

ふと気になった事だった。
だから、意識せずに口から滑り落ちた。

「は?何が?」

いきなりだったからか質問の意図が解らなかったのか、聞かれた相手である達海も打って返すように聞いてくる。「てか、今?」と呟いていた。

DVDや資料が散乱した狭い部屋のベッドに達海が寝転んでいる。その達海の上に、俺が覆いかぶさっている。
誰が見ても明らかにこれからの行為が分かるだろう。
そんな中、俺は聞いたのだ。

「どうしてたってフットボールやって出来なくなって監督やってたけど」

自分なりに意図を考えたらしく、達海はイングランドでの出来事をおおざっぱにまとめた事を言った。
それは解答としては正しいだろう。確かに俺も達海がイングランドで何をしていたか詳しくは知らないし、気にもなっていた。
だが、今回の質問の意図はそれじゃないんだ。

「いや、そうじゃなくて」

自分で聞いておきながら、思春期の餓鬼みたいだと小さく笑ってしまった。
俺の下にいる達海は、そんな俺に片方の眉を器用に上げて唇を尖らせた。「じゃなくて、何?」と続きを催促してくる。

「だから、こういう事」

自分達の体勢を見て、達海と目を合わせる。
達海は俺の顔から自分の横に置かれている手を見、覆いかぶさっている身体を上から下へと眺めてから、俺がしたように目を合わせた。

「どうしてたってセックスの事?」

恥ずかしげも驚きも嘲りもなく、普段通りの飄々とした顔で言った達海に肯定すれば、達海は緩やかに口角を上げた。

「お前、んな事気にしてたの?思春期の餓鬼じゃねぇんだからさ」

さっき自分で笑ってしまった事を指摘され、思わず苦笑してしまう。
本当、思春期の餓鬼じゃあるまいし。
そう思うが、気になってしまったからしょうがない。

「悪いな、俺もまだまだ若いらしい」

「いやお前もうオッサンだろ。そんな事考えるなんて歳だよ、歳」

軽口を叩けば、達海はハッと小さく笑って返した。
全くもってベッドの上での会話らしくないが、そんな事はもう何年も、それこそこいつがイングランドに行く前の現役時代からだ。別にしょっちゅうしていた訳でもないし、今までの行為も両手で数えられるくらいだが、その数えられる全てがこんな感じだった。
ムードも何もなく、久しぶりに会ってもそれは相変わらずで。達海も相変わらずだった。

「何年あっちだったと思ってんの、そりゃセックスくらいするよ。お前もだろ?」

「そりゃあな」

ごまかしも嘘もつかず、意地の悪い顔と共に達海はあっさりと答えた。
対する俺も似たような顔になっているのだろう。
そんな俺に達海はカハッと吹き出した。

「お前、聞いといてそれかよ!そこは俺はお前と右手だけだぐらい言っとけよ」

よほどツボだったらしい、笑い転げている達海は時折苦しそうに噎せていた。
噎せる達海に「大丈夫か」と声を掛けたが「無理」と言われてしまった。身体を横にしヒーヒー言っている達海の背中を摩ってやれば、段々落ち着いてきたらしく呼吸を深くし息を整えていた。
手を抜き目尻に溜まっていた涙を拭ってやると、達海は大きく息をし口を開いた。

「まぁ、俺何かと忙しかったしフットボールの事ばっか考えてたから、誘われたらとか性欲満たす為ってのが多かったね」

思い出すようにゆっくりと、しかし淡々と達海は言う。

「しかもあっちはこっちみたいにあんま性別気にしないだろ?だから男女ぼちぼちだったんだけど、」

軽い相槌を打ちながら聞いていたら、達海の腕がいきなり俺の首に巻き付いた。足も腰を挟むように回される。
身体をがっちりと固定されたまま達海を見れば、達海は自分の下で目を細め笑っていた。

「そん中で、一番気持ち良かったのは後藤だぜ?」

誘うというよりも挑発的に笑う達海に、腑に落ちないが妙に胸が軽くなった。
これじゃまるっきり餓鬼みたいだとため息を吐き、今ニヤニヤと笑っている達海の前髪を掻き上げる。

「・・・お前、誘うの上手くなったな」

昔と変わらないように見えて変わっているんだな、としみじみ考えて、ニヒーと悪戯が上手くいった餓鬼みたいに笑う達海の額に口づけた。






エスカルゴ



子供のように戯れ合おう。





















―――――――

一応10年前から関係はあったけど、付き合ってはいなかった二人。

この話の中では付き合ってるのか分かんないけど、これから精神面も近付いていけばいいと思う。
そして40歳近い大人がアワアワしてればいい。男前誘い受けタッツミーが好きです!



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