「少し哲学的な話をしようぜ」

死神が目の前で笑った。

「性善説と性悪説ってのがあるのは知ってるよな。昔の偉い学者さんが唱えた奴らしいけど」

俺が何も言わないでいれば、死神は勝手に話し始めた。
死神を名乗るこいつが哲学を口にするのはおかしいのではないかと思うが、それを指摘すれば言葉の量で強引に押し切らるのは目に見えているので黙って俺は聞く。

「人間の本性は善であり、思いやりが底にあるっつーのと、利益を求めるのが人間で、生きていく上でいろいろ学んで欲望を押さえ善になるって奴だけどさ、んなのどっちもあるんじゃねぇの?」

聞いているのかも分からない俺に対して、死神は気にもせずに話を続ける。

「大体善悪ってのは何なんだろうな。思いやりが善?自然な欲望が悪?何だよそりゃあ」

言葉は止まらず、滔々と淡々と空気を震わす。

「本性に悪がない奴がいたら、もしそのままそいつが育ったら、間違いなくそいつは死を選ぶね。逆も然別だ。善がない奴は普通の人間として生きて行ける訳がねぇ。だから無意識に反対の衝動を求めて、何とか普通という存在にしがみつく」

死神は何を考えてか、嘲笑うように顔を歪めた。

「基本的には今は性悪説が主流だ。人間は利己的で自分が一番可愛いってね。俺もそう思うぜ?俺達が今やってる戦争なんか人間のエゴの塊だ、あのお嬢さんも含めてな。・・・・・・あー・・・いや、別にお嬢さんが悪いとは言わねぇさ、平和は人の願いだしな。だが性悪説で言ったらそうなる訳だ。で、性善説ではどうなるか。お嬢さんなんかは人を思って、平和を願っての行動で、自分の利害を考えず人の為に尽くす善良な存在になる。・・・俺ぁ、この二つの説ってのが良く分かんねぇんだ。美味い物が食いたい、綺麗な物が見たい。んなの当たり前の事だろ、何がいけないんだ。思いやりや慈愛なんて誰にでも少しはあるだろ。そんな当たり前の事を、何で善と悪で分けるんだ。自然な欲求まで悪にされて、思いやりを努力して手に入れろってのはおかしいだろ」

それはもはや俺に対してではなく、自分自身に対する問答。
ただの疑問を口にしているだけだ。

「つまりだ。善悪っつう思想と解釈と手段の違いで変わっちまう不明確な物なんて、意味があるとは思えねぇんだよ、俺には。結局の所、人間はそん中に善も悪も灰色部分も何もかも入ってるし、それが一つしかないようになったら人間だとは思えない。エゴも思いやりもなくなったら、人間らしくないだろ?所詮性善説と性悪説なんて、人の夢なんだよ」

「・・・・・・人の夢?」

聞こえてきた言葉が、やけに気になった。
人の夢?今言っていた事が?
俺が反応したからか、死神は感嘆の声を上げわざとらしく驚いていた。

「お前が自分から話に入ってくるとはなぁ」

そう言っている死神は、端から俺との会話は期待していなかったらしい。
いやはや成長かな、等と零している死神に鋭い視線を向ければ、悪い悪いと軽く笑って奴は話を戻した。

「だからさ、性悪説ってのは人間賛美なんだよ」

「人間賛美?」

「そう。元々は欲望だらけの利己的な存在なのに、学ぶ事によってこんなに貴い存在になれるんですよ、人間は素晴らしいんですよってね。性善説も似たような感じだろ?人間は生まれ持っての貴い存在で、仁徳に溢れてる。まぁ言っちまえばどっちも同じみたいなもんで、性善説と性悪説は言い方を変えた逆説同士なんだよ。人間賛美で救いを求めて夢に縋る。この二説が人間のエゴから出来てると言っても過言じゃねぇよな」

そう締め括った死神に、俺は眉を潜めた。

「それは極論すぎないか?」

「極論さ。だって俺の考えだぜ?」

言うだけ言ってみれば、死神はさも当たり前だろと答える。
俺はそれに小さく鼻で笑った。

「じゃあお前はどうなんだ」

まるで五飛みたいな言い方だ。
何が、は自分でも良く分からなかった。
聞かれた本人は、先程よりも目を丸くし驚いていた。しかしそれもすぐ意地の悪そうな笑みに変わった。

「俺は死神だぜ?人間の哲学なんか関係ないね」

そう笑う死神は、何処か自嘲しているように見えた。
確かに死神には人間の思想なんか関係ないなと考えていると、奴はあっさりと意味の分からない言葉を投下しつきた。

「あ、俺ヒイロに憑いてるからさ、死神憑きのお前も関係ないんじゃね?」

「・・・貴様、俺に憑いてるとはどういう意味だ」

「うわぁぁああ!!おま、今掠った!」

「俺の引き金は軽いと言っただろう」

「軽すぎるわぁ!!」

取り出した銃で奴の背中の壁を狙えば、肩に掠ったらしく死神は煩く喚いた。死神を名乗るなら、もう少し静かに出来ないのかこいつは。

「次は狙うぞ」

狙いやすい腹辺りに銃口を向ければ、死神は慌てたように両腕を上げた。

「言う!言うから銃を下ろせ!お前じゃ冗談に聞こえねぇんだよ!」

そう言われて銃を下ろす。その際に舌打ちをすれば、死神がビクリと身体を震わせていた。

「どういう意味が言ってみろ」

まっすぐ見据えて切り出すと、奴は大きなため息を吐いた。

「そんな大した理由じゃねぇよ。今俺とお前は戦場でのパートナーだろ?だからお前に憑いてるってのもあながち間違った表現じゃないと思ったんだよ」

「くだらないな」

笑いながら言う死神に、俺は一言で返した。そんな俺の返しを気にもせず、死神はだからさ、と続けた。

「きっとお前も大丈夫だぜ」

「・・・・・・」

何がだとか、死神が憑いているのに大丈夫なのかとか、言いたい事がたくさんある台詞だったが。
笑顔でピースサインなんかしているこいつに何か言うのもくだらなくて。

「・・・結局性善説と性悪説を話した意味は何だったんだ、デュオ」

「ん?俺の歪んだ思想と勝手な解釈と暇潰しの手段。意味なんてねぇよ」

それだけ聞いて、俺は銃を奴に当たるギリギリに撃った。







克罹パラドックス



死神が憑いてる限り、俺は大丈夫らしい。



















――――――――

何が言いたかったか分からなくなった!

性悪説は、「生まれながらの悪人」ではないそうです。
つまり「人間元々悪い存在なんだから、犯罪や悪い事をしてしまうのはしょうがないんだ!」というのは違います。この場合の「悪」は、欲望の事を言うそうです。
哲学って難しい!

と言う事で、これは勝手な解釈でしかも間違った受け取り方かもしれないので、話半分でお願いします!



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