「お、坊主ー。クルーゼ知らない?」

重い書類を抱えながら歩いていたデュオは、前から歩いてきた人物にそう問い掛けられた。
書類が余りにも多い為、危なかっしい足取りで歩いていたデュオは、その声で立ち止まる。顔を上げれば、そこには予想していた通りムウがいた。

「クルーゼ?・・・あぁ、あの仮面着けた・・・」

ムウの言葉に少し考えて、ある一人の人物を思い立った。あまり見た事はないが、確か彼がクルーゼだった筈だ。

「そう、その仮面着けた奴なんだけど見なかった?」

「う〜ん、見なかったなぁ。見かけたら絶対覚えてると思うし」

もし人とぶつかってしまったら大変だと思い、ちゃんと人が来たら確認していた。怪我とかの前に書類が危ない。
それにあんな仮面を着けていたら、例え視界の隅に横切っただけでも覚えている自信がある。それはムウも同意見らしく、だよなー、と頭を掻いた。

「あんな仮面着けてたら強烈だしな。・・・うん。まあ、その内会えるだろ」

「そんなんでいいのかぁ?」

探していると言っている割にはあっさりとそれを放棄したムウに、デュオは呆れたような声を出した。それにムウは、ぱたぱた手を振りながら、「いーのいーの」と軽く応えた。

「どうせあいつの用だし。俺達繋がってるから、その内バッタリ会うだろ」

「・・・繋がってる?」

意味がよく分からず首を傾げたデュオに、ムウは自分の頭を指で叩きながらニッ、と笑った。

「そ、ピリリリーンってね。坊主、それ半分寄越しな」

「お、持ってくれんのか?さんきゅー」

簡単な説明で流されたが、持ってくれるのは有り難いため、デュオはそれ以上聞くのを止めて礼を言った。
ムウがデュオから書類を取っていく。半分と言っていたが持っていった書類は3分の2はあり、デュオは甘えるべきか悩んだ。持ってくれるだけでも有り難いのに、そんなに持たせていいのだろうか。
そう悩むデュオに気が付いたのか、ムウは笑ってウィンクをした。

「可愛い子には優しいのよ、俺」

おちゃらけたようにムウが言う。そう言って笑っているのだからいいのだろう。そう考えて、デュオは納得した。
空気が読めるというか、相手に気を使わせないのが上手というか。ヒイロにも見習わせたいものだ。・・・いや、ただのたらしから来るものかもしれない。そしたらヒイロには一生無理になるな、と頭の片隅で考えた。

「言い付けちまうぜ、おっさん」

「おっさん言うな!」

とりあえず、男なのに可愛いと言われた事がそれほどでもないが気になったので、軽い仕返しをしといた。返ってきたのは素早い反応。ディアッカが以前、戦闘中でもすぐに突っ込んできたと言っていたのを思い出して、思わず笑った。
ムウは笑っているデュオにため息を一つ吐いて、自分の持っている書類に視線を向けた。

「それにしてもすごい量の書類だな。どうすんだ、これ」

「ゼクスに渡すんだよ。シンと刹那が溜めに溜めやがってな、しかも見直しを俺に頼んできやがった。流石の俺も一人じゃ無理だってんでヒイロに頼んだら、ヒイロの奴俺は関係ないって一刀両断だぜ?腹が立ったから、ゼクスに押し付けようと思ってこうして歩いてるって訳よ」

シンなんかアスランに頼めばいいのによ、人気者は辛いぜー。
そう早口でまくし立てたデュオは、わざとらしく肩を竦めていた。それにムウは苦笑した。
そして、その時出て来た名前の人物について、そういえばあんまり話した事ないなぁ、と考える。

「彼も仮面だったんだっけ?」

結果思い出した事は、彼も以前仮面を着けていたらしいという事だった。仮面の印象はやっぱり強烈らしい。
デュオはそれにあっさりと返す。

「あぁ、ゼクス?そうそう、あんたと同じヘルメット型の。で、なんでか知らないけど割れちまったらしくて今はしてねぇんだって」

「ほ〜、割れるってのはすごいな」

「何したんだって話だよな」

そう言って、デュオはかはは、と笑った。
仮面という物は簡単には割れる物ではない。ヘルメット型なら尚更だ。それが割れるのだから、何かよっぽどの事をしたのだろう。同じ仮面を着けていたムウとしては、割れた理由も気になるが、アレを割ったという事への称賛が胸に浮かんだ。

「そういや、俺も気になってたんだけど、なんであの人何時も仮面着けてんの?」

並んで歩きながら話す。
時折すれ違う人が、珍しい組み合わせだと声を掛けてくる。

「んー?・・・・・・んー、それは俺が言っちゃ駄目な事なんでな、教えられないんだ。悪いな、坊主」

多分アレの理由を知っているのは、ムウとキラだけだ。きっと言っても怒らないが、良い気分はしないだろう。それに自分が言う事でもない。
だからデュオの誰もが思っているであろう疑問に、ムウはへらりと笑った。
そんなムウにデュオは気にした風でもなく、反対に悪いと思ったのか、素直に謝った。

「あ、いや、こっちこそ悪い。ほいほい理由言えたら仮面なんて酔狂なモンしねぇよなー」

しっかし、あれ蒸れねぇのかねぇ。
のんびりとした口調で、デュオは続ける。廊下に二つ分の足音が響く。

「てか、ここ昔仮面着けてた奴たくさんいるよな。大佐とかグラハムとか」

「あー、赤い彗星?」

ムウがあだ名で応えたら、デュオは楽しそうに笑った。

「すごいよな、赤い彗星ってのも。対で白い流星ってのもいるし。どんだけ速いんだっつーの。あんたはエンデュミオンの鷹だっけ?」

「面と言われると小っ恥ずかしいな。坊主は死神なんだろ?俺、坊主のあれ好きだぜ?『逃げも隠れもするが嘘は言わない』ってやつ」

「うわ、目茶苦茶恥ずい!」

「だろー?」

そう言って、二人して笑った。

「でもさ、昔仮面着けてた奴とか変なあだ名の奴とか集めてみたいよなー」

「俺はみられる側になっちまうから遠慮したいねぇ。仮面勢揃いとか見ててきついっしょ」

「それが面白いんじゃねぇか」

苦笑気味に言ったムウに、デュオはニッ、と笑った。
足音が止み、二人はドアの前で立ち止まる。デュオがノックもせず、肘でドアを開けた。

「ゼクスー、入るぜー」

シュン、とドアの開く音と共に、デュオが部屋へと入って行く。続けて入ったムウは、部屋の中で椅子に座っていた人物に思わず声を上げた。

「あー!クルーゼお前こんな所にいたのかよ!」

「おや、ムウ。どうしたのだね、そんな顔して」

驚いているムウに、クルーゼは澄ましたままカップをソーサーに置く。その落ち着き払った態度に、ムウは益々声を荒らげた。

「どうしたじゃねぇよ!お前がプロヴィデンスの整備を手伝えって言ってきたくせに、こんな所でくつろぎやがって!」

すっげー探したじゃねぇか、と文句を言うムウに、デュオはあっさり放棄しただろ、と突っ込みそうになったがその前に他の声に遮られた。

「ああ、それは私の所為だな。すまない」

テーブルを挟んでクルーゼの向かいに座っていたゼクスが、入口に立っているデュオ達の方を振り返って言ったのだ。

「丁度彼が歩いているのを見かけて連れて来てしまった」

「・・・いや、なんで」

聞いただけでは拉致紛いの事をしたゼクスに、デュオは怪訝そうな顔でそれだけ突っ込む。
それに、ゼクスはふ、と笑った。

「話してみたかったのだよ、彼と」

「ふーん」

ゼクスの言葉に、デュオが感心したようなどうでもよさそうな声を出した。
そういえば、そのうち会えるだろ、と軽く笑って言った隣の男の言葉を思い出す。繋がっているというのはこういう事なのだろうか。しげしげと眺めていた視線に気付いたのか、デュオと目が合ったクルーゼは静かに笑った。

「では、そろそろお暇させて頂くとしよう」

彼も来た事だし。そう言って立ち上がりゼクスの方を向いたクルーゼは、唯一見える口元を緩やかに上げていた。

「お茶をありがとう。私も君と話せて楽しかったよ」

「いや、こちらこそ。是非また話したいものだ」

ゼクスも立ち上がり静かに笑って応える。クルーゼは愉しそうにもう一度笑い、扉の前でついて行けず立ち尽くしていたムウへと視線を投げた。

「行くぞ、ムウ」

口を開けポカーンと二人のやり取りを眺めていたムウは、いきなり掛けられた声に驚いた。
クルーゼはそんな様子を気にもせず、真っ直ぐ扉へと歩いて来てムウを素通りに部屋を出て行ってしまった。

「ちょ、待てよクルーゼ!」

腕に抱えた書類とクルーゼが颯爽と消えた廊下を交互に見、ムウは小走りでゼクスの所へと近付きその書類を押し付けた。

「はいこれお前のな!じゃあな!」

ニッ、と笑い、扉の横に立っていたデュオの頭をグリグリと掻き混ぜてムウは廊下へと飛び出して行く。
嵐のような出来事にゼクスが為すがままになっていると、デュオが何時の間にか横に来ていた。

「・・・何話したんだ?あの人と」

ゼクスを見上げ、至極不思議だとデュオが問い掛ける。
ゼクスはそれに意外そうな顔をした。

「気になるのか?」

「まあ、あんたとあの人じゃなぁ・・・」

共通点としての仮面だけなのではないかと思うくらい、ゼクスとクルーゼはこれといった付き合いもないし、顔を合わせている場面も見た事がない。
大体クルーゼは人とは一線引いた付き合いをしていた。そんなクルーゼがゼクスと二人で、しかも話せてよかったと思う話なんて気になるに決まっている。
人の領地に踏み込まないように立ち回るデュオが珍しく気になっているのには驚いたが、その考えに気付いたのかゼクスは苦笑気味に応えた。

「自らの思想と道について少し、な。後は・・・そうだな、仮面についても話したか」

先程まで話し合った内容を思い出しながら口にすれば、横の小さな頭は仮面という言葉に微かに反応した。

「そりゃまた興味深いお話で」

まさかこちらでも仮面の話が出ていたとは思わなかったデュオは、ゼクスと考える事が一緒だったという事に笑うしかなかった。これは絶対にあの繋がっている奴らの所為だ。
デュオがぶっきらぼうに相槌を打つと、ゼクスは代わりにと口を開いた。

「で、これは何だ?」

無理矢理押し付けられた腕に抱かれた書類を目で捉えながら、今度はゼクスが問い掛ける。
咄嗟に受け取ったが、結構な量がある。自分の腕にある程ではないが、デュオも持っているのを合わせると本当に膨大な量だ。
デュオは盛大にため息を吐いてそれに答えた。

「シンと刹那が溜め込んだ書類だよ。見直しを俺に頼んできやがってな、お前も手伝え」

やれやれと疲れ気味にデュオは言う。
ゼクスは自分の腕と横にいる自分よりも細い腕を見比べ、断りきれなかったデュオの様子を見たかのように思い浮かべた。

「随分慕われているんだな、ガンダム02」

そう笑って言えば、デュオはハッと短く息を吐き、肩を竦めた。

「あー、やだやだ。嫌味ったらしいねぇ、OZのゼクス・マーキスさんよぉ。いくら俺がモテるからって嫉妬はいけねぇぜ?」

飄々とした態度でそう言うデュオは、挑発するようにニヤニヤと笑っていた。
ゼクスはデュオの挑発じみた視線に軽く笑みを浮かべて、腕にある書類を抱え直した。

「しかし、わざわざ私の所に持って来なくても、ヒイロに頼めばよかっただろうに。同じ部屋ではなかったか?」

「頼んだんだけど一言で切り捨てられたんだよ。どうせあんた暇なんだろ?いいじゃねぇか、部下との交流も大事だぜ?ついでにヒイロの苦手なモンでも教えてやろうか?」

ニヤリと口端を上げて笑う様子は、死神というよりも悪戯を思い付いた子供だった。
確かにヒイロは好敵手と認めた仲だが、苦手なものを知ってまで勝つのは騎士道に反するし、自分自身が許せない。
デュオも本気で言っている訳ではない為、ゼクスが遠慮しておくと断るとやっぱりという表情を浮かべた。
腕の中の書類を眺める。暫くして、ゼクスは深いため息を吐いた。

「・・・これでも暇ではないんだがな、しょうがない」

「やりぃ!流石ゼクス、話しが分かるな!じゃ、それ頼むな!」

そう言って笑うデュオは本当に嬉しそうで、ゼクスはしょうがないと苦笑交じりで肩を竦めた。






「なー、あいつと何の話してたんだ?」

約束していた待ち合わせをすっぽかされ、しかも会えたと思った相手は自分を置いて先に行ってしまったというのに、ムウは怒った様子もなく颯爽と先を歩くクルーゼに話し掛けた。
クルーゼはそんなムウの問いに振り向きもせず、淡々と答える。

「特にたいした事は話していないが?」

「そうなのか?」

「ああ」

そう言われてしまえばそれまでで、無理に聞こうとも思っていなかったムウはふーん、と呟いた。
廊下を蹴ってふわりと舞い上がる。頭で腕を組み、そのまま無重力に任せてクルーゼの後ろを浮き進む。

「しっかし珍しいよなー、お前が誰かと二人で話すなんて」

「そうか?」

「そうだって」

笑いながら再度そう言えば、クルーゼも小さく頷いた。

「ふむ、ではそうなのだろうな。・・・しかし、彼と話せてよかったよ」

「ふぅん?」

珍しいクルーゼの言葉に、ムウの片眉が器用に上がる。
緩やかな笑みを口元に携えたまま、クルーゼは静かな口調で続けた。

「彼の騎士道は私には出来ないが、興味深かった。あんな生き方も出来るのだと知れたよ」

その声は柔らかくて、本当にクルーゼがそう思っているのだと伝わった。
生まれながらにして人の業を背負い、血ヘドを吐き死に物狂いで生きてきたクルーゼが、生き方を口にしている。以前では絶対に有り得なかった事だ。
つまり、それはクルーゼが変わったという事。
死にたがりだったクルーゼが、生きる事を考えているという事。
それが嬉しくて、ムウはクルーゼの後ろで満面の笑みを浮かべた。

「そっか。よかったな、ラウ」

そう自分の事のように嬉しそうに言うムウに、クルーゼはそうだなと応えた。






心情クリード



新しい物が増えた日。




















―――――――

突っ込まないで欲しい小説。
とりあえずムウとデュオに会話させたかったんだ!そしてゼクスとトレーズは格好良いよね!

一応ですが、私のガンダム小説は全シリーズ混合パロと原作寄り単体があります。ガンダムシリーズは混合です。
つまりは好き勝手ですね、はい。


私は楽しかったです!



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