「犯人は、お前だ!!」

そう言って指差された者は否定し、愕然とし、泣き崩れる。
私はそれをただ見ていることしか出来ない。巷では女子高生探偵なんて持て囃されているけど、出来る事なんかほとんどないのだ。
事件を解くのは魔人。
私はただの身代わり。

「ねぇ、ネウロ。愛って、好きって何かな?」

今日会った犯人は好きだったはずの恋人を殺した人。
彼女は恋人が自分の元を離れるのが嫌だと、ずっと自分を愛してくれないと嫌だと言った。
恋人なら私を愛してくれるのは当たり前でしょう?私を捨てていくのなんて許せない。
彼女は泣きながらそう言った。
それはきっと彼への愛が大きすぎたのだ。
私は彼女を慰める事も怒る事も出来ず、その言葉を聞きながら、好きという感情は何なのか疑問に思った。
好きなのに、好きな人を殺してしまえるのだろうか。
それとも、好きだからこそ許せないのか。

「なんだヤコ、急に。悪い物でも食べたか?・・・おお、胸がなくなっている!」

「うるさい!胸はいつも通りだ!」

わざとらしく私の胸を見て驚いているネウロが腹立たしい。このドS魔人め。

「じゃなくて!さっきの事件で犯人の人が言っていたでしょ?『好きだったのに、彼は私を裏切った』って。好きに裏切りなんてあるの?好きなのに好きな人を殺せるの?」

ネウロはトロイに肘をつき、顔の前で腕を組みながら、助手ではなく魔人の顔で笑っていた。

「・・・魔人の我輩にそれを聞くのか?」

ネウロは静かに言う。
確かにそう思うだろう、私もネウロが人の心について分かるとは思えない。
笹塚さんやアヤさん辺りに聞いたら答えが分かるかもしれない。

「でも、ネウロに聞いてみたかったの」

人ではない魔人に。
そう言うと、ネウロはハァ〜と大きなため息を吐いた。

「厄介な奴だな、貴様は。後で言葉責めフルコースだ、このミジンコ」

「・・・・・・ごめんなさい」

だからその魔界道具しまって下さい。

「一般的に愛は美化、脚色の限りを尽くされているが、好きだの愛だのは独占欲、所有欲の延長線だ」

「・・・所有欲?」

「平たく言えば物欲だ。アレが欲しい、コレも欲しい、恋愛はそれが物ではなく人に当て嵌まる。結局は自分の物にしたがっているだけだ。愛はそれが両者が同意の上で行っている物に過ぎない」

ネウロは淡々と言う。
確かにそうかもしれないと私は思う。恋人を自慢するのも、こんなに良い人は自分の物なのだという優越感から来ているのかもしれない。
だけど、それが全てだろうか。

「付き合うというのは一種の契約だ。相手以外には恋愛感情を持たないという暗黙の約束。自分を愛してくれるという絶対的な自負。それが破られれば、裏切りになるのかもな」

彼女はきっとそう思ったのだろう。
自分を愛してくれるはずの恋人が、自分を捨ててしまう事に絶望したのだろう。

「恋愛感情なんて錯覚だ。何故人間はそんな物に嵌まるのだろうな」

ネウロはきっと本気でそう思っている。
今まで痴情の縺れで起こった事件に対して、他の事件と比べ一層興味がなさそうにしていた。
今日もそう。
犯人が泣き崩れながら殺害理由を言っている時、ネウロの興味はもうそこにはなかった。
まるで犯人など無機質な、目に見えない物の様に意識すら向けていなかった。

愛を知らない魔人。
それは愛する事も、愛される事も知らない。

確かに愛とは、好きとは独占欲、所有欲の延長線かもしれない。
でも、私はそれだけじゃないと思う。

「ねぇ、ネウロ。私はアンタが好きだよ」

そう言うと、ネウロは思い切り顔をしかめやがった。苦虫を潰した顔ってのはこんな顔か、と思えるくらいに。

「・・・貴様、我輩の話しを聞いてなかったのか?その耳、良く聞こえる様に掃除してやろうか」

ドリルを持ちながらネウロが言ってきた。
・・・そんなドリルで掃除されたら、耳どころか頭までスッキリしちゃうよ。

「ちゃんと聞いてたよ。ネウロは愛を錯覚で、独占欲で、所有欲だって思ってるんでしょ?私も確かにそうかも、って思うよ。でもね、それだけじゃないと思うんだ。私には愛って、好きって何なのかよく分からないけど、それは誰かを思いやれるって事じゃないのかな」

私はネウロに話す。
自分でもよく分からないけど、ネウロに話したかった。

「私は今日会った彼女が間違った愛だとか言えないけど、好きって相手に幸せになって欲しいって事だと思うの」

ネウロはよく分からなそうに目を細めている。
魔人に人の心は分からないのだろうけど、一番近い私の心は解ってほしかった。

「だから、私はネウロが好き」

私はネウロに幸せになって欲しいもの。
そう言うと、ネウロは楽しそうに思い切り笑った。
人が真面目に言ってるのに、その反応は酷いと思う。

「それが貴様の愛か!」

ネウロは楽しそうに言う。
対して私は少し膨れっ面だ。
だって、そんなに笑う事ないのに。
一仕切り笑った後、ネウロはポツリ、と呟いた。

「それが愛なのかもな・・・」

その顔は、今まで見たどんな笑顔より優しかった。
慈愛に満ちた笑顔に、ネウロが魔人であることを忘れてしまいそうになるほど。
だけど、少し自嘲が入っている様な。

ネウロは自分が愛を知らないと思っている。
だけど、私はネウロはきっと愛を知っていると思う。
理解はしていないが、察してはいるのだろう。
なんだかんだで私を助けてくれるのも、人間を助けてくれるのも、ただ『謎』の為じゃないはずだ。

皮肉屋でドSで人間とはまるで違う魔人。
だけど、何処か不器用で優しくて人間の様な魔人。
人間に近づいている魔人。
それはきっと、人の気持ちも分かる様になっているのだろう。

私は、そんなネウロに幸せになって欲しい。
そんなネウロの傍にいて、ずっとネウロと過ごしていたい。
この気持ちが『好き』ならば、私は幸せだ。

だから。

「好きだよ、ネウロ」

そう言って、私は笑う。
ネウロも静かに笑っていた。






解釈ラブイズ



幸せにしてあげたい。



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