「会いに来たぞ、セイバー!」
バァン!と大きな音をたてて、ギルガメッシュが衛宮宅の玄関を開けた。
それに凛はまたか・・・と思い、士朗はそのうち玄関が壊れてしまうのではと危惧し、見張りであるアーチャーは特に危険がある訳ではないと分かっているので無視している。
ギルガメッシュに大声で呼ばれたセイバーは、食べていた煎餅をバキン、と思い切り割った。
「おお、ここにいたかセイバー」
ずかずかと勝手に家に上がり込み、凛と士朗とセイバーが団欒していた居間にやって来た。
嫌な顔をしているセイバーに気付かないらしく、ギルガメッシュは持っていた真っ赤な薔薇の花束をセイバーに渡す。
それに凛は「すご・・・」と小さく言い、士朗も驚いた様に目を丸くした。
渡されたセイバーはちら、と花束を見て、すぐに横に置き新しい煎餅を手に取った。
そんなセイバーの様子に、ギルガメッシュは気を悪くした風でもなく、むしろ「流石我が見込んだだけがある。そんな花では落ちぬか」と笑っていた。
「まあ良い。しばし邪魔するぞ、雑種」
そう言ってセイバーの横にギルガメッシュが座った。
「何をしている、雑種。王たる我が来たのだ、茶でも用意せんか」
「あ・・・、ああ、悪い」
とんでもない言い草に、士朗は素直に謝って席を立った。
凛がそんな士朗を見て、素直すぎると思った。
どうしてこんな素直な奴が、将来あんな捻くれた奴になるのだろう。凛は屋根にいるだろう弓兵の事を考えながら思った。
ギルガメッシュのとんでもない言い草に、セイバーはピクリ、と反応したが、何も言って来なかった。
「悪いな、ギルガメッシュ。こんなのしかなくて」
台所から戻ってきた士朗は、お茶と手作りであろう茶菓子を持っていた。
それをギルガメッシュの前に置きながら言った。
ギルガメッシュはそれに頷きながら、お茶を飲んだ。
士朗が若干緊張して、凛がどんな反応するのか興味津々に見て、セイバーが無視している。
そんな中、ギルガメッシュは王だからなのか悠然とお茶を飲み、茶菓子を食べた。
「ふむ・・・」
コトリとお湯のみを置いて、ギルガメッシュは息をついた。
「まあ雑種にしては良い方だ。褒めて遣わすぞ、雑種」
「え、ああ、ありがとう」
まさか褒められるとは思っていなかった士朗は、それでもなんとか反応した。
凛はあのオレ様が褒めるなんて、と、ギルガメッシュを信じられない物を見るかの様に眺めた。
「だが我の好みとは違うようだ。せいぜい精進するがいい」
茶菓子を食べながら、ギルガメッシュは不遜に言う。
それに、セイバーがキレた。
「〜っ!何なんですか貴方は!いきなり来て、シロウにお茶まで煎れさせて!その茶菓子私が狙っていた物なのに!」
「我は王だが?」
「そういうことを言っているのではありません!毎回毎回何故来るのですか!」
「セイバーを我の物にするためだ。それ以外に理由などあると思うのか?」
「しつこいですよ、ギルガメッシュ!私は貴方の物に成らないと言っている!」
「照れるなセイバー」
「照れてなどいない!」
もはやセイバーは言葉遣いも乱暴になっている。
高らかに笑うギルガメッシュに、セイバーは激しく苛々していた。
そんな二人を眺めながら、凛と士朗はのほほんとお茶を飲んでいた。毎回見る光景なので、今更どうしようもしないのだ。
だがセイバーはその毎回、真剣にギルガメッシュと言い合いをしていた。
「私は女の前に王だと言ったはずだ」
「だから我が女にしてやろうと言っているだろう?」
「貴様、私を愚弄しているのか?」
「何故我がセイバーを愚弄しなくてはいけないのだ。我は本気だ。我の物になれ、セイバー」
そう言って、ギルガメッシュはセイバーの横髪をつい、と持ち、その髪にキスをした。
「なっ・・・!」
それに、セイバーが固まる。
流石にのほほんと見ていた二人も固まっていた。
「な、ななな何を・・・!」
セイバーが激しく吃る。
ギルガメッシュはそれに首を傾げた。
「見て分からないのか。髪に口づけをしたのだが」
「貴様・・・!」
怒っているセイバーに、何故セイバーが怒っているのか分からないとギルガメッシュはますます首を傾げる。
しかし、しばらく考えていたかと思うと「ああ、」と一人納得した。
「こちらの方が良かったのか」
そう言って、今度はセイバーの頬にキスをした。
凛は飲んでいたお茶を吹き出しそうになり、士朗は湯のみをゴトンと畳に落とした。中身がなかったのが唯一の救いだ。
ギルガメッシュは上機嫌でセイバーを見ている。
セイバーはぶるぶる震えていた。
「ん?どうした、セイバー。そんなに嬉しかったのか」
お茶を飲みながら、ギルガメッシュは笑う。
ぶるぶる震えていたセイバーは、戦場で見せる速さでその頭を掴み、思い切り机にたたき付けた。
ガン!と嫌な音が辺りに響いた。
「貴様ぁぁあ!!何をするかぁあ!!」
ギルガメッシュは机に食い込んだ頭を上げ、怒り狂っているセイバーを見上げた。額から血が流れているが、その顔は妙に真面目だった。
「何をするセイバー。頬では不満だと?ならば熱い口づけをしてやろう」
顔は真面目だったが、頭は重症だった。打ち付けた場所が悪かったと思いたい。
凛は「流石王様、考え方が違うわ」と呟いた。
「さぁ来い」
「誰が行くかぁあ!!」
「何?我直々に来てほしいと申すのか。少々我が儘だが、そこもまた良い。特別に我が直々にしてやるぞ、セイバー」
「本当に欝陶しいぞ、ギルガメッシュ!」
「まったく、すぐ照れおって。素直になるのも大切だぞ」
「私は素直に言っている!」
「まあ、我程の存在になると素直に話せないのだろう。だがな、我に構ってもらいたいからと言って、あまりつれない態度を取るな」
ぐい、とセイバーの腕を掴み、ギルガメッシュはセイバーを抱き寄せた。
英雄王だけあってか、先程まで流れていた血はもう治癒されている様だ。ギルガメッシュの瞳は真剣だった。
ギルガメッシュの滅多に見ない真剣な瞳に見つめられ、セイバーは動く事が出来ない。
その隙に、ギルガメッシュはちゅ、とセイバーにキスをした。
時間が、止まった。
「ああああぁぁ!!」
ドン!とギルガメッシュを突き飛ばし、
「エクス、」
その手に剣を握り、
「カリバーーー!!」
必殺技を放った。
居間から庭にかけて光の柱が走る。
しかし、ギルガメッシュはヒラリと避けていた。腐っても英雄王、と、とてつもなく失礼な事を凛と士朗は思った。
「エクスカリバーか。照れ隠しには些かやり過ぎだな」
必殺技を出されてまで照れていると考えられるギルガメッシュはある意味凄い。
庭にある木の先っぽがエクスカリバーのせいで消えているのを見ながら、士朗は考えた。我が家の被害がこれ以上増えない事を切に願った。
そんな士朗の願いが届いたのか、ギルガメッシュは帰ると言い出した。
「今日は十分にセイバーを見れたのだからな」
というのが理由らしい。
「それに、良いものも見れた」
ちらり、と自分を睨みつけているセイバーを見て、ギルガメッシュはくつくつ笑いながら言った。
「ではまた会おうぞ、セイバー」
「二度と会いたくはない」
笑いながら言うギルガメッシュに、セイバーは低い声で応える。
ギルガメッシュはそんなセイバーに「本当に素直ではない」と笑い、背を向けた。
「邪魔したな、雑種」
「あ、ああ・・・」
呆然としながら士朗は応える。
愉快げに笑っているギルガメッシュを見ながら、凛は静かに言った。
「アンタ、もう少しやり方があるでしょう」
その言葉に士朗は首を傾げる。
ギルガメッシュは自分を睨みつけているであろうセイバーに意識を向けながら、悠然と言った。
「これが、我のやり方なのでな」
それに、この方が楽しいだろう?
そう言って去って行ったギルガメッシュに、凛はため息を吐いた。
いきなり来て、颯爽と去って行きやがって。
これではセイバーが可哀相だ。
セイバーを見てみれば、顔が真っ赤に染まっていた。
それから数日間、居間に合わない真っ赤な薔薇が飾られていた。
偏屈クウォヘル
捻くれていて、鈍感で、素直じゃないのだ、二人とも。
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我と書いてオレと読む、天上天下唯我独尊超俺様英雄王が大好きです。
ツンツンしたセイバーといちゃいちゃして欲しい。