「ねぇ、アーチャー。私はアンタのこと好きだったのよ」

私は紅茶を飲みながら、一人言った。
自分で煎れた紅茶だけど、何だかあまり美味しく感じられなかった。きっと、貴方のせいで舌が肥えてしまったのだ。
私の視線の先には、赤い宝石がある。
貴方が私に相応しいと言ってくれた宝石。
今思うと本当に気障だったわ。
素面であんな事言うなんて、本当に女たらしよね。しかも計算してないなんて、タチが悪いったらありゃしない。

「そういえば、出会いも最悪だったわ」

私は召喚に失敗したし、貴方は傲慢な態度で踏ん反り返ってるし。
よく私達、聖杯戦争を乗り越えられたと思うわ。

「でも意外と息が合ってたのよね」

私は思い出しながら笑う。
聖杯戦争からもう数ヶ月が過ぎた。
現実と非現実の間でさ迷っていた曖昧だった日々がなくなり、もう貴方がいないという事実に私が一人だと思い知らされた。

「最初は悲しかったのよ?」

一人の家はすごく広く感じるし、朝起きたら挨拶してくれる人がいないんだもの。それに、貴方の煎れた紅茶が飲めないのは残念だった。

「まぁ、今は紅茶以外大丈夫なんだけど」

紅茶は一生無理かもね。その位美味しかったのよ。

「でね、私アンタが嫌いだったの」

私の事を小娘扱いするし、捻くれた性格も自己犠牲精神も気に入らなかった。

「でもいつの間にか好きになってた」

貴方の不器用な性格も、何もかも。
最初の感情は憧れだった。
あんな真っ直ぐな生き方が出来ればいいと思った。
でも貴方に触れて、貴方の過去を知って。
憧れではなく、本気で好きになっていたの。

「結局告白は出来なかったけどね」

最後まで私はマスターで、貴方はサーヴァントだった。
それも後悔してるのよ。告白しとけば良かったって。
あの偶然が重なって出来た奇跡の様な出会いは、もう二度と起きないんだもの。
この私がここまで後悔するって有り得ないわ。
それ位、貴方の事が好きだったの。

「だから、アンタが裏切った時すごくショックだったのよ」

まあ、しょうがなかったのかもしれないけど。
それでもやっぱりきつかった。

「でもね、許してあげる」

だって、最後にあの金色に輝くあの場所で、貴方はもう大丈夫だと、自分を頼むと笑ったから。
貴方は自分自身を赦したのでしょう?
それに初めて貴方に頼まれたんだもの、しっかりやってやるわ。

「こっちは大丈夫。士郎は私が責任持って幸せにしてみせるから」

貴方が守り続けた、貴方が綺麗だと言ったこの世界で、幸せにしてみせるから。
だからね。
本当は私がしてあげたかったんだけど、

「アンタも幸せになるのよ?」

シロウ。
そう言って、私は笑った。
それに応える様に、赤い宝石が輝いていた。






奔星エトワル



不器用で真っ直ぐで正義の味方になれなかった代行者へ。

貴方は私の英雄です。



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