暗闇の中、目を開けると青い光が在った。
「やぁ、キース・アニアン。久しぶりだね」
目の前のソルジャー・ブルーはキースを見ると柔らかく笑った。
キースは信じられないものを見るかの様にブルーを見た。
「・・・ソルジャー・ブルー」
「なんで此処にいるかなんて聞かないでくれよ?僕はソルジャー級のミュウだ」
ブルーは微笑みながら言っているが、そこにはソルジャーとしての誇りや自尊心が感じられた。
キースはそんなブルーに慣れたのか何時もの様な無表情にブルーに問い掛けた。
「では、何故此処にいる」
「ふむ、『どうやって』ではなく『どうして』か。・・・そうだね、君と話してみたかったんだ」
「私と?」
「そう、君と。かつてミュウを統べていた僕と現地球国家元首、話し合いにこれほどの役者はいないだろう?」
「くだらないな」
「まぁそう言わないでくれ、どうせ夢の中だ。死者の妄言とでも思ってくれればいい」
「・・・死者、か」
その言葉に若干の蟠りを感じた。
ブルーは死んだ。ナスカを、多くのミュウを守る為に。
そして、そのきっかけを作ったのはキースだ。恨まれても、殺されても仕方がない。
だがブルーは何時もの様に慈愛に満ちた微笑みを向けるだけだった。
「ああ、僕は死んだんだ。もう世界には関われない。せいぜいこうやって夢に出るくらいかな」
「それも異常だがな」
「ははっ、それもそうだね」
キースが言うと、ブルーは可笑しそうに笑った。
しかし笑って、目を開けたら空気が変わった。
何度も味わった感覚。ソルジャーとしての覇気。
ブルーの目は、真っ直ぐキースを見ていた。
「君はどう思う?」
ブルーは問い掛ける。真っ直ぐな目で。
キースはそれを受け止めながら応えた。
「何をだ?」
「この世界を。SD体制、人類、そして僕らミュウについて」
「人類は欲望の塊だ。SD体制はその欲望を押さえ付ける絶対不可欠な物だ。そしてミュウは、その調律を崩壊させる危険因子だ」
「さすがだね、キース。解りやすい解答だ。僕らは君達にとって危険因子だ。ジョミーは人類の要であるSD体制、そしてグランドマザーを壊そうとしている」
キースがその言葉に反応する。
それでも構わずにブルーは続けた。
「でも、それは本当に危険な事なのか?人類は何時までもSD体制という揺り篭に入り、グランドマザーという支配者から与えられた玩具しか手にしないつもりなのか?」
「玩具だと?」
「そうだろう?自分の力で得ない物なんて赤子が与えられる玩具の様に意味のない物だ」
確かにそうかもしれない。
与えられた職、与えられた家族、与えられた安息。
どれもグランドマザーに導かれて与えられた物だ。
いったい、人が自ら得た物はどれだけあるのだろう。
「君も分かっているのだろう?人類は巣立たなくてはいけないんだ。SD体制から、グランドマザーから」
「・・・だが、人類は考える力を放棄してしまった。自ら考えるよりグランドマザーに導いてもらう方が楽だと、そちらを選んでしまった」
「確かにそうかもしれない。でも、僕は人類はそんなに弱いとは思えないな。人は進化を望むものだ。人は変われる」
ブルーははっきりと言った。
しかしキースにはブルーの言う事に納得は出来なかった。
人は変われる?変われるかもしれない、だが変わろうなどと思うはずがない。
変化は恐怖だ。そして、人は弱い。
「何故そう思える。人類は弱い。だから貴様らミュウを排除したのだ。自分達の劣等感を認めるより新しい人種を認めず迫害した方を選んだ、それが人の弱さだ」
「人は変われるんだよ、キース。君が変わった様に」
ブルーは最初の頃の様に笑った。
キースはその言葉に息を飲む。
「君がミュウを認めてくれた様に、人もミュウも分かり合えるんだ」
「・・・無理だ。人はそこまで強くない」
「出来るさ」
「何故貴様はそんな理想論を言えるのだ!」
キースが怒鳴る。
例え自分が認めても、周りは認めない。人類とミュウが分かり合えるなんて、理想でしかない。
だがブルーは力強い声で言った。
「理想じゃない、現実にするんだ。僕はもう死んでしまったから何も出来ない。でも君やジョミー、今生きている人なら出来る。過去を壊し、新しい未来を創る事が出来るんだ」
ブルーははっきりと言う。
そこには確信と希望と自信があった。
未来は変えられる、人類とミュウは分かり合えると。
その目を見て、キースは思った。何時しか見た現ソルジャーの目もこんな真っ直ぐした目だったな、と。
「・・・不思議だな、お前達は」
そう呟いたキースに、ブルーはふわり、と笑った。
「そうかな?」
「ああ、お前と話していると出来そうな気がする」
「出来るさ、君達なら」
ブルーは笑う。
キースはそんなブルーを見て儚さを感じた。
力強いのに、すぐに消えてしまいそうな。
だから、キースは聞いた。
「お前はどうするのだ?」
「僕かい?そうだね、夢を見るよ」
「夢?」
キースは眉を潜めた。
ブルーはそう夢だよ、と言う。
「かつて一度、ジョミーに逢う前に一度だけ見た夢があるんだ。その夢はジョミーやフィシス、それに君も出てきていた」
「私もか?」
「ああ、見た時は分からなかったが確かに君だったよ。それに君の後輩や部下も出てきていた」
「・・・シロエにマツカ、か」
「皆で楽しく過ごしている夢だ。何かの施設に通いながら勉強をし、くだらない事に全力で取り組んでいた」
ブルーは懐かしそうに笑う。
「ジョミーはその施設でも統制者で、僕はジョミーに仕事を押し付けフィシスとゆっくりお茶を飲んだりジョミーをからかっていた。君は、やっぱりジョミーのライバルだったが二人は楽しそうに言い合っていたよ。笑いの絶えない夢だった」
「それは楽しそうだ」
キースも微笑む。
二人でそんな世界を想像して静かに笑った。
一仕切り経った後、ブルーはキースに向かって言った。
「キース、僕は君と逢えて良かった」
キースは表情に出さなかったが驚いた。
自分にさえ逢わなければブルーは死ななかったかもしれないのだ。
自分を、大切な仲間を殺したキースに言う言葉ではないはずだ。
キースがそう思ったのが分かったのか、ブルーは首を振った。自分はどうせ長くはなかった、確かに仲間の事は許せるものではないが、君でなくても僕達は戦い傷付いた、と。
それに、とブルーは続けた。
「あの夢は楽しそうだが、今この時代に君に逢えていなかったら僕は君の事をこんなに理解することは出来なかった。それに、きっと君と出会ってなければ人とミュウは分かり合えないままだったかもしれない」
「・・・そうかもな。では今世では理解し合えた、来世では夢の様になるのを願うか」
キースの言葉にブルーは嬉しそうに笑った。
「それはいいね、ではまた来世に」
それにキースも応える。
「ああ」
そんなキースを見て、ブルーは手を伸ばした。
「じゃあジョミーによろしく」
近い内に会うと思うから、とブルーは言う。
キースはその手を握り、祈る様に言った。
「良い夢を、ソルジャー・ブルー」
ブルーは愛おしい様にキースに微笑んだ。
「この世のあらん限りの幸福を君に、キース・アニアン」
その声を聞きながら、キースは目を閉じた。
瑞夢カンサルト
手が暖かかった。
(キース、ソルジャー・シンからコンタクトが・・・)(そうか、行くぞマツカ)