「銀ちゃん、銀ちゃんが欲しい物ってナニ?」

神楽がいきなり聞いてきた。
俺はん〜?と生返事をしたまま答える。

「金〜」

「銀ちゃん最低ヨ!不潔ヨ!小姑ヨ!」

素直に答えたら罵詈雑言が返ってきた。てか最後のは意味が分からない。

「銀ちゃんなんて知らないネ!好きに生きればいいさ!」

いや、好きに生きてるけど。
内心そう思いながら、プリプリ怒っている神楽を見る。
本当に怒っているのか、目つきが怖かった。
新八に助けを求めようとしたが、朝から妙と出かけているのを思い出した。・・・ホントに使えねぇな、あの駄メガネ。

「あ〜、神楽ちゃん、俺ちょっと出かけてくるわ」

触らぬ神に祟りなし、という事で俺は逃げ出した。だって神楽に勝てる訳ないでしょ。
後ろからの視線が痛かったが、俺は玄関をくぐった。






「あ・・・」

暇になってしまったからパチンコでもやって、公園に生息しているマダオとでも話そうと思っていたら、前からドS王子とジミーが歩いてきた。
ドS王子こと沖田くんも気付いたみたいで、ニヤニヤ笑いながら近付いてきた。

「旦那じゃねぇですかい、奇遇ですねぇ」

沖田くんは楽しそうに笑っている。
その後ろでジミーが「あ!」と声を上げた。

「万事屋の旦那じゃないですか!今日はたんッ!!」

思い切り沖田くんに殴られていた。
メリッ、と裏拳が決まった時聞こえたのは間違いじゃないと思う。ジミーは声なき叫びを上げていた。

「こいつ最近牛タンにはまってまして」

「いや、牛タンにはまるって微妙じゃね?」

「地味キャラですからしょうがありやせん」

そう言いながら、沖田くんはもうニ、三発殴ってからぐったりとしたジミーの襟を掴んだ。

「一応見回り中でしてねぃ、そろそろ仕事に戻りやす」

「沖田くんがしっかり仕事してるなんてねぇ」

「今日は楽しくなりそうですから」

にっこり笑った沖田くんは怖かった。
俺に手を挙げてジミーを引きずって行った沖田くんに、俺は引き攣った笑顔で手を振った。



それからパチンコ屋に行って、勝ったり負けたりして結局負けて、八つ当たりの為にマダオを捜して公園に行った。

「・・・あれ?」

マダオの城(段ボール)に行ってみたらマダオはいなかった。
あのホームレスが仕事をしている訳がない。何処かのパチンコが飲み屋にでも行っているのだろうか。

「何なんだよォ、今日はよォ。パチンコには負けるわ長谷川さんはいねぇわ。厄日かァ?」

そういや、朝から散々だったな。神楽にキレられるわ、沖田くんの怖い笑顔みるわ。
ああ駄目だ、何か目から汗が。
しょうがないのでベンチに座って公園を眺める。
夕方なので子供たちはあまりいなく、親と手を繋いで帰っている子が見られた。

「・・・・・・」

その子たちを見ていると思い出す。
寺子屋の事。仲間達の事。そして先生の事。

「あれ何?銀さんなんでセンチメンタル感じちゃってるの」

そう言って笑い飛ばした。
ベンチの背に腕を掛けて空を仰ぎ見る。

「・・・帰ろう」

無性にアイツらに会いたくなった。
帰り道、少ない小銭で神楽に酢昆布と3人で食えるくらいの小さなホールケーキを買って帰った。
これ食って今日は馬鹿しよう。
そう思って帰り道を急いだ。



「ただいま〜」

玄関の扉を開きながら俺は言ったが、家は静かだった。

「・・・なんだよ、いねぇのかアイツら」

寂しいなんて思ってないんだからな!
ツンデレキャラにしてみたが、やっぱり少し寂しかった。

「んだよォ、いいよ1人で食ってやるから。酢昆布なんて凌辱する様に食ってやるわァァァ!!」

「酢昆布は私の物ネェェェ!!」

一人叫びながらスバンッ!と勢い良く襖を開けたら蹴りが飛んできた。
倒れずに踏み止まった俺を褒めてあげたい。ケーキは無事だった。

「じゃねぇよ!何すんの神楽ちゃん!?」

「酢昆布は私の物ネ!誰にも渡さないアル!」

「そういう事聞いてんじゃねぇんだよォォ!・・・ってアレ?」

顔を上げると神楽の後ろに新八と妙がいた。
まぁ、それはいい。

「・・・なんでお前らいんの?」

そう指を差した方に大串くんと沖田くんとゴリラがいた。
しかも沖田くん、いい笑顔だ。

「もう銀さん、何処行ってたんですか?」

声のする方を向くと妙がいて、その横に新八がいた。

「僕が呼んだんですよ、多い方がいいでしょう?ほら銀さん、早く」

新八が俺の腕を引きながら、ソファーに座らせる。
机の上にはご馳走が並んでいた。

「あ?新ちゃん、何これ。何かのドッキリ?カメラあんの?」

「何言ってんですかアンタ」

呆れた様に新八は言った。周りの奴らも少し呆れている。
何?俺なんかした?あの時の宝くじでも当たったの?
頭にクエスチョンマークを飛ばしまくっていた俺に、神楽が笑顔で言った。

「銀ちゃん!誕生日おめでとう!」

「・・・・・あー、今日だっけ?」

そういえばそうだったな。・・・すっかり忘れてた。
ボリボリ頭を掻いていた俺に、神楽はズイ、と可愛らしい封筒を渡してきた。

「誕生日プレゼントネ!」

大きさ的に金だろうか。朝金欲しいって言ったし。
そんな事を思いながら、俺は神楽に礼を言って封筒を受け取った。

「これ・・・」

中を開けたら、手書きの肩たたき券が入っていた。

「銀ちゃん最近肩凝るって言ってたから、私が叩いてあげるヨ!」

金よりも嬉しいプレゼントだな、と思いながら、俺は神楽の頭をグシャグシャと掻き回した。

「銀さん、僕からはこれです」

新八が渡したのをきっかけに、妙、ゴリラ、沖田くん、それに驚くことに大串くんまでくれた。
新八はこれから寒くなるからと腹巻きや防寒衣類、ついでにお通ちゃんのCDを。ゴリラはフルーツ(主にバナナ)盛り合わせを。
妙はダークマターを。

「銀さんの為に作ったのよ、たくさん食べてね」

なんて言われて、重箱を渡された。・・・明日、俺生きてるかな。

「そんな旦那にはコレでさぁ」

と言って沖田くんはSMセットを渡してきやがった。しかもやっぱりいい笑顔で。
俺が引き攣った笑顔で受け取っていると、天井からストーカーが出てきた。

「銀さん!お誕生日おめでとう!プレゼントはもちろん、わ・た・し」

「何?大串くんマヨネーズなの?」

「おまッ!マヨネーズを馬鹿にすんなよ!」

「・・・銀さんったら、ドSなんだから」

ほう、と桃色吐息を吐いているさっちゃんを無視しといた。さっちゃんがピンクのリボンで自分を亀甲縛りしているのも無視した。

「銀ちゃん、コレ何?」

神楽が俺が買ってきた酢昆布を食べながら、ケーキの箱を指す。

「あー、ケーキだよ。朝お前を怒らせたみたいだから皆で食おうと思って」

「あら、銀さんもケーキ買ってきたの?」

俺の横で妙が驚いていた。

「まあいいわ、冷蔵庫に入れておきましょう。皆、料理が冷めちゃうから食べてね」

妙はそう言ってケーキの箱を持っていった。
神楽はもう料理しか興味がないらしく、がっついて食べていた。ちなみに料理はババァとたまの手作りらしい。あの化け猫は何もしなかったのか。
俺も料理を食べようと見ると、3分の1が消えていた。

「ちょっとォォォ!!神楽ちゅわん!?コレ銀さんの誕生日会なんですけどォォ!!」

「そんなの知らないネ!世の中弱肉強食ヨ!」

「そうですぜ、旦那」

「沖田くんまで何やってんの!?てかお前マヨネーズかけんじゃねェェェ!!」

「マヨネーズは料理をより上手くするんだぜ?」

「逆にマズくなるわァァ!!」

「そうだぞトシ!何でもかんでもマヨネーズをかけるんじゃ・・・ぶべらッ!!」

「ちょっ、近藤さん!?アンタまさか姉上のダークマター食べたんじゃ・・・」

「あら、新ちゃん。ダークマターって何の事?」

「あ、姉上・・・。いや、その・・・」

「ドS!!それは私の物ネ!」

「うっせぇ、チャイナ!世の中弱肉強食なんだろぃ!?」

皆が言い合いをし始めて、もはや誕生日会ではなくなっていた時にピンポーン、と気の抜けたチャイム音が鳴った。
しかし誰も出ようという気はないらしい。
俺も周りに習ってそのまま放置しておいたら玄関の開く音がした。

「あのー、銀時くんいますか?あ、いえ怪しい者ではありません。俺はキャプテンカツーラ・・・ぐはぁ!!」

「テメェ何しに来たんだよ!!」

放置出来なかった。
ヅラは蹴られた腹を押さえながら、しかし真面目腐った顔で言ってきた。

「酷いではないか、銀時。誕生日を祝いに来た親友に蹴りを喰らわせるなど・・・。あ、コレプレゼントな、俺の武勇伝『エリザベスと一緒』」

「何処が武勇伝!?何が武勇伝!?」

「読めば分かるさ。後これは坂本からだ。半分食べてしまったがな」

そう言って渡されたケーキの箱は中身が汚らしく半分食われていた。ヅラへの怒りが余計に増すのが、自分でも分かった。

「人へのプレゼント食うか普通!!ってアイツも『金時くん』になってるしよォ!!マジあのモジャモジャ消えてくれねぇかなァ!!」

「旦那もモジャモジャですぜぃ。そこの桂似のお兄さんもこっちで食いましょうや」

「それは忝ない」

割って入った沖田くんに、ヅラは礼を言いながら家に上がりやがった。
・・・てかよォ、アイツ指名手配犯じゃねぇの?真選組のいる所にわざわざ来ていいの?しかも今沖田くん、ヅラを桂似って言ったよね?バレてるんじゃね?

「・・・まぁいいや」

考えるのも面倒くせぇや。
ヅラがどうなろうがどうでもいいし。
部屋に戻ると、大半の料理がなくなっていた。

「テメェら少しは遠慮しろよ!あ、その唐揚げ俺のだからな!」

「うるさいネ!このモジャモジャ!」

「そうだぞ銀時!あ、リーダーそれくれぬか?」

「旦那ァ、このメス豚うるせぇんですがねぇ」

「何よ!私は銀さんにしか感じないの!あぁ、銀さん。私を好きにして」

「うるせェェェ!黙れよお前ら!あっ!神楽テメェ!」

「フハハハハ!唐揚げ取ったなりィィ!」

「どう?新ちゃん、卵焼き美味しい?」

「・・・・・・あ、ちち・・・うえが・・・てをふって・・・・・・」

「オイィ!大丈夫なのか!?危ない川渡ってんじゃね!?」

俺と神楽とヅラで料理を争奪し、ドSとドMが言い合いをし、妙が新八にダークマターを食べさせて大串くんがツッコみ、ゴリラが倒れていた。
そんなカオスと化した所に、ババアと化け猫とたまとマダオが来て。
余計に騒がしくなった部屋の中で、俺はこんな祝う気持ちがない誕生日は初めてだと思った。
でも、こんな誕生日も良いかもしれない。
いつの間にか、机に大きいケーキと小さいケーキと食べかけのケーキが並んでいた。





慶典コンプレアンノ



銀ちゃん、
銀さん、
旦那、
銀時、誕生日おめでとう!



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