コウは逃げたかった。
激しく逃げたい。
戦いの中でもそんな事思ったことないのに、今この食堂から走って逃げてしまいたい。
だが逃げれない。
目の前にソロモンの悪夢がいた。

「どうしたウラキ。食べないのか?」

指差されたのは皿の隅に追いやられたニンジンで。
コウはうぅ、と呻いた。

「ウラキ貴様まだニンジンも食えんのか!」

その様子にガトーが怒った。
それに、コウは涙声で言い返す。

「別にいいだろ!?ニンジンなんて食べられなくても良いんだ!!」

「そんなだから何時まで経っても私に勝てんのだ!」

「なっ!関係ないだろ!!」

「本当に関係ないのか?嫌いな物から逃げる様な精神は如何かと思うが」

「うっ!」

正論を言われて言葉が詰まる。
うぅぅ、と呻きながら憎らしげにコウはニンジンを睨んだ。

「・・・食べれないのは食べれないんだ」

「貴様は食べられないのではなく、食べたくないのだろう?」

「・・・ニンジンなんて、食べ物じゃない」

「そんなもの屁理屈だ」

「そうだ、ニンジンなんてお菓子と一緒だ。こんな甘い物野菜じゃない」

「いい加減にしないか!!」

遂にガトーがキレた。

「貴様は子供か!?屁理屈ばかり言いおって!さっさと食べんか!!」

そう言ってガッ!とニンジンの乗った皿を掴み、ガトーはコウの口を固定した。
いきなりの事で驚いていたコウだったが、何をされるのか分かったのか顔が青ざめた。

「待てガトー!やめてくれ!」

「さっさと食べれば良いものを!口を開けんかウラキ!」

口を開こうとしないコウの口を、ガトーは無理矢理開けさせて。
そのままニンジンを流し込むように入れた。

「〜〜〜っ!!」

ガトーの手で口を押さえられたコウは、吐き出すことも飲み込むことも出来ず真っ青になって硬直している。
鼻も摘まれ息が出来ない。これは飲み込むしかないのか。
好き嫌いだけでここまでするのか、ソロモンの悪夢め。
半ばガトーを恨みながら、コウは決心してニンジンを噛んだ。
口の中にニンジン独特の味と甘さが広がる。それに涙目になりながら、必死に噛んだ。
ガトーはコウがちゃんと飲み込んだ事を確認すると手を離す。
その瞬間、コウは水を手に取り一気に飲んだ。

「食べられたではないか」

コウを見ながら、ガトーは飄々と言う。
そんなガトーをコウはキッ!と睨みつけた。
涙目ではなく、少し泣いていた。

「ガトーなんか・・・、ガトーなんかニンジンと同じだ!!」

そう叫んだ後、コウは走って食堂を出て行った。
ガトーは最後の台詞に首を傾げながら楽しそうに笑っていた。













「おいコウ、どうしたんだ?布団から出てこいって」

「うー・・・、キースぅ・・・」

「酸欠になるぞ?なんかあったのか?」

「ガトーに・・・」

「ガトー少佐?」

「ガトーにアレを無理矢理口に突っ込まれた・・・」

「・・・・・・・・・」

「俺はやめてくれって言ったのに・・・。飲み込むまで離してくれなくて・・・」

「・・・・・・・・・えっ・・・と、」

「口の中が気持ち悪い・・・」

「・・・・・・・・・・・・とりあえず、ご愁傷様?」

「うぅ・・・、ガトーなんか大っ嫌いだぁ」



その後、ソロモンの悪夢に変な噂が立った。






胡蘿蔔バザ



あ、アナベルくんあの噂・・・、
アレはただの噂です。

















――――――――

最後の台詞はシャアとガトーです。



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