「今日何かあったっけ?」
そう問い掛けたのはガロードだった。
その言葉に、横にいたジュドーは首を傾げる。
「さぁ、なんだろう」
そう言って、二人は首を傾げた。
場所はMSが置いてある格納庫。
自身のMSの整備をしようとやって来たが、何故だか人がたくさんいた。
机の上には何時もの工具はなく、美味しそうな料理が並んでいて。
「今日って普通の日だよなぁ」
「そのはずだけど・・・。あ、ロランがいるから聞いてみるか」
忙しくパタパタと料理を運んでいたロランを見つけ、二人は理由を聞くべく近付いて行った。
「よぉ、ロラン!」
「あ、ガロードにジュドー」
料理を置きながら、ロランは振り返って笑った。
その笑顔と着ている可愛らしいエプロンが妙に合っていて、二人はつい凝視してしまった。
なんていうか、まるで新妻だ。
これはグエンが黙っているはずがない。
そんな二人の視線を感じて、ロランは微かに下がった。
「え・・・っと、僕に何か付いてます?」
「あ、ごめん。ところで今日何かあんの?」
そうジュドーが聞くと、ロランは少し驚いた様に目を丸くした。
「今日はMSにお礼としてお祝いしようって決めたじゃないですか」
「ああ、そういえば・・・」
日頃力を貸してくれているMSに感謝としてパーティーを開こう。
そう言ったのは確かセイラだったか。
すっかり忘れていた事に、二人は苦笑いを浮かべた。
「なぁロラン。俺達にも手伝える事ないか?」
「ありがとう。でも僕よりアムロさん達を手伝ってあげてくれませんか?」
ロランが指を指した方を見れば、アムロやシャア、カミーユ達がMSを綺麗にしていたり傷を消していたりしていた。
「任しときな!ロランの∀ガンダムの髭は俺が綺麗に尖らせてやるよ!」
「じゃあ俺はデスティニーの羽根をやってやるぜ!」
「髭を馬鹿にしないで下さい!後シンに怒られますよ!」
笑いながらアムロ達の方へ走っていく二人を見ながら、ロランは呆れた様に笑った。
「アムロさーん!手伝いますよー!」
ザザビーを綺麗に磨いていたアムロに、ジュドーは下から叫んだ。
アムロは顔を覗かせながら、ジュドー達に笑顔で応えた。
「本当かい?助かるよ」
「アムロ、そこばかりやるのはどうかと思うが?」
アムロの横でザクIIの傷を消していたシャアが、アムロに小さくツッコんだ。
そこというのはのツノで。
ツッコまれたアムロは激しく狼狽していた。
「う、うるさい!どうせ貴方のなんだからいいだろう!?」
「いや、私のだから言うのだが・・・」
「ツノが貴方の全てなんだからいいじゃないか!」と、どう受けとったら良いのか分からない台詞を叫びながら、アムロはそのままツノを磨き始める。
シャアは「私の全てはツノなのか!?」とアムロに食いついていた。
ああ、言い合いに入ってしまった。これでは当分話し掛けれない。
ガロードとジュドーは諦めZガンダムを磨いていたカミーユに指示を仰ぐ事にした。
「カミーユさん、俺ら何やればいいんですか?」
「ん?ジュドーか・・・。とりあえず適当にMSを綺麗にしてやってくれ」
Zガンダムのコックピットから顔を覗かせながらカミーユは言った。
その言葉に、ガロードとジュドーは物凄い笑顔で応えた。
「∀ガンダムやります!」
「俺はデスティニーやりますんで!」
即座に応えた二人にカミーユは少し怪訝に思ったがあまり気にした様でもなく、すぐに聞いた。
「うん?分かった。自分達のMSは自分でやるか?」
「もちろん!」
二人も笑って「じゃあまた」とカミーユに挨拶をして∀ガンダムに向かって行った。
∀ガンダムに向かう途中、Wゼロを整備しているヒイロ、エクシアを大事そうに磨いている刹那を見かけた。
「あ、ヒイロに刹那だ・・・」
「熱心にやってるな、あいつら・・・」
まぁ、あの二人ならな・・・。
ついガロードとジュドーは思ってしまった。
『任務』にガンダムは絶対に必要だし、自分がガンダムだと公言している程ガンダムを愛しているからな・・・。
熱心な二人に話し掛ける程勇気はなく、ガロードとジュドーはそっとしておいた。
ていうか、今はあまり関わりたくない。
二人はそう思って足を進めた。
「コウにガトー少佐もいる」
「あっちにはキンケドゥとバーニィもいるぜ」
「こう見ると今日はすごいなぁ」
「そうだな・・・。すごい人達ばっかりだ・・・」
周りを見ながら呟く。
英雄と呼ばれている人達がたくさんいて。
二人は圧倒されながら歩いていたら、後ろから声を掛けられた。
「ちなみにドモンさんも今日帰ってくるみたいだよ?」
「キラ!」
「となると、アムロさんやヒイロは大変だな・・・」
後ろを振り向けば、そこにはキラがいた。
ジュドーはキラに挨拶をして、ガロードはキラの言葉にアムロ達のドモンに遭った時の大変さを考えて呟いた。
修業から帰って来る度に申し込まれる『ガンダムファイト』をなんとか断っていたが大変そうだったな・・・。
ガロードは遠い目をした。
「キラ、一人?」
「ああ、うん。シンもアスランも料理の方を手伝っていてね」
「それは好都合!」
手を叩き合う二人にキラは首を傾げた。
そんなキラにガロードが簡単に説明した。
「それは面白そうだね。僕もフリーダムを整備し終わったら加わってもいいかな?」
「マジ!?」
「もっちろん!」
そう言って三人は手を振って別れた。
それから∀ガンダムに着いて、二人は髭を集中的に磨いて整備をした。
フリーダムを整備し終わったキラと合流してデスティニーの羽根を集中的に磨き、キラと別れてから自分のMSを整備しに行って。
アムロやカミーユ達と共に他のMSも整備して。
あっという間にパーティーは始まった。
「なぁティファ!あれも食べようぜ!」
ご馳走の山の中で、ガロードは食べたい物を見つけて片っ端から食べていった。
ティファはそんなガロードを見ながら静かに笑っている。
格納庫は人でいっぱいだった。
普段は会わない人、いつも出かけていていない人などもいる。
ジュドーはそんな人だかりを見てすごいと思った。
そして、自分もこのすごい人達の一員なんだな、と。
そう考え深く思っていると、キラが「ごめん!」と言いながら走ってきた。
「シンが怒っちゃった」
「・・・え?」
そう言ってキラが指した方を見ればシンが怒っていた。
しかもかなり。
「アンタ達か!デスティニーをあんなにしたのは!」
「・・・へ?」
ジュドーは肉を頬張っていたガロードを見た。
ガロードも何の事か分からないと首を振る。
確かに羽根は集中的に磨いたが、シンがそんなにキレるはずはない。
「OSまで書き換えて!何やってんだ!」
コックピット内をやったのは、確かキラだったか。
二人がそう思いキラを見ると、良い笑顔を浮かべていた。
「ちょ、それキラだよ!」
「俺ら羽根しかやってないって!」
「僕はアスランに唆されて〜」
「え!?」という声が三つ重なった。
ガロードと、ジュドーと、ちょうど横を通っていたアスランの声。
アスランは何の事か分からず呆然としている。
「アスランさん!アンタまで!」
「え、なに?おいキラお前のせいか!?」
流石にキラと付き合いが長いのか、アスランはキラに詰め寄った。
キラは何の事?と惚けている。
「シン、落ち着け!全てはキラが悪いんだ!」
「アンタ達全員修正してやる!」
シンは完全にキレていた。
人の話しを全く聞かない程に。
キラ以外はやばいと感じたのだろう。何時でも走り出せる準備をしていた。
キラは楽しそうに笑って言った。
「ちなみに回線も弄ったよ」
直すのが大変なぐらい。
キラ以外の三人は足に力を入れた。
アスランが恐る恐るシンを見ると、さっきまで怒っていたのが嘘の様な笑顔だった。
それはもう晴れやかな笑顔で。
アスランは顔が引き攣るのを感じた。
「覚悟は出来てますね?」
低く、ドスの効いた声。
その声を合図に四人、正確にはアスランがキラを引っ張って走り出した。
「待てこの馬鹿ども!!」
シンが叫ぶ。
待てる訳がないと三人は思った。
ティファはそんな様子を微笑みながら見ていた。
シンは本気なのだろう、MSに乗っている並の覇気を出している。
捕まったら終わりだ。
そう思ったガロードは近くにいたロックオンに、ジュドーはアムロに助けを求めた。
「ロックオン!ちょっと匿って!」
「アムロさん助けて!」
いきなり泣きつかれた二人は驚いたが、面倒見が良く理解が速いためガロード達をシンから見えない様に隠す。
シンは気付かずにアスランとキラを追って行った。
キラは相変わらず笑っていた。
「・・・ガロード、ジュドー、シンは行ったよ?」
アムロが笑いながら言えば、ガロード達はそろそろと顔を出した。
その様子にロックオンも笑う。
「助かった〜」
「シン怖ぇよ」
二人は安堵の息をついた。
「で、お前ら何やったんだ?」
近くにいたカミーユが聞く。
「俺らは何もしてないですよ・・・」
「やったのはキラだって・・・」
その言葉で意味が通じたらしい、アムロ達はああ、という顔をしていた。
一番同情すべきはアスランか・・・。
みんなの気持ちが一つになった瞬間だった。
「てかさ、さっきから気になっていたんだけど、」
ガロードがロックオンを見ながら言う。
「誰?」
指を差されたのは、紫色の長い髪で紅いスリットスカートのドレスを着ていた人で。
「ああ、」
ロックオンは平然と答える。
「ティエリアだぜ?」
「へぇ、ティエリアかぁ・・・美人だな。・・・・・・は?ティエリア!?」
ガロードが叫ぶ。
アムロやカミーユも知らなかったのか、驚愕の表情をしていた。
「ティエリアだったのか・・・」
「いや確かに美人だが・・・」
「ティエリアそういう趣味なの!?」
ティエリアは怒りに震えていたが、ジュドーの言葉で怒鳴った。
「ミス・ノリエガに無理矢理着させられたんだ!万死に値するぞジュドー・アーシタ!」
「俺だけぇ!?」
怒り出したティエリアにロックオンが軽く言う。
「まあ、似合ってるからいいだろ」
「っ!貴方はっ!」
ティエリアは何かを言いたそうだったが、結局何も言わずにそっぼを向いた。
ロックオンは笑いながらティエリアを見ている。
アムロは呆然としたままカミーユを見た。
「カミーユもいけそうだよな」
「は!?いやロランとかヒイロの方が似合いますよ!?」
「君も着たら如何かな、アムロ?」
シャアがアムロの後ろに立っていた。
カミーユがシャアを見た瞬間、眉間にシワを寄せた。
「何言ってるんですか!この変態クワトロ大尉!」
「私はクワトロではないよ、カミーユ」
「うるさい!またそんな屁理屈を言って!だから大人は嫌なんだよ!」
カミーユが睨み、シャアが軽く受け流していた。
アムロは呆れた様にため息をついている。
ジュドーと目が合い、アムロは苦笑した。その意味を受け取り、ジュドーはガロードを引っ張ってその場を離れた。
「長くなるってさ」
「アムロさんも大変だな・・・」
ぶらぶらと二人は歩く。
ニンジンを前に逃げようとしているコウに怒鳴るガトー。
ザビーネに捕まったキンケドゥ。
プルとアルと一緒にハロを追いかけているウッソ。
案の定ロランに詰め寄っているグエン。
シローとアイナと談話をしているバーニィとクリス。
ミライと長閑に飲んでいるブライト。
そんな光景を見ながら、二人は歩いた。
ふと前を見るとデュオがいるのが見えた。
デュオも気付いたのか二人に手を振ってきた。
「ガロードにジュドーじゃねぇか!何やってんだ?」
「んー、ぶらぶらしてた?」
「なんで疑問形なんだよ」
まぁ、いろいろあったんだとガロードはごまかした。・・・なんていうか、説明が面倒だった。
デュオは気にはなったらしいがふーん、と言っただけで突っ込んでは来なかった。
「まぁいいや。なぁ、向こうで話さねぇか?」
どうせ暇なんだろ?と問われ確かに暇だなと笑い合った後、三人は好きな料理を取って格納庫の端の方に歩いて行った。
そこにはWゼロにもたれ掛かるヒイロと刹那がいて。
だから、デュオの持っていた料理が多かったのかと納得した。
「こいつら無口だろ?俺とあんま会話してくれねぇんだよ」
と、デュオは笑いながら言う。
ガロードとジュドーはそれに苦笑いで返した。
ガロード達の持って来た料理を食べながら、三人は取り留めのない事を話した。
「だからさ、売るならやっぱRX-78だって。なんたって初代だぜ?」
「うーん、でも∀もいいんじゃない?」
「ゼロも良くね?天使の羽根みたいなのあるし」
「貴様・・・殺すぞ」
「冗談だって、本気にすんなよなヒイロ!」
殺気を出すヒイロに、デュオは冗談だと笑って流す。その様子に、ガロードとジュドーはすげぇ!と目を輝かせていた。
「俺的にはνガンダムかな、フィン・ファンネルやりたいし」
「あ!だったら俺、Xのサテライトキャノンやりたい!」
「今度乗らせてやるよ、ジュドー。俺はダブルオーライザーのトランザムだな!」
その言葉に、刹那がピクリと反応した。
でもフリーダムのもいい。F91にも乗ってみたい。試作2号機もいい、など、自分の乗りたいMSについて三人は盛り上がった。
その様子を見ていたヒイロは、うるさいと眉を潜める。
しかし、それは次の一言で静まった。
「ヒイロ・ユイ!貴様にガンダムファイトを申し込む!!」
その声に、格納庫も一瞬静かになった。
ガロードとジュドーは忘れてた事を思い出し、心の中でヒイロに謝った。
そのヒイロは目の前で自分を指差す男、ドモンをさっきより深く眉間にシワを刻みながら見た。
「断る」
静かな、はっきりとした声でヒイロは言った。
「俺はゼロを任務以外で負傷させる気などない」
言い分は分かるのか、ドモンはぐっ!と唸った。
「しかし!俺はお前と戦いたい!!」
「俺よりも強い奴などいくらでもいる。・・・こいつと戦ってみろ」
そう言ってヒイロが指したのは刹那で。
デュオはただ刹那に押し付けただけじゃねぇかと思った。
だが、ドモンはヒイロの言葉を信じているのか刹那をじっと見ている。
「刹那・F・セイエイか・・・。確かリボンズ・アルマークを倒していたな・・・」
刹那を見ながら呟く。
そしていきなりドモンは叫んだ。
「刹那・F・セイエイ!俺はお前と戦ってみたい!ガンダムファイトを申し込む!!」
ドモンがファイトを申し込んだのが刹那相手は初めてだったので、ガロード達は刹那が何と答えるのか分からなかった。
というか、刹那自体よく分からないのだが。
そんな三人が見守る中、刹那がゆっくり言った。
「俺がガンダムだ・・・」
「なにっ!?・・・では肉弾戦か?」
「違ぇだろ!!」
デュオがツッコんだ。
「違うだろ!なんで『俺がガンダムだ』なんて言っている奴がいんのに戦い方に悩んでんだよ!悩むのはそこじゃねぇよ、てかまず『俺がガンダム』って意味分かんねぇよ!ヒイロもなに人に押し付けてんだよ!」
「ならお前がやれ」
「俺はいいぞ?敵は多い方が燃えるからな!」
「俺を侮辱しているのか・・・?デュオ・マックスウェル」
「お前ら面倒くせぇよ!一気に来んな!」
デュオが珍しく苛々しながら叫んでいた。
ガロードはその様子を見ながらジュドーに話し掛ける。
「なんか今日は大声をよく聞くよな」
「うん、祝いの席なのに・・・」
「なぁジュドー」
「ん?なんだ?ガロード」
「俺、一番売りたいMSゴットガンダムだわ」
「金ぴかに変わるしな」
「そうそう、シャア大佐の百式やムウのアカツキと違って普通のガンダムから金ぴかガンダムに変わるってすごいよな」
「初めから金ぴかは目立つからな・・・。なぁガロード」
「ん?」
「俺、石破天驚拳使いたい」
「あー、確かに。正に必殺技だよなー」
「あとさ、アレ言ってみたいじゃん?」
「『俺のこの手が真っ赤に燃える』!」
「『勝利を掴めと輝き叫ぶ』ぅ!」
「決め台詞だな」
「あと『ゴット・フィンガー』!とか」
「じゃあ石破ラブラブ天驚拳でも今度やってみっか」
「敵をハート型に撃ち抜いちゃう?」
「良くね?」
「良いね」
そう言って、二人は笑った。
「でも一番良いのはDXだな」
「だよなー。俺もZZが一番良い」
やっぱり自分のMSが一番良いと、二人は顔を見合わせて笑った。
目の前では、天然なテロリストとズレてるガンダム信者と熱血漢すぎる世界王者とツッコみまくっている死神が騒いでいた。
30th anniversary!
一緒に戦ってくれて、ありがとう。