「あ、」

ペンチで切った部品が宙を舞う。ケロロはそれを見ながら言葉を零した。
部品は小さく、すぐに視界から消えてしまった。

「ちょ、マジでー?アレ大切な部品なのにー!」

よっこらしょと言いながら、持っていたペンチと繋がっている部品を置き立ち上がる。
飛んでいった方向であろう床を舐めるように見渡したが、部品は見当たらない。

「何処行ったでありますかー?部品ちゃーん?」

部品に声を掛けるが、当たり前に答えは返って来なかった。
アレがないとVガンダムの脚がくっつかないのにー!
そんな事を愚痴りつつ、棚の下や壁の隙間を見る。

「あ、あった〜!」

棚と棚の間を見た時、目当ての物が転がっていた。
少し奥にあり、手を伸ばしてギリギリ届くか届かない所にそれは鎮座している。
ケロロはガンプラが作れる、と笑顔で手を伸ばした。






「クーックックックーッ!!も、腹痛ぇ!」

「ちょっと見てないで助けてよクルル!」

見事に棚と棚の隙間に挟まっているケロロにクルルは笑った。それはもう大爆笑だ。何であんなに綺麗に嵌まってるんだと思うと、また自然に口角が上がり笑みが止まらない。
部品を取る為に腕を伸ばしたが届かなかったケロロは、肩まで隙間に入れてみた。すると部品は取れたが、腕が取れない。肩まで入れた所為で、顔が片方の棚へと張り付き後ろも向けない。そんな四面楚歌な時にクルルがやって来て、見た瞬間吹き出されたのだ。

これはきっとVガンダムの罠だ。くそっ、あの甘ちゃん坊やめ!

そんな悪態を心の中で吐き、何とか腕を外そうともがくがびくともせず、代わりに後ろから聞こえる笑い声が大きくなった。

「む、むりっ!何でそんなに綺麗に嵌まってんだよ!」

「我輩だって満点あげたいぐらいでありますよ!」

何でこんな綺麗に嵌まってるんだよ。しかも何で棚が二つとも重いんだよ。
クルルは助ける気がなさそうだし、棚も動かせられない。
人事だと思って笑うクルルが腹立たしいと思えば、何だか握っている部品にも腹が立ってきた。投げ捨ててやろうと腕を振ると身体が微かに揺れ、クルルが苦しそうに笑うだけで何も変わらない。部品も手の中だ。
クルルの笑い声が本当に苦しそうで、腕が外れたら絶対仕返ししてやろうと心に決めた時、後ろから意外な単語が聞こえてその決心は吹き飛んだ。

「あー、笑いすぎて涙出てきたぜぇ」

「えっ!?マジ?見たいってぇえ!!」

その単語に引かれるように勢いよく顔を後ろに向けようとしたら、肩が変な方向に曲がり顔は棚へと逆戻りした。
その様子を見たクルルがブハッ!と吹き出す。

「どーやって見んだよ!」

床をバンバン叩く音まで聞こえてきて、激痛に耐えながらケロロも涙目になった。
そういえば、あのクルルがここまで笑う事なんて珍しい。いや、無いに等しいのに何でそれが見れないんだ。しかも今なら涙付きなのにぃ!

「抜くなら全力を尽くしてやってやるぅ!」

そんな思いに駆られ、激痛などお構いなしに腕を引っ張ったり身体を揺らしてみる。しかし、やはり腕は一向に抜ける気配がなく、クルルの声が苦しくなるだけだった。

「とまっ、隊長動くなよっ!もっ、ククッ!」

きっと今クルルは見た事もないほどの満面の笑顔で笑っている。しかも涙付き。それなのに見れないなんて、そんな殺生な!
諦めるな、諦めたらそこで試合終了なんだ。何か手があるはずだ、何か。

「はっ!」

悩んでいたケロロが、閃いたと目を見開かせ声を上げる。それにクルルも笑うのを止め、棚に張り付いているケロロの背中を見た。

「引いてダメなら押してみろ!前テレビで犬に噛まれたら押し込めって言っていたであります!」

そう意気揚々と言ったケロロは、口を開きかけたクルルなど露知らず、今度は勢いよく押し込んだ。
肩だったのが首根まで隙間へと消える。そんな苦しい態勢になったケロロは押し込んですぐに引こうと力を入れた。

「・・・・・・・あれ?」

しかし、いくら引いてみても腕は押し込んだ位置から変わらない。

「ちょ、隊長さいこー!!」

一瞬の沈黙の後、クルルが今日一番の爆笑でもって笑い出した。
そんな声を聞きながら、余計に抜ける気配がなくなった腕を見下ろして、ケロロは本気でどうしようか考えた。






目一杯ドロップス



君の笑顔が見たいのに!



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