クルルが珍しくケロロの部屋へ自ら赴き、「邪魔するぜ」と一言部屋の主に声を掛けて持ち運び用のパソコンを開いた。
ケロロはそれに「んー」と応えたきり、ガンプラ製作に励んでいる。
離れた場所に背中合わせに座っている空間に、ただ作業の音だけが響く。
しかし、そんな時間は10分も経たずに終わった。
「・・・いきなりは止めて貰えないっすかねぇ」
自分の腹に回された腕を眺め、クルルはため息と共に言葉を吐く。ケロロは「んー?」と頭をクルルの背中にぐりぐり押し付けながら応えた。
「いきなり抱き締めたくなったんだもーん」
ケロロが腕に力を加える。
背中に引っ付いた体温を感じ、クルルは自分の手を後ろから回された手に重ねた。
「たいちょー。今ならひざ枕してやるけど、背中に引っ付いてんのとひざ枕されんのどっちがいい?」
あやすように手を包んで聞けば、後ろでもぞもぞと動いているのが伝わる。
しかしケロロは何も言わず、クルルもその間パソコンにも触らずケロロの手を弄っていた。
どのくらいそうしていたのか、ケロロが背中に頭を押し付けた。
「どっちもがいいでありますー」
その言葉に、クルルは小さく笑った。
「まるでタママ二等兵だなぁ」
まだ幼い傭兵を思い浮かべながら言えば、より一層腕に力が込められた。
「例えタママでも、他の男の名前を言うなんて許せないでありますぅ」
「似てねぇなぁ。何だい隊長、嫉妬かい?」
「嫉妬なんて・・・してるもん!」
「何だそりゃ」
くつくつとクルルが笑う。
弄っていた手を離し、自分に巻き付いている腕をぽんぽんと叩いた。
「隊長、ひざ枕してやるから腕外しな」
もう一度言えば、ケロロはまたもぞもぞと動いて「うーん」と唸った。
「クルルー、ちょっと呼んで?」
その簡略した言葉に首を傾げたが、クルルはすぐに口を開く。
「隊長」
「もう一回」
「たいちょー」
「もう一回」
呼んでももう一度とやり直させるケロロに、クルルは小さく笑った。
「ケロロ」
もぞもぞと動いていたケロロが、ゆるゆると腕を外した。
腕を外されたクルルはケロロと向き合う。そして足を正座にし、自分の太ももをぽんぽんと叩き口角を上げた。
「どうぞ?」
言われたケロロはポカンとした後に笑った。
「今日のクルルは優しいなぁ」
「優しい俺は嫌いかい?」
「ううん、どんなクルルも大好き」
促された場所に頭を下ろす。顔を埋めるように腰に腕を回した。
「傷んでるなぁ」
膝上にあるケロロの髪に指梳けば、硬い感触が指先に触れる。そのまま好き勝手に弄っていると、「じゃあさ」とケロロが言った。
「一緒にお風呂入ろうよ」
「クック、一緒に入った所で傷んだ髪のキューテクルは帰って来ないぜぇ?」
「俺の心身が満たされて帰って来るかもよ?」
「風呂で何する気だぁ?」
「愛の営み?」
「ハテナを付けるくらいじゃ却下だな」
「えー、マジでー?」
そう言って二人で笑う。
髪を梳きながら前を見ると、そこには作りかけのガンプラが散らかっていた。唯一まともに出来上がっている胸部の背中にはXの形が象られている。
「ねぇクルルー」
それを眺めていると、下から声が聞こえた。
「んー?」
クルルは最初に声をかけた時のケロロのように力無く返す。
「もう一回」
そう言われて、クルルは下へと視線を向けた。
「ケロロ」
「ん」
腰に回されていた腕を外され、ケロロも上を向く。その顔は嬉しそうに目を細められていた。
外された腕がクルルの顔へと伸ばされる。頬を一度だけ摩ると、その頬の肉を摘まれ横に伸ばされた。
クルルも梳いていた髪を掴み上へと引く。
頬と髪を引っ張られながら二人は笑った。
「大好き」
好逑コーリング
君といれば自分になれるんだ。