明けましておめでとうございます このサイトも3年目(たぶん)になりました。来て下さる皆様のお陰です! 去年、長編やりたいとかほざいてたけど、やはり自分は長編に向いてない事が分かった。 途中まで書いて諦めたよ。← 書きたい事はあるのに書けないこのジレンマ。あー、文才が欲しいと思いましたね! 今年も浮気すると思いますが、佐助くんとクルルを愛でていきたいと思います! 今年の抱負は『マイナーなカップリングにも挑戦したい』です。 このサイトに来て下さっている方、拍手をして下さった方、本当にありがとうございます。 今年も皆様に楽しんで頂けるよう、楽しんで書いていきたいと思います! 以下、諦めた長編(途中まで) ・政→佐 運命だと思った。 見た瞬間電撃が体中を走り、あぁ、これが好きって奴かと実感した。 相手は名も知れぬ男。 そう、男だ。 男でも、そんな事だ些細な事だと思った。相手が男でも女でも関係ない。俺はこの人が好きだと思った。 俺のバイト先である古本屋に、その男は訪れた。 それも店が終わる15分前に。 最初は何だこいつは、と思った。早く店を畳みたいのに、何でギリギリに来てんだよ、と。 店は個人経営の小さなもので、しかも俺の知り合いである松永という奴が殆ど趣味でやっている為、店番は俺一人だ。客足も少ない為、早く店を畳んでしまおうと思っていた矢先、男は現れた。 男はゆっくりと本を見ている。 服装はパーカーにジーンズとラフな格好で、背丈は俺と同じか少し高いくらい。何を思ってか髪は橙色で、ヘアバンドでそれを後ろに流していた。 けったいな客が来たもんだと思いながら、俺はその男をぼんやりと眺めていた。 閉店時間まで後5分。 男は数冊の本と共に俺の所に来た。 俺は本の裏にあるシールを見、レジに打ち込み値段を言った。そこで、やっと俺に気付いたかのように、男は声を上げた。 「あれ、君新しい子?松永さんは?」 『新しい子』という事と、『松永さん』と親しそうに呼ぶ所を見ると、この店の常連らしい。 「・・・昨日から働いてます、伊達です。松永、・・・さんは二階にいると思います」 使い慣れない敬語で答える。常連なら閉店時間も分かっている筈なのに、こうギリギリに来られると少し気に障った。いや、常連だからこそ、この時間なのか。 「へ〜、あの松永さんが人を雇うなんてねぇ」 男は軽口を叩きながらお金を払う。俺がお釣りを渡すと、男はそれを受け取った。 「学生さん?」 「・・・大学生っす」 「大学生かぁ。いいねぇ、若いねぇ」 お釣りも渡したし、もう客もいないから店を閉めようと思っていたら、男は帰らなかった。それどころか、馴れ馴れしく話し掛けてくる。 俺は本当に何なんだ、この男はとげんなりした。もう店を閉じて帰りたいんだよ、俺が。 男はそんな俺の気持ちに気付かず、続けて言った。 「ねぇ、伊達くんっていったっけ。あのさ、俺、この時間じゃないと来れなくてさ。・・・伊達くんに悪いんだけど、店開けといてもらえない?」 困ったように男は笑った。 悪いも何も、相手は客だ。閉店時間を過ぎている訳でもないし、客が来てくれると言っているのだから断れる筈がない。そう考えた俺は、「はぁ」と抜けた返事をした。 だが、男は嬉しかったらしい。「本当?」と声を上げて俺の手を握ってきた。 「ありがと、伊達くん!」 そう言いながら、俺の腕をブンブンと上下に振る。だが、俺はそんな事も気にならない程の衝撃を受けていた。 言い換えれば、胸が跳ねた。 礼を言った時の男の笑顔が、俺の脳みそを揺さ振った。 本当に嬉しそうな笑顔。大の男がそんな純粋に笑うのは衝撃だった。 体中に電撃が走り、繋がっている手が熱くなる。 ああ、俺はこいつが好きだと唐突に感じた。 そして、こんな小さなバイト先で、こんな人に出会えるなんて、運命だと。 しかし、俺の運命の相手はブンブンと俺の手を上下に振って、ありがとうを二回ぐらい言って颯爽と帰ってしまった。 「ありがとね、伊達くん。じゃあまたね」 帰って行く男に、俺は何も、名前さえも聞けずに終わった。 「運命っつっても、お前だけがそう感じてるんだろ?」 「Shut up!んなこたぁねぇよ!」 日差しが強くなりつつあるこの時期は、ただ座っているだけでも汗が滲むようだ。 日陰になっているベンチを陣取り、俺達はダラダラと時間を潰していた。昼過ぎの授業なんて出る気など起きる筈がない。満腹感とこの気温とつまらない教授の話が眠気を誘ってくるのは明らかなので、それなら有意義に時間を過ごそうと自主休講した。 「でもよぉ、一目惚れって相手は男だろ?お前は女好きだと思ってたんだけどなぁ。・・・はっ!まさかお前俺の事もそんな目で!?いやん、えっち!」 「その白髪剥がすぞてめぇ!!」 「白髪じゃねぇ銀髪だ!人の身体的悪口言うんじゃねぇぇえ!!」 目の前の白髪、もとい銀髪をわし掴んだら、脛を靴先で蹴られた。反撃として俺も足を力の限り踏み付けると、自称銀髪の元親が「いてぇええ!」と叫んだ。 「おま、思いっきり踏んだだろ今!人がわざわざお前の興味ない恋愛話を聞いてやってんのに!」 「興味ねぇとは言ってくれるなぁ、元親」 「痛いっつってんだろ!お前もうちょっと先輩を敬えよ!」 「留年した先輩を敬うなんて、俺ぐらいだぜ?」 「嘘つけぇ!」 ぐいぐい髪を引っ張りながら、俺は元親に笑い掛けてやった。元親の片方だけ見える目が涙目になっているのを見つけて、少し気分が晴れた為手を離す。 元親は「禿げねぇよな・・・」と小さく呟きながら、頭を摩っていた。 「いいじゃねぇか、禿げで眼帯。昔の武将になれんじゃねぇか?」 「そしたらお前も道連れだからな」 からかうように言えば、横から本気でやりそうな真剣な声が聞こえてきたから謝った。何時もは面倒見の良い兄貴分だが、怒ると恐いのは身に染みている。 謝った俺に、元親は大袈裟にため息を吐いた。 「しっかし、お前が一目惚れとはなぁ。俺ぁ、お前は惚れられても惚れる事はないと思ってたんだが」 「どういう意味だよ、そりゃ」 「そのまんまの意味だよ。お前、人に興味ねぇって感じだっただろ。今まで付き合ったってのも、全部女からで、しかも都合の良い顔も良い金持ちな女だったしな」 「良く分かってんじゃねぇか」 それに、俺はニヤリと笑った。元親は嫌だ嫌だと頭を振っている。その度に、奴の銀髪が散って綺麗だった。 「でもよ、あいつは綺麗だったんだよ。俺は今まで人間なんてしょうもない、欲望の塊だとか思ってたんだがな、あいつの笑顔は純粋でさ。気付いたらもうKnock out」 今でも鮮明に残る、昨夜見た笑顔。 あの笑顔を思い出す度に気持ちが軽くなった。 「ノックアウトってか。随分惚れちまって、まぁ」 「ドッキュン!てなっちまったのかい?」 渇いた笑い顔を見せていた元親の後ろからいきなり声が聞こえた。声の主の慶次が元親の頭に肘を置いている。その顔は愉しそうに笑っていた。 「で、ナニナニ?何の話?」 恋愛話が大好きな慶次が、元親の頭をがっちりホールドしながら聞いてくる。元親は苦しそうに顔を歪めていた。 こんな暑いのに、なんで暑苦しい男達を見なければならないのだ。これは拷問に近い。慶次の長い髪はもはや拷問具だ。例え慶次が初恋を叶える為に伸ばしているというロマンチック過ぎる、大学生男子とは思えない理由で伸ばしていたとしても切り捨ててやりたい。理由なんか知るか。見てて暑苦しいのが悪い。 そこまで考えて、俺は重い腰を上げた。 食堂にでも行こう。冷房が効いているかもしれないし、水は飲み放題だ。そうだ、こんな暑い所にいる方が馬鹿なんだ。馬鹿は放っといて、アイスでも買って有意義に過ごそう。 「まぁっさむねー。どこ行くのー?」 バッグを掴んで歩き出そうと足を上げた所で、拷問具に捕まった。こんの馬鹿力が。 「・・・俺ぁ、むさ苦しい男がくっついてんのは見たくねぇんでな」 「好きな奴が男のくせにかー」 「え!?マジで?政宗が?何どういう事か先輩に教えろよ!」 元親の馬鹿が余計な事を言いやがったため、拷問具もとい慶次が興味津々に聞いてきた。掴んだままのバッグがぐいぐい引かれる。これ以上やられたらバッグが成仏してしまうと思い、俺は諦めてまたベンチに腰を下ろした。 「・・・こんなむさ苦しい奴らと一緒なんて、有り得ねぇ」 「眼帯二人組よりは増しじゃない?」 「Ah?」 軽口を叩きやがった慶次をジロリと睨み付ければ、慶次は気にしたようでもなくあはは、と笑った。 ・赤→黄 「好きだ」 出来ることなら、聞かなかった事にしたかった。 そう思ったのは2度目だった。 「頭、大丈夫かぁ?ついに脳みそまで筋肉になっちまったかい?」 口の片端だけを吊り上げて厭味たっぷりに笑ってやると、目の前にいる相手−つまり、俺に対して好きだなんて言いやがった奴−は、露骨に顔をしかめた。 それが確か1度目。 全く相手にしていなかった頃。鼻で笑って終わりだった。 では、今回はどうしよう。 なんて言えば、なんてごまかせばいいのだろう。 また相手にしないようにするか? それともはぐらかしてみるか? いや、何をするにも反応が遅すぎる。普段の俺なら、もう何らかの行動を起こしているはずだ。 チッ、と心の中で舌打ちをして考える。 もう考えるのも億劫だ。何で俺が悩まなくてはいけないんだ。このままこの赤ダルマをほっといて、地下に行ってPCやらやりかけの研究を弄りたい。 そんな事を考えて現実逃避していたら、筋肉赤ダルマが名前を呼んできやがった。空気読めよ。 「聞いているのか?」 ああ、聞いているさ。だからこんなに逃げたいんだよ。 「俺はお前が好きだ」 2度も言うなよ、馬鹿じゃねぇの?全部合わせりゃ3度じゃねぇか。馬鹿かホント。 また現実逃避していたら、凄い眼で睨まれた。好きな奴に見せる眼じゃねぇよ。 はぁ、と溜息を吐く。 「・・・趣味悪ぃな、アンタ」 そう呟くと、赤は笑った。 「そうだな」 自分で言うなようぜぇ。 俺は、アンタが嫌いだ。 そう言ってやると、赤はどういう顔をしたんだろうか。 「馬鹿言ってんじゃねぇよ、先輩。寝言も休み休み言えよ?」 実際に言えたのはそんな言葉。 俺はくくっ、と喉で笑った。自分に対してか、赤に対してなのか。きっとどっちもなのだろう。 赤は前回の様に顔をしかめず、そうか、と言う様だった。その態度が俺を苛立たせる。 「で、話しはそれだけかい?なら出てってくれねぇか」 俺は忙しいんだ、と目線で訴えれば、赤はああと言ってあっさりと入り口へと引き返して行った。 やっと解放された、そう思って出て行く赤をチラリと見ると、赤が廊下に消えていく直前こっちを見てきた。 その眼を見た瞬間、身体が熱くなった。 まるで、本当に愛しいような、何処か、熱を含んだような。 優しく、熱い眼。 そんなモノ、俺に向けられるべき視線じゃない。 そんなモノ、俺には必要がない。 だから、そんな優しい目で俺を見ないでくれ。 俺に優しくしないで。 俺は、アンタとは絶対恋愛関係になるつもりはないから。 例え、俺がアンタを好きでも。 俺があの赤を好きだと自覚したのは、1度目に告白された後。 嬉しいと思ってしまった自分がいた。その事が驚きだった。 普段俺と赤は気が合わず、よく言い争いをしていて、俺は奴を、奴は俺を互いに嫌いだと思っていた。 だが、実際は違っていた。 俺は奴を、奴は俺を互いに好きだったんだ。 そう自覚した瞬間、何かが壊れてしまう恐怖に駆られた。 この筋肉馬鹿だが、人の面倒見がよく優しく綺麗な人を俺なんかで汚しちゃいけないと思った。 思ったから、俺は想いを殺した。 「頭、大丈夫かぁ?ついに脳みそまで筋肉になっちまったかい?」 咄嗟に出ていた台詞に、自分の性格に感謝した。きっと少しでも間が空いていたら、何を言ってしまうか分からなかったから。 あれで、赤も諦めてくれると思っていた。 けど、言い争って馬鹿にして、何時もの変わらない日々の中で、赤はたまにあの視線を向けてきた。 そして、今日が来てしまった。 「何なんだよ・・・」 何で俺なんだ。 自分で言ってもなんだが、俺の性格は最悪だと思う。 陰湿陰険、人に悪さ悪戯をしまくり、なまじ頭がいいからその悪戯は悪戯とは呼べるモノではなくなっている。人のトラブルに頭を突っ込み、掻き回すだけ掻き回して放り出す。 そんな性格だから、人から送られる視線は嫌悪か侮辱などの黒い感情ばかり。 加えて口調は悪く、人を馬鹿にした様な態度。 顔立ちは綺麗だから余計に反感を買う。 そんな中、赤は俺に対して全く逆の視線を送ってきやがった。 送られた事の無い視線。 それに対して、俺はどうすればいいのか分からなかった。 だから拒絶した。 変わってしまう自分が怖かった。 変わってしまう周りが恐かった。 「もうほっといてくれよ・・・」 俺に構わないで、俺に入り込まないで。 「アンタに、俺は似合わない」 例えば、夏がよく似合う彼女。少し乱暴たが優しく正義感の強い笑顔の可愛い子。 赤だって、彼女の事が好きなはずだ。 なのに、なんで・・・ 「なんで俺なのかねぇ」 また考え込む。思考に溺れていく。 赤の事なんて考えたくないのに、赤の事しか頭になくなっている。 なんで、どうして、ばっかりがぐるぐる回っている。 そうして、完全に溺れていった。 「あれ?どうして此処にいるんでありますか?」 私を見た弟の幼馴染みは、不思議そうに首を傾げた。 「いや、今日は私用でね。可愛い女王様に呼出しを受けてしまったんですよ」 そう笑いながら答えると、彼は余計に驚いた様子だった。 「あの捻くれ俺様に?貴方が?・・・珍しい事もあるのですね」 彼が驚き感心している時、彼の後ろの方にいた弟が睨みつけてきた。 それに私は笑って応える。 「で、あの人は何処にいるのですか?」 笑ったまま彼に尋ねると、彼はしっかりした顔付きになって答えた。さすがは隊長殿と感心する。 「たぶん、自分の研究室に篭っているであります。最近出て来てないでありますから、休憩を取るようお伝えして頂けますか?」 隊員を心配する隊長を持てて、私の弟もあの人もなんて幸福なのだろう。 勿論と伝えて、私はあの人の元へ向かった。 研究室に着くと、真っ暗の中に黄色がただぼんやりとパソコンを弄っていた。 その様子が、いつもより儚く弱々しく感じる。 「たまには休まないと、身体に障りますよ」 そう声を掛けると、黄色は驚いたように私を見て、すぐククッと何時もの様に笑った。 「そんなヤワじゃねぇよ」 「貴方が大丈夫でも、周りは心配するものなんですよ」 貴方の隊長とか、私の弟とか。 そう言うと、黄色は肩を跳ねさせた。私は気付かない振りをして、黄色に近付いく。 「何かありましたか?」 「・・・何もねぇよ」 クルルはそっぽを向いてしまった。そんな子供らしい動作に笑ってしまう。 「何笑ってんだ」 笑っていたら黄色に睨まれてしまった。 「いや、つい可愛いなと思いまして」 「・・・キモいぜぇ」 そう言いながら、黄色は私に抱き着いてきた。 私はそれをしっかりと受け止める。 「珍しいですね、貴方から抱き着いてくれるなんて」 いつ以来だろうか。まだこの人が少佐だった頃のはずだ。 抱きしめた黄色は、あの頃より随分大きくなっていた。 「何かあったのですか?」 その質問に、黄色はぎゅ、と強く抱き着いて答えた。 「例えば、私の弟に告白されたとか」 抱きしめた黄色が強張るのが分かる。私はその様子に笑った。 「遂に言いましたか」 長かったですね、と言えば、黄色は余計強く抱き着いてきた。 「・・・知ってたのかよ」 「一応私の弟ですので。それに分かりやすかったですよ?」 気付かなかった貴方も可愛かったですが。 黄色の髪を梳きながら話し掛ける。黄色は私の胸に頭を押し付けながらうるせぇよ、と言った。 「で、貴方は何と答えたのですか?」 黄色は顔を上げずに笑いながら言った。 「頭大丈夫かって言っといたぜぇ?」 「それはまた貴方らしいですね」 私もそれに笑う。 「でも、貴方はいいのですか?」 「・・・何がだ?」 「好きなんでしょう?」 弟が。 そう言うと黄色は顔をやっと上げた。その眼には驚きと戸惑いと少しの怒りがあった。 「・・・俺はお前が好きだ」 「おや、嬉しいですね。私も貴方が好きですよ」 両想いですね。 そう言いながら、黄色の眼にキスをした。黄色はくすぐったそうに身をよじる。 「でも、私に対する『好き』と弟に対する『好き』は違うでしょう?」 その言葉に、黄色は固まった。 思い浮かぶのは、あの時の弟の視線。 この人に呼ばれたと言った瞬間、弟に殺意の篭った眼で睨まれるとは思わなかったな。つい苦笑いを浮かべながら思い出す。 不器用なのだ、弟もこの人も。 そんな不器用な二人だから、周りも苦労が絶えない。 だけど、可愛い弟と大切なこの人の為。 「好きなのでしょう?」 優しく問い掛けると、黄色は私の胸に頭を余計にぐりぐりと押し付けた。それはまるで小さい子供がする様に。 「・・・先輩は、」 黄色が小さく呟いた。 「・・・先輩は、勘違いしてるんだ・・・」 「勘違い?」 「・・・先輩は俺が好きなんじゃない・・・」 力なく、黄色は呟く。 その声は切なかった。 胸に顔を埋めたままの黄色を、私は出来るだけ優しく抱きしめた。 「それは、あの地球人の事を言っているのですか?」 赤い髪の強い彼女。 確かに弟の好みではあるだろう。 黄色は答える様に、私を抱きしめる力を強めた。 「心外ですね。私の弟は二人同時に人を好きになれるほど器用ではありませんよ?」 好きではない人に好きと言うほど腐ってもいません。 そう私が言うと、黄色はゆっくりと顔を上げた。切なくて、驚いている様な、いろんな感情を混ぜた表情。 黄色は小さく頭を振った。 「でも、俺は駄目だ」 悲しそうに、黄色は言う。 その理由を知っているから、私は余計に胸が痛くなる。 黄色は人に弱みを見せないし、人に頼るなんてしない。それは小さい頃から面倒を見てきた私以外絶対だ。 自分が汚れていると黄色は思っている。そして、人と距離をとる。 しかし、その理由を知っているからこそ。 知っているからこそ、黄色に幸せになってもらいたい。 「貴方は、どうしたいのですか?」 黄色が強張る。 それは引き篭っていた時、青に言われた言葉と同じもの。 突然現れた青に、言われた。 「君はどうしたいの?」 「このままでいいの?」 「彼に嫌われてもいいの?」 「彼に他の愛する人が出来てしまっても構わないの?」 いい訳がない。 他に好きな人なんか作らないで。 ・臨静(デュラララ!!:僕の彼女はサイボークパロ) 綺麗だと思った。 男相手に、綺麗だと。 最初に目に入ったのはその容姿だった。金髪にバーテンダー服、青いサングラスをした容姿は人混みの中でもとても目立つ。 いくら人間を愛していても、俺にそっちの趣味はない。でも、池袋の雑踏の中で佇むあの男は、とても綺麗だと思ったのだ。 綺麗で、儚くて。すぐに壊れてしまいそうな、そんな男。 気が付いたら、俺はその男に話し掛けていた。 「ねぇ、何してるの?」 我ながら、ありきたりな声の掛け方だと思う。しかし、にっこりと笑えばそれは極上の物へと変わると分かっている。 以前腐れ縁である友の新羅に「顔だけなら君は百発百中だよね」と、褒められているだかけなされているだか分からない事を言われたように、顔には自信がある。だからいくら相手が男でも、嫌な顔はされないと踏んでいた。 確かに嫌な顔はされなかった。 しかし予想とは全く違っていた。 男は話し掛けられた事にも気付かず、ただぼうっと行き交う人達を見ているだけだったのだ。 そんな男に、俺は口元に弧を描く。全くもって興味深い。 だが俺に気付かないのは何だかシャクだ。だから俺はその男の前に立ち塞がって、俺しか見えなくしてやった。 流石に男も気付いたのか、俺を眺めるように見てきた。目が合った一瞬青いサングラスの奥にある目が丸くなったが、すぐにぼんやりとした目線に変わった。 「何してるの?」 にっこりと笑って言う。だからか分からないが、男が口を開いた。 「・・・何も」 答えはつまらない物だったが、ごまかしたでもなく本当の事だろう。その答えの抑揚のなさに、ますます興味深くなる。 「ねぇ、名前なんていうの?」 「名前?」 「そう、君の名前」 首を傾げて聞き返してくる男は、本当に分からなかったのだろうか、じっと俺を見詰めてきた。それに俺は笑みを浮かべて答える。 男は一瞬考えてから言った。 「・・・平和島静雄」 その声に、今度は俺が一瞬考える。 「じゃあ・・・シズちゃんだね」 「シズちゃん?」 「君のあだ名。いいだろう?可愛くて」 俺と同じくらいの年齢で、しかも俺よりも背が高い奴に可愛いと言うのも変だが、このあだ名はしっくりきていると思った。 男、いや、シズちゃんは「可愛い?」と首を傾げている。その様子は同い年には見えなく、むしろ何も知らない子供のようだった。 「シズちゃんは暇なの?」 シズちゃんがまたキョトンと首を傾げる。 「それとも誰か待ってる?」 今度はふるふると力無く首を振った。 そして、悲しそうな顔をした。 「俺と待ち合わせしてくれる奴なんか居ないから」 「どうして?」 少し躊躇って、シズちゃんは言った。 「俺は人間じゃないんだ」 「・・・・・・は?」 流石の俺も意味が解らなかった。だって、何処から見てもシズちゃんは人間だ。 もしや電波さんか中二病患者さんなのかな、と思っていると、シズちゃんはキョロキョロ辺りを見回して、近くにあった街灯へ俺の手を引きながら近付いて行った。 「多分、これを見れば解るだろ」 俺にそう言って、シズちゃんは街灯に手を伸ばす。そのまま普通に柱の部分を掴んだかと思えば、街灯はぐにゃりと前のめりに曲がった。 「・・・・・・え?」 呆けた自分の声が妙に軽く聞こえる。シズちゃんはそんな俺に構わず、その曲がった街灯をコンクリートごと地面から引っこ抜いた。 コンクリートが付いた街灯を軽々と片手で持ち上げ、横へと下ろす。ガゴン、と重低音を響かせて、それは穴の空いた地面の横に横たわった。 自慢じゃないが、俺は滅多に感情に出さない。何時も笑顔で隠して、自分の感情を他人になんて見せない癖が付いているのだ。 しかし、この時だけはその自慢のポーカーフェイスも剥がれ落ちた。きっと今の俺は馬鹿みたいに目も口も開けているだろう。 シズちゃんを見れば、何でもないような顔をして、俺を眺めていた。 そして、俺に言う。 「俺は、サイボーグなんだ」 俺は、サイボーグと出会った。 全て中途半端なんだぜ! 1/4(Wed) ←22:09(0) |