※未成年喫煙表現有 高校生くらいかも







「お前、」
不意に声が聞こえてしゃがんだまま首だけ振り向きそちらを見れば、正面からの夕日に赤く照らされた鬼道有人が眉根を潜めて突っ立っていた。「絶句」って言葉をまさに全身で体現してるようなその姿に自然な笑みが零れる。笑いながらゆっくりと紫煙を吐き出す。夕日の中で頼りない煙はゆっくりと大気に溶けた。それから至って冷静に、まだ少し長いくらいの煙草の火を地面にこすりつけた。
「不動、なんてことを」
まるで人殺しでも目撃したかのような弱々しい震える声で問われる。
「お前、バレたら、退学どころじゃすまされないぞ…」
「…そうだなァ」
相変わらず真っ白な顔をしてる鬼道くんにもう1度笑いかけると思いっきり顔を顰められた。
「体にも悪い」
「知ってるよ」
「…貴様には失望した」
「そりゃどーも」
別に普段からスパスパやってるわけじゃあないんだぜ? 鬼道くん。これだって人生でたった二本目だった。たった二本で俺の人生は大きく変わったりしないし寿命だって10分と少ししか縮まないよ。
「サッカーにもひどく影響するだろう」
そればっかりは嫌だね。
鬼道くんは優しいから、煙草を消した俺の傍に寄ってきて一緒に隣にしゃがんでくれた。俺はそっと距離をとる。ゴーグルの奥の目が少し不安に揺れた。「匂いつくよ」と言うと、俯いたまま「そうか」と一言返ってきた。それから黙りこんでる奇妙なドレッドヘアを、撫でてやりたいようなひっぱたいてやりたいような気持ちになって、手を伸ばして、やっぱり引っ込めた。
「………前に、ちょっとだけ好きだったやつに勧められたんだけど。ダメだな。もうやめるよ」
何がどうダメなのかはわからないけど、鬼道のあの真っ白な顔みたらやめとけばよかったって思った。でもさ、ちょっとだけだけど、自分の好きなヤツからソイツ特有の匂いがしたら、思い出して恋しくなったりしねえ? ちょっとアレ、憧れたんだ。される側な。
立ち上がって少し離れたところにある自販機の脇のゴミ箱に、ほとんど中身の減ってないタバコの箱とライターを投げ入れる。それから鬼道の元に戻って「帰ろうぜ」と誘えば鬼道もおとなしく立ち上がった。大切なぬいぐるみを引き剥がされた幼児みたいにまだ不安そうにしてる顔が面白くて、でも何故か少し切なくなった。そんな気持ちを払拭するようにグイと強めに鬼道のマントを掴んで、
「今度吸いたくなったら、鬼道くんがなんとかしろよな」
言ってやると、すごく困った顔で鬼道はやっと笑った。
「なんとかしろなんて、言われてもな…」
「なんとか出来るだろ」
むちゃくちゃ言ってるみたいだけど、まるで流れ星に願い事を唱えるような、少女の気持ちでそう言った。帰途はすっかり日が暮れていた。夜の空には薄い雲がかかってる。きっと鬼道はわかってるんだろうなぁ。







願掛け紫煙






タバコ、ダメ。絶対。
喫煙がかっこよく見えるのは2次元だけですよ。


2016/07/20
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