※えっち未遂ですちょっと色々注意










「つっ…んぅっ…」
夏の大雨みたいに暑くて湿度の高い部屋。大雨っていうかもはや水中って感じ。窓もカーテンも締め切って、ベッドサイドの時計もさっきクッション投げてひっくり返したから、ほんとにこの部屋は外界から隔離されてるみたいだ。時間の流れだって気にすることないよ。鬼道くん。
今目の前でベッドに仰向けで転がされている鬼道の体は、そういうコトにとても敏感だった。もう何度セックスしたか覚えてないけど、俺と初めて肌を合わせた時よりずっと前から鬼道は、与えられる快楽をただただ享受する行為に慣れていた。まー、所謂非処女ってやつだな。ちょっと悔しい。とか。思ったりしたけど。
「なぁ、なんで声抑えてんの…」
鬼道のスベスベの腹に手のひらを滑らせる。ピクッと反応する肢体がどうしようもなくいやらしい。ふと思って顔をあげれば、鬼道はなにか不満なのかほんの少し唇を尖らせて視線を向こうにやっていた。
「何その顔……」
鬼道は何も言わなかった。何も言えなかったのかもしれない。ぐずる子供のような表情に、思わず身を乗り出して軽く口づける。二、三回軽くキスした後、下唇をペロリと舐めるとそっと唇が開かれた。2人とも目開けたままで角度を変えて深くキスする。視線と舌を絡ませ合って、溶け合うようなキス。鬼道の目には微かに涙の膜が張ってて、それを見るといつも胸の中で何かが暴れてるような気分になる。左手を鬼道の汗でしっとりしてるドレッドヘアの隙間に忍ばせて、髪を縛っていたヘアゴムをそっと取った。それから右手はまた鬼道の脇腹に這わせて、しっとりした肌を撫でる。脇腹の、肋骨のラインをするりと撫でるとビクビクと体が痙攣した。えろいな。
鬼道の手が縋るように胸元に伸びてきて軽く押された。おとなしく体を起こす。肩や胸全体で息しながら、鬼道の濡れた目はじっと、まっすぐこっちを見ていた。鬼道の目って真っ赤なんだぜ。きっと、一度や二度練習試合しただけの奴らは、こいつの目の色になんか気づかないだろう。あのよくわからないゴーグルの下に隠された瞳の色が、こんなにも魅惑的だなんて! 俺がすごく好きな色だ。
「こえ…」
「ん?」
ゆっくりと瞬きをしてから、鬼道は口を開いた。
「癖になっている、んだと思う…。前も言ったかもしれないが…、そのほうが良いと、言われてから」
「……あー、そう」
前も言ってたっけ。聞かなきゃ良かったかな。聞かなきゃ良かったよな。鬼道が少し寂しげに、そして少し申し訳なさげに目を伏せる。俺こういう雰囲気好きじゃねえよ。一丁前に、昔の男の話するなよ。って言ってやりたい。けど。こんな…。
鬼道の心にはぽっかり穴があいている。俺がどんなに努力しても、鬼道自身がどんなに苦しんでも未来永劫埋まらない呪われた穴だ。埋めてやりたかった。それが出来なくてもせめて見えないように優しく蓋をしてやりたい。こんなんじゃ無理じゃねえか。っていうか、柄じゃない。なさすぎる。情けない。
もう一度体を曲げて今度は鬼道の首元に顔を埋める。鎖骨のラインをするすると舌でなぞってから、がぶりと首元に噛み付く。結構強めに。
「…うっ……う、ふどう、いたい」
鬼道が脚をパタパタ動かしながら俺の頭を引き剥がそうと手を置いてきた。結局その手は弱々しくて、本気じゃないなと気づく。噛み跡に舌を這わせたまま手を下にずらし、鬼道がまだ唯一身にまとっていた下着の中に手を差し入れた。まるで、形だけでも抵抗するかのように鬼道の熱い左手が俺の手首に添えられる。そんな仕草一つでさえもが、俺を燃え上がらせた。たとえそれがとっくの昔に誰かの嗜好に合わせて仕込まれたものであっても。
鬼道は右手で顔を覆っていた。きゅっと両目を閉じているのが、細指の隙間から垣間見える。それから、明らかに快楽からではない涙が、頬をひっきりなしに流れていた。俺も人並みに感情は持ち合わせてるつもりだから、胸がズキズキ痛んだ。顔を上げて、下着の中をまさぐっていた手を止めて、覆い被さるようにして乗り出していた体を少し離す。鬼道は両手で顔を覆った。
「続けてくれ…」
泣いてるくせに案外しゃんとした声だった。
「でもお前…」
「気にしないで欲しい」
「……わかった。お前はそのまま泣いてていいぜ」
どっかの国の王子様かよってくらい紳士的にそう返すと、鬼道は控えめに声を上げて泣き出した。天才でも、誰かの最高傑作でも、泣き方がこんなに下手なんじゃ哀れだ。ちょっと苦しそうに嗚咽を立てて泣く鬼道をチラッと見てからゆっくりと顔を下ろしてへそに軽くキスを落とす。鬼道の体はどこもかしこも熱い。
「………泣いてていいしさ、他の誰に抱かれてる妄想しててもいいから、せめて全力で感じてて。乱れてて。そうじゃないと、俺も泣いちまうそう」
ほんとは既にちょっと泣きそうだ。まあ、いつもなんだけど。別にいつまでたっても俺だけを見てくれないこの状況に泣きそうなんじゃない。本当は、鬼道が可哀想で可哀想で涙が出そうになる。鼻がつんて痛くなる。可哀想な鬼道。いつまでたってもアイツに依存してしまってる可哀想な鬼道。それから、…健気すぎて可哀想な俺。不毛だなあ。
鬼道はぐちゃぐちゃと涙を拭うとまだ少し潤んでる目でまっすぐこちらを見つめてきた。少しつらそうに、そしてまた申し訳なさそうに、色っぽく眉尻を下げてこっちを見つめている。ドキッとする濡れた赤い目。好きだな。
「すまない、不動、待っててくれ。ちゃんと好きなんだ」
ああ、もう。そういう事言われると、たまらない気持ちになる。こんな感情自分にまだあったんだなとか冷静に思ってしまう。俺達には少しむず痒すぎるそんなほろ苦いセリフに思わず顔をしかめながら「あぁ、」とだけ返すと鬼道はちょっと笑った。
いつまで待てるかなぁ。と、頭の隅っこで思案しながら俺はただ、しょーもないほど好きになってしまった奴の体を堪能するために、それから少しでもそいつの悲しみを嘘で埋めるために行為を再開した。












(エロくできなかったのは僕が羞恥心に負けたからです)



2016/07/13
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