目の前に無防備に晒されている佐久間の右脚を掴んでみると、驚いた佐久間が「うわあっ」と声を上げて上体を起こした。
「なに」
佐久間は心の底から不快そうに顔をしかめて、今までだらしなく寝転がって読んでいた漫画を脇に置いた。
「佐久間、今日は暑いな」
「暑いよ。だからクーラーつけてるんだろ。感謝しろよな。おい脚持ち上げるな」
綺麗な褐色の脚を目の前まで持ち上げて、じっと観察してみる。佐久間は「むっつりめ」とか言ってそっぽを向いてぶすくれているけれど気にしない。
脹脛を下から掴んでいるとさらっとした薄い皮膚の下にしっかりとした筋肉がついているのがよくわかる。佐久間は、恋人の俺が言うのもなんだが、小柄で中性的なイメージがあったが、やっぱりこうしてみると…
「お前結構かっこいいんだな」
「失礼だな…帝国のフォワードだぞ…そりゃ、ヤワな脚してないさ…」
不満げに佐久間がブツブツと返す。俺は抵抗されないのをいいことに観察を続けた。佐久間の脚なんて何年も見てきた。ただ、今なんとなく見たかったのはその脚に刻まれた、(今となってはだいぶ目立たなくなっているが)無数についた鋭い傷のあとだ。もちろん、決していい思い出ではない。しかしもうだいぶ時間が経った。なんとなく感傷的な気分になって、できるだけ優しく傷痕に指を這わすと、佐久間がつと顔を歪めたのが横目に見えた。
「痛むのか?」
「…いや、さすがにもう痛まないけど、………気持ち悪い」
「そうか、すまない」
脚は掴んだままで、おとなしく傷痕から手を離す。
しばらく不満そうに向こうを向いていた佐久間だったが、不意にこちらを振り向くと俺の目の前にある足の指をきゅっきゅっと開いたり閉じたりしてから、ニヤッと笑って見せた。
「なんだ」
「そんな熱視線送られて、こっちが『なんだ?』って言ってやりたいよ」
ヤラシイ目で見やがって、なんて佐久間が楽しそうに笑うから、元々本当にそんな気は無いつもりだったがもう仕方ない。愛おしい佐久間の脚をそっと下ろしてやってから、身を乗り出して、妖艶な弧を描く彼の唇にそっと優しくキスをした。




甘く苦い初夏





2016/07/12
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