例えばどこかの夢見る少女が「愛されたい」と願ったとして、それは具体的にどういったものなのだろうか。俺には検討なんてつかないし、ぶっちゃけるとどうでもいいよ。
ゆっくりと水面に浮かび上がっていくように自然と眠りから目が覚めた。右手の窓のカーテンの向こうは薄ら明るく、早朝の冷気がカーテンの隙間からジワリと染み出ているような気がした。この宿舎からは離れたところにある砂浜の潮騒が、遠くに微かに聞こえている。ベッドサイドのデジタル時計は午前4時過ぎを示している。上体を起こすと隣のベッドで丸くなって眠っている鬼道が少しだけ身じろぎするのが見えた。起こしたかなと思ったけど、まあこんな夜明けの時間に健全なスポーツ少年が目覚めるわけもなく、鬼道はそのまま穏やかな寝息を立て始めた。
あまりにも、奇妙な程にスッキリと目が覚めてしまったものだからこのまま二度寝するのもなんとなく勿体なくて、ベッドの縁に腰掛け直してなんとなく思案した。散歩にでも行こうかな。じいさんかよ。でもたまにはそんな気分になってもいいだろ? センチメンタルなお年頃なんだよ、多分。靴をつっかけてベッドから降りる。足の裏にうっすらたまった疲れに少し苛立ちながら、ふと思い立って向かいのベッドを回り込み、鬼道の寝顔の前にしゃがみこんでみた。ガキ臭い顔。なのに少しだけ眉間に寄ったシワが悲しい。鬼道くんどんな夢見てるの。
鬼道の眉根をグリグリ指で押してみた。寝てる時まで色々考えてんじゃねえよと、俺なりの気遣いだ。そうしたら鬼道は唸りながら薄く目を開けて不快そうにますますその形のいい眉を寄せた。
「おはよう鬼道くん」
鬼道は掠れた寝起きの声で「なに」と一言呟いた。「ただの睡眠妨害だよ」と笑って返したら鬼道は布団から伸ばしてきた手で俺の肩をグイッと押した。しゃがんだまま少しよろけて後ろに手をついて、鬼道がもぞもぞ背中を向けたのを確認してから立ち上がる。流石に南国といえど明け方は肌寒そうだから掛けてあったジャージを引っつかむ。扉を開けると廊下から優しい照明の色が部屋の床に広がった。
「どこに行くんだ?」
半分寝てるような声に振り返れば、背中を向けていたはずの鬼道が眩しそうにこちらを見ていた。
「散歩。」
素っ気なく告げるとなにかむにゃむにゃ鬼道が言った気がした。もしかしたら「気をつけろよ」だったかもしれないし「変なヤツめ」だったかもしれない。まあわかんないんだけど不覚にもちょっと嬉しいとか思っちゃったり、して。


愛の習作




久々すぎてよくわからないけど多分これはFFI後半の時間軸




2016/07/09
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