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【紅一点】王シリーズ最終回!
「名前王〜〜〜!!!」


「「いぇーい!!!!!」」


黒尾の声に続くように日向と木兎が声を張り上げる。治もパチパチと拍手を送っていて、レンズに映る四人は非常に楽しそうだ。

YouTuber VBオンエア。

それが私たちのグループ名だ。とある大学のバレーボール部で出会った仲間たちと創設したこのグループは、気づけばチャンネル登録者数400万を超える国内じゃトップの部類に入るYouTuberとなった。
メンバーは、黒尾、木兎、岩泉、私、赤葦、治、日向、月島の八人。黒尾と木兎、岩泉、私が二十五歳。赤葦、治が二十四歳。日向と月島が二十三歳。
気心知れた面子と馬鹿やりながら過ごす毎日を私は結構気に入っている。

カメラの裏から動画の導入部分を撮っている四人を見つめる。動画の入りや説明、司会進行は、大体黒尾か赤葦が勤めている。時には他のメンバーがすることもあるが、二人の説明が分かりやすいため、他の人の企画でも二人に任されることが多い。
今回は入りは黒尾、進行はカメラ裏の赤葦が勤めている。撮っているのは王シリーズと呼ばれる動画で、今日がシリーズ八人目。つまり王シリーズ最後の動画となる。
王シリーズの動画は、メンバーの一人をピックアップし、そのメンバーが質問に対して何と答えるか当てる動画だ。優勝者は王からハグされるという流れがあり、これまでの戦績は、黒尾王は月島が、木兎王は赤葦が、岩泉王は日向が、赤葦王は治が、治王は黒尾が、日向王は木兎が、月島王は赤葦が勝ち取っている。
優勝が決まった瞬間、不本意そうな皆の顔がとても面白い。特に黒尾王を取った時の月島と、木兎王を取った時の赤葦の顔と来たら。“王”からのハグを何とか拒否しようとする二人の様子にコメント欄での視聴者さん達からの反響はかなり大きかった。
「名前さん、一勝もしてませんよね」と隣で呟いた月島に、「日向王しか出てないしね」と返すと、ああ、と納得したように頷いた月島は視線を再び前へと戻した。


「このグループの紅一点、名前さん王を決めるわけですが……皆さん、意気込みのほどは?」

「意気込みっつーか……この面子なら間違いなく俺じゃね?」

「は???」


赤葦の問い掛けに当然のように答えた黒尾。すると、黒尾の答えが気に食わなかったのか、治の口からやけに低い声が吐き出された。


「なんやそれ。その自信どっから来てるん?」

「付き合いの長さからですが??」

「付き合いの長さと名前さんの事分かっとるかどうかはイコールやないんじゃないでしょ」


バチバチと火花を散らす二人を他所に、「そんなことより早くやろうぜ!」「ですね!」と両サイドの木兎と日向が声を上げる。へいへい、と仕方なさそうに肩を竦めた黒尾は「スガちゃんフリップくれー」と菅原に声を掛ける。
あいよ、と答えた菅原がフリップを持って来てくれる。
VBオンエアには数人のお手伝いさんがいる。みんな自分の仕事の合間に撮影の手伝いに来てくれるので、誰がいるかは割とバラバラだ。バイト代的な感じでお給料もお渡ししているけれど、日によってはお手伝いさんは居らず、自分たちだけで撮影する場合もある。ちなみにお手伝いさんは全員顔出しNGなので、映った場合はモザイクを掛けるか編集でカットすることになっている。
カメラ外からフリップを渡した菅原。参加者四人がフリップを受け取ったことを確認し、「早速第一問に行きましょうか」と赤葦がパソコンを操作し始めると、画面には椅子に座った私と問題文のテロップが。


【第1問 苦手な食べ物は?】


問題を確認した四人は早速フリップの答えを書き始める。「月島は何が嫌い?」と同じく見学の月島に問い掛けると、「無駄に辛いもの」と端的な答えが返ってきた。


「それでは、木兎さんから順にお答えをどうぞ」

「おう!名前が嫌いな食べ物は……ずばり!“ピーマン”だ!!」

「“辛い物”じゃね?」

「“ない”」

「“辛いもの”です!」


木兎、黒尾、治、日向の順に出揃った答え。確認した赤葦は、「答えはこちらです」と動画を再生させる。


〈 嫌いな食べ物はなんですか? 〉

《 あー……パクチーかな 》


【答え パクチー】


「あ〜、まあ苦手なやつ多いよな」

「アジア系の飲食店行けないやん」

「………パクチーってなんだっけ??」

「……赤葦、」

「後で説明するので、2問目行きましょう」


首を傾げる木兎をスルーし、動画の進行に努めようとする赤葦。そんな赤葦に代わって、「なんか緑の葉っぱです!」と日向が教えているが、その教え方は果たして如何なものだろうか。


「では第2問目にいきます」


【第2問 一番好きなドラマは?】


「これは簡単だわ」


スラスラと答えを書き始めた黒尾、治、日向に対し、木兎だけは頭の上にハテナマークを浮かべている。
「名前さんよく見てますよね!」「リピートし過ぎやな」『面白いものは何回見たって面白いでしょ』
なんてやり取りをしてるうちに出揃った答え。木兎だけが眉間に皺を寄せた難しい顔をしていたので、今度は日向から答えていくことに。


「“花より男子”です!」

「“花より男子”やな」

「“花より男子”」

「あー!!!そうじゃん花男じゃん!!」


「俺“ルーキーズ”って書いたわ!」と悔しそうにフリップを表にした木兎。ルーキーズも好きだけど、一番となると花男以外ありえない。頭を抱える木兎を他所に、「正解はこちらです」と赤葦は淡々と進行していく。


〈 一番好きなドラマはなんですか? 〉

《 花男一択 》


「木兎さん以外正解ですね」

「くそー!!!!次は絶対当てる!!!」

「では、このまま3問目に行きましょうか」



【第3問 特に仲のいいYouTuberは?】



「これも簡単やなあ」


呆れ混じりのため息を零しつつ、治はフリップに答えを書いていく。これは木兎も分かったようで、さっきとは打って変わった嬉々とした様子でペンを走らせている。
四人がほぼ同時に書き終えると、「これは一斉にどうぞ」と赤葦が言い、今度は四人が同時にフリップを表にする。


「“雪っぺたち”!!」

「“GIRLS BIRD”」

「“ガールズバード”」

「“ガールズバードさん”!!」


「……木兎さんの答え方グレー過ぎませんか?」

『まあ木兎だしね』


月島の声に苦く笑いながら答える。
GIRLS BIRDとは、私たちと同年代の女性だけで構成される女性YouTuberグループだ。メンバーはかおりちゃん、雪絵ちゃん、潔子ちゃん、仁花ちゃんの四人。メイク系やファッション系の動画をあげる彼女たちの動画は若い女性達に大人気で、私もゲストとして彼女たちのチャンネルにお邪魔させて貰ったことがある。四人とはプライベートでも仲良くしているけれど、ここ最近はあまり会えていない。
そろそろ皆に会いたいなあ、なんて考えていると、いつの間にか赤葦が動画を再生し、正解部分を流し始める。


〈 特に親しくしているYouTuberは? 〉

《 GIRLS BIRDだね 》

〈 GIRLS BIRDさんのチャンネルによくゲストとして出てますもんね 〉

《 この前プライベートで遊んだ時、いっそうちくる?って誘われたわ 》


「は?」

「は??」

『冗談で誘われただけだから、そんな目で見ないでよ…』


ジト目で見てくる黒尾と治から思わず目をそらす。早く軌道修正しろと言うように赤葦を見ると、仕方なさそうにため息を零した赤葦が「次いきますよ」と黒尾たちの意識を4問目へ。


【第4問 最近一番腹が立ったことは?】


「「「あ〜!!」」」

「………」


問題文が出た途端、木兎、治、日向の三人は深く頷き、黒尾だけは微妙な顔で無言に。これも全員正解だろうな、と白けた顔で黒尾を見遣ると、わざとらしく視線をフリップに落とした黒尾は、どことなく気まずそうにペンを走らせた。


「では、答えをどうぞ」


「……”ビンタされたこと”、」

「“黒尾のセフレにビンタされたこと!!!”」

「“黒尾さんのセフレに叩かれたこと”」

「“黒尾さんの元カノさん(?)にビンタされたこと!”です!」


やはりと言うべきか。書き方に差があれど、全員同じ内容を書いている。「これも皆さん同じ答えですね」と頷いた赤葦はそのままパソコンを操作し、答え部分の動画を再生させる。


〈 最近一番腹が立ったことは何でしょう? 〉

《 ……黒尾のセフレが凸してきて、ビンタ食らわされたことに決まってるでしょ 》


「日向だけは“元カノ”と書いてますが……」

『セフレだろうが元カノだろうが変わんない。突然現れてビンタして来たこと自体にムカついてるんだし』

「では、全員正解ということで」

「やったー!!」


わーい!と手を挙げて喜ぶ日向を尻目に、居心地悪そうに肩を縮める黒尾。「……悪意ある質問混ぜやがって」と唇を尖らせた黒尾に、「自業自得でしょう」と至極当然だとばかりに赤葦は応えてみせた。


「黒尾さんが誰とどんな関係になるかは勝手ですが、それでメンバーに火の粉を飛ばすのは辞めた方が良いですよ」

「飛ばしたくて飛ばしたわけじゃねえっつの!勝手に飛んでったんだよ!」

『同じことでしょ』

「そもそもセフレがいること自体どうかと思いますし」

「それは俺だけじゃなくて治もだろうが!!」

「俺まで売るん辞めて貰えません??」


抗議の声を上げた黒尾に、治が迷惑そうに顔を顰める。
コイツらの貞操観念死んでるな、と目を細めていると、「この話どこまで広げるんですか?」と月島がため息を零したことで、「詳細はサブチャンで話してもらいますからね」と黒尾のセフレビンタ事件の話は一旦ここで終えることに。
長いサブチャンが撮れそうだな、なんて考えていると、動画を進めるべく赤葦が5問目を出題し始めた。


【第5問 好きな体位は?】


「………赤葦さん?」

「違うから月島。これは問題を考える時に、木兎さんが巫山戯て考えたやつだから。断じて俺が考えた質問じゃないよ」


珍しく慌てた様子で弁明する赤葦。質問された時点で考えたのは黒尾か木兎だろうなとは思っていたけれど、まさかのドンピシャである。今度は木兎を睨むように見ると、サッ!と目を逸らした木兎は視線を右へ左へ不自然に動かしだした。


「おっ、おれっ、俺じゃねえしっ!!か、考えたのはっ、多分黒尾だし!!」

「吃り過ぎだろ」

「その誤魔化し方は逆に自分の首締めとるんちゃう?」


分かりやすい木兎の反応に黒尾と治が呆れた返った視線を向ける。コイツにも後で制裁が必要だろう。
ダラダラ冷や汗を流す木兎を尻目に、「とりあえず答えて下さい」と答えを促す赤葦。気まずそうな日向に対して、特段気にした風もなく答えを書く残りの三人。またコメント欄で「日向くん可愛いー!」と騒がれそうだな、なんて考えているうちに四人が答えを書き終わり、木兎から順にフリップを表へ。


「好きな体位はー……“バック”!!!」

「“無言”で返す」

「“正常位”」

「…こ、答えない………?」


真面目に体位を答えているのは木兎と治で、答えないと予想したのが黒尾と日向である。
「バックはお前の好きな体位だろ」「名前も好きかもしれねえじゃん!」という黒尾と木兎のやり取りに月島と二人で額に手を当てて首を振っていると、酷く冷めた目をした赤葦が無言のまま正解動画を流し始めた。


〈 第5問ですが………一応伝えておきますが、俺が考えた問題じゃありませんからね 〉

《 ??なに?何て質問?? 》

〈 …………好きな体位は? 〉


パアアアアアアンッ!!!


ノートパソコンのスピーカーから聞こえた乾いた音。画面にはハリセンを持つ私が映っており、画面外からは赤葦の呻き声が。「……あのハリセン何処から出したんですか?」と怪訝さを露に尋ねてきた月島に、「撮影部屋に落ちてた」としれっとした顔で答えると、気の毒なものを見るように月島の視線が赤葦へと向けられた。


「……という訳で答えは、“出題者をハリセンで叩く”です」

「………あ、あかあし……なんか怒ってね……?」

「別に怒ってませんが?木兎さんが考えた質問のせいで名前さんにハリセンで叩かれたからって怒ってなんていませんが?」

「ごめんて赤葦!!謝るからその顔やめて!!!」


冷ややかな目と普段以上の無表情を向けてくる赤葦に、木兎が黒尾の後ろへ隠れようとする。引っ付いてきた木兎を黒尾がうぜえ!と振り払おうとしていると、今日何度目かのため息をついた赤葦が「……一先ず次行きましょうか」と律儀に7問目へ。


【第6問 木兎の尊敬出来るところは?】


「ここでこの質問かよ……」


苦く笑いながらも黒尾は右手を動かし始める。続いて日向と木兎本人が答えを書き出し、最後に治がペンを走らせた。
「この質問、順番考えたの誰ですか?」「……確か菅原さんだったような」「ああ、通りでこの順番なんですね」
四人が答えを書いている間に行われた赤葦と月島のやり取りに私もなるほど、と納得する。あのデリカシーゼロな質問の後に木兎のいい所を答えるなんて、かなりの悪巫山戯が込められている。菅原はそういうとこあるよな、とお昼ご飯の準備をしているであろうお手伝いさんの顔を思い浮かべていると、「ではこれは、日向から答えをどうぞ」と言う赤葦の声に意識を四人へと向け直した。


「はい!“カッコイイとこ”です!!」

「……“素直なところ”とかちゃう?」

「真面目に答えてんなら、“好きなものへの集中力”とかじゃねえの?」

「おいおい皆照れるじゃねえか!!」

「……で?木兎さん本人はなんて書いたんですか?」

「“かっこいいところ!”!!名前よく俺のことカッコイイ!って褒めてくれるし!!」


「………それは木兎さんをノせる為では……?」

『月島しっ!!!』


余計なことを言った月島の声は木兎の耳に届いていなかったらしい。「あ!一緒ですね木兎さん!」と喜ぶ日向に、「おう!日向分かってんな!!」と豪快に笑う木兎。悔しがったり喜んだり焦ったり笑ったり。感情がジェットコースターみたいに浮き沈む奴だなよなあ、と呆れ半分感心半分に木兎を見つめていると、「正解はこれです」と6問目の正解動画が再生される。


〈 木兎さんの尊敬出来るところはどこですか? 〉

《 ………好きなことには無意識に貪欲になれるところ、とか??》


「え、これ俺正解じゃね??」


答えとフリップを見比べる黒尾。ニュアンス的には似ている気もするけれど、一点あげるほどドンピシャな答えとは思えない。「0.5点あげる」と王権限で得点を言い渡すと、しっ!と小さくガッツポーズをした黒尾は意気揚々とフリップの文字を消し始めた。


「では7問目ですね」


【第7問 黒尾の嫌いなところは?】


「赤葦、俺に恨みでもあんの??」


7問目の問題テロップが出た瞬間、頬を引き攣らせた黒尾が赤葦を見遣る。いいえ、と赤葦は首を振ったけれど、それでも何処か納得出来なさそうな様子で黒尾はフリップに向き直った。


「自分の嫌われてるとこ書くってスゲェ複雑」

「俺書けた!!」

「俺も」

「俺も書けました!!!」

「書くの早くね??そんな早く思いつくほどお前ら俺のこと嫌いなの???」


一旦手を止めてメンバーを見回した黒尾。「だって名前さん、今黒尾さんに怒ってるじゃないですか!」と笑顔で告げる日向に、うっ、と言葉を詰まらせた黒尾は今度は黙ってペンを走らせた。


「……では、皆さん書き終えたようなので、順番に答えをお願いします」

「黒尾の嫌いなところはー……“セフレがいること”!!」

「……まあ、“セフレ作ってるとこ”だろうな」

「“女の子にテキトーなとこ”やな」

「“女の人に対して不誠実なところ!”ですね!」

「全員似たような回答ですが………答えはこちらです」



〈 黒尾さんの嫌いなところはどこですか? 〉

《 …………色々見抜いてくるところ 》


「マジなヤツじゃねえかよ!!」


ダンッ!!とテーブルを叩いた黒尾に、その隣で木兎がゲラゲラ笑っている。「この流れだと“セフレ”関連だと思うだろ!」と文句を言ってくる黒尾に、ふいっとわざとらしく顔を逸らしてみせた。


『ビンタされたのムカついたけど、黒尾が誰とどんな付き合い方するかは黒尾が決めることじゃん。それに黒尾がセフレ作るのは彼女いない時だけだし、お互い割り切って関係持ってるなら別にいいんじゃない?私は絶対そんなヤツ彼氏にしたくないけど』

「最後の一言が全てやん」

「黒尾さんのセフレどうこうに関しては、好き嫌い以前に“無理”ってことですね」

「ツッキーわざわざ言い直すの止めてくんね??あと治、お前は人のこと言えた義理じゃねえだろ」

「俺は特定の相手と関係続けたりせえへんし」

「セフレがいることには変わらねえだろうが」

「一回限りの相手は“フレンド”とは言わんのちゃいます?」

「セフレもワンナイトもアバンチュールも一緒だろ」

「一緒ちゃうわ。少なくとも俺は、名前さんに尻拭いさせたりせえへんし」


画面のど真ん中で言い争う黒尾と治に、助け舟を求めるように日向がチラチラとこちらを見てくる。
「どんぐりの背比べだね」「目くそ鼻くそを笑うじゃないですか?」と辛辣極まりないやり取りをする赤葦と月島。岩泉がいれば拳一発で黙らせてくれるのになあ、と内心愚痴りながらも、仕方なく日向の視線に応えてあげることに。


『はいはい。どっちも女の子にモテモテのプレイボーイって言うのはよく分かったから、とりあえず動画進めようよ。あんた達の女遊び談義のメインチャンネル使わないで』

「……好きで女遊びしとるわけやないです。一番大事にしたい人に、相手がおるんやからしゃあないやん」

『あーあーあー!何も聞こえませーん!!』


「赤葦最後の問題行って!!!」と耳を押えたまま赤葦を見れば、深く長いため息ののち、赤葦の手が漸くパソコンへと伸びた。


「では、次が最終問題です」


【第8問 メンバーの中で結婚するなら?】


最終問題のテロップを確認して直ぐ全員が答えをフリップに書き始める。まあ七択の答えだし、メンバーの中から選ぶのであれば自然と答えは限られてくるだろう。
「今みんな何ポイントずつだっけ?」と月島を見れば、「木兎さん2pt、黒尾さん3.5pt、治さん3pt、日向3ptです」と当然のように全員の点数が返された。さすが月島である。
最終問題の正解者がいなければ、優勝は黒尾ということになる。この流れで黒尾にハグはちょっと複雑だな、と四人を見守っていると、四人の手が止まったことを確認し赤葦が答えを再生する準備を始める。


「皆さん書き終えたようなので、最終問題の答え合わせに移ります。ちなみに、先程月島が言っていた通り、現在の得点は“木兎さん 2pt、黒尾さん 3.5pt、治 3pt、日向 3pt”です。このまま行けば黒尾さんの優勝ですね」

「もちろん優勝者は王からのハグが貰えるんだよな?」

「あれ??でもそれ名前の彼氏怒るんじゃね??」

『あー……いや、うん、まあ……彼氏は大丈夫、うん、』

「??そうなの??」

『うん。だからまあ、ハグくらいなら別に、』

「では、優勝者は通例通り王からのハグが貰えるということで………最終問題の答えを皆さんお答え下さい」

「おう!!答えはもちろん“オレ”だ!!!」

「“黒尾”」

「“治”」

「“岩泉さん!”です!!」


順番な裏返されたフリップ。
名前を書くはずのこの問題で一人だけ“オレ”という一人称を書いている人がいる。恐らく“木兎”という意味で書いたのだろうけれど、木兎だから大目に見られる答え方である。


「……見事にバラけましたね……」

「今の流れで自分の名前を書ける黒尾さんと治さんの神経が凄いですね」

『ほんとにね』


半目になりながら答えを見比べていると、「これについては一応理由も伺っておきましょうか」という赤葦に、真っ先に木兎が口を動かした。


「いつも“かっこいい!”って言ってくれるし!!」

「……どこかで聞いた理由ですね。……それで、黒尾さんは?一体どんな心境でご自分の名前を書かれたんですか?」

「赤葦めちゃくちゃ辛辣すぎねえ?名前と一番何でも言い合えるのは俺だろ?結婚すんなら変な遠慮とかない方がいいじゃねえか」

「………治は?どうして自分の名前書いたの?」

「おい赤葦、俺への返事はなしか」

「俺はまあ…単純に、この答えやったら嬉しいなと思うて、」

「黒尾さんの後に聞くとかなり澄んだ理由に聞こえるな…」

「おい」

「……最後に日向は?どうして岩泉さん?」

「岩泉さんと結婚したら、絶対幸せにしてくれそうだと思って!」

「なるほど。確かに岩泉さんは大事にしてくれそうだもんね」


穏やかに微笑む赤葦に、はい!と日向が大きく頷き返す。赤葦の対応が、黒尾や木兎に比べて日向と月島相手になると甘く感じるのは気のせいじゃないだろう。年下に甘くなる気持ちは私にも分かるし。
「答え合わせに行きましょう」と最後の映像を流すためパソコンへ手を伸ばした赤葦。再生と同時に画面に映し出された私に全員の視線が注がれた。


〈 では、最後の質問です。メンバーの中で結婚するなら誰がいいですか? 〉

《 そりゃ岩泉でしょ。奥さんのこと絶対大切にしてくれるだろうし 》


「やった!!!俺正解だ!!!」


わーい!!!!と両手を上げて喜ぶ日向に対し、残りの三人は悔しそうに赤葦のパソコンを睨み付けている。
「俺じゃなかった!」「岩泉かよ!!」「……なんかめっちゃ恥ずいわ」とごちる三人を尻目に、「日向、名前王おめでとう」と赤葦は日向に小さな拍手を送っている。えへへ、と照れたように笑う日向の微笑ましいこと。通常なら優勝者である日向とハグをするのだけれど、日向には可愛らしい彼女がいる。彼女持ちの日向とハグをするのは果たして如何なものだろうか。


『日向どうする?彼女に悪いし、別のご褒美にしよっか?』

「大丈夫です!名前さんからハグして貰えるかもって彼女に言ったら、“羨ましい!!”って言われましたし!」

『あ、そう?そういうことなら……』


床に落ち着かせていた腰をゆっくりと持ち上げる。日向の方を向いて両手を広げると、応えるように日向も手を広げてくれる。「日向!」「名前さん!」とノリと勢いで抱擁を交わすと、それを最後に動画は終わりへ。
「また次の動画で会いましょう!」「ばいばーい」と日向と二人で手を振ると、倣うように他の三人も手を振り始め、頃合いを見計らった赤葦がビデオカメラを停止させた。


「一先ず撮影終了ですね」

『だね』

「まさかチビちゃんに負けるとは……」

「彼氏持ちと彼女持ちのハグなんて誰得やねん」

「つか、名前は彼氏に許可取ってんの??日向にハグしてる動画出たら怒られねえ???」

『……あー……さっきも言ったけどそれは問題ないと言うかなんと言うか……』

「名前さんの彼氏さんも、そういうの気にしないタイプでしたっけ??」

『……気にしないというか……そもそも気にしてくれる相手が居なくなったというか……』

「は??」


意味がわからないとばかりに首を傾げるメンバーたち。出来れば岩泉もいて全員揃った時に言おうと思っていたけれど、この流れは仕方ないだろう。



『別れたんだよね、彼氏と』

「は………」

「は………?」

「「「はああああああああああ!?!?」」」


黒尾、木兎、治の口から一斉に張り上げられた声。言っちゃったなあとちょっと後悔しながらも、根掘り葉掘り聞かれるであろう展開を予想して小さく笑ってしまった。

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