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災い転じて、


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3話


“JOKER”


ピエロと共に描かれたソレは、よく見るトランプカードである。「なんだそれ?」と黒尾がカードを覗き込んでくる。「ポケットに入ってたの」と答えた直後、あ!と誰かが驚きの声を張り上げた。


「おっ、おれ!俺もありました!」

「俺もです!!」

「なんやこれ……こんなん入れた覚えあらへんで」

「そんなん俺もやわ……」

「あったあった!!赤葦!俺も持ってた!!」

「……俺のジャージにも入ってますが……これは一体……」


戸惑いながらカードを見つめる赤葦くん。そんな彼を横目に黒尾や夜久、孤爪くんもジャージのポケットを確認すると、やはりと言うべきか、三人のポケットからもトランプカードが。

黒尾は“ハートのエース”
夜久は“ダイヤの3”
孤爪くんは“ハートの5”


『……音駒は同じマークとかじゃないんだね』

「みたいだな」


三人のカードを見てぽつりと呟くと、同じことを思っていたらしい黒尾が自分のカードを見ながら眉間に皺を寄せる。他のみんなも同様にカードを持っていたらしく、「なんなんだこりゃ」と不快そうに顔を歪めた岩泉くんが投げ捨てるようにカードをテーブルの上へと放り置いた。


「こんなもん入れた覚えねえぞ」

「俺だってないよ。……というか、ここにいる全員、そんな覚えないみたいだよ」


持っているカードを見下ろす及川くんの瞳が、何かに怒っているように細められる。そりゃ怒りたくもなるだろう。突然こんな見知らぬ場所に連れてこられて、知らぬ間にトランプカードがジャージに忍ばせてあったのだ。こんなに気味の悪い話はない。
「……俺たち誘拐されたのかな?」と不安そうに零す山口くんに、「こんなデカい男子高校生を狙うなんた物好きにもほどがあるでしょ」と月島くんが首を振ろうとしたその時、


           ガチャン


何かの鍵が開くような音がした。


『……今の音、なに……?』


おそるおそる視線を音の方へと動かすと、さっきまでただの壁であった場所に、いつの間にか扉が現れている。おかしい。この部屋には扉なんてなかったはずだ。ぎょっ!と全員で目を見開いていると、扉の傍に立っていた影山くんが、何を思ったのか扉の前へ。扉に手を伸ばし、ドアノブを握った影山くんは、躊躇なくドアノブを捻って、って、え???


「あ、開きますよ。これ、」

「ちょっと待て影山!!!!!!」


ガバッ!と勢いよく影山くんの背中に飛びついた菅原くん。ドアノブを握る手をすかさず澤村くんがひっぺがす。きょとん、とした顔で二人を見つめる影山くんに「アイツの心臓どうなってんだ…」と信じられないものを見たように顔を顰めた金田一くん。そんな金田一くんの台詞に、孤爪くんと二人で揃って深く頷き返した。


「危ないだろ!!何か変な細工とかされてたらどうすんだ!?」

「いやでも、出口かもしれませんし、」

「そんな簡単に出口が現れたら誰も苦労しないデショ」


焦る先輩たちやため息を零した月島くんに、「……すんません?」と首を捻りながら謝罪を口にした影山くん。どうやら彼は、どうして怒られているのかあまりピンと来ていないらしい。再びため息を零した月島くんは、視線を影山くんから扉へ移すと、突然現れた奇妙な扉に目を細める。
一見すれば何の変哲もないただの扉だ。木製の建具に金色の丸いドアノブ。気になる所といえば、扉の中央に掘られたマークくらいだろう。


「……“クラブ”のマークだな……」


澤村くんの呟きに、全員が自分のカードを確認する。
クラブ。この場でそれを聞くと、トランプのマーク意外に思い当たるものはない。「俺、クラブだわ」と手を挙げた青城の松川くん。そして、そんな彼の後輩である国見くんも無言で手を挙げ、「俺もー」「俺もです」と続けて手を挙げた白鳥沢の天童くんと白布くんだった。
あれ?四人だけ??と小首を傾げると、「……クラブの人は少ないんだね」と同じことを考えていた孤爪君が小さく呟いた。


「このカードってさ、テキトーに配られてるだけ??」

「…今はまだ分からない」


指に挟むカードをヒラヒラと揺らした天童くんに、神妙な顔つきで答えた牛島くん。まだ誰が何のカードを持っているかの確認は出来ていないけれど、少なくともこの扉は何かしらトランプと関係がありそうだ。
じっと手元のカードを見つめていた孤爪君が視線をあげる。扉に向けられる視線に気づき、「どうするよ?」と黒尾が声を掛けると、孤爪くんの大きな猫目が僅かに細まった。


「……他に出口らしきものはないし……入ってみるしかない、かな……」

「ま、そうなるよな」

「……でも、その前にこの部屋ももっと調べてみた方がいいと思う」


孤爪くんの声に心得たとばかりに頷いた灰羽くん。「探索開始ー!!」と声を張り上げたのち、手近な棚を開け始めた彼に、おいおい、と黒尾が止めに入ろうとする。けれど、「孤爪の言う通り、先ずこの部屋を見てみるか」と言う澤村くんの言葉もあって、灰羽くんに続くように全員で部屋を調べてみることに。

改めて室内を見回してみる。

円形の大きなテーブルを中心にした長方形の部屋。窓はない。テーブルから1メートルほど離れた場所には革張りの黒いソファが二つ並べられていて、天井には豪華なシャンデリアが吊り下がっている。壁際にはアンティーク調の飾り棚や戸棚、本棚がいくつも置かれており、床はお洒落なアンティークタイルの上に、手触りが良さそうなオリエンタル絨毯が敷かれている。どこからどう見てもヨーロッパ風の御屋敷の一室だ。けれど、そんな見慣れない物の中でも、特に目を引くものがある。


『……あのさ、来た時がずっと気になってたんだけど、これって……』

「……台座、だね」


そう。ソファが置かれている方からテーブルを挟んだ反対側には、白い石柱を模した台座が四つ並んで置かれているのだ。柱部分には、左からクラブ、ダイヤ、ハート、スペードの四つのマークが掘られている。「トランプのマークだな」とクラブのマークが刻まれた柱を夜久が覗き込むと、その隣で菅原くんが恐る恐る台座の上を撫でた。


「……これ、なんでここにあるんだろ?」

「さあな。けど、持っていたカードも、影山が開けようとした扉も、それにこの台座も。全部“トランプ”が関係してるのは間違いなさそうだ」


スペードの掘られた台座に手を置きながら渋い顔をする澤村くん。「二人は何のカードを持ってるの?」と尋ねると、黒いジャージから出てきたのは、“スペードのエース”と“ダイヤの2”のカードだった。やはり同じ学校でもトランプのマークも数字も違うらしい。見せてくれた事にお礼を言い、その後は手分けして戸棚の中を中心に調べてみることに。けれど、見つかったのはマッチ棒や裁縫道具、数枚の食器に大判の布地と、それから古い大きな木箱くらいのものだった。


「何が入ってるんだろ、これ」

「…開けてみれば分かるでしょ」


木箱を見つけた月島くんは、不安そうな山口くんを横に木箱に手を伸ばす。その手つきがどこか慎重さを伴っているのは、この異常な状況を鑑みれば当然だろう。ギイッと錆び付いた音と共に開いた蓋。木箱の中に入っていたのは、包帯やガーゼ、それに幾つかの小さなガラス瓶だった。恐らく薬箱なのだろう。「使えんの?これ??」「……使う場面がないことを願うよ」と薬箱を覗き込む日向くんから隠すように蓋を閉じた月島くん。彼の言う通り、薬箱なんて出番がないままで結構だ。


「……特別な収穫はなさそうだね」

「そうっすな」


及川くんのため息混じりの声に花巻くんが苦く笑う。
いきなり出口が見つかった。なんて都合のいい展開は期待していなかったけれど、せめて何かここから出るヒントくらいは置いておいていてくれればいいのに。
見つけたものをテーブルに並べると、まだ調べていないのはあの扉の向こうのみに。「どうする?」という澤村くんの問いかけに、「行くしかないよね」と答えた及川くんは、全員の顔を見回したのち、ゆっくりと扉に手を伸ばしたのだった。