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災い転じて、


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17話


※視点変更有 花巻→夢主


 ゾンビに押し潰されていた身体から徐々に重みが消えていく。は、と顔を上げると、腕に絡み付いていたゾンビの手が土のように崩れている。強い圧迫感から解放されて漸く大きく吸い込んだ呼吸。土に汚れた身体をゆっくりと起き上がらせると、「っ、全員無事か……!?」と言う澤村の声に、噛み跡が残る右腕を緩慢に挙げて応えてみせた。
 その直後、がちゃりと響いたラッチ音。動かした視線の先では、扉から顔を出す黒尾たちの姿が。噛み跡や擦り傷を負って泥々になっている俺たちに目を見張った仲間たち。駆け寄ってくる及川達に、ほっ、と安堵の息を漏らすと、命の恩人を探すべく墓地内をぐるりと見回すことに。
 俺たちが生きているということは、また苗字が救ってくれたということなのだろう。全く情けない男ばかりである。怖がる苗字を励ますつもりで繋いでいた手も、襲いかかって来たゾンビのせいであっさりと離すことになってしまった。
 動かした瞳で苗字の姿を探す。ゾンビに襲われて直ぐ視界を奪われてしまった為、何がどうなって自分が助かったのかちっとも見ちゃいない。視界の端に映った地面から起きる上がる澤村達。けれど、その中に苗字の姿はない。きょろきょろと忙しなく瞳を動かす俺に、「花巻、」「大丈夫か??」と声を掛けて来た松川たちに頷き返そうとした。その時。


「っ、は…………?」


 映し捉えた光景に目を疑う。動かし続けていた瞳で、漸く見つけた探し人。けれど彼女は、苗字の身体は、



「っ、苗字!!!!!!」



 鈍く光る剣に、貫かれていた。



 張り上げた声と共に走り出した足。気づいた全員が弾かれたように苗字の元へ駆け付ける。
 地面に横たわる華奢な身体に唇が震える。苗字……?」と戦慄く声で呼んだ名前に返答はなく、瞳を覆う瞼は固く閉ざされたままだ。なんだよ、これ。なんでだよ。なんで、なんで、

 なんで苗字が、刺されているんだ。

 「苗字!」「苗字っ!!!!」と駆け寄ってきた黒尾と夜久が苗字の傍へ。力無く倒れる苗字の姿に、二人の瞳が慄き揺れる。苗字、と震えた声で紡がれた名前。けれど、その声に返ってくる応えはない。集まった全員の拳が震える。怒りと悔しさに浮かんだ涙が、目尻から零れ落ちそうになった時、


「待ってください、」

「っ、白布さん………?」

「……………おかしくないですか、これ、」


 張り上げられた声に全員の視線が白布へ集まる。おかしくないかって、おかしいに決まってんだろ。苗字がこんな目に合うなんて、おかしくない訳ねえだろうが。
 「おかしい事しかねえだろっ、」と吐き捨てるように応えれば、「そうじゃなくて、」と首を振った白布は、苗字の傍へと跪いた。


「……血が出てない」

「っ、血………?」

「こんなに深く剣が刺さっているのに、苗字さんの身体から、血が一滴も出ていません」


 白布の声に再び苗字へ動かした視線。確かに白布の言う通り、剣に貫かれた苗字の身体はもちろん、周りの地面さえも血で汚れている様子はない。
 「どういうことだ?」と眉根を寄せた岩泉。白布の隣に並び座った及川が力の抜けた苗字の手に触れる。「……冷たい、」と目を伏せた及川の声に、再び視線が地面へ落ちそうになった時、ふと隣を通り過ぎた真っ赤なジャージ。やおらに動くジャージの持ち主は、白布達の真向かいにゆっくりと腰を下ろしてみせた。


「……文字、」

「っ、もじ…………?」

「この部屋の扉には、なんて文字があったの?」


 淡々と、けれどどこか急いて聞こえる孤爪の声。
 文字。扉の文字。孤爪が聞いているのは、この部屋の扉に刻まれていたあの文字のことだろうか。「……“我らは騎士。死者の亡霊から逃れるは、死をも畏れぬ崇高な魂”と彫られていたよ」と目を伏せたまま赤葦が答えたと、そう、と酷く短い返事を返した孤爪は、アーモンド型の大きな瞳を、苗字を貫く剣へ移した。



「……キング、」

「っ、キング……?」

「キングのカード、持ってる人、いる?」


 投げられた問に全員が一瞬目を丸くする。キングのカードって、どうして今そんなことを。見開いた視界の端で、「俺です、」と前へ踏み出された足。前へ出たのは、俺たち青城の13番を背負う国見で、国見の姿を捉えた瞬間、孤爪の瞳が鋭く細められた。


「抜いて」

「…………抜くって………」

「苗字さんの剣を、抜いてあげて」


 届いた声に国見の瞳が大きく見開く。なんで、とでも言いたげに孤爪を見つめ返した国見。けれど孤爪は何を返すでもなく、ただじっと、国見を見つめている。重く暗い沈黙ののち、ゆっくりと動き出した国見の身体。震える唇を噛み締めた国見は、剣に向かって真っ直ぐ右手を伸ばしていく。
 震えた指先が剣の柄に触れる。装飾の施されたグリップを掴んだ国見の手。「……抜きます、」と一言零した国見が、苗字の身体から剣を引き抜いた。




 その、瞬間。





『ゴホッ、ゴホゴホッ、ゴホッ……!!』






「………は………」


 剣を抜いた瞬間、墓地に響いた咳き込み音。鼓膜を揺らすその声に、誰かの口から間の抜けた声が零れる。呼吸に合わせて上下する胸と赤みの戻った頬。固く閉じ切られていた瞼がゆっくりと動き出すと、長い睫毛に縁取られた瞼の先。その向こうから覗いたのは、


『…………みん、な………?』

「っ、」


 たどたどしく、けれど確かに聞こえた苗字の声。国見の手から剣が滑り落ちる。カランッ、と音を立てて落ちた剣に、は、と目を丸くした苗字。「っ、澤村くんたちはっ、」と俺たちの安否を確かめようとしてくれた苗字だったけれど、その声を遮ったのは、小さな身体を包み込んだ黒尾の身体だった。


「っ、ばかやろうっ………………!」


 涙混じりの声で紡がれた叱責の言に、苗字の動きが止まる。「え、ちょ、く、黒尾?」と戸惑いながらも呼ばれた名前に、苗字を抱き締める黒尾の手に更に力が籠る。
そうだよな。そりゃ抱き締めたくなるよな。確かめたくなるよな。ちゃんと生きてるって、生きてたんだって、この手で確かめたくなるよな。
 ぽろり、と目尻から零れ落ちた涙。周りから聞こえる嗚咽は、果たして誰のものだろうか。ぐすぐすと鼻を啜る音まで響き始めた中、困惑した顔で俺たちの顔を見回した苗字。「なにがどうなってるの???」と首を捻る彼女の姿に、また涙が頬を滑り落ちた。





            * * *





『死んでたって……え、私が???本当に??本当に死んでたの???』

「……だからそう言ってんだろうが」


 すん、と鼻を啜りながら返された答え。赤くなった目尻が、黒尾の涙を物語っている。

 スペードの部屋でゾンビに襲われた澤村くんと影山くん、花巻くん、赤葦くんの四人。四人を助けるために剣を使おうとした私だったけれど、スペードの部屋で見つけた剣は、ゾンビを斬るためのものではなかった。何度試しても斬ることが出来ないゾンビ達。焦燥する頭を何とか巡らせて気づいたのは、扉に刻まれていた文字の意味だった。
 “死者の亡霊から逃れるのは、死をも畏れぬ崇高な魂”。この文字が何を意味しているのか。何を求めているのか。巡らせた思考で行き着いた答えは、自分の“覚悟”を示すことだった。死ぬのが怖くないとは言えない。でも、皆の為に死を覚悟することは出来るかもしれない。死を畏れない心ではなく、死を覚悟した心を示すため、自分の胸へと突き立てた剣。痛みは一切なかった。けれど、そのまま意識はプツリと途絶えてしまい、次に目を覚ました時には、憔悴した皆に囲まれている状態だった。

 そうして今に至る。

 スペードの部屋から最初の部屋へと戻って来た私たち。ソファに座らされ、スペードの部屋で起きたことを洗いざらい話し終えると、周りを囲うように集まっている皆の顔が、悔しそうに、苦しそうに、大きく歪められた。そりゃそうだ。ハートの部屋であれ程心配を掛けたと言うのに、まさかまたあんな無茶をしてしまうことになるなんて。
 居た堪れなさに竦めた身体。「全然実感ないんだけど、」と床に向かって吐いた言葉に、「あってたまるかこの無鉄砲」と黒尾が更に顔を歪めた。


『っ、む、無鉄砲って、』

「無鉄砲だろうが。剣で自分を貫くなんて………無鉄砲以外の、なんでもねえよ、」


 呆れと怒りが入り交じった指摘に肩を縮める。
 目を覚ます前。黒尾たちが見つけてくれた時の私は、剣に胸を貫かれた状態で地面に倒れていたと言う。結果的には、こうして目を覚ますことが出来たのだけれど、あのまま死んでいたとしても、きっとおかしくない状況だった。


「頼むから、もっと自分を省みてくれ……!例え此処から出られたとしても、お前が居なくちゃっ………っ………意味、ねえだろうがっ………」


 震えた声で紡がれた台詞に、ぎゅっ、と胸が締め付けられる。黒尾は、みんなは、どんな気持ちだったのだろう。剣に刺された私を見た時、皆はどれ程苦しんだのだろう。傷ついたのだろう。
 「ごめんね、」と謝罪の声と共に伸ばした右手。涙の跡が残る黒尾の頬を指先で撫でると、まだ少し赤みの残る瞳が、ゆらりと小さく揺れて見えた。


『……心配掛けて、本当にごめんなさい。………だけど、だけど私は………自分の選択を、後悔はしてない』

「っ、おまえなっ、『だって、』っ、」

『だって、あのまま何もせずにいた方が、絶対後悔してた。……死ぬほど、後悔してた』


 返した答えに、黒尾が小さく息を飲んだ気がした。
 心配させたかった訳じゃない。苦しめたかった訳でもない。けど、あの時もし、見ていることしかしなかったら。賭ける答えがあったのに、何もせずにいたらとしたら。多分私は、私を一生許せなかった。一生自分を、恨み続けてた。


『死にたいとか、死んでもいいとか、そんな風に考えて動いたわけじゃない。ただ私は……私は助けたかっただけ。ハートの部屋の時と同じ。皆を助けるために、何かしたかっただけ』

「…………あのまま…………あのまま死んでたとしてもか?」

『……たとえ、たとえそうだとしても、あのまま死んでたとしても、後悔なんて絶対しない。澤村くん達を助ける為に動いた自分を、後悔なんてしたくないっ……!』


 迷いなく返した答えは、皆の耳にどう聞こえただろう。固く強ばった黒尾の肩から力が抜ける。頬に触れた指先をそっと下ろして、改めて黒尾と目を合わせると、深く長いため息を零した黒尾は、仕方なさそうに眉を下げた。


「……ずりいわ、お前、」

『っ、は……?な、なによっ、ズルいってっ、』

「そんな風に言われたら、怒るに怒れねえだろ。俺らの為に動いてくれたお前を……否定なんて、出来るわけねえだろ」

『………黒尾………』

「けど、だからってお前が無茶することを許すわけじゃない。出来ることなら、危ねえ目には遭って欲しくねえし……むしろ、ここでじっとしててくれた方がましなくらいだ」

『っ、それは、「けど、」

「お前がそういう質(たち)じゃねえのは、もう充分よく分かってるよ。だから、これだけは約束しろ。もしまた同じような事があったとしても、自分を犠牲にするような真似は絶対すんな。“全員”で揃って此処から出るためにも……そんな真似は、絶対すんな」


 「いいな?」と言い聞かせるように繰り返した黒尾。圧のある物言いとは裏腹に、向けられた言葉は優しさで溢れている。和らいだ瞳で黒尾を見つめ返し、うん、と返した小さな頷き。すると、そうっと瞳を和らげた黒尾が、大きな手で私の髪をくしゃくしゃと髪をかき撫ぜ始める。
 張り詰めた空気が和らぐ中、「それにしても、」と零された菅原くんの声。乱された髪を整えながら視線を彼へ移すと、ちらりと孤爪くんを見遣った菅原くんは、感心した声で言葉を繋げ始めた。


「孤爪……気づいてたのか?剣を抜いたら、苗字さんが目を覚ますって、」

「え!?そうなんですか孤爪さん!?!?」

「……気づいてたって言うか……そういう可能性もあるかなって思っただけだよ」

「可能性って……」

「俺らにはその可能性が、全く分かんなかったけどな」


 驚く灰羽くんに俯いたまま答えた孤爪くん。そんな彼の答えに目を丸くした菅原くんの隣では、顔を引き攣らせた木葉くんが部屋の隅に立て掛けている剣に目線を移した。


「けど、どうして国見に剣を抜かせたんだよ?自分で抜きゃあ良かったじゃねえか」

「………キングのマーク、」

「っ、は??」

「剣に、キングのマークがあった」

『……キングのマークって……』


 岩泉くんの問いかけに返された言葉に、木葉くんの視線を追うように動かした瞳。鈍く光る鋭い切っ先に、改めて自分の無謀さを思い知る。勢いとは本当に恐ろしい。アレを胸に突き刺すなんて、あの時の私はどんな度胸をしていたんだ。顔を顰めつつ、立て掛けられた剣を下から上へじっくりと見つめる。遠目からでは、孤爪くんの言うキングのマークは確認出来ない。一体どこにあるのだろうか。
 「どこあんの?」と首を捻りながら剣へ近付いた木兎くん。きょろきょろと剣を見回した木兎くんは、不意に、あっ!と声を上げた。


「これ??これだよな赤葦??キングのマークってこれだろ???」

「知らずに探してたんかい」

「トランプしたことないんか」


 元気良く赤葦くんを振り返った木兎くんに、仲良くツッコミを入れた侑くんと治くん。自由な先輩の行動にため息を零した赤葦くんだったけれど、呼ばれた声に応えるためにゆっくりと剣の傍へ。「どれですか?」と尋ねた赤葦くんに、「ここ!ここ!!」と柄の裏側を指した木兎くんの指。示された場所を確認した赤葦くんは、見つけたマークに目を細めた。


「……確かに、キングのマーク、“K”の文字が彫られてますね」

「じゃあその、キングのマークがあったから、キングのカードを持ってた国見に剣を抜かせたってことか?」

「………それもあるけど………」

「それ“も”??」


 言葉を濁した孤爪くんに、眉を顰めた夜久が首を捻る。「他にもあんのか?」と先を促す黒尾の声に、俯いた顔がゆっくりと持ち上げられた。


「……一番の理由は……苗字さんが、“ジョーカー”だから、」

『っ、え?わ、わたし???』

「……今まで起きたことを考えると……俺たちが持ってるカードは、その役割を俺たちに与えてるように感じる」

「クラブの部屋にはクラブのカードを持ってる奴しか入れない、とかか?」

「うん。……だから、“ジョーカー”を持ってる苗字さんには、ジョーカーのカードの性質が与えられてると思った」

「ジョーカーの性質って、それと苗字が目覚めたことに関係があんのか?」


 首を傾げた花巻くんの問い掛けに、孤爪くんの視線がクラブの扉へ移された。


「……クラブの部屋で見つけた本に書いてあった。ジョーカーは元々、宮廷道化師のことだって」

「きゅーてー」

「どうけし??」


 ぱちぱちと繰り返された二人分の瞬き。揃って首を傾げる日向くんと影山くんに苦笑いを浮かべてしまう。宮廷道化師。道化師と聞いて思い浮かべるのは、サーカスなどで登場するピエロだけれど、“宮廷道化師”は初めて聞く単語である。「ピエロとは違うの??」と孤爪くんを見つめた天童くん。居心地悪そうに目線を下へ落とした孤爪くんは、一度閉じた唇を再び動かしてくれた。


「宮廷道化師は、王様や貴族に雇われた芸人のこと。芸事で人々を楽しませる一方で、彼らは王様に逆らう役目も担ってたらしい」

「なんちゅー損な役割やねん」

「……でも、その役目は愚か者のフリをする“道化師”にしか勤まらない。そして王様は、道化師の苦言を簡単には跳ね除けられない」

「?なんで???」

「……馬鹿な振りして言われた“苦言”を本気にするなんて、器が小さい王様ですって、自分で言ってるようなものでしょ」


 「聞く前に少しは自分で考えなよ」と日向くんを見下ろした月島くん。うっ、と顔を顰めた日向くんは、「わ、悪かったな!」と拗ねた顔で応えてみせた。


「……見栄っ張りな王様ほど、馬鹿な振りして逆らう道化師を殺すことは出来ない。苗字さんに刺さっていた剣に印されていたのは、キングのマークである“K”の文字。仮に、あの剣に刺されたのが俺やクロだとしたらそのまま死んでたかもしれないけど………でも、苗字さんは“ジョーカー”だから、」

「……キングにジョーカーは殺せない、か……」

「なるほど。だから国見ちゃんに剣を引き抜かせたってわけね」


 「国見様様だな」と揶揄うように笑った松川くんに、「止めて下さい」と国見くんが眉根を寄せる。もしこの場に国見くんが居なければ、キングのカードを持つ人は居ないことになる。松川くんではないけれど、確かに国見くん様様だ。
 「ありがとう国見くん」と改めてお礼を言うと、「別に、お礼を言われるようなことは何も、」と少し早口で返した国見くん。気恥ずかしそうに目を逸らす彼に目尻を下げた時、「……一先ず揃ったな」と落とされた台詞に視線が牛島くんへ。


「残りの台座は一つ。そこに剣を置けば“次”へ進めるだろう」

「?つぎ??次って、これで終わりじゃねえの??」

「……終わる可能性がないとも言い切れねえけど……でもまあ、終わりじゃない可能性の方が遥かに高えな」

「?なんでですか??」

「カードはまだ全部揃ってねえだろ」

「あ、」



 牛島くんと木兎くん、黒尾、灰羽くんのやり取りを横目に、支柱を模した白い台座に目を向ける。クラブの台座には棍棒が。ダイヤの台座には金貨が。そして、ハートの台座に聖杯が乗っているけれど、スペードの台座は空席のままだ。ここに剣を乗せれば何かが起こるのは間違いないだろう。けれど、木兎くんの言う“終わり”を迎えるには、恐らくもう少し時間が掛かるだろう。
 クラブ、ダイヤ、ハート、スペードの四つの部屋の扉へ嵌め込んだ1から10のカード。意外にもすんなり揃える事が出来た四十枚のカードだけれど、トランプのカードにはまだその先がある。ジャック、クイーン、キング。この三つは絵札と呼ばれるカードであり、手元にあるのは、国見くんが持つクラブのキングと、金田一くんのダイヤのクイーン。そして、月島くんと治くんが持っているハートのジャックの三種類だけ。残りの九枚はまだ見つけることさえ出来ていない。
これで脱出出来るなら、私たちとすれば願ったり叶ったりの展開だけれど、絵柄のカードだけ揃えないまま脱出するなんて、あまりに中途半端なエンディングである。
 「“次”があると考えた方が得策だろうな」と硬い表情で告げた澤村くんに、ああ、と黒尾が頷き返した。


「んでその“次”に進むために、台座に剣を置きてえけど……その前に、」

「澤村くん達の手当が先やな」


 「全員ドロドロやし」と澤村くん達を見た北くん。「そうしてくれ、」と苦笑いを浮かべた花巻くんは、漸くその場に座り込んだ。